2ntブログ

↑アローズ速報↓/SSまとめ

VIPなどのSSまとめInアロ速

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | TB(-) | CM(-)

月「宇宙はとっても、やさしいのでした」2/4

月「宇宙はとっても、やさしいのでした」


月「宇宙はとっても、やさしいのでした」



136 名前:フラグ回避能力高いな……[!red_res]投稿日:2012/01/13(金) 11:08:53.19 ID:732bUWoUo
//////////

Count23 "Drops" is over.

Next: Count26 "Fate"

//////////



137 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:19:09.21 ID:732bUWoUo
//////////////////

Count26

眉月

"Fate"

//////////////////

黒シャツ「暇だ」

月「暇でした。むあー」

 世のサラリーマン様方が汗水垂らして働いていらっしゃる中こういう事を言うのは非常に失礼だとは思うが、退屈って嫌だよね。

黒シャツ「水、飲むかー」

月「おなか、たぷたぷですがー」

黒シャツ「ういー」

 月もさっきから暇にあかして水ばかりを飲み続け、今度ばかりは腹も限界に達してしまったらしい。身体を揺らすごとにたぷんたぷんと音が聞こえてきそうだ。
 テレビゲームとか、トランプとかあればいいんだけどね。あいにくうちの倉庫にそんな娯楽用品などただのひとつも存在していないのだ。
 TV番組も、見る気にはなれないし……つーか、彼女と一緒に見るのは二度とゴメンだ。前回ので懲りた。
 というわけで、こうやってローテーブルを挟んで二人で突っ伏している現状につながる。

月「黒シャツさん黒シャツさん」

黒シャツ「あいよー」

月「何かお話できたら、してもいいですが?」

黒シャツ「お前は何か無いのか」

月「にゅふふ、他力本願ですねー。ところで2枚成功しましたが」

黒シャツ「なんかもう、びっくり人間的なものに出ればいいよね」

 ……あまりに暇らしく、また1円玉くっつけて遊んでやがる。どうやら今はコツを掴んだらしく、しゃべっててもなかなか落ちてこない。変なところでスキルアップするなと。





元スレ
月「宇宙はとっても、やさしいのでした」
SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)@VIPService




138 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:19:36.75 ID:732bUWoUo
黒シャツ「……しょうがねぇな。んじゃあ無意味な話でもするか」

月「無意味な話とは、なんなんでしたっけ」

黒シャツ「うん?」

 人間にとって、生きるのに何の意味もなさない話といえば、これに決まっている。

黒シャツ「哲学」

月「ほほぉ。黒シャツさん、頭よいのでしたか」

黒シャツ「……そんなわけねぇよ。長い間ひとりで居るとな、嫌でも哲学的になっちまうんだよ。ただ単に、暇を潰すために。……つーわけで、月。お題出すんだ、お題」

 月はしばらくうなって考えていたようだが、どうやらいいネタが出来たらしい。額に付いてた1円玉が、ぺっとはがれる。

月「じゃあ、はいっ。黒シャツさんに私から、問題が送られまーす」

黒シャツ「はい、博士になんでも聞いてください」


月「んーと、じゃあ」

 こほん、と一つ咳払いをして。


月「私は本当に星なんでしょうか?」


139 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:20:08.69 ID:732bUWoUo
黒シャツ「……なるほど。シニカルな」

 ものすごい本質をついてくる問いだ。自己の存在に疑問符を投げかけている自虐であったり、自分の話を信じようとしない俺に対する皮肉であったり。何重にも意味が込められたような疑問。
 正直感心してしまった。

月「よくわかりませんが。でも、黒シャツさんはいつまでたっても信じてくれないので、なんでなのかなー?って、思ったのですね」

黒シャツ「お前、実は結構頭いいんじゃないのかって気がしてきた。結構深い問いだぞ、これ」

月「にゅふふ、宇宙は深遠ですけどーっ」

 少し考えてみたが、うまい答えが出てくるわけでもない。まぁ、せっかく対話できる機会もあるわけだし、少し問答にしてみようか。

黒シャツ「……たとえば、『実体』というものを考える。ものごとの本質――いわゆるイデア、ってやつだ」

月「むーん?」

黒シャツ「ここで俺は、仮説を立ててみる。もしかしたら、モノ……物質なんてものは最初から存在しなくって、そこにはリレーション――関係性しかないんじゃないのかって」

黒シャツ「例えば地球上にたったひとり、人間が立っていて――まぁ『俺』でいいや。『俺』が、真上にある『月』を見ているとする……あぁ、月ってお前の事じゃないからな、天体としての『月』だからな」

月「言いたい事たっぷりですが、今は黙って聞いてます。はい」

黒シャツ「じゃあこの時、月は本当に存在しているんだろうか?」


140 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:20:43.81 ID:732bUWoUo
黒シャツ「この場合、問題は『他に誰も月があるなんて保証してはくれない』って事。ほんとは地球上には他に60億人くらい人が居て、そいつらがみんな『そこに月はあるよ』って言ってるから、だから俺も『あぁ、あるんだな』と思ってるに過ぎなくて。――でも仮に、地球上には俺ひとりしか居なかった、という状況があったならば」

月「むーん。ひとりだと、間違ってるかもしれませんですね」

黒シャツ「もしかしたら月は幻なのかもしれないだろ?」

月「黒シャツさんの頭から放射能がだーだーもれもれだと、本当は無いのに、あるよって思っちゃうかもしれないです」

黒シャツ「そう。ひとりの場合だと本当か嘘かは分からない。……でも、だからと言って地球の人間みんなが『あるよ』って言ったものを、本当に『あるよ』って言えるのかな?」

月「そんなの、わからんですが。偶然みんなが、おんなじ妄想してるだけかもしれないですし」

黒シャツ「そう、そういう可能性が少しでもあるって事は、実存の保証なんかどこにも無いってこと。すなわち、俺はこういう考え方もできるんじゃないかって思う。モノとしてのイデアなんか、集団妄想の先にあるものに過ぎない。60億人が『あるよ』って言ってるモノは、60億人みんなが『あるよ』って妄信しているだということ。それだけに過ぎない」

黒シャツ「だとすれば実体があるかどうかなんか、いつまでたっても分からない。だが俺達は、その妄想のみを拠り所にして、『あるよ』と思わなくちゃならない。確信しなくちゃならない」

月「……黒シャツさんの言ってる事、難しきですね」

黒シャツ「まぁそう言うなよ。ここで月、お前の事を考える」

 びしっと指差すと、さっきまで疑問符をぼこぼこ浮かせていた彼女は途端に晴れやかな表情に。

月「わーい、黒シャツさんに考えてもらえるー」

黒シャツ「お前は本当に星なのかって事だが。さっき言った事を前提とすれば、これに対する問いはめちゃくちゃ簡単だ」

月「おーっ、ここで衝撃の事実でしたねっ」

黒シャツ「月は、自分の事を星だと思ってるわけだよな。『そんな妄想を抱いている』訳だ」

月「黒シャツさんの言葉には、そこはかとなく納得できない節がありましたねっ。でも私はよい子なので、黙ってお話を聞きますよ」

黒シャツ「ここで俺が『お前は月だよ!』って信じるなら、満場一致でお前は月だってことになる。このヒキコモリ閉鎖空間には二人しか居ないわけだからな」

黒シャツ「つまりここにいる全員が持つ集団妄想によって、見事お前は本物の月になれるってわけだ。おめでとう」

月「ふおおおお」


141 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:22:29.78 ID:732bUWoUo
黒シャツ「逆にここで俺が『いやお前ただのデンパ女だろ』って思ったら、二人の意見は食い違う。この場合、お前の存在は未確定になる――つまり、月でもデンパ女でもなく、お前はただの『正体不明』に成り下がる」

月「ふおおお……お?」

黒シャツ「おめでとう。正体不明少女」

月「そ、それはひどい仕打ちですねっ!」

黒シャツ「というわけで解答。……お前、正体不明」

月「……なんかすごい難しい事言ったのに、結局正体不明とか言われました。そのうち私、泣きますが? ぶえぇぇん」

黒シャツ「そう悲観するなよ。裏を返せば、俺さえ信じさせればお前は名実ともに月で居られるんだから」

 これで彼女を完全に煙にまいてしまった訳だが……まぁ、さすがにかわいそうか。



142 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:23:24.61 ID:732bUWoUo
黒シャツ「……まぁ、もう一つ考え方はある」

月「難しい事言って、黒シャツさんはまた私をヘンな子にするつもりですけど? 頭から湯気とか出ますよ、全く」

黒シャツ「そう言うなって。お前のアイデンティティが無傷で守られる為の逆転チャンスだぞこれ」

 そう言って俺は、カーテン――現実と自室を隔てるぶ厚い境界面を指差した。

黒シャツ「このカーテンを開けて、テラスから空を見上げたとき。月があるか、無いか? ちなみにカーテンは開けちゃダメ。俺が苦しいから」

月「ふんふん?」

黒シャツ「空に月が浮かんでるなら、お前は偽物だ。逆にいつまでたっても月が出なかったとしたら……おめでとうってわけ……だが?」

月「つ、月だもん! ほんとに月だもん!」

 必死に自己の存在をアピールする月を尻目に、俺はふと疑問に思う。
 実は、カーテンを開けずとも外の様子くらい知ることはできるのだ。このカーテンはいわゆるシュレーディンガーのパラドクスにおける、箱の役割を完全には果たしていない。

黒シャツ「……ッ」

 ……望遠鏡だ。俺は今までさんざん、アレを使って天体観測を行ってきたはず。というか、それが自分の趣味なわけで。


黒シャツ「……『空に月なんて、浮かんでいなかった』……!!」





143 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:25:01.25 ID:732bUWoUo
 何度も何度も、倍率もピントも観測日時も調整したはずだった。なのに、俺はただの一度も目当ての星――月を、見つけることができなかった。
 月が浮かばなくなった世界、そして俺の元になぜか現れた、自称・月。

月「むーん?」

 先ほどの考え方から導かれる論理を復唱。
 空に月が浮かんでるならば、彼女が星であることはまず間違いなく偽だ。
 逆にいつまでたっても月が出なかったとしたら、そんな『ありえない』世界がありえたとしたら――。

月「黒シャツさん、固まってますが? 難しいこと考えすぎて、演算装置がメルトダウンでした?」

黒シャツ「――空には、月が無かった」

月「?」

黒シャツ「……なぁ、月。もしかしたらお前は、本当に星なのかもしれない」

 という、単純かつファンタジーな結論。
 ……俺はどうやら、本当にフィクションの世界にまぎれこんでしまったらしい。あるいは、完全に狂人になってしまったか。一応、どちらかといえば前者の方が信じたい事実だ。

月「黒シャツさんが、やっと信じてくれた……」

黒シャツ「……えっと」

月「わーい、やったー。よくわからないでしたが、とりあえずやったー」

黒シャツ「おめでとうと言うべきか、ご愁傷さまと俺に言うべきか」

 思えば最初から気づくべきだったのかもしれない。夜空から月が消えた時点で俺はもう、まともな場所に留まってなどいなかった事を。
 物語は彼女が来たから始まったわけじゃなくて、多分それよりずっと以前から始まっていたんだと思う。



144 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:25:30.56 ID:732bUWoUo
月「……あれ? でも」

 と、月はさっきまで挙げていた両手を下ろして、首をかしげた。

月「星としての月は、普通にありますが?」

 ……ん?

黒シャツ「あー。それはつまり、どういう事だ?」

月「外には、星としての私がありまして。ここには、私パート2がありまして。というわけで。私、なんというか、ダブってます」

 なんだか二人の意見が食い違ってる。
 ん? 結局外に月はあるのか? ないのか?
 ということは結局コイツは月なのか? そうじゃないのか?

月「……つまりおんなじ宇宙に、たまたま二重に存在しているわけですね。若干デュアルってる感じです」

黒シャツ「……ダメだ、頭混乱してきた」

月「難しいこと考えたらダメなんですね、とりあえず不正解なので手持ちの月の石は没収になりまーす」

 効果音のようなモノを口にしながら、何かを奪い取ろうとする月。どうやら真面目に付き合う方がバカをみるらしい。
 ……ってこれ、今までとほとんど変わってないって事じゃねぇか。

黒シャツ「ンなもん最初から持ってねぇよ」

月「じゃ、じゃあ、あげますっ!」

黒シャツ「……」

月「合計10個集めたら、月面一周7泊8日ツアーがプレゼントですね! 頑張ってください!」

黒シャツ「そぉい!」

月「わーっ! 私の一部をとんかちで砕かないでーっ」

 結局その後はいつも通りだった。
 月が無い世界……か。

月「せっかくかっこいい事言えたなって、思ったのに。黒シャツさんはいじめっ子です……」

 ……必死で生き残ったドロップを回収する月を尻目に、ため息。
 正直、もはや彼女が月であろうが無かろうが、そんなものはどっちでも良かった。

 そんな事より重要なのは――。


145 名前:@ベッドの上、数時間後[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:26:36.77 ID:732bUWoUo
黒シャツ「あれからさ、また少し考えてみたんだ」

 話を蒸し返してみた。

月「んぅー?」

黒シャツ「お前の正体が何なのか、について。話しただろ?」

月「……あ、テツガクの」

 言いながら月はもぞもぞと、身体をこちら側に近づけてくる。
 積極的な彼女に根負けし、二人で同じベッドに入るという図式が完成してからしばらく経ち、やっと俺の方も慣れてきたところだ。

黒シャツ「……世界って、器がちっちぇえなって」

月「また、アイマイな事言おうとしてます。黒シャツさん、私の頭の事メルトダウンさせようとしてますが。こないだから私の燃料プールはからっからで、管理不十分の人災でしたけどっ」

黒シャツ「そうじゃねぇよ。なんか難しいこと考えたけど、細かい事とかどうでもいいよなーって、今更ながら思ったんだ」

 月は頬を膨らます。確かにアレは女の子にする話じゃなかったよな。

黒シャツ「……あのカーテンが閉まってる以上、この世界には俺とお前のふたりしか居ない」

月「はい」

黒シャツ「たとえばお前がほんとは、幻だったとしても」

月「ホントの月ですっ。まだそういう事言うなら、叩いたり蹴ったりなどの残酷な暴行をくわえたりしますね!」

黒シャツ「はは、それは勘弁。でもさ、幻でもいいんだよ。ここに、目の前にひとりしか居ない俺がちゃんと、居てほしいって思ってるんだから」

月「ほぇー。えと、ええと……?」

 あんだけしゃべって結局それかよって話なんだけどな、と前置きをする。

黒シャツ「俺が一人でこうやって引きこもってる時くらい、信じたものを実存させてくれてもいいよな。俺が居たらいいなって思って、そう信じた結果、お前がここに居て」


黒シャツ「……そんな曖昧なもんでいいじゃん。二人しか居ない世界なんて」





146 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:27:58.71 ID:732bUWoUo
月「私に居てほしいって、思ってます? 黒シャツさん、そう思ってくれてます……?」

黒シャツ「……そうだな」

 少しだけ素直になれば、そこまでたどりつくのに大した考えも必要じゃなかった。なんだかんだ言ってこの共同生活は妙に楽しい。今更の話だ。
 もし月が居なくて、ずっとひとりぼっちのままでいたなら、この楽しさの存在すら知らずに俺は終わっていたんだろうか。多分、そうに違いない。

月「わたし。なんか色々、もれもれだーだー……しそうなんですけど?」

黒シャツ「いいんじゃねぇの、喜んどけば」

 ……それにしても、俺はどうして彼女に居てほしいと思ってるんだろう?
 ――ははっ。考えるまでもないか、そんなの。すごくシンプルな結論だ。

黒シャツ「簡単なことなんだ、お前に居てほしいって願う理由なんて。俺はさ、多分――」


////////////////
条件判定:
[FLAG]=XXXx→FALSE
////////////////


147 名前:[SANITY]=12 [FLAG]=XXXx[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:30:18.40 ID:732bUWoUo
//////////////////////////////
A【どうしようもなく寂しいんだよ】
//////////////////////////////

黒シャツ「寂しがりなんだよ、どうしようもなく」

 ……天井に向けて、ぽつりとつぶやいた。

月「にゅふふ。万有引力ー」

 ぎゅむ、と抱きつかれる。

月「黒シャツさん、あのね。……だいすき、だよ」

黒シャツ「……あ。……暑苦しいって」

 精一杯の文句も、月には聞こえていないようだった。



148 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:31:57.32 ID:732bUWoUo
月「……ずっと、私がそばに居てあげますゆえ。何に替えても、私は黒シャツさんのそばに居るのでした」

 耳元で声がする。甘くて丸い、ドロップスみたいな声だ。

月「その為なら、もう私……星じゃなくっても別に、いいなって。今はなんかそう思ってますね」

黒シャツ「なんだよ今更。ようやく正気に戻る気になったのか?」

月「にゅふふ。正気とか狂気とか、よくわからないでした」

 月はいつでもそうだ。つかみどころのない、ふわふわした言葉を使う。

 地上から見上げる月に、手が届きそうで届かないように。

黒シャツ「でも、それもいいかもしれない。星じゃなくっても、そうじゃなくっても」

月「かわんない、って?」

黒シャツ「うん」

 そう思う。
 ……二人一緒ってのも、悪くない。



149 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:32:42.06 ID:732bUWoUo
 月はふにゃっと微笑む。

月「にゅふふ。そんな事言ってくれたら、この辺……核が、きゅんってしちゃうかも」

 そう言って、胸のあたりをきゅっとおさえる。正直、その仕草がたまらなく可愛かった。

黒シャツ「……いつか外の景色、一緒に見てみたいな」

月「うんっ」

黒シャツ「今はまだ、できないけども。……努力するよ、いつか外を見られるように」

月「ふたりで?」

黒シャツ「二人で。……それで、月を見るんだ」

 髪を撫でる。気持ちよさそうに月がくぅん、と声を上げる。
 心の間隙が、少しだけ埋まった気がした。


150 名前:[SANITY]=12 [FLAG]=XXXx[!red_res]投稿日:2012/01/13(金) 11:33:58.16 ID:732bUWoUo
//////////

Count26 "Fate" is over.

Next: Count1 "Insanity"

//////////





 
153 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 12:57:17.68 ID:as/3FOHSO
FALSE……俺らは何を誤ったんだ…?

Insanity……狂気って何が起こんだよ……

期待と不安で脳汁だーだーもれもれだ




154 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 13:03:51.62 ID:732bUWoUo
どうしてこうなった、については
とりあえずエンディングまで行ったらかんたんに説明する
現在は、二つのエンドが両天秤状態になってるね



158 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 08:51:37.48 ID:x7evJqWQo
//////////////////

Count1



Insanity

//////////////////

 多少心境に変化があったので、久々に懐かしい服を着てみることにした。

黒シャツ「……ブループラネット」

 と印字されたシャツは、その名前以上に青い。
 いつだったか冷戦の被害者が「地球は青かった」だののたまっていたな。あれはあんまり宇宙が黒くて暗かったから、余計に青く光って見えただけなんです。
 というわけで、月を起こす。

黒シャツ「あ。あんなところで高速増殖炉が手招きしてるよ!」

月「んうー……はっ! どこ、どこどこ。やっぱりプルサーマルって究極のエコロジーですね!……って、はっ」

黒シャツ「おはよう」

月「あい……おはようございましたー……。……って、あれ?」

 ぴこん。という効果音でも立てそうな感じで、月は俺をガン見して。

月「……黒シャツさんが、黒シャツじゃない……うぇぇ……ひっく……」

 泣き始めた。

月「ど……どうしようっ、これじゃあ何と呼んだらいいか判断不能ですがっ。青シャツさん? ブルーシャツさん? やっぱり黒シャツさん……違う違うっ」

 袖で涙をごしごしと拭って、にぱっと元気な笑顔。

月「……おはようございましたっ、青黒いシャツさんっ♪」

 うん。何だか知らないけども超ウザい。

黒シャツ「めんどくせぇ……黒シャツでいいっつーの、お馬鹿」

 昨日二人で抱き合ったときの、あの雰囲気はなんだったんだっていうくらいにいつも通り、適度な電波を浴びたやりとり。常識に照らし合わせると明らかに病んでる会話のやりとりなのに、少しだけ心が安らいでいた。



159 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 08:52:05.01 ID:x7evJqWQo
黒シャツ「もういいや、カップ麺食うか。さて、ところで今日の待ち時間は?」

月「90秒で充分ですけども!」

黒シャツ「……何だよこのせっかちさん。バリカタどころか普通にスナック菓子だろ。それ」

月「ごちそうさまー」

黒シャツ「相変わらずデタラメに早いな」

 お湯入れてから2分経ってない。そのうちギネスにのりそうだな、コイツ。

月「では、黒シャツさんは食べながらで結構でしたが。……外に出た後の事をお話しましょうか」

 ……と、来たか。
 今相対すべき問題なのは明らかだが、こちらとしては心の準備もさせてもらいたいものなんだがな。
 とはいえ、今更逃げ出すつもりもない。覚悟を決めた、というには脆弱過ぎる覚悟だが、少しだけ頑張ろうと思う。

黒シャツ「……あぁ、そうしてくれ」

月「黒シャツさん、かっこいーですねっ。前向きなことを考えるのはいいことなのですけどっ」

 褒められる程の事じゃないよ、ホント。

月「そうだっ。外に出られたら、私に遊びに来てくださいよう」

黒シャツ「……えっ、なんで?」

 聞き返す。いきなり唐突ですな。ちょっと言葉を間違えてるんじゃないかって思ったじゃないか。
 私に遊びに行く……って、なんか一瞬いかがわしい響きに思えてしまうじゃないの、もうっこのお茶目さん。これでも一応、全年齢対象なんだぜ?
 いやそうじゃなくて。

月「色々とサービスが盛り沢山ですが。月の石だって食べ放題ですね、わーいっ」

黒シャツ「月の石はいい。要らない。うん、要らない」

月「ええと、そうだ。なんとこれ、静かの海原産の最高級品でー」

黒シャツ「そのネタ、とっくに賞味期限切れてる」

月「えううう、カップ麺に入れたら、け、結構おいしくってえ……。地球と月、味覚のこら、コラボレーションがぁ……」

黒シャツ「そのユニットは味覚の方向性の違いを理由に、つい先程活動を休止しました」

月「うわーん!!」

 またしても泣き出した。からかうのはこれぐらいにしておくか。


160 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 08:52:43.25 ID:x7evJqWQo
黒シャツ「……で? 俺に月まで来いと、そんなメルヘンな事を口走りやがってるのか、お前は?」

月「うんっ!」

 思った以上に元気な返事が来ちゃったよ。
 ……どうでもいい事だけど、コイツは星の割にノリが軽すぎる。

黒シャツ「地球人にはハードル高ぇよ。おいそれと俺みたいな一般人が観光するには遠すぎ」

月「そんなに難しくないですよ。のちのち思えば、意外と近いものですね」

 まぁ、地球とかそういうのを超越しているヤツからすればそうなんでしょうがね。正直、天体の距離観念なんて一介のヒキコモリに分かるわけないのです。

月「昨今の地球人、宇宙開発の進歩は目をみはりっぱなしですね。その気になれば、黒シャツさんだってすぐにでも私まで来れますけど?」

黒シャツ「まぁ、アポロ11号から40年も経ってるわけだしなぁ……」

月「40年もあるなら、余裕でしたねっ。地球人の進化早いです、私はちゃーんと分かってます」

 そりゃあ、今更月面到達くらいは不可能ではないけど。
 だが、その気になる必要があるのは俺個人じゃなくてヒューストンのえらい人だと思うよ。

月「でもアポロ11号ですか。実はあれはですね」

黒シャツ「ん?」

月「着陸してないです。15号さんとか17号さんとかも、重力圏にまでは来たですが。残念なことに丁重な感じで帰って頂きました」

 ここでまさかの衝撃告白。しかも本人からと来たもんだ。

月「証拠画像の捏造とか、アメリカさんの要求を呑むのはめどいでした。ですが、乙女の純潔を守るためですので当然ですっ」

黒シャツ「……俺は聞かなかったことにしておこう」

 こんなのに追い返されるなんて、アメリカさんのプライドずたずたですね。


161 名前:[SANITY]=12 [FLAG]=XXXX[sage]投稿日:2012/01/14(土) 08:54:40.05 ID:x7evJqWQo

月「アメリカさんもソ連さんも、ひどいでした。喧嘩してるのに関係ない宇宙とか巻き込むの、摩訶不思議な感じですね?」

 ……はぁ。今更だが再確認。
 たとえ仮に、コイツがリアル某天体だからといって。ヒトとしての性格が破綻してるのには変わりがないって事なんだよね。

月「あ、となると黒シャツさんが私に来たとするなら、私の初めてのヒトになりますね。ちらちら。……ぽっ」

黒シャツ「誰が行くか」

月「ひどいですねこれ。さすが黒シャツさんひどいです」

 よし、俺の見立ては間違っていなかった。コイツが『月』であろうがなかろうが関係ない、月は結局月だったって事で。

黒シャツ「ったく、来てほしいならてめぇから来いっつーんだよ……って、現に来てくださりやがってるわけか。厄介なことに」

月「ふふーん☆」

 ――いや、そんなドヤ顔してんじゃねぇよ。

月「にゅふふ、厄介とかそれ嘘ですよう。なんか黒シャツさん……青黒いシャツさん? の顔が柔らかくなってるんで、私は機嫌がいいのでした!」

黒シャツ「さいですか。あと黒シャツでいい」

 まぁ、いいや。
 このままこうやって、二人で居るのも結構楽しい。

/////////////
条件判定:
[FLAG]=XXXX→FALSE

 挿入文をスキップします。

/////////////




162 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 08:55:33.99 ID:x7evJqWQo
月「黒シャツさんと一緒に、月面散歩したいなぅー」

 テンションの上がったらしい月は、ぐるぐるーとか頭のネジを外すような擬音を口にしながら文字通り俺の周りを回り始める。

黒シャツ「いきなり何やってんでしょうか」

月「あ、ついつい癖で。公転しちゃいますが?」

黒シャツ「実際のプレイ画面でお見せできないのが残念ですね」

 いやほんと、バレリーナかって思うくらい回転しまくってる。つーか、『クセでついつい公転しちゃったテヘ♪』って。俺の人生、いや誰の人生にとってもこの先二度と聞かないセンテンスのひとつだと思う。

月「でも、こうやって軌道をぐるぐる回ってるの、楽しいです。楽しいから、いつまででも続けてられました」

月「黒シャツさんは、青シャツさんなので、地球です。私は月なので、月です。たのしー」

 手を広げて、心底から嬉しそうに月は公転を続ける。ぶーんとか明らかに星じゃない声をあげながら。
 俺が地球って……ま、ある意味間違っているわけでもないか。『外』を宇宙、この部屋を地球圏だってたとえたなら、確かに俺は地球で、彼女が月だ。
 太陽系の中、他の惑星達から離れ。46億年間、公転を続けていた地球。やっぱり彼は冥王星と同じように、月が居たから寂しくなかったんだろう。
 ……っていうか、こんな賑やかなヤツが一番近くに居たんだから、寂しいわけもないよな。全く。

月「ぐるぐるー……って、ふらぁ。あえええ」

 ドーン。
 月が地球に衝突した。ファーストインパクトの再現ってやつですか。
 調子に乗って自転しまくるからだ、馬鹿。

黒シャツ「最低だな、見事に地球滅亡じゃないか」

月「にゅふ。今更遅いですがー」


 ……ズキン。

 ……、
 月がぎゅーっとしがみついてくる。
 ほんと、ガキと変わらんね。


163 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 08:56:04.03 ID:x7evJqWQo
月「地球と私、もともとひとつの身体だったんですのでっ。ぴとー」

黒シャツ「あー、そういやそんな仮説もあったねえ。まさか生きてるうちに本人から正解を聞けるとは」

月「おー、ヒトの歴史にまた新たなる1ページっ」

黒シャツ「そんなのは本当に今更だっての。こんな宇宙的ヒキコモリ相手にページ刻んでもな、しょーがねぇんだって」

月「むーん。それでは大事なことなので、黒シャツさんのお仕事の紙に新たなる1ページを……」

 と言って、月はひょいっと一足飛びで俺の胸から離れると、机の上にあった紙を手に取り、

黒シャツ「ぎゃーっ、やめろー! 落書きすんじゃねー!」

 その紙を握りつぶして、……にぎりつぶして?


月「あ……れぇ……?」



164 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 08:56:31.46 ID:x7evJqWQo



 月が、昏倒した。





165 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 08:57:32.98 ID:x7evJqWQo

黒シャツ「……ジョッキで持ってきた」

月「……わーい」

 キンキンに冷えた水を、月に渡してやる。
 いつも通りの気の抜けるような返事と言葉面こそ同じだが、元気が無くなっているのは明らかだった。

月「ん……冷たいね」

黒シャツ「……ごめんな。俺に出来ること、これぐらいしかねぇんだ」

月「いいです。黒シャツさんの事、辛いことは、全部分かってました」

 にゅふふと言って笑う月の額には反面、汗がにじむように浮かんでいる。
 俺がこうやって部屋に縛られている以上、できる看病も知れたもの。とにかく空調を整えて、急速に失っているであろう水分を補給させてやることくらいしか。
 当然救急車だって呼ぼうとしたが、ずっと話し中だし。今だって何度もリダイヤルをしてるのに、いつまでたってもつながらない。

月「ダメですね、私……頑張ろうと思ったんだけどなぁ」

 海溝の底に置き去りにされた潜水艦があてのないソナーを放つように、月はつぶやく。のち、小さぐ喘ぎ、震える。

月「うぅ。寒いなぁ」

 室温の設定は既に最高にしてある事を横目で確認し、俺は歯を思い切り噛む。
 ……ちくしょう、どうして携帯がつながらないんだよ。こいつ、こんなにも苦しんでるじゃないか。星だろうがヒトの形をしてんだから、何とかできるはずだろ?

////////////////
条件判定:
[FLAG]=XXXX→FALSE

挿入文をスキップします。

////////////////


166 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 08:58:07.47 ID:x7evJqWQo
 深呼吸をひとつして、再度119、と押す。
 ついに、呼び出し音すら鳴らなくなった。いや、まだだ、諦めるな。気を、確かに持たねば。

月「ね、黒シャツさん……」

 荒い呼吸の隙間からの、問いかけ。

月「黒シャツさんに、何個か。……私、言わないといけないでした」

黒シャツ「いいよ、そんなの。今は安静にしてないと」

月「にゅふふ。ビョーキのひとをたたけない黒シャツさんの言うことなんか、無視でしたー」

 精一杯の強がりを含んだ笑顔。結局俺は、肝心なところでこいつにはかなわないな、と思う。

月「……その黒い板。誰かとお話してるんですか?」

黒シャツ「そりゃお前。救急車呼んで、病院まで連れてってもらわないと」

月「にゅふふ、そんなの嘘です。ただの板に過ぎませんでした」

 黒くて憎いiの字が付くアイツを見てみる。
 液晶どころか、カメラも静電容量式タッチパネルも、ホームボタンもリンゴのマークも無かった。これはただのリモコンだ。
 ……えっ?

黒シャツ「つ、月。……あの、え……」



167 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 08:58:57.63 ID:x7evJqWQo
月「テレビ」

 たった3文字を口にする、何を示す言葉なのか分からない。

月「次はテレビ、付けてください。えへへ」

 ……テレビ。
 そうだ、テレビ。電波を受信して画像を表示する電化製品。最近地上波デジタル放送オンリーになっちまって、某国営放送の集金人を専ら調子づかせているアレだ。
 黒くて憎いアイツの、『通話ボタン』にあたる場所を押す。液晶がともる。毎週恒例のネタ見せ番組がやっていた。

『だからお前はいつまでその話引っ張っとんねん!(ハハハハハ)』

 今日は目当てのオボンチュールは出ていないようだ。

月「音出るとこ、耳近づけてください。よーく、聞いてください。……人の声、聞こえますか?」

『だからお前はいつまでその話引っ張っと!(ハハハハハハハハ)』

 少しだけ、客席のくだらない笑い声の比率が大きくなってきた気がした。

『だからお前はいつま!(ハハハハハハハハハハハハハハハハハ)』

『だからお前!(ハハハハハハハハハハハハハハハザハハハザザ)』

『(ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ)』

 やがてそれは単なるノイズの音になった。

黒シャツ「……」

 画面を見た。いや画面など無かった。これはただの無線通信機だ。

『ザザザザザザザザザザザ』

月「電波ないから……ダメですよ?」

 黒くて憎いリモコンのアイツ、通話ボタンを何度か押してみる。全く効果はない。


168 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 09:01:01.44 ID:x7evJqWQo
黒シャツ「……うん」

『ザザザザザザザザザザザ』

 俺はリモコンを踏みつぶした。

『ザザザザザザザザザザザ』

 俺はキッチンから金属バットを持ってきた。

黒シャツ「……うん」

 俺は無線通信機を叩き壊した。
 金属バットだと今まで思っていたものは、よく見ると大きなスパナだった。このスパナで自分の頭を砕いて死にたいな、と思った。
 床が水飴のように溶け始めたので、立っていられなくなる。このまま溶けきってしまえば、ちゃんと蒸発できるのだろうか?
 意識が灰色にぬりつぶされていく。
 僥倖だな、と思う。

月「……ねぇ、黒シャツさん。……お外、出ましょう?」

 めまいのする視界の遙か向こうから、月の声が聞こえたような気がした。

黒シャツ「……ッ」

 ダメだ。まだ、そっち側には行けないんだよ。行ってはいけないんだ。
 一度向こうに行ってしまえば、月が本当にひとりぼっちになってしまうんだ。戻らないと、戻らないと。

月「……狂った黒シャツさんもかっこいいから大好きだけど。多分そのまんまじゃ、お外に行けないかなって思って」

 月の声が、だんだん近づいてくる。

月「だっこ、たくさんしてあげますが?」

 たった10センチ向こう側から、月が囁きかけてくる。


169 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 09:01:32.35 ID:x7evJqWQo
 気がつけば俺は泣いていた。

黒シャツ「……怖い」

 あっちの方には、もう行きたくない。

月「ちゃんと傍に……ずっと傍に、私……いるですので。だからね、こわくないよ?」

黒シャツ「……怖いよ……」

月「こわくなくなるまで、こうしてますが?」

 涙が、止まらない。
 どうしてだろう。頭はとっくに狂ってたみたいだけど、もしかして身体まで狂っちまったのかな、俺。

月「だから……ね」

黒シャツ「……」

 ……唇に暖かな感触を、ほんの少しだけ感じた。

月「……黒シャツさんも、最後に。あとちょこっとだけ、がんばるのでした」


月「私も、なるべくここに居られるように、がんばるから」


月「――消えちゃわないように、がんばるから。……ね?」



170 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[!red_res]投稿日:2012/01/14(土) 09:02:59.62 ID:x7evJqWQo
//////////

Count1 "Insanity" is over.

Next: Count3 "Possibility"

//////////



171 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 09:06:22.77 ID:x7evJqWQo
///////////////////

Count3

三日月

Possibility

///////////////////

 ……それからの、俺達の話。

 今までのやりとり、それと語るに足らぬような少しばかりの出来事を経て。俺は少しだけだが、月と素直に触れ合う事ができるようになっていた。
 何かあるたびにすぐにくっついてくる、そんな彼女との標準的なやりとりを抜粋。

月「ぴとー」

黒シャツ「……ったく。くすぐったいんだよ、お前がいっつもひっついてくると」

 口調ほど嫌ではなかった。
 いい加減引き離すのも不憫だしだの、断ってもどうせひっついてくるからだの。今までの俺はそんな風に心の中で言い訳を並べ立てていたんだろうが、正直に言う。
 コイツにひっつかれるの、ちょっと嬉しい。
 月も月で、すごく嬉しそうだった。
 風呂にも何度だって一緒に入るようになったが、湯船の中での彼女はいつも以上にほくほくしている。人と肌を合わせること、それ自体がどうにも嬉しくて仕方がないらしい。
 毎回水風呂……ってのはさすがに俺が困るので、とりあえず二人の間をとって310K――36℃程度のぬるま湯ならばということで落ち着く。今ではすっかり長風呂になってしまっているが、これもまた悪いものではなかった。

 いつ終わるかも分からない例の仕事も、これでなかなか進むようになった。
 俺の中にいまだある狂気のせいだろうか、この仕事の目的はいまだにはっきりしない。けれど、現状を何とか良くしていこうという事で、分からないなりにやる気を奮い立たせることくらいならできた。

 彼女とベッドを共にするのにも、さほど抵抗感はなくなった。
 よこしまな気持ちが浮かんでくることも無く、単純に互いの熱を共有することに安心をおぼえていた。それが果たして、男子として健全なのかは別問題として。

月「あったかいね」

黒シャツ「あぁ」

月「心の奥が、くすぐったいね」

 ……やめろよ、そういう事言われると俺の方が余計にくすぐったい。



172 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 09:06:47.75 ID:x7evJqWQo
 今まで当たり前と思っていたはずの日常が完全に崩壊してしまった割には、自分でも驚くくらい前向きに暮らしていると思う。
 ――それでも、いまだにこのカーテンをめくる事はできていないのだが。

黒シャツ「……悪い」

月「まだ、怖かったですか」

 この布切れ一枚をめくるだけ。たったそれだけの事がどうしてもできなかった。

黒シャツ「情けねぇよな」

月「仕方のない事かもしれませんでした。……ヒトはみな、弱きモノですゆえ」

 突き出したままぶるぶる震えて動かない右手を穴が開くほど見つめながら、自らの弱さを呪う。
 自分自身が相当に狂っていること。おそらくはその事実に向き合えた事で、今の俺はギリギリの地点で安定しているのだと思う。
 だが、そもそもどうして引きこもることになったのか、周りのものがうまく認識出来ないのはどういう事なのか。それらの疑問については、今になっても全く解決しない。
 多分、すべての疑問はあのカーテンを開けた瞬間に氷解する。そんな確信めいたものさえ抱き始めているというのに。

黒シャツ「悪い。また明日……頑張ってみる」

月「……ん。それもまた、アリなのでした」

 今日も俺は、伸ばした手を降ろす。幾度となくそうしてきたのと、全く同じ軌道で。
 外に何があってももう恐れないと、これだけ覚悟を決めておきながら。
 結局俺は、まだ一歩も先に進めていない。


173 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 09:07:35.31 ID:x7evJqWQo
 月がヒトとしてまともに稼働できる時間は、日に日に少なくなっていった。

月「……ふぅ」

黒シャツ「あぁ。もう寝るか?」

月「……お世話になるわけですね」

黒シャツ「すまなそうに言うなよ、全く」

 ひとつの星がこんな風にヒトの形で存在できているというのは、それだけでもはや紛れもない奇跡に違いない。そんな奇跡の、その代償がここに来て現れているようだった。当然、納得なんてできるはずがない。
 ただ、そういった事を口にしようとすると、月は必ず「ありがとう」と言い、そして少しだけ困った顔をする。「ガンバレ」なんて無責任な言葉を投げられた時の、手遅れの患者のように。
 ……「手遅れ」だなんて本当は、できるなら思いたくはないのだけれど。

月「地球食には、やはり月の石が合うわけですね。この上なくナイスコラボですが」

黒シャツ「……地球人には一生分からない感覚だよ、それだけは」

月「にゅふふ。黒シャツさんは黒い癖にシロウトでした、残念な事に」

 血色の引いた月の顔。気づけばそれが当たり前になっていた。

黒シャツ「さて、と」

月「……あ。黒シャツさん黒シャツさんいいですよう。……片付けるの、手伝いますが」

黒シャツ「……いいんだぜ、無理しなくても」

 そう言って、俺は彼女を抱き上げる。

月「ご……めんなさい」

 お互い、決してはっきりとは口にしてはいないが。
 彼女は既に、支えなしで歩くことができない。
 それでも頑として気丈を装う彼女の姿が痛々しくて、時々どうしたらいいかわからなくなる。口調だけが元気だった時のままなので、余計に。



174 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 09:08:18.55 ID:x7evJqWQo
月「……♪」

 そうして、いつからか彼女は、基本ベッドに座ったままで居るようになった。
 俺との会話がなく手持ち無沙汰のときにはたいてい枕を抱えながら、仕事に打ち込んだりあるいはメシを作ったりしている俺を見ている。
 彼女に自分から部屋を出て行く意志がない以上、この部屋しか行動範囲がないわけだから、それでさして不自由があるわけではない。

月「黒シャツさんとこ来て実は分かりました。私はドジなんでした」

黒シャツ「……いや。お前の場合はそれ、ドジじゃなくてさ……」

月「そうですね。何もないところでコケるの、見られるの嫌ですね。そんな時の黒シャツさんのデコピンは、それはそれは悲痛そのものでした」

黒シャツ「……」

 ただ、それでも「いつもの調子」を崩さまいとする月の態度を見て俺は思う。
 一体、何の為にそこまでやれるんだろう? コケるどころじゃなく、もはや自力で立つ事すらできない癖に。

月「……黒シャツさん」

黒シャツ「あぁ、いや。なんでもねぇ、なんでもねぇよ」

 そんな彼女の表情を見て笑っていられるほど俺は冷血ではないので、表情をさとられない程度の自然さで顔を背けた。
 残された時間は、おそらくはあと僅か。だから何とかそれまでに、外に出ないと。



175 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 09:08:44.54 ID:x7evJqWQo
黒シャツ「……よし」

月「わ。驚きは突然ですけど、どうしました?」

 俺は立ち上がり、その勢いのままでカーテンをひっつかむ。

黒シャツ「ぐ……っ」

 頭……いてぇ。……やっぱりダメだ。

黒シャツ「ちくしょう……ちくしょう……! なんなんだよ、これ……!」

 俺は月と違う。単なる一介の地球人で、ちょっと狂っちゃっただけの引きこもりのはずだろう? 何が嫌だからこんな状態になるまで身体が拒むんだよ?

月「……大丈夫。ゆっくりでいいのでした」

 彼女は穏やかな笑顔で見守ってくれている。

黒シャツ「お前らしくねぇよな。……こと俺のこういう部分に関わっている限り、お前は優しすぎるよ」

月「え、えへへぇ」

黒シャツ「……な、なんだよ、顔なんか覆っちまってさ」

月「……ええと、なんというか。かっこいいなぁって思って……そういう黒シャツさん、見てると……ぽーっとしちゃってて……」

黒シャツ「こっちは必死なのになぁ、これでも一応」

月「はい。黒シャツさんの頑張りはすごくよく分かるでした。すごく嬉しいです、あんまり嬉しいゆえ、私泣いちゃいそうだったりしますが」

 全然違う。頑張るだけじゃダメなんだよ。お前が居なくなる、せめてその時までに一緒に外に出なきゃ。それでなければ何の意味もない。
 両手をぐぐ、と握り締める。この行為だって俺にその気がなければ、単なる頑張ってますアピールにすぎない。
 辛いフリなんかしてんじゃねぇよ、ちくしょう。悔しがる程元気があるなら、さっさとカーテン開けろっての。


176 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 09:11:26.31 ID:x7evJqWQo
月「そうだ……もう一度、私がここに居る理由。再びお話しましょうか」

 そんな逡巡が表情に表れていたのだろうか、月がふと話題を逸らした。

月「黒シャツさん頭よろしそうなので、不確定性原理とか余裕で知ってますか?」

黒シャツ「……あぁ。知ってる」

 原理と言うか、今では定理なんだけど。ものごとは常にゆらいでいる、という世界の基底にある法則だ。

『人間ごときには神の作りたもうたモノの真理など、何一つ正確に知ることができない』

 ハイゼンベルクとシュレーディンガーは過去、その諦めの境地とも言うべき結論に、偶然にも同時期に至った。
 一見さじを投げたようにも見える。だがその諦めこそが、量子の世界という神の領域への第一歩そのものだった。
 諦めなければ手に入らなかった、かけがえのない真実。――皮肉にも程がある。

月「あれは本当ですが? 私が月で、ここに居るってことも。やっぱり黒シャツさんは、信じてくれないかもですけど」

黒シャツ「……量子力学なら、引きこもる前にちょっとかじってた。だからお前の言いたいことも何となく分かる。少しファンタジック過ぎる解釈だとは思うけど」

月「物事は、けっして一定ではいられない。世界は、非常識なのが当たり前なのでした。言い換えれば――起こりうる事は、全て起こっていいんですよ」

月「たとえば、黒シャツさんがこの壁を突き抜けて外にすーって出ちゃうとか、黒シャツさんから放射能がだーだーもれもれするとか。可能性はゼロとイコールじゃないですね。ものすごーくちいさいけど、起こりうることで」

黒シャツ「人体に影響するほど漏れてないことを祈る」

月「黒シャツさんが、月の石をおいしそうに頬張る可能性も、ゼロではないですね。やったー」

黒シャツ「今更ながら言っておくが、その可能性は完全にゼロだ。ていっ」

月「あにゃ」

 今の彼女にデコピンするのはさすがに良心が咎めるので、軽くチョップ。頭を抑えながらにゅふふ、と笑っている。

月「……でも、衛星がヒトになることはできました。だから可能性はゼロじゃなかった。そして、大好きな貴方に出会うことができました。だから可能性はゼロじゃなかった」

 普通に考えて起こるわけがない、なんて事が起こる。それは、つまり。

月「――それはいわゆる奇跡、ってやつでした」


177 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 09:12:03.84 ID:x7evJqWQo
黒シャツ「陳腐だな。……でも、悪い奇跡じゃない」

月「それももうすぐ、終わりますけどね」

黒シャツ「……終わる」

月「はい」

 正直あまり考えたくないことだが、そんな弱気な事を言ったらおそらく目の前の少女は悲しむんだろう。
 月は現実を見つめていた。起こりえないはずのことが起こってしまった、そんな現実を当事者として、そのままの形で見ていた。だから彼女は気休めなど、最初から望んでいない。

月「あのですね。本当は、こういう話もしたくなかったですよ。しばらくの間、憧れのヒトと一緒の時を過ごせて、楽しかったねでさよならでお別れして、ヒトの形は消えて、それで全部元に戻る。それでよかったなって思ってたんですよ。目の前で消えちゃうの……なんだかすごくロマンティックだけど、とても寂しい事でした。私はほくほくだけど、黒シャツさんいっぱい泣いちゃう」

黒シャツ「別に泣かねーよ、お前なんかの為に」

月「はい、当然強がりでした。星はなんでもお見通しですね」

黒シャツ「……」

 相手が星じゃなくても分かりやすい動揺だった。そんなの泣くに決まってる。

月「だから消えちゃうギリギリまで居るの、どうかなって思ってたんですけど。本当はもうとっくに、さよならしてるところでした。でも……」

 ひと呼吸の間をおいて、微笑む。



178 名前:@回想[sage]投稿日:2012/01/14(土) 09:13:17.35 ID:x7evJqWQo
///////////

月「黒シャツさんが悪いんです。私のこと、居たらいいなって……言ってしまったせいです。だから私の存在は、事実として確定しちゃいました。それはもう宇宙的に、覆せなくなっちゃいました」

黒シャツ「俺が一人でこうやって引きこもってる時くらい、信じたものを実存させてくれてもいいよな。俺が居たらいいなって思って、そう信じた結果、お前がここに居て」

黒シャツ「……そんな曖昧なもんでいいじゃん。二人しか居ない世界なんて」

月「私に居てほしいって、思ってます? 黒シャツさん、そう思ってくれてます……?」

黒シャツ「……そうだな」

///////////

 ……そうだ。確かに俺は月に、存在していてほしいと、そう願った。『願ってしまった』し、『存在を信じてしまった』。

月「だから、しょうがないです。ロマンティックになっちゃうの、自業自得です」

黒シャツ「そっか……自業自得ね」

月「……憶えておいてください。この宇宙は、黒シャツさんが思っているよりずっと自由なんですよ。そして――」



179 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 09:13:44.01 ID:x7evJqWQo


「宇宙はとっても、やさしいのでした」





180 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 09:14:19.77 ID:x7evJqWQo
月「とってもおっきな身体してるけど、絶望は絶望だけで終わらせない、そんな存在なんでした。もしかしたら黒シャツさんに、救いを与えたがっているのかもしれませんですけど……よいしょ、あ……やっぱダメでしたね」

 言いながらベッドから立ち上がろうとするが、足元がおぼつかない。

 手を貸してやると、立ち上がる勢いでそのまま抱きついてきやがった。……まぁ、こっちの方が立つには楽チンか。

月「……というわけで、もうすぐ『私』は消えます。あと100時間も居れたら、なんかご褒美くれてもいいくらいです。できるならせめてそれまでに、いっぱいのときめきが欲しいのでした。ちゅーとかだっことか、してほしいです。てれてれ」

黒シャツ「なんか……なんかねぇのかな。色々、できそうな気もするんだけど」

 彼女のポーチに入っている夥しい量の薬剤を思い出す。茶色いアンプルには確かに"Morphine"――モルヒネと、そう表記してあったような気がする。
 しかし俺にとっては、彼女の正体など本当にどうでもよかった。ヒトであろうが、星であろうが、もはや重要なのはそんなチープな部分じゃない。ただ単に、彼女と一緒に居られるならなんでも良かった。
 末期患者向けの放射線治療もブードゥーのまじないも、こうやって俺が彼女の手を握り続ける事も、彼女を救う選択肢としてそれらの全てが等価値だった。

黒シャツ「何でもいい。俺、やるから。お前と居られるなら、細かい事なんてどうなったっていい」

 そう言うと月は、その反応を待ち受けていたかのように笑って首を振る。嬉しいな、とかすかな声を響かせながら。

月「でも……これはもう、しょうがない事ですね。あと50億年もしたら太陽が膨らんで、私が巻き込まれて死んじゃうのと同じくらい、しょうがない事なのでした」

 返事の代わりに、抱擁を強める。せめて今だけは、消えてしまわないように。

月「ねぇ……一緒に来ますか?」

 月の問いかけ。

月「私は、ほんとは黒シャツさんに一緒に来てほしいんですが。一緒に星になって、ずっとぐるぐる周りたいんでしたね」



181 名前:[SANITY]=12 [FLAG]=XXXX[sage]投稿日:2012/01/14(土) 09:19:13.61 ID:x7evJqWQo
月「……ひとりは、やっぱり寂しいんですよ」

 彼女の表情にかすかな影が差し始めた。

月「寂しいから、40万キロ離れた地球を眺めて、過ごしてきたんでしたね。45億年、そればっかりの毎日で。……でももうなんだか、ヤになっちゃったんです。だってね、その45億年よりね……黒シャツさんと過ごした本当にちっぽけな時間の方が、何よりも素敵だったですゆえ」

 懇願するように見上げる瞳の中身は、俺にだって想像できる。
 孤独。45億年とは言わないまでも、俺だって相応に味わってきた経験だ。……おそらくは、普通の人間がまず遭遇しえない程度の長さの孤独を。
 俺だって、もう嫌だ。ひとりで居るのは、もうまっぴらだ。
 ぎゅう、と。月の抱きつく力が少しだけ強くなる。

月「たった2mにも満たない小さな小さな生命体のはずなのに。黒シャツさんと居るとあったかい、熱を感じるのでした。太陽なんかより、ずっと優しくって、ずっとあったかいやつです」

 俺の胸に顔を押し付け、やっぱりあったかい、と再確認するようにつぶやいた。
 二人で星になれるのなら、寂しくはないのかもしれない。カロンと冥王星の話ではないけど、隣同士でぐるぐると回れたなら、あるいは……太陽系が消滅するまでの、残り50億年くらいは飽きずに過ごせるのかも。

月「ねぇ、黒シャツさん。だーいすきです」

黒シャツ「……あぁ。俺も好き」

月「えへへぇ……やった。……なら、一緒に来てほしいな。……ダメかなぁ」

 そんな事を言われてしまうと、俺は……どうすればいい?

/////////////////////////
A【……うん、一緒に行こう】
B【……まだ、ここに残るよ】
/////////////////////////

<!Caution!>
この選択肢で最終的な黒シャツのSAN値が確定します。




 
183 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 09:56:35.40 ID:fsCzTcgSO
ここまできたら狂ってしまえ




184 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/14(土) 09:57:13.48 ID:phHnZ52AO
A!A!


185 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国・四国)[sage saga]投稿日:2012/01/14(土) 10:01:42.82 ID:l06k5ssAO
A!

いあ、いあ!


186 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 10:11:14.67 ID:x7evJqWQo
3票入ったので、Aで進行します
エンディング先が、確定しました
おめでとうございます



187 名前:[SANITY]=8 [FLAG]=XXXX[sage]投稿日:2012/01/14(土) 10:14:01.21 ID:x7evJqWQo
/////////////////////////
A【……うん、一緒に行こう】
/////////////////////////

黒シャツ「そうだな……俺は、」

月「あ。わーっ、わーっ! 失言ですがっ、今のなしの方向でっ!」

黒シャツ「むぐぐ」

 と、答えようとすると月が両手で口封じにかかってくる。

月「うー! だめだめーっ。だめですよう!」

黒シャツ「いて、いてて。こら、至近距離から顔を殴るな……」

 真面目なシーンで何をやってるんだよ、全く。

黒シャツ「で? とにかく俺は黙ってりゃいいんだな?」

月「多分どっちの答えでも、私。聞いた瞬間、泣いてしまいそうだから。……だめです、ほんと、だめなんです」

黒シャツ「……そっか」

 今でも充分、涙目になってると思うんだけどな。もちろん口には出さないが。

月「だから、どうか私に。覚悟するだけの時間をください……涙を我慢するだけの、時間をください。お別れするでも、一緒に行くでも、あなたの答えを聞くときには笑ってたいですゆえ」

月「そしてワガママですが。……できれば、来るべきその時までに……カーテンを、開けてください。そして――『外』を見てください」

 そうだな。そっちのが先だ。俺がどちらの選択肢を選ぶにせよ、まずは外に出られなきゃどうしようもないのだ。
 大丈夫、何も怖くなんかないさ。自分に言い聞かせる。
 身体全体に彼女のぬくもりを感じる。少しだけ勇気が湧いてきた。

月「宇宙はあなたにとってもしかすると、私が信じているように優しいものではないかもしれませんでした。あなたが思っている通りに残酷なものなのかもしれません。それでもやっぱり私は思うんです。宇宙は、世界は、見れば見るほど綺麗なものでしたと、そう思うんです」

月「それはもう……狂おしいほどに。狂ってしまいそうな、くらいに」


188 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/14(土) 10:14:27.40 ID:x7evJqWQo
 幼い頃に見た夜空に浮かんでいた、あの月を思い出す。あの記憶がなければ、今俺はこの場所にこうしてはいない。
 過去に後悔はしたが、その全ては今すぐにでも取り消そう。あの記憶がなければ、彼女と会うことすらなかったのだろうから。
 ――明日にでも、カーテンの向こうを見よう。そう決意する。

 そうしたら、二人で天体観測をしたいな。
 見つからなくなった月を探すのもいい。彼女なら本人だから、すぐにその場所を教えてくれるに違いない。
 抱擁を緩やかに強めていく。月が身をよじるのが少しだけくすぐったい。また少しだけ勇気が湧く。

黒シャツ「……宇宙が綺麗なのくらい、とっくに知ってるんだよ。ずっと見てきたから」

月「はい」

黒シャツ「明日……きっと、カーテンを開けるよ」

月「……はい」

 ――俺はもう、迷わない。


189 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/14(土) 10:15:41.42 ID:x7evJqWQo
//////////

Count3 "Possibility" is over.

Next: Count7 "???"

//////////



 
192 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 01:08:15.45 ID:xDmDQPzAO
恥を忍んで申し上げる






頼むから二人をハッピーエンドに導いてくれよォォォ!!!


193 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 02:03:01.54 ID:afjEje/IO
>>192
わかりました 責任を持ってハッピーエンドに向かわせるからがんばってください

更新は朝から昼にかけて



194 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 09:06:46.50 ID:vwkTuqxCo
 ――そうして、今一度カーテンの前に立つ。
 深呼吸を大きく、一つ。
 大丈夫、決意は1ミリだって揺らいでいない。

月「……黒シャツさん」

黒シャツ「ん?」

月「……無理はしなくても、いいですが?」

 俺のシャツの裾をぎゅっと握り締めながら、月が声をかけてきた。

月「がんばってる黒シャツさん、大好きですけど。苦しんでるの見るの、辛いでした」

 本当に、今更こいつはこんな事を言うんだ。あれだけ自分で、外に出てほしいって言っていたじゃないか。

黒シャツ「天体観測をしよう。一緒に月を見ようぜ」

 ――だから今日は、二人で空を見るんだ。

黒シャツ「俺さ……本当はずっと、天体観測が好きだったんだ。なぁ、"TLP"って知ってるか?」

月「……てぃーえるぴー?」

黒シャツ「子供の頃にな、輝いてる月を見たんだ。……それ以来ずっと、月から目が離せなくなっちまってた」

 ふと、昔のことを思い出す。こんな告白も今更だけど、カーテンを開ける勇気が湧いてくるならば悪くない。

黒シャツ「親にねだってさ、すんげぇ駄々こねて、すんげぇ高い望遠鏡買ってもらってな。こんなガキの頃だぜ?……それで、月のことをずうっと見てた」

月「うん、知ってますよ。……私はちゃんと、知ってます」

 月の満ち欠けを数えながら、飽きることなく過ごした幼い日々。
 ……思えば、俺はあの頃から月に恋をしていたのかもしれない。

月「にゅふふ。……私はね。その時からずうっと、そんなあなたのことが大好きでした」

黒シャツ「……そっか」

月「そうです」

黒シャツ「……あはは……、ちょっと抱きしめて、いいかな」

月「だっこはいつでも、大歓迎ですね」


195 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 09:07:12.20 ID:vwkTuqxCo
月「んっ……あったかい」

 何が何でも外に出てやろうと思う。月と一緒に、夜空を見上げるんだ。
 いざとなるとおじけづくのも、今更だ。
 ……こんなもの、本当に今更なんだ。

黒シャツ「……行くぞ」

月「うんっ」

 頭痛はさっきから鳴り止まない。左手で頭を抑えていなければ、おそらく三度くらいは破裂している。それでも、俺は右手を引き戻さない。

月「……がんばれ」

 こちらの身体を支えによじ登ってくる月。よろりと立ち上がるとそのまま腰に手をまわしてきた。俺達に残された時間はもう、長くない。それが嫌でも伝わってくる。
 ……大丈夫だ。いける。

黒シャツ「――」

 ――そして俺は、隔たりを取り払った。


196 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[!red_res]投稿日:2012/01/15(日) 09:19:32.89 ID:vwkTuqxCo
//////////////////

条件判定:

[FLAG]=XXXX → [α]=0
[BORDER]= 20 +- (6+2α) → 14/26
[SANITY]=8

FALSE.
(Mind state: "INSANITY")

//////////////////



197 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 09:20:12.51 ID:vwkTuqxCo
******************************

 ……。

 あー。

 なるほど。なるほどね。



198 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 09:22:03.97 ID:vwkTuqxCo
黒シャツ「……す、っげ」

 その目の前の事実が何を意味するのかを、俺は一瞬にして感じ取っていた。


**********************




 目の前に広がる、『外の風景』!!

黒シャツ「これが、……外」

 ……すばらしい。

 すばらしい! 世界はこんなにも素敵に満ち溢れていたんだ!!

*********

 目の前には光り輝く街並み。
 アスファルトの黒いつぶつぶ。
 天をつく摩天楼の偉大なる佇まい。
 枝を震わせる木々達の生命の営み。大小様々な産業製品達が織りなす生命賛歌のストーリィ。風、うなる風。吹きすさび、精神を撫でながら脳幹を撫でながら通り過ぎていく風。穏やかな、何もかもが穏やかだった世界。


黒シャツ「……そして何よりも」



 ……太陽の光!!!




************」「


黒シャツ「まぶ……し……い、ぜ!」



*****


199 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 09:24:19.85 ID:vwkTuqxCo
月「あ、れ……黒シャツ……さん?」


黒シャツ「ぜ!」

 すげぇ。

******
 ……す……**っげー!

黒シャツ「ぜ! ぜ! ぜ!」
******************


 ひきこもってばっかりいたからこの刺激は目にまぶしいや!!! うははは!!

黒シャツ「こんな事してる場合じゃねぇ……さっそく、アイツにメールだ!」
 あれ、携帯どこにやったんだ? 携帯携帯!!


**************************

月「ど、どうしましたか、黒シャツさんっ。……喜ばしいのが、よくわかりませんですけどっ!」

 こいつの影に隠れているのかもしれない。あ、そういうことか。邪魔だというそんな事実が露呈してしまったという寸法ね。

黒ツャシ「うるせぇ!」
スパナと金属バットが曖昧な状態でゆらいでいるモノで排除する。

月「ぐ、うあぁっ!」

*********


200 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 09:25:25.33 ID:vwkTuqxCo
*****

 お、携帯発見! いつの間にGPS機能もついてるとは、なんて運がいい。

 赤外線を照射してメールを脳から直接送信……これでよし、と。

月「く……くろ……シャツさ……ん……!?」

黒ツャシ「何お前。……どうして、まだ居るの?」

 目の前になんか転がってた。誰だっけ。
 ……そうだ、この子俺のカノジョだった!!

黒ツャシ「ほら、外はこんなにも清々しい青空なんだぜ!! お前も一緒に外出たいんじゃなかったのか、デートしようぜデート!」

 ちゃんと俺の言葉が伝わるかどうか自信が無かったので(俺はどうやら、狂っているらしいので)、とりあえず首を締める事にした。

月「く、くるし……黒シャツ……さ……っ!!」

黒ろツゃシ「な? そんで駅前でアイスクリーム食べよう!! そしたらお前ドジだからほっぺたにクリームつけるからさ、ったくよーもうって感じですくいとってやるよ。……あー、パフェでもいいなこれ! そんな夢みたいなシチュエーション!」

墨ろツやノ「なに、金の事なら気にすんなって。なんたって俺の両親、宝クジで超1等の10億円当てちまってんだからさ。このまま南極海をクルージングだってできるんだぜ?」

月「ひゅー……ひゅー……っ……!!」

ネズミ「オーケイ、じゃあまずはその格好だな。着の身着のままじゃ恥ずかしいだろ? お前にもなんか買ってやるよ、俺もこのシャツだけじゃさすがに外は辛いしな」

月「あ……あぁあ……うァ……!」

 なんだよ、恥ずかしがりやがって。そんなに俺とデートするのが恥ずかしいんだろうか?
 このツンデレめ!

ネズミ「何黙ってんだ、てめぇ」

 おしおきはしないでおこう。その代わりに、握力を少しだけ強めるのは俺なりの愛情表現だったのだ。



201 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 09:26:56.27 ID:vwkTuqxCo
月「ぎ……あぁ……ふ……!!」

ヒャず墨汁「そうだな、うーん……どうしよっか? どこでも連れてってやるぜ?」

月「……っ……!!……っ!!」

************************

月「……」

田セふぁツ「なぁ、どこがいい?」

月「」

くhげs「あぁそうか、し○むら? ……お前な、そういう時くらいちょっと贅沢言ってもいいんだぞ?」

 あ、メール来た! やっと来た!
 量子テレポーテーションを使って最大戦速で参上つかまつれ……だってさ。ったく、ヤツも無茶ばかり言いやがる。誰がひな壇ごときにいつも上がってやってると思っているんだ。
 アドリブがきいたりするのは20代までなんだぞ?

臓物「おい、月? どうした、さっきから黙ってたりして」

月「」

 あれ。返事がない。

黒ツツ「……なんだ。月のヤツ、しんじまったのかー」

元・月「」

 ポイ捨ては過料2000円が発生するので、先に2000円を口に突っ込んでから萌えないゴミの日に出しといた。

元・月「どさっ」




202 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 09:28:33.21 ID:vwkTuqxCo
ガフの音「確か代わりの月がここに……」

 さて、ここで倉庫の出番なのです。何しろ四次元倉庫なのであるものは何でもあるし、ないものも何でもあるのです。
 唯一無いのは……、ウチの女房のヘソクリだけさ。(ハハハハハ)
 OH……って感じの声が客席から聞こえてきました。この分なら予選は無事に通過出来そうだ。

黒シ&ツ「……お、発見したよ!」

月「はいー」

kろ$$「……って、あれ? お前さ、なんか背伸びた?」

月「はいー」

銀色のはね「あ、そうか。15センチだけ正確に浮翌遊してるのか、なるほど、なるほど、なるほど、なるほど」

月「はいー」

%ツァし「…………………まぁいっか!!!!!!!」

月「はいー」

まぁいっか!!!!!!!

ぶヂョえ「……よっし行くぞ、月。いざ、待ち望んだ――俺達の外の世界へ!」

月「はいー」

***************************************************************************************************


203 名前:[SANITY]="too late," [FLAG]=LOVE&PEACE[!red_res]投稿日:2012/01/15(日) 09:31:40.62 ID:vwkTuqxCo
/////////////////////////////////////////////////////////////////





WORLDISOVER.





NeXt: insane END "HAPPY END"

///


////////////

/////////////////////////////////
////



204 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 09:33:58.18 ID:vwkTuqxCo
今日は、ここまで
ハッピーエンドおめでとうございます
みなさん、さようなら


205 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 10:09:39.83 ID:5ExhzPlSO
こんなハッピーエンドがあってたまるかwwwwww

かまいたちの夜に例えると、完じゃなくて終をみた気分だ


206 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 10:13:54.82 ID:vwkTuqxCo
今日はここまでって言ったけど
今日はおるすばんなので暇だからまた後で最後までかく


207 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 12:30:07.18 ID:vDNTdDFIO
外見るとイかれるのか?


208 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/15(日) 12:41:10.62 ID:KSSiFYul0
Happy Endなのか....
まぁ乙

何故月はあんな感じになったんだ?


209 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 14:21:11.98 ID:xDmDQPzAO
こんなマジ基地ハッピーエンドがあってたまるか。置いてきぼりってレベルじゃねーぞ


210 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/15(日) 15:24:26.48 ID:vwkTuqxCo
おはようございます
初回はこんな形になってしまったけど、とりあえず最後まで書く

説明:
[SANITY]は黒シャツのSAN値 カーテンの向こうを見た時に耐えられるかどうかに関わる数値
[FLAG]は黒シャツと月の距離 2つ以上立てて、カーテンの向こうに耐えられたらら一番いいのが見れる あと立てるほど月が癒してくれるのでカーテンの向こうがよく見える
今回はフラグ全折りしたみたいです

以降最後まで電波文ですのでいやだなって人は飛ばしていいです


211 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 15:31:51.71 ID:vwkTuqxCo
//////////

Insane End

"ハッピー・エンド"

//////////

月「……ーちゃん……」

愚者「……んんっ……」

月「おにーちゃん、おにーちゃん起ーきてっ」

愚者「はい。おはようございます」

 しゃきん.

 直立不動.

月「はいー、おはよございましたー」

 何の変哲もない緑色の朝.直立不動で目がさめたので、外の光景を改めて舐めてみた.
 ぴちゃり、と窓を開ける.
 ――大体、電気分解をするには十分な程度の光量だった.どうもありがとうございます.

愚者「……って、お前時間見ろよ!!」

月「はいー。……ふひゃわあ! もうこんな時間!」

 浮翌遊している目覚まし時計を手に取る.
 375時0333分.このままでは顕現は確実だ.

愚者「朝飯食ってる場合じゃねぇ! 行くぞっ」

月「ふぉぉっ。まだ食べきれてないのにーっ」

 臓物を口いっぱいに含みながら、月が抗議する.全く……こんな時に呑気なものだ、近海灘でとれた貴重な初物を口いっぱいに含みながら現状を無視するなどと.

愚者「じゃあもう走りながら食べろよ、もうっ! あーほら、ちゃんと拭きなさいっ」

月「えへへー、ごめんねー」

愚者「もうお前、生臭いよ! 生ごみと間違えちゃうぞそのうち!」

月「優しくしてくださいねー」

 ハンカチを空の彼方に放り投げる.きっとそのハンカチは朽ちた後雨となり、大地を濡らすことで連綿とした悪意のサイクルへ飲み込まれるのだろう.
 俺としてはさっきから後ろで見ている目と鼻の位置があべこべになっている50代の男が気になるのだが、それはまぁ次回以降のお楽しみにとっておくことにした.

 刃物.


212 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 15:32:38.49 ID:vwkTuqxCo
月「いってきまーす」

愚者「いってきまーす」

月のような物体『いってきまーす』

 嘲るような笑顔で、俺たち2~3人は外に飛び出す.
 ――ガンマ線と極短波まみれの、ごくごく平和な朝だ.
 今日の『上』からの指令は、周りをうごめいているヒトの形をした悪意ある羽虫の化身を34体ほど引き裂くこと.横より縦に裂いた方が望ましいそうだ.
 片足がうずける.魚介類だな、と思う.

月「ねぇ、おにーちゃん」

愚者「はい、なんでしょう」

 あさっての方向を向いて応えた.

月「あのね。私ね、昨日から隙間が見えるようになったんだよ!」

月のような物体『たとえば小説の3ページと4ページの間とかにね、小人さんが手招きしてるのっ♪』

愚者「へー、そうなのかー」

月のような物体『こん●な感じで●ねっ●●』

月「そうする●とね、こう●●やってね。おっきな斧を持っ●て……よいしょ、っと●●●」

愚者「おいおい、そりゃ大した大業物だな。高かっただろ?」

月「えっとね、し●むらでニーキュッパだったよっ」

 3人で走りながら登校中、両サイドから話し掛けてくるので鬱陶しいことこの上ない.
 常時ステレオっていうのは、考えてみれ●ば贅沢だけど必要のない機能だからな.悪い言い方をすれば、リモコンのようなものだ.
 『』サイドがツンで、「」サイドがデレ.
 どっちも猟奇的なところは……、これは多分親に似たんだろうな.今も道路の裏側でしゃぶってるけど.

愚者「なんだ安物か。安物ってのはつまり偽物じゃないか」

 大業物なのに???
 なんだ……単純に、俺は裏切られたのだ.
 どうやら水はくだらない好意を了承するために、はしかのような物体でもってちょんぎってやろうという魂胆らしい.

愚者「いい加減お前の本物を見せてみろよ!!!よ!よ!」

愚者「よよよ!!!」

かつて月だった物体『ごとり』

 ゆえに、斧を使用することで分離するのも、ままあることなのだ.ここでは不良品に近い概念かも知れない.

月「……あ。なぁんだ、人形だったんだね」

 またつまらぬ首をもいでしまった.合唱(原文ママ)
 ……それでも血の色だけはリアルなんだな.透き通るような海洋生物と同じ蒼.いやぁ……感心したかも.
 都合によりお見せ出来ませんが、首をもいでも彼女の身体はちゃんと直立不動です.

月「でもおにーちゃん、後始末大変だよこれ……」

愚者「あー、もう。わかったよ……」

 しぶしぶとビタミン剤を取り出し(透明な結晶をあぶったものだ)、抜け殻に注入する。

愚者「これでよし」

月「うんっ、じゃあ早く行こっ」

 後ろで水風船が破裂するような音が聞こえたけど、それもまた別のお話.


213 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 15:33:04.34 ID:vwkTuqxCo
 ――って、

月(トースト付き)「ふわぁぁ!!」

愚者「うぉぉぉ!!」

 37番目の曲がり角で月とぶつかった.
 あぁ、激突したのは妹の方じゃない.そっちはちゃんと生きて蠢いているので働かなくても生きていける.
 俺が言っているのは、トーストをくわえたほうの月だ.直接バーナーであぶってるのはいいが、少し焦げ臭い.さらに言うと結晶とか(ゲームにおけるドットのようなものだ)も身体から溢れ出している.
 ははぁ、さては自分の顔も焦がしてるんだな.来年辺りに流行りそうじゃないか、そういうの.

月(トースト付き)「あ、アンタっ……今朝のぱんつ覗き魔っ……!?」

愚者「あ。待って、それは学校についてからのセリフ。今は俺がパンツを見たりする番だから」

月「お、おにーちゃんのバカっ……」

 あー、この予定調和ぶりがたまらねー.


214 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 15:35:30.78 ID:vwkTuqxCo
 と、言うわけで学校に到着.
 当然のようにクラスメイトは全員月だった.
 すえた臭いが鼻をつくが、よくよく考えてみるとこれはさっきから後ろにいる50代の中年男の臭いだった.

月2号「おはよー」

月3号「今日の重力についてだけどねー」

矢立深月「どうして首なんか締めちゃったんでしたか?」

月14510号「わいわいっ」

月11056号「ざわざわっ」

 総勢42名の月・月・月.
 &月.
 浮翌遊している者や天井に立っているもの、半分地面と一体になっているものや常に半透明なヤツなど、よりどりみどり.食べ放題.1袋300円なら買いだ.
 まさに圧巻の一言……だと、思う.これは、本心から言える.

 ……実際俺は、月の事が好きだった.
 本当に――好きだったのだ.
 だから、こんなシチュエーションはもはや幸せ以外の何者でもない.
 ……間違いなくこれは、俺にとってのハッピーエンドなんだ.ハッピーエンドに違いないんだ.そうでなければならない.
 ループの果てにあるような、真相の先にあるような、俺が安寧のうちに救われる楽しい楽しい日常なんだ.
 俺はギリリと自分の胃袋を噛みながら、(涎/よだれ)を垂らす.にわかに蟻がたかりだしたものの、そんなものは些細な問題に過ぎなかった.

月(先生)「はいはーい、それでは授業を始めますよー」

 先生の月がチョークをまき散らしながら突入してくる.おいおい、まるでこれじゃあライスシャワーじゃないかっ.
 でもそういうのも楽しそうだなぁと俺は思うわけで.

友人『――なら、一緒に楽しもうぜ?』

愚者「うんっ!!!」

 友人が安全装置を自ら外しながら手招きしてくれていた.
 言い忘れてた.俺は朝起きた時からアサルトライフルを手にしていたんだっけ.
 彼の名は98式小銃.またの名を……バディ(相棒)と呼ぶ.俺の唯一無二の、親友さっ.(どっ)
 正真正銘の、制式装備ってワケ.
 というわけで、お楽しみの虐殺タイムです.おめでとうございます.

愚者「わーいっ★」

 歓声をあげながら、俺は撃鉄と引き金を手当たり次第に、引いて、引いて、引きまくった.
 タタタタタン、とミシンのような音を発して大小様々な月が肉塊へと形を変えていく.
 タタタタン、タタタタン、*****ン、タタ***、タタンタ.
 総勢42名+1名の月はミックスされ、またあるべき形に戻っていく.
 nは0と同値なのだ.逆に言えば俺も月も、存在していないのと同じなんだ.
 だからこそ、世界はこうして一巡するんだ.安寧のうちに、始点と終点を融合させながら.

 幸せだった.
 本当に俺は、幸せ者だったのだ.

愚者「んーっ……現実最高ッッ!!」

 ――思わず、涙が流れてしまうくらいに.


//////////////////

[BADEND1 Insane End]
到達条件:カーテンを開けた時に正気度が低すぎること

//////////////////


215 名前:@どこか[]投稿日:2012/01/15(日) 15:51:42.38 ID:vwkTuqxCo

 ……おいおい。

 お前さんそりゃねーよ。いや、割とマジで。そんな終わり方でカーテンコールを望むなんてありえないって。
 もうね、無理だけどぶん殴ってやりたいね。ほんと。
 ってかまず許せないのがね、俺の月ちゃんになんでそんな乱暴な真似するんだって事。分かる?
 狂っちまったかなんだか知らないけど、お前そりゃさすがにやり過ぎだって。ただでさえ普段からあの子の事ぞんざいに扱った挙句にこれだからな。

 あぁ……俺?
 知ってるはずだろ、トボけんなよ。お前の友人だ。
 ほら、電話で何度か話した――え? あれは俺の妄想だった、って?
 そうだ、アレはお前の妄想だよ。アホなお前の妄想。じゃあお前がこんなところに居るのはおかしい、って?
 だーから、察しろよ。俺は、お前の妄想の中の『俺』だよ。
 ここまでイカれちまったからといって、多少は正気な部分だって、残ってるんだろう? その僅かな正気の領域で、俺とお前は対話してるってわけ。

 なぁ、月の事が好きだったんだろう? わかるぜ、俺はお前の中にいる俺だ。
 本当はこんな事になりたくなくて、もうちっとマシな終わり方を求めてたんだろう?
 ――だったらつまんねぇ意地張ってねぇでさ、もっと素直にあの子に甘えてたら良かったんだよ。
 そりゃそれ一辺倒だけじゃダメだろうけどさ、それでも今よりはもっともっとマシな終わり方を迎えられたはずだ。

 ……まぁ、説教はこれくらいにして、だ。
 『外』じゃ、なんかお前は楽しそ~に脳内弾丸ぶっ放しちゃってるけど?
 実際のところ、納得なんてしてないんだろう?


 なぁ……戻っちまおうぜ。
 なかったことに、しちまおうぜ。

 お前と月ちゃん、この間話してたよな? 俺は知ってるぜ。
 宇宙は優しい、ってな。
 どうして月がここに来たか解るか? 宇宙が優しいからだよ。
 想いが形になっていい世界、普通よりちっとだけ柔らかい世界なんだよ。ここは。

 ――まぁ、どうしてもって言うんなら止めはしねぇさ。そうやってずっと閉じこもってるのだって立派な選択さ。そうしてる限り、お前は確かに幸せで、確かに傷つかないものな。
 判断は、お前に任せるわ。俺はこれ以上余計な口出しはしねぇ。今までずっと、そうやってきたろ?

 さー、どーするよ。

//////////////////////

A【終焉を迎える】
B【もう一度やり直したい】
C【うるせぇ![ピーーー]!野郎なんかに興味はねぇよ月持ってこい月!願いを込めれば時間を巻き戻せるって?バーカ!だったら好きなエンド見させろよ!】

//////////////////////


216 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)[sage]投稿日:2012/01/15(日) 15:56:13.56 ID:eB/LHgQn0
B一択で


217 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[!red_res]投稿日:2012/01/15(日) 15:58:23.57 ID:vwkTuqxCo
選択肢に関わらず、どのような形式でやってくのかは今日明日の流れを読んでやってみます
みなさん、さようなら



218 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 16:48:24.17 ID:5ExhzPlSO
最高のBADENDだわ




219 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/15(日) 17:43:12.97 ID:KSSiFYul0
なんか鈴End思い出したorz

Bで


220 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]投稿日:2012/01/15(日) 17:58:15.47 ID:kEIOJFuAO
B


221 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[]投稿日:2012/01/15(日) 18:44:04.21 ID:BgFtgpkJo
ぎりぎりまでAそしてB


222 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/15(日) 18:46:39.36 ID:N48q8alWo
B以外考えられない。
CGも全部したいですし。


223 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]投稿日:2012/01/15(日) 19:45:54.91 ID:ROxZSCaV0
Bで


225 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/16(月) 15:13:49.60 ID:OuLj2YjIO
Bの方向でいく
既読部分がほとんどだけど、改めてコピペしていく

オートパイロットやりますか?

特定のエンディング目指して勝手に黒シャツがナイスプレーしていくか
それとも、もう一回自力で選ぶか

残りのエンディング
BADEND:
DepressEnd
WorstEnd

NOTBADEND:
NormalEnd
NormalEndPlus

一番下おすすめです
何度もやるとダレるので、黒シャツフラグ無双して一番いいのに行ったあと、他のエンドを書いてく方向でやる感じで

よろしいか



226 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/16(月) 16:06:40.60 ID:AWtzvWoSO
俺はオートパイロットしたいな

関連記事
[ 2012/02/05 07:35 ] 擬人化SS | TB(0) | CM(0)
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック:
この記事のトラックバック URL
http://yajirusiss.blog.2nt.com/tb.php/194-d6ab91b6

プロフィール

LACK

Author:LACK
うーっす
当ブログはノンアフィリエイトです
何か(不満、ご希望、相互リンク・RSS、記事削除、まとめ依頼)等はコメント及びメールフォームまでオナシャス!
SSよみたいかきたい!!!1
不定期更新で申し訳ない

カテゴリ

アクセスランキング ブログパーツ