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女「人間やめたったwwwww」2/10


女「人間やめたったwwwww」



101 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/16(金) 20:53:28.42 ID:uiul4L25o
1
女「お勉強したったwwwww」

いろいろあって女友達・志乃(シノ)が半端なヴァンパイアになり、
その女友達を死の縁に追いやった通り魔の亡霊に復讐を果たし、

その場でいろいろとちゅっちゅされて、
ヴァンパイアになったかと思えば実はそれも中途半端で、
吸血しなくていい代わりに定期的に精液を欲するようになると知らされ、

僕・春海(ハルミ)は今、そのヴァンプと化した女友達に男性器を晒しています。

「いただきます」

少しまぶたを伏せながら、彼女は僕の性器に口をつけた。
期待のあまり、僕は閉じたまぶたの中で一瞬白目をむいた。



かぷ



「~~~~~~ッッ!!」

――まではいいが、彼女はそういった知識が乏しかった。
皆無と言ってもよかった。

「どしたの。鞭打くらったバキみたいなリアクションして」

下半身丸出しで悶絶する僕を、不思議そうに心配する彼女。
わかってる。悪意がないのはわかってる。
でもね、無知は時として牙を剥くの。



元スレ
女「人間やめたったwwwww」
SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)@VIPServise掲示板




102 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/16(金) 20:56:06.90 ID:uiul4L25o
2
口から細く息を吐き、なんとか気分を落ち着かせる。
大丈夫。もう痛くない。
だが萎えた。

「ね、ねえ、大丈夫?」

彼女はうろたえている。

「噛んじゃだめだろ……」

「ごめんちゃい」

悪いのは無知なんよ……。
きれいごとしか教えない保健体育……。
日本の性教育を、今こそ見直すべきなんよ……。

性欲がいきなりニュートラルになり、国の教育に想いを馳せてしまった。

「あ、縮んでる」

「そりゃ縮むわ!」

彼女はかたつむりの角でもつつくように、僕の股間の角をつつく。





103 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/16(金) 20:56:45.31 ID:uiul4L25o
3

「うーん、ナマコのようだ」

人の生殖器で遊ぶな。

「今日は諦めろ」

「えー、なんでよ」

彼女は不満そうに唇を尖らす。
いやね、その小さな口いっぱいにぶちまけてあげたいのはやまやまなのよ、俺も。
でも心折れたのよ。
ナイーブなのよ、男って。

「いいか、一度萎えると、再装填には時間がかかるんだ」

「射出してないのに?」

「誰のせいで出し損ねたと思ってるんだ」

「l^o^lわたしです」



104 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/16(金) 20:57:51.50 ID:uiul4L25o
4
床にぐったりと横たわる僕のそばで、彼女は体操座りして黙っている。

「何してんの?」

「待ってんの」

「あー、無駄だと思うぞ」

「えっ」

「仮に立ったとして、どうやって出させるんだ」

「あー……」

「今のお前には出来まい」

「ぬうぅ……!」

「今日は諦めろ。な」

彼女は困っていた。



105 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/16(金) 20:58:41.93 ID:uiul4L25o
5

服を着ようとしたそのときだった。

「困ってるわね、妹よ」

ついさっき姿を消したはずの、彼女の姉貴分が現れた。

「おねーさん!」

慌てて股間を隠す。

「なんなんですか!あなた帰ったはずでしょうが!」

「言ったでしょ。この子が私に会いたいと願えば、私は現れるって」

うわぁ。
今言われても、ちっともかっこよくない。

「お前もこの程度で助け求めてんじゃねええええ」

「あら、フルチンで怒られたって怖くないわよ」

「ねー」と、お姉さん。

「ねー」と、返す志乃。

昨日今日の短い付き合いなのに、息が合ってやがる。

「ああもう!とにかくお姉さんは帰ってください!」



106 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/16(金) 20:59:38.68 ID:uiul4L25o
6

「何よ、いきなり喧嘩?」

既に僕を詰る準備をしている。ように見える。

「噛んだら萎えて怒られた」

こんなに端的に言われると悲しくなる。
僕はもっと屈辱的な仕打ちを受けたはずだ。

「あら、それはあなたが悪いわ」

「それ見たことか」

「ちぇー」

「また今度にしなさい」

「それから君」とお姉さんは僕に向き直る。

「今度はちゃんとやり方教えてあげなさい」

と、僕の肩に手を置く。
上司に諭される部下の気分だ。

「教える前に噛まれたんですけど……」

と、僕が言い終わる前にお姉さんは消えてしまった。
ほんと言ったら言いっぱなしだな、あの人は。



107 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/16(金) 21:00:17.43 ID:uiul4L25o
7

もう、一気に力が抜けた。
僕は今度こそ服を着る。

「しまっちゃうの?」

「終了ー」

「再開ー」

と、彼女はベルトを掴んで軽く引っ張る。

「しません――っとと」

僕はベッドにうつ伏せに倒れこんでしまった。

「あ、こけた」

「うーん……お、起きられん……」

力が入らない。
寝返りすら打てない。

「……お前、何か吸った?たとえば精気とか」

「さあ?性器なら吸いそこねたけど」

彼女は拗ねて上を向くと、そのまま止まった。



108 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/16(金) 21:01:32.89 ID:uiul4L25o
8

「どうした」

「ん、なんかおねーさんから受信してる」

「――うん。
 ――うん。動けないんだって。
 ……あー、どおりで。
 ――えー、やだー。……もー」

彼女は僕に向き直る。

「おねーさんが吸ったんだってさ」

「あのときか」

肩に触られたことを思い出す。

「やっぱり若い男の子のはいいわwwwまたお願いねwwwwって言ってた」

「何しに来たんだ、あの人は……」

今頃ツヤツヤしてるんだろうな。
むかつくわ。



109 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/16(金) 21:02:10.27 ID:uiul4L25o
9

「ちょっと休んだら?」

「そーする」

彼女はベッドの側面にもたれて、床に座っている。

「眠い」

「寝んちゃーい」

そっけないもんだ。
さっきまでの意欲はどうした。

「いじけるなよ」

「いじけてなどいない」

こちらに背を向けているせいで、顔は見えない。

「志乃おいで」

「やだー」




110 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/16(金) 21:02:44.46 ID:uiul4L25o
10

「なんでよ」

「は、はずかしい……」

彼女は背中を丸めた。
肩が小刻みに震えている。

「あー、また素に戻って『あぁ~』ってなってるんだ」

「えらいことをしてしまった」

「えらいことっつーか、エロいことだな」

「ファックファック」

うーん、やっぱり食欲で動いてたのか。

「まだ飲みたいか」

「……?あれ、そういえばどうでもいいや」



111 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/16(金) 21:03:25.33 ID:uiul4L25o
11

どうでもいいと言われるとさすがにへこむ。
が、僕は表に出さない。

「来い来い」

やっと持ち上がるようになった腕で手招きする。

「やーだー。変なことするんでしょ」

お前が言うな。

「しないしない」

「ほんとに?」

疑り深い眼差し。

「ほんとほんと。セクシー抱き枕として添い寝してくれればいいから」

「お巡りさんこっちです」



112 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/16(金) 21:03:55.44 ID:uiul4L25o
12

「お前が言うな」

「うー、ごめん」

彼女は僕のゆるく握った手に、指を差し入れた。
そのまま僕の手のひらを爪で軽くひっかく。くすぐったい。

「まだ怒ってる?」

「怒ってない怒ってない」

「変なことする?」

「されたいか?」

彼女はたっぷり考えて、「わかんない」と答えた。

「まだもじもじしてるな」

「恥の多い生涯を送ってきました」

「大丈夫、あのくらいでは引かない」

(僕の妄想に比べたら可愛いもんだ)



118 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/18(日) 00:53:31.04 ID:AXH7bZyho
13

「……ケーキ」

「ん?」

「出しっぱなしだから、冷蔵庫入れてくる」

「そういえば買ってたな」

エロいイベントに心奪われて、すっかり忘れていた。

「今食べたい?」

「いいよ。消化する元気がないし。
 後でお姉さん呼んで一緒に食べな」

彼女はうなずいて、階下に下りた。
視線だけ動かして自分の腕を見る。
額の傷も、痛くかった。

(傷がもう治りかけてる……)

彼女が戻ってきた。

自分の部屋なのにどこに座っていいかわからず、所在なさそうにしていた。




119 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/18(日) 00:54:03.18 ID:AXH7bZyho
14

「……あ」

「目が合ったな」

「チッ」

「ここに来たそうにしてるじゃないか」

「認めたくねえー」

彼女は不服そうにベッドのふちに腰かけた。
ため息をついて僕を一瞥すると、そのまま僕に背を向けて寝転んだ。

「そんな隅っこだと落ちるぞ」

「そっちが来ればー」

「俺、今動けない」




120 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/18(日) 00:54:39.57 ID:AXH7bZyho
15

どれだけ吸ったんだ、あの人は。僕に断りもなく。
回復までどれくらいかかるんだろう。
帰りのことを考えると憂鬱になった。

「しょーがないなぁ」

彼女は僕の体に背中をつけた。
髪の先が鼻をかすめて、くすぐったかった。

「ほら、今のうちだけど?」

「何が?」

「抱き枕にしたがってたじゃん」

例によって、僕に顔を向けずに言う。
多分、不服そうに唇を尖らせているのだろう。




121 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/18(日) 00:55:14.30 ID:AXH7bZyho
16

「求められたい」

「言わせるか」

「言われたい」

「……」

「さあ!勇気を出して!」

「…………じゃあ、して」

「ぃよっしゃああああああああああ」

(生きててよかったああああああああああ)

「ヘンタイだ。ヘンタイが喜んでる」

しかし、肉欲をエネルギーに変換することはできなかった・
これが人間の限界である。




122 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/18(日) 00:55:48.83 ID:AXH7bZyho
17

「あ、ほんとに何もしないんだ」

安心しているのか、つまらないのかわからない。

「いや、したいんだけどね、ほんとは。動けないのよ」

生殺しである。

「さすがに心配だね」

「今度お姉さんに会ったら、吸うときは遠慮してくれって言っといて」

「起きれるまでどれくらいかかるんだろ」

「ちょっとお姉さんに訊いてみてくれ」

「よし、やってみる!」

彼女は静かになった。
どこか力んでいるように見える。

「……」

「……」

「どう?」

「うー、だめぽー」

「ああ、受信専用なのね」




123 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/18(日) 00:56:28.20 ID:AXH7bZyho
18

「とりあえずひと眠りしてはどうだろう」

「あー、どっちにしろ動けないもんな」

「傷はもういいの?」

「それがもう治りかけてるんだよ。お前の唾液は薬効があるの?
 もしそうなら手厚く保護しなければなりません」

「唾液言うな」

「だから志乃を抱いてると回復するかもしれない。来い来い」

「もう、わかったよぅ」

彼女は、僕の下になっている方の腕に頭を乗せた。
体臭とは別の、むせそうになるほど甘い匂いがした。

もう片方の腕で彼女を抱く。
実際は力が入らないので、体に腕を置いているだけだ。

「志乃、何かつけてる?」

クラスの女子が使うような、シャンプーや制汗剤のものとも違った。

「な、なにも!」

声が裏返っている。

「えっ、な、何?もしかして汗臭い?」

「いや、なんだろう。植物系?花?」

「身に覚えがない……」

彼女の新しい体質なのかもしれない。
僕は順調にたらし込まれつつある。
彼女に悪意がなくてよかった。




124 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/18(日) 00:57:09.83 ID:AXH7bZyho
19

僕は彼女の髪に顔をうずめた。
匂いを覚えようと思った。
頭の奥から劣情と多幸感の混ざったものが滲んでくる。

「もう、寝るんじゃなかったの?」

恥ずかしさからか、少し語気が強い。

「……黙っててくれたら、もうすぐ」

うん。俺もね、気づいてないわけじゃないのよ。
俺本体より一足先に元気になったマイサンが、
君の尻に押しつけられてることくらい、わかってるのよ。

彼女は気まずそうに体を動かしているが、気づかないふりをする。
僕は性欲より睡眠欲をとる。



125 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/18(日) 00:57:53.88 ID:AXH7bZyho

20

どれくらいそうしていたかわからないが、僕の意識ははほとんど眠っていた。
彼女の言うことには「うん」と「ううん」だけで答え、あとは考えられなかった。

「ねえ」

「ん?」

「寝た?」

(修学旅行の晩にこういう奴居たな)

「ん」

まどろみに水を差されても、文句を言う気がしなかった。

「……ドキドキするんですけどー」

(うれしいこと言ってくれるじゃないの)

「うん」

しかし僕はあくまで眠いのだ。
いまなら淫靡な夢が見れそうである。



127 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/18(日) 01:21:32.40 ID:pouzv6+uo
乙です。
さすがに書き溜めが尽きたところで急に話のスピード感が落ちましたね。
序盤が急展開の連続だったのでさらにギャップが際立ってます。
加速するか、このままねっとりラブシーンを続けるかは書き手次第。
次も期待です。


131 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:27:42.56 ID:Gd3/D7axo
>>127
それは否めないですね。
今回はこれといった事件もなく、二人のやりとりを追う感じで書いてるので、
スピード感どころかもどかしさすらあるかもしれません。

一話完結方式でいくので、話ごとにテンポが全然違うことになりそう…。

今後も温かく見守ってください。


 

128 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/18(日) 03:51:30.33 ID:SD2QNHWIO
気づいたらほのぼのエロになってた
続けてください


129 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/09/18(日) 10:26:24.00 ID:y/wlKMgTo
ニヤニヤがとまんねぇ


130 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/18(日) 11:06:57.71 ID:W6xSx9TRo


めちゃくちゃ和むわ




 
132 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:33:55.35 ID:Gd3/D7axo
>>128-130
ありがとう。
「人を楽しませるのは素晴らしいことなんよ」を座右の銘に、
エロバカなラブコメのコンセプトで一話完結で続けていきます。

各話のタイトルは"女「○○したったwwwww」"で統一する方針です。

中身があったりなかったり。
1000まで完走したいなー。



133 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:35:28.65 ID:Gd3/D7axo
21

「ねー」

無視無視。

「ねー、ヒマー」

腕の中で彼女はもぞもぞする。

「ほんとに寝た?」

声の出どころが近い。こっちを向いたらしい。
それでも無視を決め込む。
このままだと、いつまでも寝させてもらえそうにない。

「んー」

退屈そうだが、僕は心を鬼にしているのだ。

「つまんない」

許せ志乃。

「ねー」




134 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:35:55.27 ID:Gd3/D7axo
22

「襲っちゃうぞ」

そう聞こえた気がした。
応戦したいが、僕は動けないのだ。

「よいしょ」と体を転がして仰向けにさせられる。
もういい。好きにして。

「どうすればいいんだろう」

(Don't think, feel! )

「……ちゅっちゅしちゃうぞ」

(キャー、してしてー)

にやけそうになるのを我慢する。

「ねー、ほんとに寝たのー?」

彼女が喋る度に、頬に息がかかる。
顔が近いらしい。



135 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:36:21.48 ID:Gd3/D7axo
23

「もー」

彼女は口の中で何かつぶやいて、唇を合わせてきた。
そのまま僕の下唇をはむはむする。
さっきの血の味がするキスとは違って、可愛らしいと思った。

「ほんとに寝ちゃった……」

半分起きてるけど、意識はすでにトロトロになっている。
既に眠っていたのかもしれない。
彼女の退屈そうな独り言も、どんどん遠くなっていった。



136 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:37:13.97 ID:Gd3/D7axo
24

――――――――――
こんな夢を見た。

僕は自室のベッドで、裸で眠っている。
家族に見つかったら何と言い訳したものか。
部屋には志乃とお姉さんがいる。
僕は眠っている。

お姉さんは何かプリントアウトしたものを持って、志乃に指示して消えた。
志乃はひどく恥じらうが、好奇心に負けたらしい。
僕の体を撫でたり、鳥がやるみたいについばんだりし始めた。

彼女の手と口は徐々に下りていき、僕の性器に届く。
彼女は床から、お姉さんの残したプリントを拾う。
それを見て、不器用ながら愛撫を加える。

僕は、自分で仕込みたかったのに、などと贅沢なことを思う。

しばらくして、僕は射精した。




137 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:38:06.62 ID:Gd3/D7axo
25

―――――深夜―――――

えらくリアルな淫夢だったので、僕はパンツのことを考えて憂鬱になる。

(俺は急に生理がきた女子か……)

とりあえず確認してみるが、何ともなかった。
何に対してかわからないが、勝ったと思った。

そういえば今、何時だろう。

彼女の家族が帰っている頃だろうか。
何度か顔は合わせているから、別に後ろめたいことはない。
だけど、今はさすがに緊張する。
彼女はいない。

落ち着いて部屋を見渡すと、僕の部屋だった。
僕は彼女の部屋で寝たはずだ。
ちょうど、日付が変わろうとしているところだった。




138 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:39:03.73 ID:Gd3/D7axo

26

夢オチかよ、と悪態をつきながら風呂場に向かう。
脱衣所の鏡に映った僕は、彼女の買ってきた、
ゆるい猫のイラストが入った嫌がらせTシャツを着ていた。

腕には、かなり治癒しているものの、通り魔の亡霊に付けられた傷が幾筋も残っていた。

夢じゃなかった。

喜ぶべきか憂えるべきかわからず、僕はそのまま風呂に入って寝た。

明日は彼女に何て言おうか。
今日はいろいろありすぎた。
考えるのはここまでにしよう。



139 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:39:49.40 ID:Gd3/D7axo
27

―――――翌朝―――――

僕はいつもどおり登校する。

彼女は昨日と同じように、両手に包帯を巻いていた。
ただ、巻き方は簡単になっていた。
席について、声をかける。

「はよーん」

「お前、手は?」

「急に治ったら怪しまれるじゃーん」

「抜糸は?」

「気持ち悪いけどあと1週間の我慢だ」

「早く抜けるといいな」

「うん」

彼女は眠そうだったが、妙に髪や肌がつやつやしていた。
素直な毛の流れが引き立っている。
瞳がいい感じに潤んで庇護欲を刺激する。

「お前、今日やけにきれいだな」

こんなことを言うのは本来、僕のキャラじゃない。

「なっ――」

彼女は口を開けて固まった。


140 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:40:34.87 ID:Gd3/D7axo
28

「俺、昨日お前ん家行ったよな?」

「来ましたけどー」

「起きたら俺ん家だったんだけど、どうやって帰ったか覚えてないんだ」

「いつまでも寝てるから、おねーさんに運ぶの手伝ってもらった」

「なに、お姉さん免許持ってるの?」

「らしいよ。たまにだけどお仕事してるみたい」

となると、あの就活女子大生スタイルはやはり変装か。

「ヴァンパイアも現代を生きるのは大変だな」

「ねー」

彼女は他人事のように言う。
お前も半分はヴァンパイア――ヴァンプだから4分の1か――だろうが。
平静を装い続けるなら崩してやる。



141 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:41:20.26 ID:Gd3/D7axo
29

「いやー、志乃はかわいいなぁ」

「ぶっ――」

吹き出す志乃。

「うんうん。ほんとうにかわいいなぁ」

「何を急に――」

「どうして今日はそんなにキラキラしてるのかなぁ」

「…………」

「何か栄養のあるものでも摂ったのかなぁ」

「…………」

「何かいいサプリでもあるのかなぁ。俺にも教えてくれないか」

「…………すいませんでした」

「お、自白したな」

彼女のポーカーフェイスを崩すには誉め殺しに限る。

「……美味かったか」

「……はい」



142 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:42:19.72 ID:Gd3/D7axo
30
まさかとは思ったが、やはり現実となると羞恥心に与えられるショックは大きい。

「汚された……あたしの心、汚されちゃったよう……」

僕は両手で顔を覆った。

「いや、その、ほんとすいません」

口では謝っているが、何を思い出したのか彼女の目が輝いている。

気のせいか、例の濃厚な花の香りまで漂い始めた。

条件反射のように、下半身が反応する。

「ねえ」

「なんだよ」

「始業まで、まだ時間あるよ」

口元に扇情的な笑みが浮かんでいる。

「何が言いたいんだよ」

「すぐ帰ってくればばれないよ」



143 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:43:05.21 ID:Gd3/D7axo
31
彼女は僕の返事を待たず、勝手に席を立った。
僕がこうしてついていくことを知っていたみたいだ。

―――非常階段―――

「さ、座って座って」

彼女は僕の胸を押して、階段に座らせる。
困惑と期待があいまって、抵抗できない。

彼女は膝をついてベルトを外そうとするが、
僕が座っているので上手くいかないみたいだ。
仕方なく自分でゆるめてやる。

彼女はうれしそうに「ありがと」と言った。
顔に浮かべた笑みは淫らなものだったが、口振りは無邪気そのものだった。

彼女は不器用に僕の性器を引っ張り出す。
利き手の包帯をはずしながら、唇を一瞬、ちろっと舐める。
僕の好きな、あの仕草だった。



144 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:43:45.77 ID:Gd3/D7axo
32
「いただきます」

変なところで礼儀正しい奴だ。
普通の食事と比べておかしいのは、箸じゃなく棒を握って言ってることか。

「噛むなよ」

彼女は握った手をゆっくり上下させながら

「噛まないもん」

と言った。やばい、この時点で気持ちいい。

これは僕が抜くときに妄想に使った場所でシチュじゃないか。
図らずも実現してしまったせいか、興奮してしまう。

息が荒くなった僕を志乃は満足そうに見つめる。
何度か根本からゆっくり舐めあげて、先をくわえられた。

顔が見たくて前髪を上げたら、口を離して

「見ちゃだめ」

と手を払われた。




145 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:44:30.48 ID:Gd3/D7axo
33

そうしている間も、片手は動いている。
なんて恐ろしい子。

「あんまり時間ないんだから、邪魔しないで」

そういえば始業前だったか。
なるべく我慢して堪能したいが、そうはいかないらしい。

それに、この始業前の5分を切った時間帯は登校してくる生徒が多いんだ。
遠い玄関で、喧噪が聞こえる気がした。
何人分、何十人分だろう。
だけど、あの中の誰一人として、こんなところでこんなことが起こってるなんて思わないだろう。
そう思うと余計に興奮してしまう。

彼女は口の中で舌を動かしながら、強く吸い上げる。
いつどこでこんなこと覚えたんだ。

(昨晩、僕の家か……)

恐ろしい学習能力である。



146 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:45:16.60 ID:Gd3/D7axo
34

「志乃っ……」

出そうとは言ってないが、彼女はくわえた頭を上下させながらうなずいたようだった。

(えーと、このまま出していいんだよな……?)

(だって、不味いっていうじゃない?)

(あと、ほっといたら臭いし)

僕は要らぬ葛藤の中、精を吐き出した。

(あああああ出てる間に吸っちゃらめえええええええ)

(もってかれるううううううううう)

一瞬、意識が白くなる。
彼女は飲んでしまって、口を離していた。

「ごちそうさまー」

なんとも満足そうである。

「美味かったか」

「……えへ」

「良かったな」



147 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:46:00.57 ID:Gd3/D7axo
35

スカートのポケットからからミニタオルを出して、拭いてくれる。

「……汚いぞ」

「平気だよ。口に入れても大丈夫なんだから」

「ほっとくと臭くなるんだぞ」

「え」

ああ、こいつはあの恐ろしさを知らないな。

「悪いことは言わない。洗っておきなさい」

「わかった」

教室に戻る途中、廊下の水道で洗う。

「石鹸使うんだぞー」

「はーい」

彼女は液体石鹸の入った容器の頭をプッシュする。

「……ゴクリ」

「洗剤に興味を示すな」



148 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:46:27.95 ID:Gd3/D7axo
36

「包帯濡れちゃった……」

彼女はわずらわしそうに包帯を取る。
癒えた傷が見えないよう、注意を払っている。

「替えの持ってる?」

「ん」と彼女は腰の側面を突き出す。

「ポケットに入ってる。取って」

「はいはい」

そういえば普通に生活していれば、女の子のスカートに触れることはない。
そう思うと、途端にやりづらくなった。

「変な目で見られないかな」

「大丈夫だよ。私がお世話されてるようにしか見えないよ」

ポケットから包帯を取り出して渡してやる。

彼女はその間、ポケットティッシュで手を拭いていた。
彼女は僕に洗ったミニタオルを持たせると、包帯を巻きながら教室に歩き始めた。



149 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:47:34.74 ID:Gd3/D7axo
37

―――朝のHR後・教室―――

彼女の椅子の背もたれには、ミニタオルがかかっている。
こうなった経緯を知っている身としては、それが人の目に簡単に触れる場所にあるのは気まずい。

「ティッシュあるならそっち使えよ……」

「そこまで頭回らなかったんだもーん」

「だもーん」とか可愛らしく言われてもなぁ。

「増量したおっぱいはどうごまかすんだ」

「今はサラシでつぶしています」

「それだって毎日続かないだろ」

「段階的にゆるめるから大丈夫」

なにが大丈夫なんだか。

「普乳から巨乳への変化はすぐばれるぞ」

「う」

「お前は人のおっぱいに対する観察力をあなどっている」

「だ、大豆とかキャベツとか鶏肉ばっかり食べてあんたに揉まれてたって言えば大丈夫!」

「な訳あるか」



150 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:48:46.06 ID:Gd3/D7axo
38

「ちぇー。完璧だと思ったのに」

「どこがだよ。せめて実際に揉ませろ」

これでは口実に使われ損である。

「私を守るためだと思ってさー」

「社会的な死と引き替えにか」

「死にゃしないって」

「俺はそんな形でヒーローになるつもりはないぞ」

「大丈夫だよ。だって――」

「なんだよ」

彼女は頬杖をついて僕から視線を反らす。

「あ、あたしは彼女ですしー」

そうか。僕はただの養分じゃなかったのか。

「キャーwww言っちゃった言っちゃったwwwww」

「元気だな」

平静を装ってはいるが、彼女の認識がわかって嬉しい。

「友達に自慢していい?」

「はいはい」

許可しようとすまいと、勝手に喋るものだ、女子ってやつは。



151 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:49:29.79 ID:Gd3/D7axo
39

「そういえばあのプリントは何だったんだ」

「プリント?」

「夜の」

「あ、あれは、その――
 おねーさんにぐぐってもらって……」

「自分でやれよ……」

「そんな言葉入力できないぃ……」

「よく言うよ……」

「で、あんたのこと送ってったついでに、実践してみなさいって言われて――」

「あー」

「お勉強したったwwwww」

「だからって上達しすぎだろ」

「向上心のないやつはばかだ」

ここで引用されても、ちっとも賢そうに見えない。



152 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/19(月) 03:49:59.05 ID:Gd3/D7axo
40

「さっきより肌艶がよくなってるな」

「……ふへ」

彼女はだらしなく口元をゆるめた。

「その顔はやめなさい」

「は!いかんいかん」

「そうそう。キリッとね」

チャイムが鳴り、一限目の教科担当が入ってくる。
起立して礼をする。
座ろうとすると、彼女に肩を叩かれた。

「なに」

「言い忘れてた」

僕はあまり顔を向けず、視線で「聞いてるよ」と意思表示をする。

「引き続きよろしくね」

妖女とか小悪魔的なイメージとはほど遠い、あどけない笑顔だった。

「お、おう……」

気の利いた言葉が出ない。
僕の後ろからは、花の匂いがする。
さっきとは違って、嗅いでいて落ち着く。
今日の放課後は、花屋に寄って、彼女の匂いに似た花を探そうと思った。

女「お勉強したったwwwww」おわり


163 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:11:16.10 ID:kE/gwPSmo
女「言ったった言ったったwwwww」

1

―――――放課後―――――

僕は母の日以外に花屋に行ったことがない。
自意識過剰とわかっているが、男一人で行ける気がしない。
目的もなく一人で店に入るのは苦手だ。
となると、必要なのは彼女だ。

「志乃、暇なら付き合ってくれ」

「いーよー」

彼女は大きく伸びをしながら気持ちよさそうに答えた。

「どこ行く?体育倉庫は運動部に見つかっちゃうよ」

例の花の匂いが、むっと立ちこめた。頭がくらくらする。
なんで周りの生徒は平気なんだ。

「貴様、勘違いしているな」

彼女は、露骨に期待はずれといった顔をする。



164 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:12:17.43 ID:kE/gwPSmo
2

「そんな顔してもダメー」

「ケチー」

「どうするんだよ。来るのか来ないのか」

「キャー、私をどこに連れて行く気?ラブホ?」

「そうしたいところだけど、お前は入り口で引き返したがるだろうな」

「そうかなぁ」

「そんな気がする」

(どうも僕をセクシャルな目で見てくれてる感じがしないんだよな……)

「じゃあ、どこ行くの?」

匂いが弱まった。志乃の気が散ったせいか。




165 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:13:19.30 ID:kE/gwPSmo
3

「は……花屋」

彼女なら笑わないと思うけど、少し気後れする。

「園芸な趣味あったっけ?」

「ないけど。お前にと思って」

(お前に似た匂いの花が欲しいと思って、とは言えないな)

「ほんと?」

(お、意外と好感触)

予定になかったけど、嬉しそうにされるとその気になる。

「部屋に花くらい飾ってはどうだろう」

「わーい、飾るー」

「じゃ、行くか」

「ごーごー花屋さーん」

彼女は歌うように言って、席を立った。



166 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:14:41.60 ID:kE/gwPSmo
4

―――――花屋―――――

僕は困っていた。
彼女に同行してもらうところまではよかった。
しかし、これでは花の香りを確認なんてできない。

(一人で来ても同じことか……)

「私これがいい」

彼女が持ってきたのは丸いサボテンだった。
トゲが包帯に引っかかりそうで危なっかしい。

「緑じゃん」

「緑ですとも」

「いいのか、花じゃなくて」

「花は好きだけど、枯れるのがねー」

「また買ってやるって」

彼女は少し納得いかない様子だった。

「長く置いとけるのがいいの」

「なるほどねー」

会計を済ませて歩きだした。




167 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:15:42.98 ID:kE/gwPSmo
5

「帰ったらサボ子の育て方調べる」

「うんうん。育てておくれ」

「巨大にする!」

「それはちょっと……」

「ありがとねー」

彼女は機嫌よく礼を言った。
これで300円(税別)なら安いものだ。
雑貨屋の前を通ったとき、一瞬あの匂いがした。
今の彼女がエロスなことを考えているとも思えない。

(アロマなんとかの発想はなかったわ……)

「志乃、あそこ寄っていいか」

「いーよー」



168 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:16:45.18 ID:kE/gwPSmo
6

―――――雑貨屋―――――

(参ったな、思ったより種類がいっぱいある)

「なに、アロマな趣味があったの?」

「ないけど、お前の匂いが気になってなー」

「うわー。ヘンタイだー」

彼女は小走りで店内のどこかに行ってしまった。
適当に冷やかしたら戻ってくるだろう。

僕は「彼女へのプレゼントです」といった体を装って物色する。
いくつか嗅いでみたところで、「これは」というのに当たった。

(イランイラン……)

その場で携帯を出して検索する。

「どう?見つかった?」

「ああ、これ」

サンプルのキャップを取って鼻に近づけてやる。

「……えへ」

「その顔はやめなさい」



169 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:17:42.28 ID:kE/gwPSmo
7

「なにこれ、いい匂い」

「イランイランなる花の中の花らしい」

「へー」

彼女はまだ、すんすんと嗅いでうっとりしている。

「買うの?」

「いや、何の匂いか知りたかっただけだから」

(こいつの前で買うのもな……)

「効能なに?」

「リラックスと催淫効果だそうだ」

「そんなものを嗅がせてどうするつもりだ」

「いや、そういうつもりでは」

むしろそれはこっちの台詞だ。



170 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:18:48.43 ID:kE/gwPSmo
8
――――――――――

「そういえば、南の通りに出たことある?」

「あっちはオフィス街だからなー。あんまりないな」

「おねーさんの事務所行ってみたい」

「あそこ地価高そうなのに……儲かってるんだな」

あの界隈は、大企業の支社やきれいなオフィスビルがたくさんある。
そこに事務所を構えるとは、お姉さんは立派に順応しているようだ。

「お姉さん、仕事何してるの?」

「確かセラピストだったかカウンセラーだったか……」

(うわぁ、あんまりお世話になりたくない)

「うーん、とにかく人の話を聞くらしいよ」



171 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:19:49.79 ID:kE/gwPSmo
9
そうこう言ってるうちに、オフィス街に出てしまった。

「仕事の邪魔になるだろ」

「今日、午後は休みだってさ」

そう言いながら彼女はろくに知らない土地をどんどん歩いていく。
こうなると僕はついていくしかない。
薬局と喫茶店の間の雑居ビルに入っていく。
エレベーターに乗り、彼女は6階のボタンを押した。

~ナオミの部屋~

ネーミングに引いた。

「まさかエッチなお店じゃないよな」

「まじめなお店だよ」

「お姉さん、ナオミっていうのか」

「いや、お店の名前考えるときに、脳内でナオミ・キャンベルがしつこく歌ってたらしい」

「wanna make love, wanna make love song, hey baby」

裏声で問題のフレーズを歌ってみる。

「そうそのナオミ」

「お姉さんいい加減すぎだろ……」


172 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:20:44.08 ID:kE/gwPSmo
10

―――――ナオミの部屋―――――

うわー、来ちゃったよ、ナオミの部屋。
すりガラスに「ベルサイユのばら」のタイトルみたいな金のフォントで書いてある。
どう見ても癒しを求めてノックするドアじゃない。

「これは入りにくいな……」

彼女は僕に構わず、インターホンを押していた。

「……はい」

お姉さんのかしこまった声がする。

「おねーさーん、志乃ですー」

「あら、妹。待ってなさい、すぐ開けるわ」

気のせいか声が弾んでいる。
彼女が志乃のことを可愛いと言うのは本心かもしれない。

「いらっしゃい。今日はもう休むから、上がっていきなさい」

お姉さんは白衣にタイトなワンピースを着て、パンストににピンヒールをはいていた。

「女教師ものの撮影でも?」

「ファックファック」

志乃のリバーブローが軽く2連続で入る。

「すいませんでした」

脇腹をさすりながら頭をさげた。



173 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:21:37.54 ID:kE/gwPSmo
11

「中は意外と普通ですね」

クリーム色がかった白を基調としたインテリア。
白い百合の花が生けてある。
女性に受けそうだと思った。

「適当に座りなさい」

僕は遠慮がちに腰を下ろす。
志乃は僕の隣に深く腰掛けると、僕の肩に頭を乗せて脱力した。

「くつろぎすぎだろ」

「おなかすいた……」

「もう夕方だもんな」

「おなかすいた」

ここは肩でも抱くものだろうが、ここはお姉さんの職場なのでそうもいかない。
結局どうしていいかわからず、膝に手をついていた。



174 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:22:31.47 ID:kE/gwPSmo
12

お姉さんがトレーにお茶を乗せて戻ってきた。

「あら、ラブいわね」

急に恥ずかしくなる。

「志乃が腹減ったそうです」

なるべく色気のないことを言ってごまかした。
お姉さんはテーブルにポットとカップを置く。
ガラスのポットの中で、茶葉が花のように開いている。

「きれいですね」

「ジャスミン茶。落ち着くわよ」

ああ、客(患者?)にくつろいでもらわないと話が聞けないのか。

「お姉さん、仕事は何を?」

「セラピスト兼カウンセラー兼探偵ってところね」

(わーお、超うさんくさーい)

「人間の職業で近いものを挙げただけよ」

僕の思考が顔に出ていたのだろう。彼女は補足した。
志乃が妙に静かだ。

「志乃、どうした」

「燃料……きれた……」



175 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:23:33.81 ID:kE/gwPSmo
13

「定期的にとは聞いてますけど、こんな短いスパンで底をつくんですか?」

そうだとしたら燃費が悪すぎる。
さっきまで元気そうだったのに、今は顔面蒼白だ。

「さあ?この子一昨日死にかけたばかりだし、回復に必要なんじゃない?」

――自分の内臓と走馬燈見ながら、願っちゃったんだ。

ぞっとした。

「私だって首を切られたのよ。まだ本調子じゃないわ」

お姉さんはぼやきながら首をさすった。
頸動脈の走ってるところだ。

「志乃、しっかりしろ、志乃!」

人間なら大量に輸血する大手術を終えて、集中治療室で面会謝絶じゃないか。
僕はそんな状態の志乃を連れ回してたのか。

(何やってんだよ、バカか俺は!)

「君、この子の口に指を突っ込みなさい」



176 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:24:31.89 ID:kE/gwPSmo
14

突然の命令に戸惑う。

「えっ、みぎひだりどっち」

「自慰はどっち派?」

この人にとって僕のプライバシーは濡れた半紙みたいなもんだ。

「みっ、右ですけど!」

間抜けなことに正直に答える。

「じゃあ右」

「はい!」

志乃の口に指を入れる。舌が冷たい。

「さあ、存分に吸いなさい妹よ」

「……う」

指を吸う力が弱々しい。保護された子猫か。

「ちょっと……いえ、かなり疲れるから覚悟しなさい」

お姉さんが僕をにらむ。これは脅しじゃないな。
了解を得る、じゃなくて宣告だ。
帰りは何とかなるだろう。
明日は土曜だ。どうとでもなれ。



177 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:25:27.18 ID:kE/gwPSmo
15

志乃の様子を見ていたが、これでは精気を吸えているように見えない。

「お姉さん、カッター貸してください」

お姉さんは怪訝そうに眉を上げた。
僕の意図を汲んだらしく、刃をライターであぶって渡してくれた。
志乃の口から指を抜き、唾液で濡れた指にカッターをあてがった。
怖い。ほんのちょっと切るだけのつもりなのに怖い。
このまま、少し刃を引くだけ、それだけが怖い。

「あの、お姉さん、お願いがあります」

「何よ」

「俺、自分じゃ切れません。だから――」

「根性あるんだかないんだか……」

お姉さんは絨毯にひざまづくと、僕からカッターを取り上げた。

「チクッとするわよ」

彼女は低く言って、僕の皮膚に刃をひっかけて軽く引いた。
少しの痛みが短く走った。
指先に血液が丸く溜まっている。

「ほら、舐めろ」

僕は再度、志乃の口に指を入れた。



178 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:26:20.66 ID:kE/gwPSmo
16

志乃は舌を動かして指の血をすくった。
安心したせいか、既に精気を吸われ始めているせいか、疲れが襲ってくる。

「志乃、大丈夫か」

彼女の少し頬に赤みが差してきた。傷口から力が抜けていく。

「今日はもう大丈夫そうね。しばらくそうしててやって」

お姉さんは白衣をジャケットに着替えると、玄関に向かった。

「お姉さん、どこへ?」

「食べるもの買ってくるわ」

「ここ、留守にしていいんですか」

「鍵かけていくから。電話は私に転送されるから無視して」

「妹をよろしく」と言い残すと、彼女は行ってしまった。
少し、心細いと思った。



179 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:27:08.98 ID:kE/gwPSmo
17

志乃は少しずつだが、精気を吸えているらしい。
昨夜のお姉さんみたいな凶悪な吸い方じゃないせいか、ゆるやかに眠くなる。

(あの人はワンタッチでギューンってやりおったからな……)

体が重い。彼女を抱えたまま横になった。
志乃はずっと、指を吸ったり舐めたりしている。

「うーん、指がふやけそうだ」

今の今まで必死だったから気付かなかったけど、変な気分になる。
全身がだるい割に、下半身は元気だ。我ながら呆れる。
いつまでこうしていればいいんだろう。
志乃が目を開けた。

「気がついたか」

彼女は指をくわえたままうなずいた。



180 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:28:12.93 ID:kE/gwPSmo
18

不思議そうに僕の股間を見る。

「なんで?」

と口を動かしたように見えた。
悪いことをしている気分になる。

「すまん、それ、気持ちいい」

彼女は何度か指を軽く噛んで、にやりと笑った。

「あー、君の考えてること、なぜかよくわかるなぁ」

一瞬止まる。お前は猫か。

「ダメとは言ってない」

「……ん」

「もうちょっと元気になってからにしなさい」

「ん」

その代わり、彼女が元気になる頃には僕は動けなくなっているのだ。

「ごめんね」

「気にするなよ」



181 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:29:14.21 ID:kE/gwPSmo
19

彼女は涙目になっている。
話せるようになって第一声がそれだと寂しい。
半人半妖になったのは生きるためじゃないか。

「泣くと疲れるぞ」

「……」

「今、生きてるんだろ」

(まだ動けるな)

「それなら上等だ」

体を反転させて、彼女を下にする。

「な、なによぅ……」

やめて。濡れた瞳で見つめないで。

「今の俺は体力がないんだよ」

寝返りを打つくらいの動作でもスプリント直後みたいに息が上がる。
呼吸が整うのを待って、彼女に口付ける。

「む――っ!」

僕の下で脚をばたばたさせる。唇を離した。



182 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:30:32.88 ID:kE/gwPSmo
20

「せっかく吸った力をリアクションで浪費するなよ……」

「び、びっくりした……」

「とんでもない雰囲気クラッシャーだな、君は」

「心の準備が……」

「そこは察しろよ」

この特技・フラグ破壊に対抗できる自分はタフだと思う。

「やり直すぞ」

「うぅ」

「はい、もじもじしない。無駄な体力を使わない」

いくら若いといっても僕の体力だって有限だ。

「……やりづらいから目を閉じなさい」

「うえぇ……」

彼女は情けない声を出す。
でも僕は気にしない。気にしたら負け。
再開だ。



183 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:31:27.94 ID:kE/gwPSmo
21
何度か唇を合わせると、彼女は少し口を開いた。
その隙間を舌先でなぞる。
彼女が焦れたように僕の舌を舐める。

また、力が抜け始める。

「ふっ……やだ……」

彼女は僕の首に腕を回して、顔を背けながら言う。
それが頬を上気させて流し目くれながら言う台詞か。

「喜ぶか嫌がるか恥じらうかどれかにしろ」

「全部ー」

「忙しい奴だな。やめようか」

「だめ、もっと!」

元気が出てきたようだが、僕は全然元気じゃない。
もしかしてエネルギー授受の媒介に使う体液って融通利くんじゃないか?

そんなことを考えたけど、思考は長く続かない。
ついでにこの、彼女の顔の横に肘をついて体を支える姿勢も、もう続かない。



184 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:32:24.72 ID:kE/gwPSmo
22

「重いー」

彼女はうなりながら僕の体の下から這い出る。

「志乃……俺はもうだめだ……」

「そんな……!何言ってるんですか!一緒に帰ろうって約束したじゃないですか!」

「家族に伝えてくれ……愛して……いた、と……」

演技じゃなく本当にがくりと腕を落とす。

「あ、死んだ」

「殺すな」

「何、今の茶番」

「お前が始めたんだろうが」

「すごいなぁ、ほんとに力をもらってるんだー」

「そうそう。だから俺、くたくた」

「でも、あと一回くらい出せるよね?」

彼女は妖しく微笑みながら衣服越しに僕の性器をさする。
いつの間に包帯をはずしたんだ。



185 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:33:18.47 ID:kE/gwPSmo
23

「出せるけど出したら死んじゃう」

「私を愛してる?」

「う、うん」

「ハイ、二葉亭四迷風に」

「死んでもいいわ」

「よし、任せて!」

「謀ったな孔明!」

僕は抵抗することもできず、あっけなく脱がされる。

「キャー。春海さん、ガチガチじゃないですかぁー」

「うぅ……うれしそうに握らないで……」

ふと、時計が目に入った。

(お姉さんが出ていって、何分経った……?)

確か最寄りのスーパーはそう遠くないはずだ。

たっぷり時間をかけて見てまわっても――

「いただきまーす」

ろくに頭が回らない。快楽に集中した方が良さそうだ。
僕は目を閉じた。



186 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:34:20.07 ID:kE/gwPSmo
24

(朝より上手くなってるし……)

(なんなんだよ、こいつの学習能力は)

(こいつはアサシンに違いない)

(俺をテクノブレイク死させる気だ)

(あああああああああああああやだもおおおおおおおお)

事前に長いこと性的に興奮したせいか、えらく長い射精だった。
精液を飲む志乃の喉が鳴るのが聞こえる気がした。
余力があればもう一回お願いしたいところだ。

「……」

志乃のものとは違う気配がする。

僕は目を開ける。
僕が横たわっているソファの向かいの椅子に、脚を組んで座るお姉さんがいた。
志乃はお姉さんに背を向け、僕の性器を収納している。

「ねえ、泣いていい?」

僕は誰にともなく尋ねていた。
ほんとうに泣きたいときに限って、涙って出てこないのね。



187 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:35:21.01 ID:kE/gwPSmo
25
「あの、いつから帰っていらしたので?」

「――うぅ……うれしそうに握らないで……」

お姉さんは右上の見えない何かを眺めながら復唱した。

「ほぼ始めからじゃないですか!」

志乃は「あうぅ……」とうめいて給湯室に逃げた。

「なんなんですか!もう!止めてくださいよ!」

「私は気にしないわよ」

(サバサバしてるって次元じゃねえ……)

「俺が気にするんです!」

「あ、私も恥ずかしいです……」

志乃が壁から顔だけ出して弱々しく主張する。

「いいじゃない。そもそもここは私のテリトリーよ」

それを言われると、僕には全く分がない。

「で、妹は元気になったの?」

「なりましたよ。俺が身動きできないほどに」

結局、昨日と同じか。



188 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:36:09.40 ID:kE/gwPSmo
26
「妹よ、いらっしゃい。お姉ちゃん怒ってないから」

「ほんと?」

「ほんとよぅ。食欲はある?今日はカレーにしましょう」

「わーい」

(あーあー、すっかり顔色良くなっちゃってー)

「さ、手伝ってちょうだい」

なんなんだろうな、出会って3日でこの仲の良さは。
格好悪いが、多少の嫉妬を禁じ得ない。

「君は寝てなさい」

「動こうにも動けませんって」

給湯室からはキャッキャと楽しそうな声がする。
僕は少しだけ眠った。



189 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:37:12.37 ID:kE/gwPSmo
27

―――カレー完成―――

「出来たわよ。いらっしゃい」

お姉さんが僕を起こしにきた。

「いいんですか、こんな白いとこで食べるの怖いんですけど」

「大丈夫よ、他の部屋があるんだから」

そう言うと、お姉さんは僕を担いで事務所の奥に連れていった。
なんとも強引な人だ。

「ほら、ここが休憩室よ」

奥に敷いた布団の上に降ろされた。
片付いた和室。この人どれだけ稼いでるんだ。

「――といっても、半分住んでるようなものね」

志乃が給湯室から皿に盛ったカレーライスを運んでくる。

「食べよー」

「ありがたいけど、俺、動けないんだよね」

「なんと」

わざとらしく驚いてみせる。誰のせいだよ。



190 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:38:22.50 ID:kE/gwPSmo
28
お姉さんが僕を座椅子に座らせる。

「だるいだろうけど、動かせないことはないはずよ」

うーん、スパルタですなぁ……。

「さあ、精神で肉体を凌駕してみなさい」

「動けー動かんかー」

だらりと座って口だけ動かす。

「ぬうぅ……!この子の彼氏だろ!私の義弟だろ!」

「誰がいつあなたの義理の弟になったんですか」

「あなたが!昨日よ!」

そんな指さして言わなくても……。

「冷めちゃうよ……」

志乃は呆れながらスプーンを口に運んでいる。

「春海君、私をお義姉さんと呼んでもいいのよ」

「既に呼んでるじゃないですか」

「義理のよ」

「ああ……」

なんだろうなぁ、この人、意外と寂しいのかな。
身内は大事にしてくれるみたいだし、まあいいか。



191 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:39:39.97 ID:kE/gwPSmo
29
僕はいつもの倍以上の時間をかけて食事を終えた。
志乃は給湯室で食器を洗っている。

「やればできるじゃない」

お義姉さんは僕に向かって親指を立てた。

「おかげで体力ゲージがマイナスに伸びましたよ」

「そんなゲージ出てないけど」

僕の頭上を見ながら言う。

(ということは、この人は格ゲーの存在を知っているな)

「喩えの話ですよ」

僕は湯呑みに手を伸ばす。

「志乃は、回復までどれくらいかかるんですか」

「いつまでかはわからないけど……しばらく24時間以上は離れない方がいいわね」

「平日はともかく、この土日は……」

「会ったらいいじゃない」

「ご両親が家にいちゃいろいろとまずいでしょうが。俺ん家もそうですよ」

「そうねえ……」

彼女は「人間ってめんどくさー」とつぶやくと、考え込んでしまった。



192 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:40:54.89 ID:kE/gwPSmo
30
「今、何時ですか」

時計を探すが、この部屋には見当たらない。

「心配要らないわ。お母様には泊まるって連絡してる」

彼女の手の中には、僕の携帯があった。

「えっ」

「君、私の店でバイトしてることになってるから」

と、携帯を僕の手に握らせる。

「はあああああ!?」

「私、上司。君、部下。妹、部下」

(俺が……ナオミの部屋の住人に……)

「なによ、この世の終わりみたいな顔して」

「そりゃ絶望的な気分にもなりますよ……」

働いている実態がないのだ。
僕の懐事情やバイト経験者のオーラの有無から、すぐばれるに決まってる。

「給料はちゃんと出るわよ」

「そんなおいしい話を俺が信じると思いますか」

「信じるもなにも、実際に働いてもらうんだから払うわよ」



193 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:41:48.02 ID:kE/gwPSmo
31

志乃が和室に戻ってきた。

「ありがと、妹。あなたも聞いておきなさい」

志乃は僕の隣に腰を下ろした。
見たところ、身のこなしが軽い。安心した。

「志乃、俺たちはナオミの民になるそうだ……」

「なにそれ」

「あなた達には、私の仕事を手伝ってもらうわ」

――セラピスト兼カウンセラー兼探偵ってところね――

この3択の中から選べと言われても、どれもできそうにない。

「私の仕事には裏もあるの」

(あー、やっぱり)

「君、少しは驚きなさいよ。可愛くないわね」

「ええー、な、なんだってえー」

志乃が僕を軽く肘で突く。まじめに聞けということか。

「まあ、普段の仕事はこのためにやってるんだけどね」

お義姉さんは腕を組んで考えている。
どう説明したものか、悩んでいるんだろう。



194 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:42:36.93 ID:kE/gwPSmo
32
「私は殺し屋よ」

吹き出しそうになったがこらえた。

「お義姉さん、それは――」

「ああ、呪い専門よ」

補足してくれたようだが、更に悪い。
志乃は別にショックを受けているわけでもなく、静かに聞いている。

「おねーさん、人を呪い殺すんじゃなくて、呪いを殺すんだよね」

「さすが妹ね。賢い。賢いわよ」

「いや、普通その発想はありませんって」

「ばかね、ここでは常識・非常識の境界はなくなるの」

(ああ、ここはナオミの部屋だったか)

そう思えば、大抵の不条理はそのまま許容されてしまうのだ。

「あなた達は戦わなくていい。調査を手伝ってほしいの」



195 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:43:29.07 ID:kE/gwPSmo
33
「俺たちにできるようなことですか?」

「依頼人についた呪いを知らせるから、それの発信源を探すの」

「んなオカルトな」

余計、途方に暮れる。
呪いにGPSがついてるわけでもあるまい。

「ま、仕事がきたら知らせるわ。私も無理はさせない。
 それに、普通の犯罪と違って突発的に起こるものは少ない。
 必ず動機があるから、その分調べやすいはずよ」

「実践が一番」と、彼女は締めくくった。

「私は怖いです」

僕も。
物質的に危険じゃなくても、人の悪意に触れるのは恐ろしい気がする。

「人間不信になったりしない?」

きっと、知らなきゃよかったって思うようなことばかりなのだ、この仕事は。
だからお義姉さんは疑念を持たず守れるものが欲しいんだと思う。



196 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:44:26.35 ID:kE/gwPSmo
34
「大丈夫よ。妹は彼を信じてるでしょ」

志乃は答えない。ちょっと照れたように体を動かす。

「人間は複雑。きれいなだけじゃないけど、汚いばかりでもないわ」

志乃は納得したのかしていないのか、僕の肩に頭を乗せて、一度だけ深呼吸をした。

「次の事件から手伝ってもらう。研修ついでに私も同行するから心配要らないわ」

この人は何でもさくさく決めてしまう。
彼女を人間らしくないと思うとき、その根拠は彼女が迷わないことだと思う。

「私は出かけるわ。今夜は帰らないからここで寝てちょうだい」

「おねーさんどこいくの?」

志乃が心配そうに尋ねる。
彼女の仕事を聞いた後なら、見送るのが不安にもなるだろう。

「週末だからね。私も回復するのに血が欲しいから。
 酔っぱらって眠りこけてるリーマンから、ちょっとずつ頂くの」

今後、泥酔したおっさんに小さな傷があれば、その中のいくつかはお義姉さんの仕業だと思うことにしよう。



197 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:45:24.19 ID:kE/gwPSmo
35
お義姉さんは行ってしまった。
ここはオフィス街だ。
きっと何本か離れた通りの繁華街や駅前をうろつくのだ。
夜の街をさまようお義姉さんの姿を想像して、今度は、少しだけなら吸わせてあげてもいいと思った。

しかし、僕の最優先は志乃だ。

「寝よっか」

彼女は僕によりかかったまま、ぽつりと言った。

「そうだな。布団敷いてくれ。俺うごけない」

志乃は立ち上がり、押入を開いた。

「布団、一組しかないみたい」

と、既に敷いてあるものを指さす。

「お約束だな……」

「お約束だね……」

「俺は構わないけどな」

「あ、あたしも構いませんけど!」



198 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:46:43.21 ID:kE/gwPSmo
36
僕は這って布団に入る。
志乃が電気を豆球だけ点灯させて入ってくる。

「へ、変なことするなよ!」

「したくてもできません」

僕はそっぽを向く。
わずかに開いたカーテンの隙間から、月が見えた。

「志乃、俺思うんだけどさ」

「なんじゃい」

「お前、言うほど嫌がってないだろ」

「うわー、野暮だなー」

彼女は布団を被ったまま、いやんいやんと身をよじる。

「こらこら、俺から布団取るなよ」

「ごめんごめん」

彼女は笑いながら僕に布団をかける。
その拍子に、肩に胸が触れたが固かった。

「お前、まだサラシ巻いてるのか」



199 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:47:49.16 ID:kE/gwPSmo
37
「うん」

「そんなものずっと巻いてるから気分悪くなるんじゃないのか」

「違うよ。体調が戻るのにもっと精気が必要なだけだよ」

「いーや違うね。精気を吸う以前の問題だね」

彼女は不服そうに頬をふくらませる。

「はずしなさい」

「え、やだ」

「君の安眠のためだ」

「はずしたらノーブラになるじゃん」

「なに、お前、普段ブラしたまま寝てるの?」

「もう!そんなんどうでもいいじゃんバカバカ」

「今は周りの目もないだろ。取れって」

彼女は口の中でぶつぶつ文句を言いながらサラシを解いていく。
サラシの端っこがブラウスの裾から出ている。



200 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:48:41.54 ID:kE/gwPSmo
38
「あれやってみたいな。こう、引っ張って娘を回すやつ」

「あーれー、ってやつ?」

「そうそれ」

「残念、全部ほどけましたー」

と、丸めたサラシを僕に放る。

「見るなよ!乳首浮いてるから見るなよ!」

「なに、乳頭とな」

「もうやだこの人」

そう言いながら、志乃は僕に抱きつく。
二の腕で志乃の胸がひしゃげる。
覆っているものがブラウスしかないので、感触がかなりダイレクトに伝わる。

「志乃、おっぱいとはすばらしいな」

感慨無量である。

「黙れへんたい」



201 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:49:42.03 ID:kE/gwPSmo
39
志乃は戯れながら僕の唇を塞いで黙らせる。

「元気になったな」

「うん」

「よかったな」

「ありがと」

くっそ、かわいいなこのやろう。

「なに、もどかしそうな顔して」

「いやね、ぎゅっとしたいが動かないのよ、腕が」

「ハハハ、こやつめ」

志乃は抱きついたまま、僕に頬摺りする。
僕が動けないと積極的なんだな、こいつは。

「志乃、月」

僕は視線で窓の外を示す。
志乃は僕の視線を追う。




202 名前:1です。 ◆CIZA6sfEUc:2011/09/25(日) 23:51:38.26 ID:kE/gwPSmo
40
「ほんとだ」

「満月じゃないけどなー」

彼女は少し考えて、思い切ったように

「月がきれいですね」

と言った。

「うんうん。月がきれいですね」

「月がきれいですね!」

彼女は「わかってない」と言いたそうに繰り返した。

「いや、わかってるよ、漱石だろ」

「うふふ」

「こういうのは名月のときがいいんじゃないか?」

「あたしがきれいだって思ったからいいんだもーん」

「そうかもしれないな」

「ふふーん。言ったった言ったったwwwww」

やっと、彼女から花の香りが数時間ぶりに漂い始めた。
初めて、彼女が元気になったんだと思える。
「イランイランは現地の新婚夫婦の初夜の寝室にばら撒かれるそうだ」とは言わないでおいてやろう。
僕は、志乃の寝息を聞きながら、夢も見ないほど深く眠った。

女「言ったった言ったったwwwww」おわり


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