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女「人間やめたったwwwww」2 1/2


女「人間やめたったwwwww」2



1 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/12(木) 22:45:13.00 ID:Wldddmhk0
女「人間やめたったwwwww」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1315827619/
女「人間やめたったwwwww」1/10

の続きです。

オリジナルでキャラに名前あります。
あと、あっさりですがたまにエロス。注意してください。

SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1342100712





元スレ
女「人間やめたったwwwww」2
SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)@VIPServise掲示板
前スレ
女「人間やめたったwwwww」
女「人間やめたったwwwww」1/10




2 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/12(木) 22:46:54.14 ID:Wldddmhko
61

―――――数分後―――――

蛇口をきつく締めて体を拭く。
鏡の中には、風呂上がり効果で平常時よりシュッとして見えるが、不機嫌そうな僕がいた。
その後ろにはお義姉さんが立っている。

「義弟、そのき――」

「なっ、なにしてるんですかあなたはあああ!」

慌てて前を隠す。

「何って、様子を見に来たんじゃない」

「何も今じゃなくたっていいでしょうが!」

「馬鹿ねぇ。裸じゃなきゃわからないから今来たんじゃない」

「だからって全裸じゃなくたっていいでしょうが! サンタフェ!」

「あー、もー。じゃあ廊下で待ってるから、パンツはいてらっしゃい」

「なんでうんざりしてるんですか! こっちがうんざりですよ!」

「なによ。細かいわね」

お義姉さんはわざとらしくため息をついてバスルームを出た。




3 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/12(木) 22:47:30.69 ID:Wldddmhko
62

廊下に出ると、彼女は僕に後ろを向かせた。

「やっぱり。この傷どうしたの」

「傷なんて――腕ならさっき怪我しましたけど」

もっとも、その腕はもう治りかけている。

「違う。背中よ」

彼女は僕の背中の傷があるらしいところを指でなぞる。
一瞬、息がとまるほど冷たい指だった。
一、二、三。

「ほら、ここんとこ。爪で作ったみたいな傷跡」

脳裏に、ぼうっと光る母猫の姿がよぎった。

「まさか、まだ祟られてるんじゃ――」

「いえ、それはないはずよ。彼女はちゃんと逝ったもの」

「どうして」

お義姉さんは無言で、僕の右手から指輪を抜き取った。

「こんなもの、渡さなければよかった」

彼女は忌々しそうに言って、指輪を飲み込んだ。




4 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/12(木) 22:48:07.20 ID:Wldddmhko
63

「あ――」

「あれは、生きようとする力を増幅して、想像力で形を与える装置みたいなものよ」

「ええ、まあそうなんでしょうけど。別に副作用なんてなかったですよ」

「君が普通の人間なら、エネルギー源があっさり尽きてた。
 枯渇したところからさらに絞ったから体に負担がかかったんだわ」

「俺の魂に猫耳と猫しっぽが生えてるからって、そんな大変なことにはならないでしょう」

「あそこで力負けしてても、私が手を打てたはずよ」

聞いているのかいないのか。

「でも、あの場は切り抜けたんだし、今後も盾は使えた方がいいと思うんですけど」

「なに言ってるの! あなた人間やめたいの!?」

「え」

「あなたは人としての限界を超えた」

「それって、まずいんですか」

「人間じゃなくなる程度にはまずいわね。魂レベルで済んでた子猫との共存が――バランスが崩れる」




5 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/12(木) 22:48:56.81 ID:Wldddmhko
64

友好的だった僕と子猫の関係に亀裂がはいるということだろうか。
それは嫌だ。
あいつから母親を奪っておいて、その上敵対なんかしたくない。

「今は主導権をあなたが握ってるからいいようなものを。
 もし、もう一度人としての一線を越えたら、主従関係は逆転する」

「別に主従関係でなんか――」

僕は、あいつのご主人さまなんかじゃない。

「その体を使ってるのは、今は義弟よ。
 でも、主導権が逆転するってことは、表に出てる人格が子猫に移るということ」

「化け猫のような人間になるってことですか」

「人間のような化け猫かもね」

彼女は、短く鼻を鳴らした。
後悔しているらしかった。

「とにかく、この件に関しては、あなた達を前線には出さない。相手が悪いわ」

「でも俺、なにもできないのは嫌です。役立たずにはなりたくないです。
 志乃のこともあるし、正直犯人は倍返しくらいにして叩きのめしたい」

「役には立つわ。あなたは今までどおり、被害者や犯人の関係や、その背景のことを考えて、私に教えてくれればいい」

「それは、誰にでもできることだと――」

「いいえ。私にはできないことよ。協力してちょうだい。人間でしょ」

彼女の目が僕の目を覗きこむ。
脳まで焼きつきそうな視線だった。
熱いような、痛いような。
地獄とはどういうことだろう。

お義姉さんは、「少し眠るわ」と言って事務所に戻った。

(地獄の門番ねぇ……)

僕は全く語られない彼女の身の上について考えながら、休憩室の戸を開けた。


11 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/18(水) 22:58:27.92 ID:IqUU4YsRo
65

休憩室には布団が敷かれ、志乃はその上に仰向けに寝ていた。
針は見えない。
消えたか、体の中に入ったのだろう。
気を失ったままのグレイ君は、並べた座布団に転がされている。

(この扱いの差……)

お義姉さんは身内には甘い。
グレイ君が目覚めたとき、何も察しないでいてくれることを祈ろう。

志乃のそばに腰を下ろす。
手首を取ってみるが、脈がない。
呼吸もしていないのか、胸や腹が上下しない。
本当に生かしてあるのか不安になったが、体温はある。
彼女を元通りにするには、きっと呪いの元を何とかしないといけないんだろう。

(でも、なんとかって――)

相手は既に一人殺している。
動機によっては、自棄になって巻き添えが出ることも厭わないだろう。

「でもなー」

僕にはその動機を探る手掛かりがない。
手足を投げ出して寝転がった。




12 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/18(水) 22:59:14.39 ID:IqUU4YsRo
66

「っと。なんだこれ」

手の甲に当たったものを寄せる。

(じゆうちょう……)

なつかしの、動物の表紙の学習帳だ。
僕もこの罫線のないノートは好きだった。

(そういえば彼は不気味な絵ばかり描いてるんだったか)

何気なくページをめくる。
小五にしては上々の画力だ。
最初の方のページには、今では見分けのつかない特撮ヒーローやポケモンが描いてある。
僕もそういったものが好きだった。

「うまいなー」

素直に感心しながら、もし彼が同級生だったら尊敬しただろうとも思う。
僕は、今よりずっと素直で、ばか正直に感動することが得意だった。

(その後はエロスへのネバーエンディングな興味が加わるんだけどなー)

ページを繰っていくと、突然画風が変わった。
拷問される罪人と灼熱の要素を除いた地獄。
馴染みのある風景に、牙のある化け物や、肉が腐り落ちそうな巨大な獣、水棲生物が召喚されている。
空は瘴気を思わせる色で塗りつぶされている。

思わず見入っていた。




13 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/18(水) 22:59:43.90 ID:IqUU4YsRo
67

「か、返してよ!」

いきなり、ノートが乱暴に取り上げられた。

「うあぁ、わりい」

目を合わせる前から、反射的に謝っていた。
グレイ君が目を覚ましていた。

「勝手に見てごめん。それ、最近描いたやつだよね」

「そうだけど。お、お兄さんには関係ないだろ」

僕を睨んでいるが、体の向きは逃げている。
勇気を出しての抵抗らしい。

「ここどこ」

「どう説明したものかな……」

嘘はばれる気がした。




14 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/18(水) 23:00:30.19 ID:IqUU4YsRo
68

「ここ二、三日で君の友達が亡くなったよね」

「……」

「君のお母さんは、君のことをすごく心配してる」

「僕に、こんな気持ち悪い絵描くなって怒る……」

不満そうだった。
わからないでもない。
彼が何を思ってこんな絵を描いたのか知らないが、親としては懸念の元だろう。

「それで、お母さんは心配しすぎて眠れなくなったり、食事を取れなくなったんだよ。
 ここまで落ち込むと、すぐ元気にはなれないよね?」

グレイ君はうなずく。

「ここは心の病院みたいなところなんだよ。カウンセラーって知ってるかな」

「聞いたことは、ある」

「ここの所長さんは、そういう仕事をしてるんだ。
 お母さんの気持ちが楽になるように、話を聞いてあげる。
 この部屋は休憩室。あっちはオフィス。」

事務所の方を指さす。
彼の首がそっちへ回った。

「おかあさん、来たの」

「うん。それで、君の友達が亡くなったことで、君が深く傷ついたりしないか心配だって話していった」

僕は沈黙による嘘をついた。

(まさか息子が、事故死した友人に呪われて死ぬのを危惧した、なんて言えないよなぁ)



15 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/18(水) 23:01:01.30 ID:IqUU4YsRo
69

「お母さんは、頭ごなしに君の絵を叱ったわけじゃないんだよ」

「でもこれ、僕の味方なのに!」

グレイ君はページを指差して、僕に訴えた。
怪物の後ろに、何かから引き剥がそうとつかみかかっている男の子が見えた。

「これは、亡くなった友達?」

直感だった。

「うん。まさと。台風の夜」

最初に亡くなった子は「まさと」というらしい。
初めて彼の名前を呼ぶ人物に当たった。
グレイ君は、本当にまさと君の友達らしかった。
なんだか目の奥が熱くなって、喉が詰まった。




19 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/22(日) 23:56:27.49 ID:NoZDo/u4o
70

事務所の方で、何かが派手に割れる音がした。
苛立ったお義姉さんの仕業かとも思ったけど、彼女が物に当たるのを見たことはない。
グレイ君は怯えているのか固まっている。

「こ、今度はなに」

「わからない。このお姉さんは大丈夫だから、君は俺がいいって言うまで押入れに隠れてるんだ」

グレイ君は小刻みに何度もうなずき、這って押入れに入った。
僕は彼が体を丸めるのを見届けて、ふすまを静かに閉めた。

(どうする? 僕に武器はない)

お義姉さんなら大丈夫だろう。
あの人は強い。
志乃は物理的に、呪いに対抗していた。
特に霊的な力がなくても、こちらが向こうを認識していれば触れることができるのかもしれない。

(でも僕に、あんな力出せるのか?)


――ニャーン。


どこかで猫の声がしたような気がした。



20 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/22(日) 23:57:18.62 ID:NoZDo/u4o
71

お義姉さんに指摘された背中の、傷があるらしい部分がうずく。

「うっ、ぐ……がっ、あ、はぁっ……」

焼けつくような痛みが鼓動に連動する。

「お兄さん大丈夫?」

ふすまが少し開き、グレイ君が囁いてくる。

「だ、大丈夫。ちょっと怪我したところが痛むだけだから。
 君は静かにしてるんだ。俺は大丈夫だから」

多分大丈夫じゃない。
僕の体に何か起ころうとしている。



――にいちゃーん。



(あー、間違いない。あの子猫……)

「なんだよ」

「誰と話してるの?」

「いいから。今度こそ自分で開けるなよ。じっとして、静かにしてろ」

ふすまが閉まった。
もう一度、事務所で何かひっくりかえった音がした。
応接セットのテーブルか、キャビネットか。

(ここを出るべきか……?)

だめだ。
僕がここを出たら、志乃とグレイ君を残すことになる。
急に静かになった。





21 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/22(日) 23:58:07.21 ID:NoZDo/u4o
72

ひた。
ずる。

廊下を誰かが歩いてくる。

ひた。ひた。
ずる。ずる。

何かを引きずっている。
鞄を探って、畳の上に転がった、グレイ君のものらしき小刀を手に取る。
いざとなったら、動けるのは僕だけだ。
戦い慣れてないなりに構えてみる。

(リーチみじけえ……気休めにもならねえ……!)

心もとない装備だけど、この部屋で調達できるのはこれが最強だ。
休憩室の入り口の、扉の裏にぴったりと体をつける。

こうしている間にも背中はじくじくと熱を持って痛む。
息をひそめるだけでも苦しい。
足音が部屋の前で止まる。

戸が開いて、足音の主が入ってきた瞬間。




22 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/22(日) 23:58:49.46 ID:NoZDo/u4o

73

「止まれ!」

飛びつくように背後を取って、腕で相手の首をロックする。

「動くな! 動いたら刺す!」

相手のあごの下に小刀を当てる。
これを引いたら、致命傷にはならないだろうが、切れる。

(妙に大人しいな……)

でも、僕はこれ以上動けそうにない。
今ので度胸を使い果たしたようだ。

「――はぁ。ちょっと落ち着いたら?」

彼女は手に持っていた、ひきずってきたであろう物を畳の上に放った。

見覚えのある顔。
グレイ君の母親。
依頼人だった。


28 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/07/23(月) 22:47:47.64 ID:+HTlQFVDO
ヌコはまだか!!


29 名前: ◆CIZA6sfEUc:2012/07/27(金) 21:12:14.60 ID:mbi4Qrjxo
こんばんは。
今週はえらい目に遭いました。

明日こそ復活!


31 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2012/07/28(土) 16:37:40.72 ID:44XYYAU5o
えらい目ってのが気になる



37 名前: ◆CIZA6sfEUc:2012/07/29(日) 00:26:46.76 ID:RSwSWCfto
>>31
蜂に刺されました。
毒のせいで頭痛ひどいわゲロ吐くわで散々でした。

今日はここまで。
火曜日あたりで更新します。


39 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/07/29(日) 06:51:25.86 ID:QO6ArlvSO
大型の毒蜂の症状だな


40 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2012/07/29(日) 13:41:42.79 ID:BcYfrso8o
>>37

スズメバチか?
気をつけてな。二度目はないぜ


45 名前: ◆CIZA6sfEUc:2012/08/01(水) 00:04:36.04 ID:fKID2VsMo
>>38-40
ありがとうございます。
大袈裟だけど、ぐにゃぐにゃに見える壁紙を見つめながら、「俺、死ぬのかな…」と思いました。
でも生きてます。やったー!
抗体検査できるまでは、ツーアウトだと思って用心します。
捕ったらファーストならぬ刺されたら119です。
しまっていこう。

今日はここまで。 


32 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/29(日) 00:20:46.74 ID:RSwSWCfto
74

依頼人は気を失っているようだ。
お義姉さんは当てつけがましく、強く息を吐きながら僕の腕を解く。

「思いきりの良さは評価するけど、もっと観察するのね」

彼女は依頼人のそばにしゃがみ込み、仰向けにさせた。
その顔は青白く、唇は紫色だ。
どう見ても無事じゃない。

「その人、どうしたんですか」

「大人しくさせるついでに保護したのよ」

お義姉さんは依頼人の胸に掌を当て、強く押した。
依頼人は何度か激しく咳き込むと、安らかに寝息を立て始めた。

「大丈夫。眠ってるだけよ。直に目を覚ますわ」

腕組みをしようとしたところで、腕がぬるぬるしていることに気付いた。

「うわあああ!」

血。
いつ付いたんだ。

「それくらいでうろたえないでくれる?
 今、君が私の首を固めたときについたんでしょ」

(首――?)

彼女は立ち上がり、僕と向き合った。
喉の横が切れて、血が肩まで流れている。
血の染みは肩口まで達し、白いブラウスを無残に汚している。

「首を切られたのは、今月で二度目ね。
 本気で私を殺しにかかってるわ。死なないけど」

彼女は迷惑そうに首を擦る。
傷はもう塞がっているようだ。




33 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/29(日) 00:21:36.47 ID:RSwSWCfto
75
一旦は警戒を解いていいらしい。
現状を確認したい。

「何があったんですか?」

「この人ね、取り憑かれた状態でオフィスにきたの。
 敵も頭を使ったわね。依頼人だから警戒しなかった。
 まさか攻めてくるとも思わないしね」

「それじゃ、犯人は依頼人を取り殺すつもりはなかった、ってことですよね」

「おそらく。襲撃させた時点ではね。
 その後どうする気だったかはわからない」

押入れの中のグレイ君に声をかけてやるべきだろうか。
今、眠る母親に対面させていいものだろうか。




34 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/29(日) 00:22:09.90 ID:RSwSWCfto
76

「でも、今回ばかりは頭にきた。もう我慢できない。巣をブッ叩くわ!」

「巣って」

でも、その表現は正しいのかもしれない。
あの川ではクリーチャーみたいな呪いが、子供をひきずりこんで殺そうと蠢いている。
今まで見た、どんな呪いよりも有機的で、グロテスク。
そして、何より明確な意図を持っているように思える。

(じゃあ、その意図ってなんだ?)

「さあ、義弟。働きなさい」

「何をしろって言うんですか」

「被害者! 現場! 発生状況! 繋げてみせなさい。
 動機を、犯人を割りだすのよ。人間でしょ。それくらいやってみせなさいよ」




35 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/29(日) 00:22:48.74 ID:RSwSWCfto
77

「俺、分析なんて――」

「そんな難しそうに構えるからできないと思うのよ。
 一つずつ片付けるわよ。この件の被害者は?」

「子供。最初に亡くなった子の――仲良しグループのメンバー」

(仲良しってのも、表面的だけどな)

長野から聞いた話を思い出して、気分が沈む。
今のところ、まさと君の友達と呼べるのはグレイ君だけだ。

「現場は? 状況は?」

「最初の――いや、まさと君が亡くなったのは、台風が来た夜。
 増水した川に、多分落ちたのかな。そこで溺れた」

「次の子は?」

「水位がまだ戻ってない、まだ危ない状況の、あの川で――
 で、俺達が事情を聞きに、まさと君の家に行ったら、ああなってて――
 そしたらその、今保護してる彼が――」

「そこに妹が飛び込んで、今はこの有様よ。むかつくわ」

「お義姉さん、志乃のこととなると口が悪いですね」

「当たり前じゃない。言ったでしょ。あの子は血を分けた妹みたいなものよ。
 可愛い身内に手を出されて怒らないなんて保護者じゃないわ」

今。
回答を突きつけられたような気がした。




36 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/29(日) 00:23:35.45 ID:RSwSWCfto
78

「お義姉さん、鬼だからって、人間のことわからないわけじゃないです」

「なに?」

「多分、今、自力で動機に辿りつきましたよ。犯人にも」

「私はなにもわかってないわよ」

「犯人は親ですよ。両親のどちらかはわからないけど、依頼人と接触できたことから、多分母親。
 動機は息子の道連れ。だから特定の子供だけを襲った」

「な、何よ。それだけでわかるの? 私と話しただけで?」

「お義姉さん、たとえばの話ですよ。
 たとえば、志乃を殺されるか、瀕死まで追い込まれたらどうします?」

喩えとしては短絡的だけど、わかってもらうにはこれくらいでいい。

「犯人を殺すわ」

「そういうことですよ」

彼女はしばらく不思議そうな顔をしていたけど、すぐに目的を見つけた目つきになっていた。

「わかった。もう一度、親を、母親を当たってみる」

彼女の視線は、志乃に向かっていた。

――もう少しだから、待っててね。

そう言いたそうに見えた。




37 名前: ◆CIZA6sfEUc:2012/07/29(日) 00:26:46.76 ID:RSwSWCfto
>>31
蜂に刺されました。
毒のせいで頭痛ひどいわゲロ吐くわで散々でした。

今日はここまで。
火曜日あたりで更新します。
 
 


41 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/31(火) 23:54:01.93 ID:QDGKchhko

79

「今日はやめた方がいいです。家を空けてたのは、たぶん葬式ですよ」

「手ぬるいわね」

「そうじゃなくて。俺だってさっさと片付けてほしいですよ。
 でも、まさと君の葬式ですよ。それに、まだ母親が犯人と決まったわけじゃない」

彼はちゃんと最後のお別れをしてもらうべきだ。

「どうしろってのよ」

「せめて、一晩待てませんか」

「一晩……一晩ね。それ以上は待たない」

「この親子、どうするんですか」

「落ち着いたら家に送っておくわ」



42 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/31(火) 23:54:29.83 ID:QDGKchhko
80

聞こえた子猫の声のこと、言うべきだろうか。

「あの、お義姉さん――」

「なによ」

「志乃に血を分けたとき、あいつ何て言ってました?」

(次に、僕が無理やり力を引き出した場合は――)

「そうねぇ。すごく短い時間でひどく迷ってたわ。当たり前よね」

彼女は志乃を見つめる。
その視線は愛しい者へ向けるものだった。

「あの子、『こんなところで死ねない。私、生きる』って言った。
 あの子らしいというか、まあ、素直よね」

「そう、ですか」




43 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/31(火) 23:55:10.70 ID:QDGKchhko
81
日没後、依頼人が目を覚ましたので、お義姉さんはグレイ君親子を家に送っていった。
彼女が帰ってくるまでは、念のため事務所を施錠するよう言われたので、そうした。
事務所の照明を落として振り向くと、小さな三毛猫がいた。

「ニャーン」

暗いのにはっきり視認できるあたり、今の僕はいわゆる「ぶり返し」ている状態らしい。

「久しぶりだな」

今ならグレイ君はいない。
猫と喋ってても、不審がる人はいない。

「にいちゃーん」

子猫は音も立てずに絨毯の上を駆け寄ってきた。

「ずっと謝りたかったんだよ。母ちゃんのこと、ごめんな」

抱き上げると体をうねらせる。
嫌がってるんだか喜んでるんだか。




44 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/07/31(火) 23:55:49.01 ID:QDGKchhko

82

「母上、ぼくがねんねしてたらあえるの。さみしくないにょー」

と、口を開ける。
小さいがしっかり尖った歯が、つつましく並んでいてかわいい。

(夢に出るってことかな)

「うんうん。いい子いい子」

「ぼくっていい子ちゃーん」

しなる尻尾が僕の腕に当たる。
毛の感触が柔らかかった。

「そうだ。お前は女の子ちゃんだから、『ぼく』は卒業だぞ」

「ニャーン」

子猫は僕の手から抜けて床に飛び降りると、休憩室に向かっていった。

「都合悪いと人語を忘れるんだな……」

自分の可愛さを利用するあたり、しっかり女子だった。




45 名前: ◆CIZA6sfEUc:2012/08/01(水) 00:04:36.04 ID:fKID2VsMo
>>38-40
ありがとうございます。
大袈裟だけど、ぐにゃぐにゃに見える壁紙を見つめながら、「俺、死ぬのかな…」と思いました。
でも生きてます。やったー!
抗体検査できるまでは、ツーアウトだと思って用心します。
捕ったらファーストならぬ刺されたら119です。
しまっていこう。

今日はここまで。





46 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/08/01(水) 00:07:27.39 ID:AkviHt1Uo
乙!
羽音に敏感になっちゃうね


47 名前: ◆CIZA6sfEUc:2012/08/01(水) 00:11:17.02 ID:fKID2VsMo
>>46
ほんと怖いですね。
ショックのあまり、いまだに蜂関連の話題だと饒舌になってしまいます。
まだ気持ちが落ち着いてないのかもしれません。



48 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/08/01(水) 08:51:27.13 ID:v/1j0TKDO
アナルスキーショックには気を付けろ!


49 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2012/08/01(水) 09:03:47.96 ID:sUux+kemo
>>48

惜しい。

俺も二回刺されてるけど、急いで病院行けば大丈夫だから、万が一刺されても慌てんなよ


50 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/08/01(水) 20:41:58.76 ID:AkviHt1Uo
>>48
なにそのいやらしいの


54 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/08/10(金) 22:46:39.06 ID:U96j9Xexo
83

「ねえちゃん、ねんね」

子猫は志乃の脇腹に鼻を押し付ける。

「うーん、寝てるのとはちょっと違うんだけどな」

「しんじゃったにょー」

しっぽがつまらなそうに、ぱたぱた動く。

「生きてるよ」

「ぼくもおおきくなったらねえちゃんみたいになるー」

子猫は前足で志乃の胸を押している。

「うーん、それはどうだかなー。おまえは猫ちゃんだからな」

「ニャーン」

背中が熱いような気がする。
傷があると指摘された部分に手を当てて、体をよじった。




55 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/08/10(金) 22:47:09.15 ID:U96j9Xexo
84

「にいちゃん、えらそうなおばちゃんあぶないにょ」

「確かに偉そうだけど、おばちゃんって言ったら怒られるぞ」

年齢不詳だけど、お義姉さんの見た目は二十歳かそこらだ。

「あの人は大丈夫だよ」

彼女が追い込まれたり、負ける姿が思い浮かばない。

(あ、でも通り魔に首を切られたんだっけ)

それでも。
彼女は強いはずだ。

「うあっ!」

焼きつくような痛みに、思わず声が漏れる。

「ぼく、たすけてあげる」

子猫が僕に向かって歩を進める。

「おまえ、俺を乗っ取るのか」

「わるいことしないにょ。ちょっとでていくだけにょー」

脇腹を僕のすねにこすりつけながら、足元をぐるぐる回る。




56 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/08/10(金) 22:47:35.45 ID:U96j9Xexo

85

焼印を押されるのってこんな感じだろうか。
皮膚がピンポイントで溶けそうだ。
中の肉まで焦げつきそうに思える。
うまく息ができない。
どうやっても痛みを逃がせない。

「おまえ、何かしたか?」

「ないにょ。ぼくはおさんぽだけ」

「お前が出てったせいかな。正直、人生最大級に痛い」

立っていられなくなって、畳に転んだ。
そのまま何度か悶えた。

「頼むよ、戻ってきてくれ」

「ぼく、おはなししたかったの」

「また夢でできるだろ」

「にいちゃんねんねしないにょ」

確かに、志乃が助かるまでは眠れないだろう。
子猫が仰向けになった僕の腹に乗る。




57 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/08/10(金) 22:48:01.86 ID:U96j9Xexo
86

「ねえちゃん、げんきになったらまたあそんでくれる?」

「うん。でも今の俺は元気じゃないので遊べないよ」

子猫はふんふんと鼻を動かした。

「ぼくがもどったら、にいちゃんげんきになる?」

「たぶん」

「ニャーン」

子猫は小さく鳴くと、小さな前足から僕の胸に沈んでいき、そのまま体の中に消えていった。
相変わらず、人に話したら頭がおかしいと言われそうな光景だ。
でも僕は、これを当たり前に受け入れるようになっていた。

目を閉じる。
痛みが畳をとおって、床全体に拡散していくような感覚。

僕は少しの間、失神した。




60 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/08/18(土) 01:00:11.21 ID:ch1byftvo
87

――――――――――

頭の上で声がする。

「起きなさい。変なところで寝ないの」

「う、うん……」

起こす上半身が重い。
さらにその上に乗っかってる頭はもっと重い。
背中の痛みはなくなっていた。

部屋の照明はついてないけど、お義姉さんだとわかった。
外から光が入ってくるが、表情はわからない。
暗くなっていたらしい。

一定の間隔で水の滴る音がする。

(水道なんか使ったっけ)

「うう、ああ……。あー……おかえりなさい」

「ずいぶん長い昼寝だったわね」

あぐらをかいたまま体をひねる。
節々がボキボキ鳴った。

「帰ってきたら入り口で寝てるなんて。やっぱり疲れてるのね」

(疲れはあまり関係ないような)

まだ寝ぼけたふりで、適当にうなってごまかした。



61 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/08/18(土) 01:01:05.45 ID:ch1byftvo
88

「あの親子、大丈夫でしたか」

「ちょっと厄介なのが待ち伏せしてたけど、片付けた。心配ないわ」

彼女は僕のそばに腰を下ろした。

(この匂いは)

鉄サビ。

「怪我してるんですか!?」

慌てて立ち上がり、照明からぶら下がっている紐をひっぱる。
リング型の蛍光灯が何度か点滅して、部屋を照らした。

入り口のあたりに血だまりができている。
着替えたばかりの、タートルネックのニットの色が暗くてわからなかった。
彼女は腹部を負傷している。

「あ、ああ、ああああああ」

救急車! と一瞬頭をよぎったけど、人間の治療なんて彼女には役立たないだろう。
情けないことに、うろたえるしかできなかった。

「騒ぐんじゃないわよ……。もう塞がりかけてるんだから」

脇腹のあたりに掌をあてがって、そう言い捨てた。
不機嫌そうなあたり、相当痛むらしい。



62 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/08/18(土) 01:01:35.96 ID:ch1byftvo
89

「妹は? おかしな様子はない?」

「ええ。安定してます。ずっと寝てる」

「そう。ならいいの」

お義姉さんは壁にもたれた。

「ねえ」

「はい」

「お茶を淹れてちょうだい」

この場合、彼女が言うのはジャスミン茶を指す。
ガラスのポットの中で花が開くみたいなお茶。
志乃は喜ぶけど、僕にはいまいち美味さがわからない。
いい匂いだとは思う。




63 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/08/18(土) 01:02:16.23 ID:ch1byftvo
90

――――――――――

お義姉さんの語気が、僕が無駄に喋ることを許さない感じだったので、僕は大人しく従った。

(一日に二度も傷を負うなんて、本当に手を焼いてるんだな……)

「どうぞ」

と、彼女の左側に盆を置く。

「……」

不服そうな顔。

「あの、何かまずかったですか。そりゃあ俺はこんなの不慣れですけど」

「腕が上がらないのよ。注いで持たせてちょうだい」

「ああ。……どうぞ」

言われたとおりにする。
負傷した左の脇腹から、右手を離した。
その手のひらには、血がべったりとついていた。
お義姉さんはこの世の者ではないけれど、その血は僕らに流れている血と同じに見えた。



64 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/08/18(土) 01:03:00.66 ID:ch1byftvo
91

「あの、何があったんですか」

彼女はカップに口を付け、まだ熱い茶を躊躇なく一気に飲んだ。

(それ、もうちょっとちびちび飲むタイプのお茶なんじゃ……)

長く息を吐いて空になったカップを置く。
取っ手が血糊で染まっていた。

「だから。言ったとおりよ。依頼人親子を送って行った。
 そしたら待ち伏せされてた。このとおりダメージはあるけど、ちゃんと始末したわ」

違和感があった。
三人でまさと君の家に行って、僕が腕を怪我したとき。



――あそこで力負けしてても、私が手を打てたはずよ。



そう言った。
彼女は自分の強さに絶対的な自信を持っている。
最初の事件なんか、呪いの塊を一刀両断にしてたし、
上木さんのときは、猫の姿のまま解決していた。
誇るだけのことはある。
彼女は強い。



65 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/08/18(土) 01:03:31.72 ID:ch1byftvo
92

――それなら。

その腹の傷は何だ。
依頼人の家にトラップ的に置いておく呪いなんて、本体よりは弱いはずだ。
こんなにてこずるなんておかしい。

「そのけが――」

「うるさいわね」

彼女は空いた右手で、また傷を押さえている。
僕に小さく謝ると、上を向いて、ふうっとため息をついた。

「傷に響くのよ。少し黙ってて」

なんとなく動けないまま、時間が流れた。
数十秒だったか、数分だったか。

「春海君、話しておくことがあるわ」

珍しく名前で呼ばれた。


72 名前: ◆CIZA6sfEUc:2012/08/27(月) 23:54:03.46 ID:OvryXz/Ao
93

僕に向き直った彼女は、どことなく志乃と似ていた。
文字通り血を分けたせいかもしれない。
志乃が大人になったらこんな感じだろうか。
でも、しばらく会わないでいると、僕は彼女の顔を忘れてしまうのだ。

「そうね――どこから話したものかしら」

彼女は目を伏せ、眉間にしわを寄せた。
何度か深く息をして、彼女は語り始めた。

「私の名前。言ってなかったわね」

「ナオミじゃないんですか」

「言ったでしょ。お店の名前はナオミ・キャンベルが頭の中で歌ってたからだって」

「ああ。あれ本当だったんですか」

「そんなことで嘘ついてどうするのよ」

お義姉さんの口元が歪む。
苦笑したのかもしれない。





73 名前: ◆CIZA6sfEUc:2012/08/27(月) 23:55:19.39 ID:OvryXz/Ao
94

「私は、環」

「意外とふつうですね」

「普通でいいのよ。名前なんて」

「良い名前なんじゃないですか」

彼女が何を言いたいのか、まだわからない。

「私、きっともう長くないのよ」

喉が締まった。
何も言えないのに、肺が驚嘆の声を絞ろうとするものだから変なうめき声が出た。

「ああ、そんな悲しむようなもんじゃないのよ。
 私という個体の保持が難しくなってきてるだけ」

「それ、やっぱり死ぬって言ってるように聞こえます」

「私たちみたいな鬼はね、何度も命を終えては始めてる。
 今は何度目かしら――わからないわ。前の生は覚えてないもの。
 そもそも私に備わってるものが命なんてものかも――」

「なんで今、俺にその話をするんですか」

「今回ばかりは、敵と差し違えることになりそうだから。
 あの子に話したら、きっと泣くわ」

「俺だって平気じゃないです」

「嬉しいこと言ってくれるわね。でもなんだか辛いわ」

「あなたが、ただの鬼じゃないってことじゃないですか」

志乃が目覚めたら、なんて言えばいいんだ。
悲しむのは目に見えてるし、取り乱すに決まってる。
なにより、僕だってこの人のことは決して嫌いじゃなかった。




74 名前: ◆CIZA6sfEUc:2012/08/27(月) 23:56:02.98 ID:OvryXz/Ao
95

「即席で、ままごとみたいな家族だったけど、私は満足してたのよ」

彼女は目を開けて、志乃を眺めた。
無事を確かめているようだった。

「お義姉さん、もしかして回復が追いつかないのって、志乃を――」

「それは関係ないわ」

早口で遮られた。
志乃をああやって眠らせておくことで、彼女は消耗し続けているようだ。

「じゃあ、なぜ血が止まらないんですか!」

「あー、もー。うるさいわね。目の錯覚よ」

「そこまでして、志乃が呪われてなかったら徒労じゃないですか……」

「そんなことない。あの子の中に呪いが入った可能性がある限り、保険をかける意味がある」

「志乃が知ったら怒りますよ」

「そう? 喧嘩上等よ」

お義姉さんは蒼白な顔を向けて笑った。



78 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/09/02(日) 23:53:32.89 ID:CU1//Mlxo
96

お義姉さんは壁にもたれながら、ずるりと立ち上がる。

「それじゃ、あの子によろしく」

壁に手をつき、戸に手をかける。
彼女はそのまま、よろけながら事務所を出る。
僕はそれに、おろおろしながらついていく。
壁には、なすりつけたように血が残っている。

「まさか、あの家に――」

「それ以外にどこへ行くっていうのよ。時間がないの」

何か言わないといけないと思って口を開いたけど、言葉が出てこない。

「行くわ」

慌ててドアを開けようとしたお義姉さんの手を押さえる。
相変わらず冷たい手だった。




79 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/09/02(日) 23:54:01.45 ID:CU1//Mlxo
97

「せめて志乃に、何か伝える言葉を残してください。
 ほんとは嫌ですけど、こんなの嫌ですけど――」

遺言を預かれば、僕は彼女の死を認めることになる。
彼女には不死でいてほしかった。
この程度の出血、志乃と血を分け合って助かったように、
そのへんの人たちからちょっとずつもらってやりすごしてほしかった。

「こういうの、苦手だわ」

「今更『私には感情がないもの』とか言い出さないでくださいよ」

彼女は僕の手を取る。

「愛してるって。そう伝えて」

「洋画の見過ぎですよ」

「ばかね、泣くんじゃないわよ」

「俺、嫌ですからね。
 ちゃんと戻ってきて、自分で志乃を起して、それから自分で言ってくださいよ」

彼女は呆れたように唇だけで笑うと、事務所を出て行った。





80 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/09/02(日) 23:54:30.38 ID:CU1//Mlxo
98

彼女は飛んで行ったのだろう。
もうすぐ死ぬわ、なんて言ってる人が、悠長に人間と同じように移動するわけがない。
彼女は最悪、刺し違えることを覚悟していた。

(でも、もっと悪いことになったら?)

まさと君の母親はどうなる?
これからもまさと君の友達だった子を呪い殺し続けるのか?
志乃はどうなる?
今はお義姉さんが保険として仮死状態にしてるけど、それがきれたら?

お義姉さんの机の引き出しを開ける。
鍵を手に取る。

(行くのか? 志乃を置いて?)

でも、お義姉さんを一人で行かせたのは、リスキーだったように思う。

(僕が行って何になる?)

僕は人間だ。
盾を作る指輪は没収された。
盾を出して彼女をサポートすることもできない。





81 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/09/02(日) 23:55:06.84 ID:CU1//Mlxo
99

でも僕は、ドアノブに手をかけて、ドアを開け、外に出ている。
埃っぽいビルの廊下。
他のテナントはもう、営業を終了しているだろうか。

ふと、家族のことが気になった。
「遅くなる」と簡単にメールした。

僕は何をしようとしているんだろう。
僕が行っても何の戦力にもならない。
ただの足手まといだ。

(ちがうね)

そうだ。それは違う。
僕は知っている。
僕にも戦う手段が残っていることを知っている。



――ニャーン。



(ああ、ちゃんと応えてくれる)

やっぱり子猫はいい子だ。
無事に帰ってきたら、ナイスな名前を付けてやろう。
で、自分のことをぼくって言うのをやめさせよう。
僕には子猫を立派な淑女に育てる義務がある。




82 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2012/09/02(日) 23:55:43.03 ID:CU1//Mlxo
100

お義姉さんの忠告は、しっかり覚えている。
でも、このまま黙って留守番なんてしていられない。
志乃が彼女を失って泣くのも見たくない。
それに、僕だって彼女と離れたくない。

「猫、わかるだろ。俺の気持ち」

「わかるー。ぼくってかしこーい」

廊下をトコトコと足取り軽く進む子猫。
振りかえって、尻尾をぴんと立てる。

(何もできないでいるくらいなら)

子猫に向かって手を延べる。

「来いッ! 力を貸してくれ!」

「いいよー」

子猫は僕に飛び込む。

(人間でいることにこだわって、大事なものをなくすくらいなら)

体中の細胞がはじけるように熱く、目の前がちかちかする。
僕は少しよろける。
壁に手をついて目を開けると、暗い廊下のはずなのに、よく見えていた。

指を見ると、爪が伸びてとがっている。
窓ガラスに移った自分の虹彩は縦長になっている。
頭には三角の耳が生えている。

「悪いな。お前には物騒なことさせたくなかったんだけど」

「いーよー。ぼく、おばちゃんたすけるの、てつだってあげる」



――人間やめてやる。



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