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紳士「お暇でしたら保健室の先生になってみませんか?」4/5

紳士「お暇でしたら保健室の先生になってみませんか?」


紳士「お暇でしたら保健室の先生になってみませんか?」


483 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 09:01:14.61 ID:0nFvq2Ge0
日曜日、休日

彼女達に相談できるかもしれない
それが心の余裕になったのか、俺はここ数日で、一つだけ思いついたことがあった

紳士「でかけられるのですか」

男(女)「……ああ」

それは休日にしかできない

紳士「どちらへ?」

男(女)「……“俺”はどこへ行ったのか。それを、確かめてくる」

紳士「……ほう」

男(女)「まだ詰めってわけじゃないが……」

男(女)「一歩でもコマを進めてくるよ」

紳士「それはそれは……」

がちゃりと、玄関から俺はでる

男(女)「行ってくる」

紳士「行ってらっしゃいませ」



 

元スレ
紳士「お暇でしたら保健室の先生になってみませんか?」





486 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 09:08:52.75 ID:0nFvq2Ge0
電話でも、良かったかもしれない
だけど俺は、この目で確認がしたかった

電車を乗り継ぎ、乗り継ぎ
目的の場所へ、向かう

そこへは行って帰るだけで、一日が潰れる
だから、休日でなければならない

男(女)(どうなっているかな……)

いつぶりだろうか
俺は窓の外で移ろう景色に、思いをはせる

男(女)(この姿で、大丈夫かな……)

不安はあった

でもこの一手は、いままでのどんな一手よりも、意味がある

男(女)(もうすぐ、か)



 
488 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 09:12:54.40 ID:0nFvq2Ge0
俺は電車を降りた

駅の周りはそこそこに栄えているが、一時間も歩けば山の中
そんな、田舎の町

道は覚えていた
問題はない

一歩一歩を踏みしめて、そうして俺は目的地へ到着した

男(女)(実家へ戻るのは、いつ振りかな)

戻る、というのはおかしいか
今は女の姿なのだから

俺は深呼吸をした

男(女)(よし……)

そして、呼び鈴を鳴らした



 
490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 09:18:08.99 ID:0nFvq2Ge0
母『はい……』

家をでてからもう何年も聞いていない母の声だった

男(女)「あの……」

俺は、“俺”の古い友達だと名乗った

男(女)「彼は今、どちらにおられますか……?」

返事まで、少しの間があった

母『住所のメモを、あげるよ』

男(女)「は、はいっ」

すぐにがらりと扉がひらいて、久しぶりの母の顔を見た
やせほそっていた

男(女)「これ、ですか」

母「……あの子にも、友達がいたんだね」

男(女)「あはは、一応は」

母「そうかい……。……いってあげておくれ」

男(女)「……はい」


491 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 09:20:36.96 ID:0nFvq2Ge0
その場所は、実家から少し離れていた

といっても、駅からバスがでていたので、それに乗れば二十分程度だったか

男(女)「……」

バスをおりる
そこは山の中だった

男(女)「…………」

もう、なんとなく、きづいていた

男(女)「こっち、か……」

俺は歩く
ゆっくりと、歩く

ああ、なんでこんなにも涙がでるのか

男(女)「ちくしょう……」



 
495 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 09:25:53.67 ID:0nFvq2Ge0
そうして、その前へと俺はたった

空は、青かった

寒々しい場所だ
人は誰も、見当たらない

ひゅう、と風が通り抜ける

男(女)「俺……、何、やってんだよ……」

そこは、墓地

男(女)「ふ、ふざ、ふざけ……」

男(女)「ふざんなァァ……ッ!」

目の前の石――墓石に刻まれた文字は、紛れも無く

男(女)「ちく、しょぉ……、ちくしょォおォオオオおおおおおおおおッッッッ!!!!!」

――俺の、名前


男(女)「うわァああァアあアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!!!!!!」


流れる声とともに、ボロボロと
涙があふれていた



 
500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 09:38:12.28 ID:0nFvq2Ge0
だん、と墓石に頭をぶつける

硬い

男(女)「おい……、お前……、何やってんだよ……」

俺は、死んでいた

母から住所を貰った時点で分かっていた
そこにはこの場所の、墓地の名前が書いてあったからだ

男(女)「なんで、骨に、なってんだよぉ……」

まるで忘れ去れたかのような墓地
その中で、この石だけは少し、綺麗だった
最近おかれたからか、それとも掃除をよくされているからか
それはわからないけれど

男(女)「なあ、おい……、俺は――」

どこへ行ったのか

その問いの答えは、つまり

男(女)「ちくしょぉお、ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオおッッッ!!!」

叫ばずに入られなかった



 
504 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 09:50:01.40 ID:0nFvq2Ge0
声にこたえるものは、風だけだった

火照った俺を冷ますように、ひゅう、ひゅうと、優しくふいていた

男(女)「……」

しばらくして涙は止まった
俺は目をはらしたまま、自身の墓石の前で、じっと空を見つめる

男(女)「……」

どうしていいのか、分からなかった

やっと一つのピースを手に入れたのに
俺は動く事ができなかった

いっそこのままここで死んでもいいのではないかと思った
どうせ俺はもう、死んでいるのだ

人の居ない墓地、目の前には自分の墓
うってつけの場所だった

男(女)「……く、う……、くそ、くそぉお……」

――でも、だめなんだ

まだなんだ
今はまだ、早い

今ここに居る俺は――まだ先に、進む事が出来るのだから



 
508 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 09:59:54.07 ID:0nFvq2Ge0
放心状態のまま、バスにのった

バスからは、連なる山々が見えた
こんな景色は、家を出て、都会に引っ越してから久しぶりに見る
だから、幼き日に毎日みていたそれも、今はどこか珍しい

男(女)「昔は、あの中を走り回ったっけ」

遠い記憶を霞の中から掘り起こす

男(女)「……」

いつか作った秘密基地は、どうなっただろうか
いつか埋めたタイムマシンは、どうなっただろうか

子供の頃にそうして作ったものは、すぐに忘れられていたような気がする
そのときが面白ければそれでよくて
次があるならばそれは、また新しいものを作る事

男(女)「誰とあそんだっけかな……」

色々な子が居たと思う

――その中に

何かを忘れているような、気がした



 
510 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 10:11:11.00 ID:0nFvq2Ge0
なんとなく、であった
そのまま帰る気にならなくて、俺はまだ、実家へと戻ってきてしまった

用事があるわけではないから、呼び鈴も鳴らせないのに

男(女)「……さむいな」

どうしよう、とおもった
このままいても仕方な――

母「……どうしたの」

――偶然か、母が、玄関からでてきた

男(女)「あ、いえ……」

どう答えるか、悩む

男(女)「その、……行って来ました」

母「そっか」

母「……おかえり」

男(女)「――」

声を、失った



 
513 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 10:20:57.03 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「……はい」

いつ振りかに言われたその言葉はとてもとても嬉しかったけれど
ただいま、というのは何だが気恥ずかしかった

母「貴方……」

男(女)「はい……?」

母「前にも一度――来てくれたよね」

カチリ

時が止まったかと思った

母「あの時はごめんなさいね」

母「つっけんどんな態度とって、追い返しちゃって」

男(女)「え……?」

母「あれ、違ったかしら」

母「確かにインターフォン越しで顔は見て無かったけれど……」

母「ほら、たしか、一ヶ月くらい前」

なん……だって……?



 
518 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 10:29:24.38 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「あ、えっと……、そ、そうでしたね」

話を合わせるべきだと、判断した

男(女)「あの時は、なんで……?」

母「恥かしいけどね、私、息子とは仲があまりよくなかったから」

母「突然家に来て、古い知り合いだなんていわれても、胡散臭さしか感じなくてね」

母「あの子、余り友達の多い人でもなかったと思うし」

母「息子の墓地を教えるなんてなると……、さすがに気がひけてねえ」

男(女)「そ、そう、でしたか……」

確かに俺と母は仲が良くなかった
あまり息子の知り合いと関わりたくないという気持ちもあったのかもしれない
そこにきて突然の来客だ、墓を教えたくないという気持ちもわかるし
追い返すのも、分かる

母「でもほら、二度もきてくれたから……さすがに、ね」

母「実際、嬉しいとも思ったし……」

男(女)「……そうですか」



 
521 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 10:48:56.52 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「彼は、いつ、亡くなったのです?」

母「えーと、三月の終わりごろ、だったかな」

男(女)「三月の終り……」

男(女)「どういう理由で……?

母「理由は、私にもわからない」

母「ただまあ、前にも言ったと思うけど……、自殺ね」

自殺……、その可能性は、考えられた
なぜなら俺は、俺自身だ
何度も自殺したいと思っていたのを、はっきりと覚えている

男(女)「……前にも、っていうのは」

母「突き返しちまった時だよ。あの時に、自殺、ってのは言ったと思う」

男(女)「なるほど……」




 
525 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 10:58:25.50 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「他に彼について、何か……」

母「そうだねえ……、私はあの子について、余り詳しくなかったから」

男(女)「そうですか……」

母「……あ」

母「そうだそうだ。たしかあれは、不動産屋から聞いた話なんだけど」

男(女)「はい」

母「あの子、丁度死ぬ前くらいに、引越しをしようとしていたみたいでね」

母「でも、引越し先が、だぶるぶっきんぐ? っていうのかな。になったらしいの」

男(女)「ダブル、ブッキング……? 二重契約ですか」

母「そうそう。で、うちの息子が断ったらしいんだけど」

母「そのあとにすぐ自殺しちゃったから、一応連絡があったのよ、ウチに」

男(女)「……205号室、ですか」

母「そうそう、確かそんな事、言ってた」



 
530 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 11:19:38.09 ID:0nFvq2Ge0
帰りの電車の中

男(女)(やはり無駄足にはならなかった……)

それどころか、ものすごい収穫である

男(女)(ダブルブッキング、ね)

確かに、その件はあった
でもそれは、母からきいて、今さっき、ああそうだっけ? なんて思い出したくらいだ

男(女)(たしか、そうなってしまったかもしれない、なんて話をしていた気がする)

男(女)(でも、そのあとすぐに問題がなくなったっていわれたんだ)

だから、ほとんど覚えていなかった
いつの間にか起こって、いつの間にか解決して
俺にはほとんど、関係の無い話だった……はずだ

男(女)(……ふむ)

しかし話自体は確かに、納得はできた
二重契約となった、できればこの件はなかったことにしてほしい、なんて不動産屋にいわれていたら
面倒くさい事の嫌いな俺は、なんの抵抗もなく折れただろう……


531 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 11:24:03.85 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「ただいま」

紳士「お帰りなさいませ」

角の部屋、205号室へと俺は戻る

紳士「どうでしたか」

男(女)「上々だ。見つけてきたよ、“俺”を」

紳士「それはそれは。……お話を、伺いましょう」

男(女)「ああ。だが、なれないことをしたからかな、腹が減ってつらいや」

紳士「ふふ、では夕食をとりながらでも」

男(女)「そうしてくれると助かる」



 
623 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 19:22:32.69 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「……今日あったのは、こんなところだ。ごちそうさま」

紳士「なるほど。お粗末様でした」

俺は箸を置く

男(女)「……俺は、死んでいる」

紳士「……そうですね」

男(女)「やっぱり、自分の墓を自分で見るというのは……どうにも、胸糞悪いもんだな」

男(女)「お前と向かい合って、俺の考えもいっぱいあるのに、全然気分が乗らないや」

紳士「……はい。胸倉を掴むようないつもの勢いが少し、懐かしい」

男(女)「そうだな」

男(女)「自殺に関してだが……、これは俺のことだ、よく分かる」

男(女)「きっと自殺に、大きな理由はなかった」

男(女)「そのきっかけももちろん、本当にたいしたものでもない」

男(女)「これはもう、確信している」

紳士「……その通り」

男(女)「……。そのきっかけというは――」



 
631 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 19:33:48.56 ID:0nFvq2Ge0
紳士「――その通り」

男(女)「……」

男(女)「今思えば、そのときの俺はとても、馬鹿だった」

男(女)「でもそれは“今”だから思えるだけだ」

きっと、今の俺でなければ、自分の墓を見たところでなく事はなかっただろう
なぜなら自殺したいという気持ちは、ずっとずっと持ち合わせていたものだから
むしろよくやったとほめていた、だろう

ただきっかけがなくて死ねなかった、俺だったから

男(女)「……人とのつながりを持てた、今だから、馬鹿だなと思える」

男(女)「その思えるようになった、という意味では、感謝をしなければならない」

紳士「……感謝など」

男(女)「まあそう言うな」



 
635 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 19:47:01.15 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「……」

おそらく、俺の持ち札は、ほとんど揃っている
これ以上、考えられるものが無い

俺はゆっくりと、深呼吸をする

男(女)「よし」

紳士「気合十分、ですか」

そう、俺は自身の死を見て絶望はしたが――

男(女)「ああ。これで、面倒くさい問答も、最後だ」

――俺の予想があたっているのならそれは、大したことではない

紳士「……ほう」

にやり、と紳士が笑う


男(女)「詰みにしてやる」

紳士「やれるものなら」



 
642 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 20:02:45.97 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「まずは……、お前からだ」

紳士「私ですか」

男(女)「お前は、結局今でも、何なのか、分からない」

男(女)「だが――お前の領域を狭める事は、できる」

紳士「……」

男(女)「俺は勘違いをしていた。だから最初、だまされた」

男(女)「お前が一体何者か分からなかったから、何でも出来るモノだと思い込んでいた」

男(女)「例えば……、人の意識を操作する事も」

紳士「……」

男(女)「俺ははじめ、俺以外の人間の記憶を操作し、学校の人間に保健室の先生として認識させたものだと思った」

男(女)「何でもできるのだろうと思っていたから。あんな不思議なやつは何でもするだろうと思ったから」

男(女)「だが実際にお前の力にかかっていたのは、俺だけだ」

男(女)「前に確認したように、俺は、ただ“本来の私”を引き継いだだけだったのだから」

紳士「……」


 
647 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 20:14:20.64 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「いや正確には、考えてはいなかった」

男(女)「確かに俺の目は節穴だったな。その時、そこまで考える頭を持ち合わせていなかったのだから」

男(女)「でも今、はっきりと二人の人間だと認識している今なら、それは違うと分かる」

紳士「ええ。……しかしそれは、ただの確認ですね」

男(女)「そうだ。これは前の確認。今の俺が言いたいのは、その先」

男(女)「薄々感じ始めたのは、あの子を俺の部屋に連れてきた日からだったか」

男(女)「お前はあの時いったな」

>紳士「はい。貴方を男から女に変えたように」
>紳士「この部屋も、変えることができます」

男(女)「ただし」

>紳士「ただし、内部だけですが」

紳士「……」

男(女)「内部だけ、と」



 
650 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 20:18:15.15 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「お前、いつもこの部屋にいるよな」

紳士「……」

男(女)「……来てくれ」

俺は立ち上がる
彼は立ち上がらない

男(女)「……」

俺はそのまま、玄関へと向かう

紳士「……」

そうして、外に出た
外は日が暮れて、もう寒い

男(女)「男に戻せ」

そうつぶやく


――だが、何も変わらない



 
652 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 20:24:45.74 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「こういうことだ」

男(女)「お前の力は全て――この部屋の中でしか使われない」

紳士「……」

男(女)「お前は何でもできるわけじゃない」

男(女)「結局、この部屋の中でしか力を使えないんだ」

紳士「……ではなぜ、貴方は外に出る事ができるのか」

男(女)「言うだろうと思った。……だがそれはその前にもう一つ、確認をしてから答える」

紳士「……」

男(女)「部屋を、女のものに変えてみろ」

しゅん、と音を立てて、あのシンプルな女性の部屋になる

男(女)「……では、俺のものに、戻してくれ」

部屋が、戻る

男(女)「……うむ」

男(女)「では――これ以外のものにしてみろ」

紳士「――ッ」



 
657 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 20:29:04.19 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「……できないのか」

紳士「……」

男(女)「やはり、な」

男(女)「思ったとおりだ。これで答えは分かったな」

紳士「……」

男(女)「この部屋もまた、俺と同じだという事だ」

男(女)「まさにお前が言った“貴方を男から女に変えたように”というわけだ」

男(女)「つまりそう、この部屋は――」


男(女)「――“本来の私”の、部屋だ」



 
662 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 20:36:48.45 ID:0nFvq2Ge0
紳士「もう、分かっていて言っているようですね」

紳士「……ならば、答えましょう」

紳士「その通り。この部屋は貴方の言う“本来の私”の部屋。……正解、です」

男(女)「そうだな」

この部屋の事を、俺は完全に確信した

男(女)「……だが、それだけではお前は詰められない」

男「こっちの姿も、説明しなくちゃな」

紳士「……」

男「なあ。俺、死んだんだよな?」

紳士「……」

男「なのに俺はここにいるな」


男「なら、ここにいる俺は――誰だろうな?」



 
665 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 20:43:35.27 ID:0nFvq2Ge0
紳士「……貴方は、貴方です」

男「そうだ」

男「“この俺”は、死んでいない」

紳士「……」

男「なぜ?」

男「……もうここまでくれば言わずもがな、だな」

男「この部屋には、今確認したように二つの部屋が存在した、逆を返せば二つしかない」

男「そして、それぞれの部屋には一人ずつの人間、つまり“俺”と“本来の私”が存在する」


男「――この部屋は、重なっているんだ」

男「『“本来の私”がいるはずのこの部屋』と『“俺”が死なずに生きて過ごしたこの部屋』とで」


男「……そうだな?」

紳士「……く……っ」



 
667 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 20:49:31.04 ID:0nFvq2Ge0
紳士「……正解です」

男「そうだな」

男「俺はダブルブッキングの件で、薄々考えていたこの可能性に確信を持った」

男「もとより、この部屋には二人の人間のどちらかが存在する可能性があったんだ」

男「一人は俺。そして、もう一人こそおそらく……、“本来の私”だろう」

紳士「……はい」

男「そうでないと、説明がつかないからな」

男「こういうのは得意じゃないんだが……」


男「いわゆるこれは……パラレルワールド、というやつであってるか」


紳士「……、……」

紳士「その、通り……!」


 
676 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 20:56:29.78 ID:0nFvq2Ge0
紳士「いやはや、すばらしい。解かれてしまいましたね」

紳士「嬉しくて、……笑ってしまいそうだ」

男「む……?」

紳士「いえ、なんでも。さあ、続きをお聞かせください」

男「……」

男(こいつ、まだ何か隠してる……!?)

嫌な悪寒が走るが、俺は続きを述べ続けるしかなかった

男「と、とにかく。ならば俺が外に出られるのも簡単に説明がつくな」

男「重なったこの部屋が、丁度二つの世界を行き来できる場所という事だ」

男(女)「こっちの姿で外に出れるのは、元から“私”が存在する世界だからだ」

紳士「はい、その通り。正解です」

男(女)「……」



 
685 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 21:06:01.44 ID:0nFvq2Ge0
男「あ、いや、“俺”では外にでられなかったか……」

紳士「さあ、どうでしょう」

男「……?」

なんだ、この感覚

男「……ま、まあなんだ、つまりこういうことだ」

男「お前がよくわからん力で二つの世界をつなげられるやつで……」

男「世界はパラレルワールドで……、この部屋は重なっていて……」

口が、渇く

男「“本来の私”は、保健室の先生で、俺とダブルブッキングした相手で……」

男「それに俺が成り代わって過ごしていた……」

男「そ、それが、答え、だろ……?」

紳士「……」

男「答え、だろ……?」

紳士はただ、微笑んだ



 
692 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 21:14:23.31 ID:0nFvq2Ge0
男「……」

俺は彼を一瞥すると、玄関へ向かった

がちゃり

男「――ッ!?」

扉は、あっけなく開いた

それは別段俺の理屈を覆すものではなかった
むしろ安堵をもたらすはすのものであったのだが……

男「どういう、ことだ……」

不思議とそれは、恐怖になる

紳士「……どうもなにも、出られるだけ、ですよ」

男「で、出られないんじゃなかったのか」

紳士「あの時は、出られなかったですね」

紳士「覚えていますか」

紳士「あの時私、『今男の姿で外に出れなかった事は、いい機会でしたね』と、言いましたよね」


 
696 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 21:20:58.24 ID:0nFvq2Ge0
男「な……」

今このとき聞くと、まるでその言動は
「普通は出られるのに、あの時は丁度でられなかった、タイミングがよかった」
といいたげではないか……

男「……」

俺は勘違いをしていのか
「閉じ込められたのか」という問いに「いいえ」と答えたのは
女の姿なら外にでられるからだ、という意味だと思ったのに

「今男~」という言葉だって、俺が間違っていた事を気づかせてくれるいい機会だったじゃないか
という意味だと、思っていたのに

紳士「勘違いとは、よくあるものです」

男「お前……、わざと……」

紳士「嘘はついていませんよ」

男「……」

底が、まるで見えなかった



 
702 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 21:31:28.73 ID:0nFvq2Ge0
紳士「貴方のお考えは、ここまでですか?」

男「……」

紳士「……そうですか」

紳士は目を瞑る


紳士「残念です」

紳士「チェックメイトには――まだ足りないじゃないですか」


なんということだろう
俺はパラレルワールドを見抜いた時点で、勝ったと思っていたのに――

紳士「く、くくく……」

紳士「あんなにもドヤ顔で詰めてやるなんて言ってくださったから、私期待していたんですよ」

紳士「なのに、ここで弾切れとは……」

紳士「拍子抜けだ、と思わずにはいられません」

――それなのに彼は、まるでなんでもないというように、微笑んだ

言葉が、でなかった



 
710 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 21:47:22.56 ID:0nFvq2Ge0
紳士「さてっと、それで終りならば、私は夕食の片づけをしますね」

紳士な立ち上がる

男「ち、ちょっとまってくれ……っ」

紳士「はい?」

男「……」

何も、なかった
まるで弄ばれるような感覚がいやで、引き止めただけだった

紳士「ははは、そう落ち込まないでください。すくなくとも進んではいるじゃないですか」

男「……まだ、続けるというのか……」

紳士「……? 貴方が降りるなら、それでも構いませんが」

いい加減、頭がいかれそうだった
こんな底の見えないやつを目の前に、そしてその状況に

男「……く、そ……」

でも、降りるわけにはいかなかった

男(……知りたい)

――純粋に俺は、ヤツの隠す答えを、知りたくなっていたのだった


713 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 21:56:27.60 ID:0nFvq2Ge0
翌日

黒髪「やだ……かわいいっ」

眼鏡「わ、わっ」

黒髪「ぎゅうしてもいい? いいよね?」

眼鏡「ち、ちょ、もうしてるじゃないですかっ、ああっ」

すりすりすり

眼鏡「ぅ、ぁあ……」

黒髪「ネコミミをつけただけでこんなに可愛くなるなんて、やっぱり貴方は可愛いわ」

眼鏡「な、なんか日本語おかしくないですか……」

黒髪「いいの。ね、ポーズとってみてポーズ」

男(女)「保健室で、なにやっとるんだ……」

黒髪「スキンシップです」

男(女)「……そ、そうですか」


 

717 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 22:06:50.72 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「なんでネコミミなんて代物があるんだ」

ツインテ「私がお姉様につけようと思ってもってきたんです!」

ツインテ「なのにお姉様嫌がって、しかたなく眼鏡行きです」

眼鏡「わ、私もいやだよ……」

黒髪「いいの、可愛いから」

男(女)「なるほど……」

男(女)「それはいいが、そろそろ一時間目の時間だぞ」

眼鏡「ほ、ほら、いこういこう」

黒髪「むー」

ツインテ「あとでお姉さまもつけてくださいね!」

黒髪「私はいいの、似合わないから」

ツインテ「似合いますから!」

眼鏡「う、うん、私もそう思うな」

男(女)「私もみたいな」

黒髪「えっ、いや、……うう……っ」


 
721 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 22:16:44.14 ID:0nFvq2Ge0
彼女達が保健室からでていく
あんな事があっても、月曜日の朝はいつもどおりであった

男(女)「さて、仕事だな……」

まだ降りたわけでも終わったわけでもないのだから当然ではあるが
ここがパラレルワールドと思うと、なんとも、不思議である

男(女)「うーんむ」

とはいえ今はどうしたって、保健室の先生だ

男(女)「こっちの方が、しっくりくるようになって来ちまったな……」

仕事を休もう、とは思えない
というより、行きたいと思うのだ

男(女)「でも、そろそろ終わらせないとな」

余り長引かせるのも良くないとは思っていた

男(女)「もう少しだけ、な」



 
728 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 22:24:20.29 ID:0nFvq2Ge0
放課後

金髪「先生」

男(女)「はい」

金髪「女として、篭絡の仕方を教えてはいただけませんか」

栗毛「えっ」

黒髪「えっ」

眼鏡「えっ」

ネコミミをつけるつけないとじゃれあっていた二人も、停止した

男(女)「……何を言っているのでしょうか」

金髪「堕としたいと、思いまして。彼女を」

栗毛「えっ」

そういえば、彼が男だと知っているのは、俺とブロンドの少女だけだったな、と思う



 
730 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 22:30:51.39 ID:0nFvq2Ge0
黒髪「先生、私も知りたいんですけど」

男(女)「そんな真剣な目で見ないでください」

金髪「大人の女性なら、その辺り詳しいのではありませんの?」

中身男です

男(女)「ば、ばっかやろ、そんな、そんなことはなあ……」

つーかそれ以前に、童貞です

男(女)「じ、自分で、学ぶもんだ、ぞ。と、年が違うと、色々違うかもしれないしな」

金髪「ふむ……」

栗毛「ひっ」

黒髪「むう……」

眼鏡「うっ……」

黒髪「ねえ、ちょっと」

金髪「そうですわね」


二人「ベッドかしてください」

男(女)「だめです」



 
735 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 22:40:28.78 ID:0nFvq2Ge0
ツインテ「お姉様、部活おわりましたよー!」

黒髪「あら、お疲れ」

ツインテ「はい! ってあれ、これはまたおそろいですか」

金髪「ええ、ちょっと女の色気の出し方を教えてもらいたくて」

ツインテ「それ私も気になるんですけどちょっとどいうことですか」

男(女)「そういうのは家でやれ家で……」

保健室は、騒がしい

ツインテ「あ、先生顔色よくなってますね」

男(女)「え?」

黒髪「ね。今日は元気」

金髪「お悩み事が、解決なされたのでしょうか」

男(女)「あーいや……」



 
738 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 22:45:02.00 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「一週回って、もう何も分からなくなって清清しいっていうか……」

金髪「……逆でしたのね」

男(女)「うむ・……」

金髪「私達には相談、まだできませんの?」

男(女)「……うーむ」

確かにもう、一人でどうしようもない気はしていた
彼女達の手を借りるというのも手だが……

男(女)「信じてもらえないだろうし――」

ちょっとまて

眼鏡の彼女を家に招いた日を思い出す

男(女)(家に招いて姿を晒せば……、信じてはもらえるのか)

そういう手もあるにはあったようだ

男(女)(とはいえ、裏切るのとは変わらないからなあ……)


743 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 22:58:13.23 ID:0nFvq2Ge0
男(女)「――信じては、もらえるかもしれない」

黒髪「あれ、そうなの」

眼鏡「そ、それなら、ぜひ」

男(女)「う、ううむ……しかし」

金髪「……となるとそれは、ただの隠し事、ということでしょうか」

ストレートにいわれると、つらい

男(女)「そう、だな……。すまない」

白状するべきか、悩んだ
嘘をつくことくらい、ある程度はできる

でも、彼女達には嘘をつきたくないと思ってしまう

金髪「いえ、隠し事の一つや二つ、人ならいくらでもあるでしょうし」

眼鏡「そ、そうですよねっ」

その優しさが、辛い


747 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 23:09:08.99 ID:0nFvq2Ge0
ツインテ「それあれですか、言ったら嫌われちゃうー! 見たいな類ですか」

男(女)「……っ」

答えに窮する
それで、悟られてしまった

金髪「なるほど」

黒髪「別に嫌いにならないと思うけど」

眼鏡「も、もしそういうことなら……」

眼鏡「内容よりも、悩んでいる事を打ち明けてくれた方が、嬉しい、です」

迷った
すでに知られている以上、隠し続けるのはあまり釈然としない
それに、彼女達に嘘をつくのも、好ましくない

それにそもそも、問題の状況は手詰まり
人の手を借りるべきだとも、思った

眼鏡「たとえ……」

眼鏡「先生が実は男でした、なんてことがあっても」

男(女)「――!?」



 
749 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 23:16:52.74 ID:0nFvq2Ge0
眼鏡「あ、あれ……」

男(女)「い、いや……」

眼鏡の奥の瞳から、彼女は「ほ、本当ですか……?」なんて、聞いてくる
あのときに、感付かれていたのか……?

ツインテ「いやさすがにそれは無いんじゃないですかー」

黒髪「でも確かにたまに一人称が「俺」になってることもあるんだよね」

黒髪「うーん、そうなると少しなやむけど……、内容次第かな」

金髪「私は別にそれでも全然いいですけど」

栗毛「う、うん、それは私も大丈夫」

黒髪「許容範囲広いな」

金髪「ふふふ」



男(女)「……」

男(女)「みんな今日これから……」

男(女)「時間、空いているか?」


 
753 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 23:22:03.66 ID:0nFvq2Ge0
そうして、俺は部屋へと帰る

黒髪「さてどんな隠し事かなー」

ツインテ「部屋の中が人形だらけとか」

黒髪「こわいなそれは」

金髪「趣味ならあんなに悩まないでしょうに」

ツインテ「それもそうですねー」

男(女)「とんでもないぞ、本当に」

ツインテ「楽しみっ」

元気な娘は、完全に興味本位であった

俺はとりあえず先に一人で、中にはいる

男(女)「部屋、女の方にしてくれ」

紳士「来客ですか」

男(女)「そう。あと、最初は隠れといて」

紳士「了解いたしました」



 
759 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 23:32:50.44 ID:0nFvq2Ge0
皆を、部屋に上げる

眼鏡「お、おじゃまします」

黒髪「あれ、普通のお部屋だ」

ツインテ「人形いませんね」

栗毛「じ、女性のお部屋……」

金髪「何を今更」

男(女)「狭い部屋ですまないな、適当に座ってくれ」

俺はお茶を入れて、配る

男(女)「……さて」

男(女)「どこから、話をしようか……」



 
761 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 23:36:26.15 ID:0nFvq2Ge0
黒髪「端折るとわからなくなるので、こういう場合は全部です」

金髪「そうですね。真摯に拝聴いたします」

ツインテ「保健室の先生が元気なくなってたら、皆困っちゃいますからね」

栗毛「そうだね。解決できるか分からないけど……、真剣に聞こう」

男(女)「……話、重いぞぉ」

黒髪「どんとこい」

金髪「ふふ、如何様なものでも」

男(女)「……分かった」

まずは、話して聞かせよう
物語の、始まりから

眼鏡「……、先生……」



 
766 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/10/31(月) 23:49:14.26 ID:0nFvq2Ge0
物語の始まりは、彼の一言

「お暇でしたら保健室の先生になってみませんか?」

あの日、“俺”は“私”となった

眼鏡「……っ」

黒髪「ほ、本当に、男……なんですか……?」

男(女)「あとで、見せるよ」

彼女達と出会って、日々を過ごす中で
自分がどんな状況に置かれているのかを、模索していった

“私”は、他の誰かであった
“俺”は、いなかった

ツインテ「ちょくちょくでてくる紳士っていうのはなんです?」

男(女)「それもあとで、紹介するよ」

この世界は、パラレルワールドであった
この部屋は、それらの重なる場所であった

そして俺は、死んでいた

短く感じていたそれも、話せばとても、長い物語



 
772 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 00:02:16.17 ID:lRtc1bnu0
結構な時間がたったろうか
早めに保健室を出たとはいえ、既に外は真っ暗だ

男(女)「そんな、ところだ」

男(女)「……本当に、すまなかった」

裏切っていた事を、謝る
俺は女では、ない

金髪「見せて、いただけますか」

金髪「貴方の、素顔を」

男(女)「……」

俺は唇をかんだ
見せてしまえば、本当にあとに戻れない

男(女)「……」

俺はぎゅっと目を瞑る



男「……」



 
776 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 00:07:16.31 ID:lRtc1bnu0
今までは話だけだったからまだ空気も和やかではあった

だがさすがにソレをみて

黒髪「わ、わあ……」

ツインテ「マジ、ですか」

眼鏡「……っ」

金髪「……」

栗毛「本当、だったんだ……」

男「……こういう、ことだ」

ツインテ「ちょっと触っていいですか」

男「こ、こら、変な所さわろうとするな、腕な、腕」

ぺたぺた

ツインテ「わあ、男だ」

男「男です」

ツインテ「いや驚いちゃって、とりあえず確認しなきゃって」



 
779 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 00:11:55.06 ID:lRtc1bnu0
すたたたっ

眼鏡の少女が、すごいスピードで近づいてきた
耳元で言う

眼鏡「あああああのあのあ」

男「お、落ち着け」

眼鏡「あの時、やっぱりその、男性、に……?」

男「……」

無言で頷く

眼鏡「……っっっっ」

すたたたっ

少女は元の場所にもどって、顔を伏せてしまった

黒髪「……」

黒髪「あーーー!!! お、おふ、お風呂一緒にはいったって貴方!!!」

男「すまない……」

こればっかりは反論の余地も無かった

 
783 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 00:22:49.25 ID:lRtc1bnu0
黒髪「……く」

ツインテ「え、なに、眼鏡とお風呂入ったの」

眼鏡「う……」

黒髪「あんた……ッ!」

ぎろり、とにらまれる
いつも先生と生徒として仲の良かった彼女から、こんな目を向けられるとは
……胸が締め付けられる思いだった

眼鏡「で、でも、まってっ」

眼鏡「先生、最初は嫌がってたの……、でもわ、私のわがままで、一緒に入ってもらって……」

眼鏡「そ、それに先生、その……、女の人として、先生として入ってくれたよ……?」

黒髪「……」

黒髪「男として、入ったわけではないの」

男「……もちろんだ」

中にはいって、男としての葛藤はあった
それでも、やましい気持ちで承諾したわけではない

黒髪「……」



 
788 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 00:34:09.62 ID:lRtc1bnu0
金髪「今までを、思い出してごらんなさい」

金髪「この方が、一度たりとて、そういう目で私達を見たことがありましたか」

金髪「彼女――いいえ、彼は、与えられた役を、性別が違うにもかかわらず、ちゃんと演じていた」

金髪「そうは、思いませんか」

黒髪「……」

黒髪「女の先生として、なのね」

男「ああ」

少女はじっと、俺の目を見据えた

黒髪「……、……ふう」

黒髪「そう。そうね、分かった。それなら、今は不問にしてあげます」

男「……いいのか」

黒髪「実際は男、とはいえ」

黒髪「それでも貴方は、私達の知っている、保健室の先生ですから」

黒髪「でも一緒にお風呂にはいった事は……、女だろうが男だろうが、恨みますからね!!」



 
794 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 00:43:43.66 ID:lRtc1bnu0
ツインテ「はいお姉様落ち着いて。どーどー」

黒髪「ふん」

金髪「ふふ、では、話を仕切りなおしましょう」

黒髪「そうね……、本題にうつりましょう」

黒髪「でもこれって……、もう一人を紹介してくれないと続けられない、ですよね」

男「そうだな」

男「おい、出てきてくれ」

どこからともなく、彼が現れる

紳士「ごきげんよう、皆様方」

それは紳士の佇まい

眼鏡「わ、ど、どこから……」

ツインテ「ううん、この方と先生の二人でテレビにでたら、マジシャンも涙目ですね」

紳士「ははは、そうですね。ですが私、大衆の前は苦手なもので」

ツインテ「得意そうなのに」

黒髪「さ、さっきから貴方、適応力高いよね……」



 
801 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 01:00:58.72 ID:lRtc1bnu0
眼鏡「あ、あの、もしかしてこの前も、居ました……?」

紳士「ええ。貴方とは二回目ですね」

眼鏡「もしかして、毛布、かけなおしてくれました……?」

紳士「……さて、どうでしょう」

眼鏡「夢……だったのかな」

紳士は、にやりと笑う
それ、絶対こいつだ

眼鏡「あ、ご、ごめんなさい、本題のほうに」

男「そ、そうだな……」

黒髪「とりあえず、二つの世界があるってことでいいんですよね?」

紳士「然様」

黒髪「なら面倒くさいから、一旦二つに名前付けた方がいいかも」

黒髪「先生が女で、私達がいる世界を、“世界A”。もう片方の世界を“世界B”でいい?」

金髪「問題ありません」

男「わかった」



 
808 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 01:17:33.87 ID:lRtc1bnu0
黒髪「世界Aと世界Bの違いは……」

男「分かっているのは、俺が死んでるか生きてるか、だな。世界Aでは死に、世界Bでは生きている」

黒髪「そうですね。ここでは先生の言い方を借りて“俺”にしておきます」

黒髪「……ん。“私”は生きているのですか?」

男「世界Bに関しては、分からない」

男「でも少なくとも世界Aで“私”の姿で外に出られるっていう事は、生きているってことじゃないか」

紳士「中身が違うものを、生きているというのであれば」

黒髪「あ……」

黒髪「そっか……、だから、“本来の私”はどこへ行った、なんだ……」

金髪「でも死んでいるわけではありません。中身は違えど、生きているから、生活を続けられる」

金髪「中身の違いはおいておき、ここでは便宜的に生きている、とした方がいいかと」

黒髪「そうね……」

金髪「他に、世界AとBでは、この205号室の主も違いますわね」

黒髪「うん。世界Bでは“俺”の方が。世界Aでは“私”の方が、それぞれ住んでいる」


812 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 01:36:25.03 ID:lRtc1bnu0
栗毛「先生が生きていると、205号室は先生のものになる、ということ……かな」

眼鏡「ダブルブッキングしていたから……ですか」

黒髪「……いや、その時の“俺”が断るか断らないか、が分岐点かもしれないね」

金髪「いえ、それもおそらく違う……、“本来の私”の方が、断るか断らないか、ではないでしょうか」

黒髪「え……?」

金髪「……連絡は、少なくとも世界Bで生きた貴方には、あまりこなかったのですわね?」

男「ああ。ダブルブッキングはしていたが、いつのまにか解決していた」

金髪「となるとやはり、先に“本来の私”の方が折れた、と考えるが妥当かと」

金髪「もし“本来の私”が断らなかった場合、業者としてはとりあえず“俺”の方に話を持っていくはず」

金髪「そして“俺”は契約解消を望む連絡が来た場合に断る、と本人が確定している」

金髪「“俺”に選択が迫られた場合は必ず折れる、とするならば」

金髪「その分岐点は、相手にあったと考えるのが妥当です」

男「……なるほど」

男「先に向こうに話が持ちかけられ、彼女が断るか断らないかで俺に連絡が来るか来ないかが決まる」

男「『彼女が断る事』がイコールで『俺がこの部屋に住む』となるのだから、確かに分岐点は彼女にあった、となるわけだ」



 
817 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 01:52:44.65 ID:lRtc1bnu0
紳士「ほう、これはまた……、良い生徒にめぐり合いましたね」

紳士「その通り。業者はまず、彼女へと話を持ちかけました」

男「なるほど、これで世界Aの“俺”が死んだのが三月の終りであった事にも説明がつくようになった」

男「自殺のきっかけは些細な事。……つまり、そういうことだな」

紳士「はい」

紳士「彼女の選択次第で、貴方が自殺するかしないかが決まる、ということです」

眼鏡「ち、ちょっとまってくださいっ。せ、先生はなんで、自殺をしたいと思っていたんですか……?」

男「ん……」

男「……今はもう馬鹿らしいと思う理由だよ」

男「今思えば、死にたいと思うなんて馬鹿げている」

男「でもきっと、俺と同じように思っている人は世界中にも少なくないはずなんだ。とくに、最近のこの国なら」

眼鏡「……何故、ですか?」

男「理由をコレだと決め付けるのは、難しい問題だ」

男「でもとにかく今は皆に会ったから、俺は死にたいなんて、思ってないよ」



 
823 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 02:08:56.38 ID:lRtc1bnu0
黒髪「優しいけど、馬鹿なんですね、貴方」

黒髪「世界Aにきて保健室の先生やるまでは、自殺する気満々だったってことですよね」

男「む……、よ、よくわかったな」

黒髪「私達と会ったから変わった、って自分でいってるじゃないですか」

黒髪「さあ。話を進めましょう」

この子達を呼んでよかったと、俺は心底おもった
一人で悩み続けるよりも、思考のスピードが何倍も速くなる

ツインテ「あのー、私あんまり話についていけてないんですけど、ちょっと質問です!」

黒髪「ん?」

ツインテ「結局、何が問題なんですか?」

黒髪「ん……、確かにそうね。一旦それを抽出したほうがいい」

黒髪「最終目標は?」

男「こいつが隠してる事を全部暴くこと、だな」

紳士「別に隠してませんよ。私は答えを持っているだけです」

紳士「前にも言いましたが、必要なことは、私の答えがなくても見つける事ができるようになっていますから」



 
827 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 02:22:36.15 ID:lRtc1bnu0
男「そうだったな。じゃあその必要な事、を見つけることか」

金髪「では今の時点で分からないものを考えればいいのでしょう」

ツインテ「この紳士が誰か!」

栗毛「神様?」

黒髪「悪魔っぽいけど」

金髪「何かの幽霊とかでしょうか」

眼鏡「ま、魔法使いだったり……?」

紳士「あー、そういう意味では解かなくていいですよ。あえて言うなら、人でない何かというだけで十分です」

男「人じゃなかった……だと……!」

紳士「いやそれは最初からわかっていたでしょう」

男「はい」

男「……となると問題は“本来の私”は誰、かな?」

金髪「そうですわね。……話を聞く限り、貴方と接点がありそうですけど」

男「あるけど……、思い当たらないんだな……」



 
829 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 02:34:07.89 ID:lRtc1bnu0
黒髪「“本来の私”の情報は、聞いた中にはほとんどなかったわよね」

眼鏡「そ、そうですよね……、外見は分かるんですけど」

男「あとはこのノートくらいか」

金髪「先生あのねを目指すために、とは可愛いらしい先生ですわね」

栗毛「どんな人なんだろうねえ……」

男「……あ。お前ら、学校で見かけたことなかったのか? 四月からいたんだろ?」

金髪「ううん、前に言いましたように、保健室には近寄りがたかったので……」

男「あ、そうか」

眼鏡「わ、わたしも何度か登校したことがあるんですけど」

眼鏡「保健室は確かに、私みたいな人は入れなさそうでした……」

黒髪「私もそうね、全然係わりなかったし」

栗毛「同じく、です」

男「うーんむ」

金髪「これは、難しい……。手がかりになるようなものが、古い友達というくらいしか……」



 
833 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 03:05:01.00 ID:lRtc1bnu0
男「うーん……、実家に俺を訪ねてくるような人、なんだよな」

男「俺も一応、知り合いがゼロってわけではなかったが……」

男「ここ数年――世界Aで俺が死ぬ前の数年――で付き合いがあった人は、俺自身の連絡先を知っているはずだし」

男「今の実家を知っているような古い友達となると、少なくとも中学生から高校生までの知り合いになる」

男「遠くはない距離だったが、中学にあがる時に一度、引っ越しているからな。それと、大学からは一人暮らしだったからだ」

男「とにかく中学にあがる時に、学区は変わったから、」

男「小学生時代の内に縁のなくなった友達は、今の実家をしらないはずだ」

男「となると必然的に、中学生以上高校生以下の時代に付き合っていて、同時に実家を知っている人間にしぼられるが」

男「その数少ない中で、今の時期になって実家を訪ねるような人間を、俺は知らない」

男「というか、そもそも女性でそんな知り合い自体いない」

ツインテ「モテなかったんですか」

男「残念ながら」

男「んー、こじ付けで無理やりに縁のありそうな人間を思い出してみても、やっぱり男しかありえないな」

ツインテ「安心してください、私も異性の友達いません!」

男「フォローになってんのかそれ」



 
837 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 03:13:19.39 ID:lRtc1bnu0
黒髪「つまりまとめると……、友達が少ない、と」

男「はい……」

黒髪「その中で思い当たる人がいない……。って、それ手詰まりじゃないですか」

金髪「ですわね……、幼馴染という線も、引越しの件でつぶされていますし……」

金髪「何か忘れているとか、ありませんか」

男「うーむ……」

眼鏡「難しい、ですね……。どこからはじめていいのか」

手がかりがあまりに少なかった

ツインテ「あのー」

男「ん?」

ツインテ「“本来の私”は誰って話ですよね?」

男「ああ、そうだな」

ツインテ「……」

彼女はしばり、うーんと悩んでから、言った


ツインテ「……ならなんで、この部屋を調べないんですか?」


838 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]投稿日:2011/11/01(火) 03:19:49.28 ID:lRtc1bnu0
男「……は」

黒髪「…………え」

金髪「…………ああ……」

ツインテ「あ、あれ、私なんかおかしいこと言いました!?」

それはなんと――

紳士「くっくくく……」

男「なんてこった……」

金髪「灯台下暗し、ですわね」

“本来の私”を調べるために、何が一番適切かって
……本人の部屋に、決まってるじゃないか

男「理屈で考えようとしすぎて……、全然思いつかなかった」

黒髪「そうか、そうよね、まさにここに、彼女の事があるんじゃない……」

黒髪「よくやったわ! あとでぎゅうしてあげる」

ツインテ「お、おおお……、やったー!!」


 
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