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月「宇宙はとっても、やさしいのでした」1/4

月「宇宙はとっても、やさしいのでした」 月and黒シャツ

月「宇宙はとっても、やさしいのでした」


月「宇宙はとっても、やさしいのでした」



1 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/06(金) 23:25:45.62 ID:il0/hUlNo
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Count15

望月

"Contact"

//////////////

 ――。

 宇宙(そら)を、見ていた。

 静かな宇宙が、幼い頃からとても好きだった。

 精細なレンズを通してみる宇宙はやはり精細で、何万光年かなたから来る星の輝きが劣化しない、そのままの形で視界に入ってくる。綺麗だ。

 宇宙は今日も、当たり前のように澄み切っていた。


男「……」

 けれど、今日も何故だか月だけ見えない。
 土星さえもその形をはっきりと捉えられる程、それほど澄んだ空なのに。やはり月だけ、見ることができない。




元スレ
月「宇宙はとっても、やさしいのでした」
SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)@VIPService



2 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]投稿日:2012/01/06(金) 23:26:34.85 ID:il0/hUlNo
 ――いつからだろう、月が見えなくなったのって。
 普段はそう気にも留めない事なのに、妙に心に引っかかる。
 カーテンを久しぶりに開けて、ベランダにでも出てみようか? そうすればレンズ越しには見えない月も、もしかしたら姿を現してくれるのかもしれない。
 ……いや、やめておこう。そんな気分になれない。


 ……って。
 俺はいつからそんな事を思ってるんだろうな。自嘲気味に笑う。
 外の空気に触れなくなったのはもう、とうに昔の話だ。太陽の光、緩やかになぐ風、草木の匂い。もはや、それらの感覚さえ忘れてしまって久しい。
 つまり、全ては今更。やる気を出したところでどうにもならない。そういう話。

 蛍光灯を消し、手元のランプに灯を入れた。何かに集中するときのマイルールってやつ。ぼやけた暖色が、俺と世界の境界線をなんだか曖昧にしていくようで落ち着く。

 ……さあ、もう少し仕事したら今日は眠ろう。
 オーディオに手を伸ばそうとしたが、再生ボタンに手をかけたところでやめる。なんだか今日は、音楽を聴く気分ではない。
 ……今日『も』、か。

 鉛筆の削りかすを捨てて、伸びをする。

男「……」

 心地よい疲労感。手元には今日も少しだけ進んだ、俺のやらなきゃいけない無意味な事。
 いつ、終わるんだろうな。

 ……俺に分からないなら、誰にも分からないか。


 今更な疑問を早々に捨て、布団に潜ることにした。
 パリッとしたシーツの感触で、今日もまた少しだけ嬉しくなる。毎日面倒を押してリネンを済ませているだけの甲斐はある。
 照明を全て落としてしまえば、部屋は完全な暗闇。このままだと寂しいので思案にふけることになるが、これもやはり毎度の事。

 さて、ここで思案。

 ――我が人生とは、惰性である。
 俺の人生は、端的にはオマケのようなものだと言える。
 外部と関わりを持たず、生活が自宅の中のみで完全に自己完結している、そんな存在。

 まぁ、いわゆるヒキコモリってやつだ。


3 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/06(金) 23:27:27.91 ID:il0/hUlNo
 と言っても、別にどうしても外に出たくないわけじゃない。出ようと思えばいつでも出られるんだ、多分。
 ただ、何となくそんな気になれないからここに居座り続けているうちに、外に出ることがなんだか今更のように思えてきて、だ。
 そんなものは今更どっちでもいいじゃないか、と結論が出始めればこっちのもの。外に出ようが中に居ようが変わらない、だったら面倒でない方を選ぶ。すなわち現状維持のベターチョイス。
 というわけで、これも惰性。流されるままに、外に出ない。
 その惰性のおかげで曜日、日付その他、一切合切の時間感覚が失われてしまったが……まぁ、これも今更の話。


 とりあえず毎日がエブリデイで日曜日という事で。そこら辺はかなりポジティヴに生きてる。
 生きてるんだが……今更、か。いつしか諦め早くなっちまってたんだな、俺。

 考えてみれば、惰性しかない人生。おそらくこの先も俺はおまけの人生を生き続けるんだろうな。
 死ぬまで。
 今更だけど終わってるよなぁ。飯食って寝るだけの生き物って、ヒトとして。

男「……?」

 ……と、ノックの音が聞こえたような気がする。
 こんな時だってのに、一体誰なんだろう?
 新聞の勧誘ツアーだろうか、国営放送の受信料徴収ツアーだろうか。とりあえず放っておこう。
 情報弱者である事に誇りすら持ち始めている俺にとっては、どちらも無意味な存在なのだ、ヒト怖い会いたくない顔合わせたくない。つい本音がポロリ。

男「……」

 ……さて、居留守を駆使してもノックは鳴り止まないのだが。しかしこんな事でへこたれる俺ではない。


 俺の『ヒトと関わりたくない度』のメーターはとっくに最大値を振り切っている。ちょっとやそっとではこの固い決意はゆるがないんです。
 そう……惰性で生きてる俺でも、こういう時には男らしくはっきりと決めるんだぜ。ぜぜ。

 そりゃあ逃げますね、思い切り。

 という訳で、意地でも寝てやろうと思う。おやすみなさい。
 この騒音も、いわば俗世の汚れを洗い流すための修行なわけですよ。俺は清純派を目指しているわけで。はい心頭滅却おやすみなさい。

 ……。

 …………むにゃ。


 ごんごんごがんごがんごがん!!どがががががん!!ごぎんごがん!!!

男「うるせうぇっへ!!!ゲホッゲホッ!!」

 畜生!! 寝てられるかこんなもん!!
 ――ちなみに今の情けない声の主こそが、何を隠そう俺である。
 久々に声出したらむせちまったじゃないか。なんか微妙に裏返ったし、ドスをきかせたつもりが微妙に甲高くなっちゃったし。


4 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/06(金) 23:28:08.45 ID:il0/hUlNo
 それにしてもあのデタラメなノック音、というより打撃音はなんだ。これはさすがに筋金入りのヒキコモリでもスルーできるアレではないぞ。あぁ、まだ耳がキンキンいってやがるし。
 ……仕方ない。
 エントランスのロックを外し、モニターを注視。

男「……?」

 誰もいねぇ。
 ……って、足音が聞こえるんだけど。えっ、もしかして勝手に上がってきちゃったの。何それ怖い。
 やれやれ常識のない訪問者だと、ため息ひとつ。

少女「うーっ」

 普通はモニター越しに用件とか伝えてだな、あれ?

 とか思ってる間に?


少女「うううぅぅ……!!」

 いや、誰?
 あぁそうかなるほど、不法侵入者だ。
 いやいやいや、そういうのじゃなくて。

少女「うぅうぅーっ……!!」

 女の、子……?

少女「うぅうぅ!!」

 いや、なぜにうなる!
 しかもかなりの急接近! 目と鼻の先まで近づいてきてるし、なんかよく分からない事に涙目だし。何これ、いやほんと何よこれ。

少女「うー、全然返事してくれなかったですね!! 会って早々、早くもイジメの可能性が高まっていますねっ!」

 ちょ、ちょ、ちょっと待って、うん、なんか、色々カオスがアレだから待ってて。


5 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/06(金) 23:30:40.32 ID:il0/hUlNo
 ええと、今のはつまり?

 突然の来訪者は、目の前のこの少女でございまして。見た目大体12~3歳ほどのちんまい少女さんでございまして、その方がピンでいらっしゃいまして、何やら不自由な日本語を扱ってらっしゃいながら、両手を挙げて抗議している。よし、理解した。
 内容を解読したところ、どうやら怒っていると。
 先ほどまでノックをしたのに無視されたから怒っているのだ、と。ここまではオーケー。なんか喋ってる日本語が斜め上方向に難しいけど、大体こんな意図だと思う。うん。

 まずはそうだ、とりあえず会話を成立させよう。
 言いたいことは山ほどあるのだが、こちとら筋金入りのひきこもり。はっきり言って言いたい事が言えない世の中に生きちゃってるわけ。にわかに高速回転を始めた無数のクエスチョンマークから、ようやくそのうちの一つを拾い上げて、

男「おおお前だだ誰ですか!!」

 待て、俺も色々ひどい。
 その気もないのにドモり全開、つーか自分で言うのもなんだが蚊の鳴いたような大きさでしか声が出ない。あー、もう。なんだこれ!?

少女「こんなに蹴ったから足折れちゃうじゃないですか。せっかくの足なのに折れたら可哀想ですねっ」

男「そそそうですね。お前だだ誰。けばばば場合によっちゃけけいさつ」

 せめて俺だけはちゃんと喋れるようになりたいものです。第一種接近遭遇より僅か十秒。焦りを通り越して一気に達観の領域へ至る俺である。

少女「私は『けいさつ』とかではなかったと思いましたがっ」

男「いやいやそうじゃなくて!! いいいいきなり入ってくるのに、知らないヒトは失礼でして……」

 しかしだなぁ……達観した上で言うけども。

少女「はっ。……これは失礼しました。あいさつしてませんもので」


 お前本当に誰だ。
 俺の現在の知り合いにこんなのはいない(少なくとも女性の形をしているものはいない。死にたい)んだが。

少女「こんにちは、私は月でしたが。それではお邪魔します」

 一旦玄関まで引き返した後、一礼ぺこり。満面の笑み。
 再び侵入。

男「……んん?」

 二度目の不法侵入を妨げる前に、ちょっと引っかかったね。
 普通引っかかるよね、どうみてもまともじゃない言葉が混ざってたよね。
 あの、クイズに答えて旅行を当てる系のキャンペーンのクイズ並に分かりやすく混ざってたよね。


6 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/06(金) 23:31:25.59 ID:il0/hUlNo
男「あああなた……今、なんとおっしゃいました?」

少女「?」

少女「ごあいさつをして、お邪魔しますと申し上げます」

男「いや、そうじゃねぇ。どちら様とおっしゃりやがったんです?」

少女「はい。月ですが」

 またも満面の笑み。

男「……うん」

少女「ご存じないですか? 普段は地球の周りを、周期約236万秒でまわっている天体でしたが」

 そうか、なるほど。

男「ご愁傷様です」

 どうやら完全に頭のネジが飛んでいるらしかった。

月?「よくわかりませんが、それではお邪魔します改めて」

 それも、極めてひどい症状らしかった。

男「……」

月?「あれ、お茶をいれたりしないのですか? 地球の礼儀と聞いてましたが」

男「……」

月?「んん? 凍ってます? もしかして数万年ぶりの氷河期の到来でした?」

 あまりのひどさに、追い返すという選択肢も頭に浮かんでこなかった。


7 名前:@リビングルーム[sage]投稿日:2012/01/06(金) 23:32:17.59 ID:il0/hUlNo
男「……どうぞ」

月?「にゅふふ、ありがとです」

 律儀にお茶を出してしまった俺も、たいがい彼女に輪をかけてどうかしていると思う。何、この絶望の果てに残されたささやかなもてなしの心的なもの。

『お前の方がどうかしとるやろ!(ハハハハハ)』

 トーク番組を垂れ流しにしていると、ひな壇の3列目辺りからツッコミが聞こえてくる。ナイスタイミング。

月?「うわあっ、お茶ってこんなにおいしいものでしたけどっ?」

男「ふん、まるで飲むのが初めてなような言い草だな」

月?「衝撃の初体験というわけでしたね」

男「けっ、ウソばっか」

月?「星は嘘なんてつきませんっ」

 いつの間にか俺のどもりが無くなっている事に気づく。コイツ(もうコイツでいいや)があまりにアレだったんでどうやら俺の優秀な脳みそは、本来美少女を目の前にしてウブな主人公キャラが起こしそうな、素敵な出会いの予感だのフラグだのなんだの、その辺の面倒くさそうな反応をする気が失せたらしい。

 いやぁ、それにしても自分が『月』だとさ。
 虚言癖もここまでスケールがデカいと感心すら憶える。
 あぁ……それにしてもコイツのこの鮮やかに素敵な痛々しい言葉遣いって、どこかで見たおぼえがあるんだよな。

月?「むーん?」

 あと他にも色々、なんというかどこからツッコミを入れたらいいか分からない点もなんかデジャヴ。

月?「……うずうず」

 つーかそもそもだな、何の脈絡もなくこんなヒキコモリの家に上がり込んできているわけで、わざわざ俺の家を選んで上がりこむ理由など何もないわけで。

月?「ずっと……ずっと……」

 あぁもう、そんな考察はどうでもいい。とりあえずこの茶をしばかせたら帰ってもらおう。とても穏便に済んでくれる保障などないが、これ以上の面倒事はもうたくさんだ……って。
 この方、何だかわきわきしていらっしゃるけども。
 ええと、立ち上がってわきわきした後で、体重を少し後ろにためて、ぴょいんっと効果音が付きそうな跳躍を経て、

月?「ずっと会いたかったですねーっ!!!」

男「ぎゃーっ!」

 電波少女が俺のもとへダイビング。


8 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/06(金) 23:32:44.48 ID:il0/hUlNo
月?「私、あなたの近くでずーっとずーっと見てたんですよう!! 願いが通じたんですねっ。それはひとつの宇宙的な奇跡でしたねっ」

 と、そう一気にまくしたてる。頬は紅潮しつつ、適度におきゃるな声色。
 ……あ、そうだ思い出した。こういうシチュエーション、なんかパソコンのゲームみたいなのでやった事ある。
 そうそう、なんか主人公がめちゃくちゃにモテてフラグ立てまくってもげて死んで欲しい感じのゲームとかアニメとか。なんかそれに出てきそうな流れだ。

月?「もう私、嬉しくて嬉しくて核分裂起こしそうですね……!」

男「ヒトとしてそれだけは起こしてはいけない」

 記憶の底に沈み込んだ、あの手のゲームのキャラクターのイメージを引っ張り出してみる。
 あのブランドのあのゲームに出てくるあのヒロインとか。あとは、あのブランドのあのゲームに出てくるあのヒロインに、それから、あのブランドのあのゲームに出てくるあのヒロイン。

月?「私、ヒトじゃないですよ? 星なので大丈夫です。ガンマ線とか中性子線、もれもれだーだーです、にゅふ」

男「……ダメだこいつ」

 あぁ、そう。この、突っ込む手がかりすら残さないような救えない感じ。どう見ても手遅れって感じの電波を受信してるんだよ、ちょっと前のそのテのゲームのヒロインって。
 実際こうやってリアル系三次元のラブがデス過ぎてる感じで目にすると、なんだか余計可哀想に見えてくる。ゲームの主人公のような、あふれる出会いへの期待感など微塵もない。

 ――ただただ、不憫でならない。
 自然と、目付きは優しくなった。


9 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/06(金) 23:33:19.66 ID:il0/hUlNo
男「なぁ、お前」

月?「はい、なんでしょうね」

男「どこの病院から抜けてきた?」

月?「出自の事を聞いているのでしたら。ええと……あれは46億年程前にさかのぼりますけどもー」

男「あ、オーケー。話が通じない事は分かったから、そこまででいい」

月?「……? はーい」

 うん、やはり。妄想の規模も大きければ、その病根も相当に深そうだ。

男「なんかこう……持ってないか? 身分証明じゃないけど、その手のもの」

月?「あ、私持ってます。自己証明ならいつでもできるのでした、えっへん」


 あるんだかないんだか分からない胸をぐんと張ってひとしきりドヤ顔を見せつけた後、ポケットの中身を探り始めている少女。
 そうはうまくいかないだろうと思って尋ねてみたがワンチャンあるかもな、これ。隔離されてる病院がどこかさえ分かればこっちのものだ、病院の診察券かなんかあったら真っ先に電話して迎えにきてもらおう。
 よし折るぞ、こんなマトモじゃないフラグなんて爽やかにへし折ってやる。そして真のエンディングにたどりついてやる。

男「助かった。ちょっと待ってろ、ケータイ持ってくるから」

月?「ありましたね。はいっ♪」

男「……え?」

 思わず出した手のひらに乗っかったのは……白くて、まあるい?

月?「月の石ですね」



10 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/06(金) 23:33:46.13 ID:il0/hUlNo
月?「採れたて新鮮の、一番石ー」

 そう言ってにへらーって笑う。右手を振ればおそらくさっき取り出したのだろう、缶がカラカラと甲高い音を立てる。

男「さくまさんトコのドロップスじゃねぇかよ!」

 しかもハッカ味。一番需要が薄いところをピンポイントで。

月?「わーっ! 私の一部を投げないでーっ」

男「何が一部だよ、じゃあリアル月はそんなに甘酸っぱいのかよ!!」

月?「ほんのり甘くて爽やかな、いわば恋の味ですけど……?」

男「……帰れ」

月?「お母さんの味でもあるわけですね、私すごーい。わーいわーい」

男「帰れ!」

 ……とてもじゃないが、付き合ってられない。
 もう無茶苦茶だ。改めてはっきりと、言わせてもらおう。

月?「えっ……」

男「いいから元居た病院かどっかに帰れよ!」

男「俺はこんな立場の人間だから……まぁ少しくらいはいいけど。……でもな、お前みたいなのを面倒見てくれてるヤツに迷惑かけてんじゃねぇよ」

 言葉が通じなくても関係あるか、正論で正面からたたきつぶしてやる。
 そもそも俺は静かなヒキコモリ生活を望んでいるわけであってだな、こんなのに揺さぶられていたらたまらん訳だ。どうしても分かってくれないようなら、それこそ力ずくでもって……。

月?「うゆううう……」

 ……やべ、泣かれた。


11 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/06(金) 23:34:12.53 ID:il0/hUlNo
男「……お、おい」

月?「い、一緒に時を過ごしたいって思ったら……ダメなんですかぁ……?」

男「いやぁ……その、俺は別にぞんざいに扱う気はなくてだな」

月?「ずーっと気になっていたヒトと、ただ一緒に過ごしたいって思うのが……そんなに迷惑でしたか……?」

男「いやその、お前がご存知でも、俺はお前の事を知らないわけだしなぁ」

月「私はずっと見てました、知ってます。あなたは今から、知ればいいだけでした……」

 まずいな。
 なんか、俺が悪いみたいな流れ。良心の呵責がどうのこうの。冷静に見て客観的に見て、無粋を働いてるのは俺の方だ。
 でもなぁ、だからって猫を飼うわけじゃあるまいし。女の子に押しかけられてホイホイ抱き込むのが紳士のたしなみかって言われたら、それもなぁ……。

月?「ずっと、ずっと宇宙の中で、ひとりぼっちでさみしかったのに」

 彼女はうつむいたまま言葉をひとつずつ、ぽつりと投げる。



12 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/06(金) 23:34:57.68 ID:il0/hUlNo
月?「初めてしゃべれるひとができたのに。またひとりぼっちはやだよう」

 そう言って、不憫な少女は懇願した。



 ひとりぼっち。



男「……っく」

 あー。ダメだ。

 なんか……ダメだ。
 取り残されて、ひとりぼっち。
 誰からも見捨てられて、たった一人になって。
 救えないほど狂っちまって、ベソかいて。
 ……まるで、今の俺みたいだ。


男「……メシ」

月?「?」

男「メシ……作ってくるから」

月?「えっ……その、はい。え? え?」

男「机の上のモノにだけは触んなよ。仕事道具……もう今更、替えなんてきかないんだからな」

月?「ほぇー」

 あぁクソ、鈍いなコイツ。

男「居候になりたいってんだろ? じゃあ教えなきゃいけないだろ、ウチのルールをさ」

月?「……ふぉ!」

 あ、やっと気付いた。

月?「あの、えと……えひ、その……」

 体重を後ろに溜めて、勢いをつけて……?

月?「うわーんっ!!」

男「ぎゃーっ!」

 またも、そのまま胸にダイブ。非常に心臓に悪い。


13 名前:[SANITY]=20, [FLAG]=xxxx[sage]投稿日:2012/01/06(金) 23:37:16.19 ID:il0/hUlNo
月?「嬉しいよ、嬉しいよ……! 一緒に居られるんだねえ!」

男「やめ、やめろ! 俺はまだヒト慣れしてないんだ、純粋培養の健全男子なんだ!!」

月?「も……もう、わたし、核融合起こしてもいいですね!!」

男「よしんば抱きつくのはアリでも、それだけはやめてください!」

 誰も寄せ付けぬ城で優雅にひきこもっていた、俺。……のはずなんだが、ここに来て妙なきっかけで変革の兆しが現れだしたような。
 俺……これから、一体どうなってしまうっていうんだろう。無事であることを祈ろう、とりあえずは。


////////////
Count15 "Contact" is over.
////////////


14 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[!red_res]投稿日:2012/01/06(金) 23:44:45.45 ID:il0/hUlNo
おはようございます。

・1日に1度、
>>1が暇だったら1カウントが終わるまで、もしくは選択肢までのレスが投下される
・大体13カウント分くらいで終わる
・選択肢がある場合は、対象レス+5までの多数決 重複IDは考慮しない 同数の場合は対象レスの投稿時間末尾にて自動選択
・エンディング分岐5種 一度エンディングに行ったあとどうするかは読む人の総意を見て判断
・投下終了時と、選択肢を選んだ直後に、フラグ状態を名前欄に表示
・その他名前欄には、現在地などのレスに組み込むまでもない情報を適宜簡潔に表示する

これからよろしくおねがいします




 
18 名前:@キッチンルーム[saga]投稿日:2012/01/07(土) 23:08:59.76 ID:T37kmJ3No
//////////////////

Count16

十六夜月

"Luna"

//////////////////


男「……おっと」

 先程からヤカンが悲鳴をあげていた事に気づき、慌ててヒーターの電源を止めた。すんでのところでお湯を吹きこぼさずにすんだ、危ない危ない。
 このご時世、水は貴重ですからね。割とガチで。

 と、いうことで。腕まくりをして料理を始めることにする。

男「そいやぁ!」

 
 まばたき一つせぬ間にフタを取り、かやくと先入れスープを寸分狂わず無駄のない洗練され過ぎた動きで投入し、沸騰したての湯を華麗に優雅にたおやかに注ぐ。

男「ふんっ!」

 さらに絶好のタイミングでフタを閉め、すぐさまそのヤカンを用いてこれまた絶妙な力加減でプレスをかける。達人の一連の動きは、既に業ともいえる域にすら達していた。
 世界で最もカップ麺を作るのがうまい男(暫定)、俺。次期オリンピックの種目には是非、男子100
 ――今の表現がわかりにくかった人の為に説明しておくと、こうすると熱でフタがぴったりくっついて密封状態が作れるんだよね。誰が考案したかは知らないけれど、リアルでも使える立派な裏技でございます。



19 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/07(土) 23:12:23.61 ID:T37kmJ3No
 さて、しばし勘案。

月「~♪」

 つーか、リビングでのんきに鼻歌歌ってるアレのこと。

 まぁなにやら『私は月だ』とか妄言ほざいておりますが? 当然今も、信用など微塵もしておらんのです。
 中坊くらいの時に流行ってたアニメを思い出す。空から少女が落ちてくる系のやつがあった、猫が人間になってイチャイチャにゃんにゃんするやつもあったような気がする。あと天使ちゃんみたいなやつとイチャイチャにゃんにゃんするやつ。
 かたや現実。どうやら星(自称)が遊びに来る系の話だそうです。非常に壮大な宇宙ロマン。

 まぁ……黙ってさえいりゃあアレもちょっとした美少女とも言えなくもないが、あのエキセントリックすぎる言動で差し引きゼロ以下、はっきり言ってどん引き。
 安易なキャラ付けは地雷の元なんだって事をプロデューサにもクリエイターにもわかってほしいなと、俺はそう吠えたいワケですよ。


 さて、ここで彼女の妄言についての対処を考えてみる。一切スルーしていく事にするか、それともいっそアッチ側の土俵(それはそれは素敵な世界)に合わせちまった方がいいものか。
 まぁこういう迷い方ができるくらいには、俺も落ち着いてきているって事だが。
 たとえデンパ女でも、今の俺にとって話相手は貴重な存在なのだ。まして緊張も恐怖心も抱かずに話せる相手とくれば、実のところ……ちょっとだけ歓迎だったりもするんだが。


男「……そこまで『付き』合ってらんねぇよな。……月だけに」


『あーもう! お前がしょーもないコト言うから爆発してまったやないかーい(どっ)』

『結局何やっても爆発するんじゃねーか!(ハハハハハ)』

 あっちの部屋のTVから垂れ流しになっている、ゴールデンタイムのネタ見せ番組の声。またタイミングを図ったように反応してきやがる。
 今日のトリはどうやらオボンギャルドらしい。ボケの小垣江(ガッキー)がどんなネタでも結局爆発オチにつなげてしまう、コンセプトだけで見ればいわゆる1クール芸人というやつなのだが、爆発オチに至る道筋が無駄に緻密に計算しつくされてるせいでこれがまた、なかなか飽きないのだ。


20 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/07(土) 23:13:42.81 ID:T37kmJ3No
男「さぁ……道に迷えし聖なる乙女よ。うやうやしくフタを開け、その匂いに酔いしれるがいいっ!!」

 ほかほかの湯気です。熱湯三分、1ミリ秒の狂いもなく解き放たれたフタから放つ、それはそれは神々しいまでの湯気でございますとも。

月?「待望の地球食ですねっ」

男「まぁカップ麺しか無いからすまんが……ってすごい喜びようですね。地球食ですか。カップ麺如きに、あなた今更何を求めようとしているんですかね」

月?「当然っ、待ちかねてございましたので!」

 とりあえず、彼女に相対する際の結論としては、気が向いた時にてきとーにデンパで遊んでやる程度の態度を取る事にした。
 いちいち明らかな妄想を真に受けて一喜一憂すんのもバカらしいし、かと言って病院だの何だの言って、また泣かせちまうかもとか考えるとさすがに少し気が引ける。お役所仕事的な、現状維持のぬるま湯ってやつです。

月?「ほぁ、ほぁーっ! 水蒸気が、H2Oで視界がふめーりょう!」

男「うるせぇ、興奮してないでさっさと食え。伸びる」

月?「はーい」

男「ちなみに我が家のルールその2。麺は無言ですするべし。ちなみにその3は、ニンニクは入れますか? だ。ニンニクないけどな」
月?「……!」

 ネジが切れた人形みたいにこくこくと頷いている。素直なんだかアホの子なんだか。あぁ、どっちもか。
 というわけでいただきます。

 ……。
 …………うん、うまいな。やはりカップ麺はスタンダードに限る。

月?「あ。ところでー」

男「はいギルティ(有罪)!!」

月?「地球食なら既に食べましたところですね?」

 半信半疑でカップを覗き込んでみると……うわ、本当だ。

男「う……早いな」

 30秒も経ってねぇと思うんだが。いつの間にすすりきったんだこのヒト。残像すら見えなかったぞ。

月?「実に蒼き地球の味が身にしみて、それはもう大満足ですねっ」

 ……まぁ、どちらかと言えば白き化学調味料の味なんだけど。どうでもいいか。



21 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/07(土) 23:14:21.84 ID:T37kmJ3No
男「で、なんだ?」

月?「名前でしたね、名前」

男「……はぁ?」

 名前? 何だよそれ。

月?「ほら、あるじゃないですか。私ちゃんとそういうの分かりました、地球はずっと見てましたので、儀式的にはもちろん完璧を期すのでした」

男「ええと……つまり?」

 こいつはその、なんだ……名前を付けてもらいたがっている、と。
 何か心なしか、

月?「にゅふ、一大イベントですねこれ。星に名前を付ける地球人は数あれど、地球の衛星に真の名前を付けられるのはただひとりですからっ。幸運な上に光栄でしたね!!」

 いや違うな、はっきりとだ。なんか期待に満ちた目で俺を見ながら言っておりますが。

男「……別にそんなもんいらん」

月?「えーっ!?」

 そんな恥ずかしい茶番に付き合う神経はあいにく持ち合わせちゃいないんですよ、こっちとしては。
 えぇ、えぇ、衛星ごっこに付き合うのはギリギリOKとして、その上ラブコメ展開なんて勘弁なんですよ。背中のあたりがもにょもにょしてくるんだって。

男「もうお前、月でいいや。月だし」

月「えううう」

 命名フラグ折られて涙目ってか。ざまぁみろってんだ。

月「貴方はもっとそれっぽい名前付けるべきでしたね!! ルナとか深月とか、因幡のウサギがどうのこうのとか。そういうの、けっこうオススメでしたっ」

男「やだよそんなの、痛々しい」

 教えてくれ、コイツが仮に星だというのなら、その見るからに出所が偏った知識をドコから吸収したってんだ。

月「せっかく期待してたのにー……」

 相当に期待はずれだったらしいな。ため息ひとつ。
 まぁ、今の返答については、別に意地悪だけで言ってるわけじゃないんだけど、黙っておくことにする。
 子供の頃から『月』が好きで。その簡素な言葉の響きも気に入っていた俺にとっては、かなりまともな部類のネーミングなんだ、これで実際。まぁこれから先、口に出して言う気もないけど。



22 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/07(土) 23:14:49.64 ID:T37kmJ3No
男「いいじゃん、月。そのまんまで、めんどくさくねぇし……お前は月でありたいんだろ」

月「というか、揺るぎなく月ですが!」

男「はいはい宇宙宇宙」

月「……むうう、じゃああなたなんかGパンさんですねっ。重ねて言うなら今の私よりでっかいから、ええと、ええと……Gパンでっかさん!」

男「……それだけはやめてね。多分、お前が考えているのと違う意味で」

月「じゃあもう、あなた如き黒シャツさんでいいです……。黒シャツさんは見た目そのまんまで呼ばれる悲しみと虚無感を、私と共に味わうべきなのでした」

黒シャツ「……あぁ、じゃあそれでいいや」

月「えっ、まさか了承されるとは。……ダメージ、ゼロでした?」

 不思議そうな顔で見つめてくる。
 そりゃ幾らヒキコモリだからって、てめぇの本名ぐらいさすがに知ってるさ。でもな。



23 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/07(土) 23:15:35.45 ID:T37kmJ3No
黒シャツ「ふん。呼び名なんて、大した問題じゃないんだよ」

月「むーん?」

黒シャツ「……そんなもんは、今更なんだ。だからお前が黒シャツでいいなら、俺は黒シャツで居るさ」

 そんな細かい事は、今更どうでもいい。俺は今、そういう閉鎖的な世界に生きてるって事。

月「ふーん……あ、この四角い謎のおにく、おいしいですが」

 と決めたのを完全スルーされたので少し腹がたった。どうやら猫舌らしく、スープの方はマッハで飲むわけにもいかないらしい。

月「ふぉおおお、この黄色いふわふわの存在感の薄さと言ったら!」

黒シャツ「……」

月「ああんっ。四角い謎のおにくだけカップ山盛りのお召し上がり、したいなぅー」

 非常に機嫌がよろしいようだ。なんか一人で勝手にくねくねしてるのでしばし放置する。
 ……さて、ここまでで彼女――自称・月について、ある程度分かった事。

月「~♪」

 ひとつ。重度の妄想癖、もしくは致命的な人格障害。つまりは電波女であること。
 ひとつ。なぜか、初対面から通して俺に懐き続けていること。そしてどうやらその、既に構築された妄想――『私が月である』という主張――はどうあっても揺るぎそうにない強固なものであるということ。
 その『設定』を護る為の理論武装が今のところ完璧で、たとえその場のアドリヴであれ矛盾なく言い逃れできるくらいに頭は回るヤツなのかもしれない、という可能性。
 この点についてはまだ確信を持てるものではないが……そうだな。アレが簡単に崩れないような完膚なき妄想ならば。コイツと演じる茶番も、まぁちょっとは面白くなるのかもしれないけど。

 ……少しつついてやるか。



24 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/07(土) 23:16:20.78 ID:T37kmJ3No
黒シャツ「……そういやさ、お前。俺のこと前から知ってたみたいだけど」

月「えぇ、ずっと見てましたからずっと知ってました」

黒シャツ「へぇ、ずいぶん眼がいいんだなお前さん」

 40万キロの彼方から俺を見ているとか、普通に考えれば現実離れしている。

月「むん? 別に、そんなに遠い距離じゃなかったですね?」

黒シャツ「あぁ、そうか。そういう設定にしてあるんだな、分かった。メモっとく」

月「黒シャツさんと私は、ずっと傍にいましたからー。にゅふふ」

黒シャツ「なるほど」

 とりあえず、こいつの言い分はそのまま受け止めることにする。

黒シャツ「よし、じゃあ次は目的だな。あいにくだが俺はお前と面識がない、お前にはあるんだろうが」

月「見てるはずなんですけどねぇ」

黒シャツ「よしんばそうでも、今のお前とあの月とじゃスケールが違いすぎる……いや、ンなもんは今更だ。わざわざ40万キロの彼方のなんでもねぇ一軒家、絶賛ヒキコモリ中の俺の所に来て、お前は何がしたいんだ?」

月「わたし、黒シャツさんと一緒にお外に出たいのでしたね」

黒シャツ「……なぜに」

月「まぁその、乙女には色々あるみたいで」

月「まあ、強いて言うなら。……黒シャツさんと『でぇと』というものをしてみたかったんですね」

黒シャツ「星の癖にやけに所帯染みてやがる」

月「それは恋です。いわく運命です。すべからくそれは『でぇと』でだっこーなのでした、にゅふふ」

黒シャツ「そこだよ、それって別に必ずしもお前が月である必要……あぁ、もういいや」

 ……意味のない設定はリアリティを増す、というやつね。手が込んでるというか隙が無いというか、手遅れというか。
 月の妄想構造は、ゲリラ軍のアジトを連想させた。地の利と機動力と迷彩と少しの偶然をすべて味方につけ、自己完結している柔らかい部分への攻撃をのらりくらりとかわすようにできているんだ。
 こうなると相手の陣地を侵す事よりも、むしろ相手の構造に興味を憶えてくる。


25 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/07(土) 23:16:47.42 ID:T37kmJ3No
黒シャツ「百歩譲って、お前が地球圏唯一の自然衛星だったとして。お前もっと神秘的な衣とかまとえよ。そういうきわどいコスプレとかやってさ、少しでも神秘っぽくなろうって頑張ってる人も居るんだぞ? この広い世の中には。……けどな、なんだよ普通にワンピースって! 結局し○むらなのか、し○むらは宇宙に轟く無難なチョイスなのか!? どいつもこいつも!」

 スカートの裾を引っ張ってタグを確認した。

月「ひゃうぅっ」

黒シャツ「ぽりえすてる70%、めん30%」

 当然、普通にタグがついていたね。裏側を見れば当然、洗濯する時の条件が書いてあるんだろう。色落ちしちゃうかもとか、アイロンの温度とかの記号と一緒に。

黒シャツ「うん。神秘的な衣どころか、完全に既製品だねこれ」

月「し、し○むらは万能ですねっ。……あ、えっと、そう、地球観測しているうちに結論したのですが」

黒シャツ「そうか。宇宙的コストパフォーマンスってやつか」

 俺までおかしくなってきそうな会話だ。とりあえず生ぬるい目で見つめることにする。

月「……私、神秘とかじゃないですが。星であり、かつリアリストだったりします」

黒シャツ「ははっ」

月「だいたい、神秘的な衣とかって夢見る乙女ちっくですね。そんなの有り得ない夢物語でした。残念ながら、残念な黒シャツさんにはもっと現実を見ていただくべきですが」

 逆にバカにされた。よりにもよって、コイツから上から目線されてしまった。

黒シャツ「……ははっ」

月「私こう見えて太陽系いちの地球まにあ、あちらのモノの再現とか趣味みたいなものでしたのでー。ニホンも好きです、テンプラ、スシ、サムライかっこいーです、にゅふ」

黒シャツ「ははははは」

 ……やだ。もう触りたくない。訳の分からん理由で見下されてココロ折れた。

黒シャツ「おやすみなさい」

 とりあえずこういう時フテ寝に走るのは、ヒキコモリ諸兄の皆さんなら分かっていただけると思います。黒シャツさんのココロはいわば、硝子の結晶なわけですよ。

月「うぁ。……黒シャツさん、怒っちゃいます?」

黒シャツ「俺には理解できない事が、たっくさん世の中にはあるんですよ」

月「はいっ。それはまさに宇宙の神秘なのでしたっ」

黒シャツ「ならば心の宇宙に回帰するべきじゃないかな、と僕は言った。そうね、と彼女は言った。確かに違いない。おやすみなさい」

 元々コイツのおかげで安眠を寸断されたってのもある、いったん横になったら眠気がだんだん抗えないものになってくる。

月「むーん……」


26 名前:【選択肢1】 [SANITY]=20 [FLAG]=xxxx [sage]投稿日:2012/01/07(土) 23:17:47.62 ID:T37kmJ3No
黒シャツ「……」

 仰向けでは居心地が悪くなったので、月に背を向けるように寝返りを打った。

 多分俺の後ろでは、月が存分に顔を膨らませているんだろう。

月「外……ほんとに怖いのですね」

黒シャツ「……」

月「『でぇと』したいなって、そう言ったら。黒シャツさんはさりげなく話題を変えましたが」

 ……参ったな。見透かされてる。

月「私……黒シャツさんと居られれば、別にどこでもいいのでした。でも……できるなら二人で外とか出てみたいでしたが。それでも……やっぱり、黒シャツさんには無理な相談でしたか?」

黒シャツ「……」

 外に出る、ねぇ。
 できるならあまり考えたくない事だけども。

 ……。

/////////////////////////////////
A【……試しに出てみるか】
B【馬鹿、今更何を考えてるんだ】
/////////////////////////////////




27 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]投稿日:2012/01/07(土) 23:21:26.52 ID:hytd4x6AO
Aに決まってるだろ宇宙的に考えて

月「むーん……」←可愛い過ぎて枕に顔埋めて手足バタバタした


28 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[!red_res]投稿日:2012/01/07(土) 23:25:58.48 ID:T37kmJ3No
選択肢レス待ちの為、age


29 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[]投稿日:2012/01/07(土) 23:32:55.71 ID:hytd4x6AO
A!A!!


30 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 00:23:41.41 ID:ba97PyvSO
じゃB


31 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]投稿日:2012/01/08(日) 01:38:46.60 ID:gId17I+AO
A


32 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/08(日) 02:10:42.93 ID:NBeEgcaN0



33 名前:[SANITY]=19 [FLAG]=Xxxx[sage]投稿日:2012/01/08(日) 04:08:09.72 ID:O4lIaUbNo
/////////////////////////////////
A【……試しに出てみるか】
/////////////////////////////////

 その前に玄関から出るイメージを、心に描いてみることにする。
 とても簡単な事だ。ドアに手をかけて、少しひねって……力をくわえて。

 ……そして、その先にあるのが。


 ……?


 ………………!!


黒シャツ「……ッ!」

 強制的に現実に引き戻される。


月「く、黒シャツさんっ」


黒シャツ「っ……ッッ!!!」

 身体が跳ねる。


月「きゃっ」

 黒い何かがまとわりついてきたので、振り払った。

黒シャツ「……あう、あ……! あ……!!」

 ダメだ、このままでは追い詰められる。せめて部屋の隅に逃げこまなければ。
 怖い。
 怖い。
 怖い……………。



34 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 04:09:22.58 ID:O4lIaUbNo
 ……
 
 …………
 
 ………………。

 ……あ!


 何か鳴ってる!



 黒いボディの憎いアイツを手にとり、通話ボタンをプッシュオンだ。


友人『――よぉ、元気してるか?』



35 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 04:09:56.67 ID:O4lIaUbNo
 声の主は分かりきっている、もともと俺のメモリには一件しか入っていないのだから。ごめんな黒いボディの憎いヤツ、その機能をフルに発揮させてやれなくて。

友人『……なんだ、また発作かよ。お前、あんまり無理すんなよ』

 ……俺がひきこもり出してからも時折連絡をくれる、残された数少ない友人だ。聞きなれたその声で、安堵を憶える。

黒シャツ「……お前なんかに心配されたくねぇよ、俺は平気だ」

月「黒シャツさん、黒シャツさん……大丈夫でしたか」

 正気に戻ったところで、月がさっきからシャツの裾をつかんでいる事に気付いた。

黒シャツ「あ……悪いな、お前も。なんか巻き込んじまったみたいで」

月「そんな、そんな。別に全く意に介しませんでしたが、ですが」

友人『おいおい、お前はヒッキーくんの癖して何おにゃのこ連れ込んじゃってんだ? オレはさしずめアレですか、都合のいい時だけ利用されるご都合戦隊都合マンに成り下がっちゃったわけですか』

 ちっ。電波越しに伝わっちまってたか、今の会話。

黒シャツ「うるせぇ。これでも色々あるんだよ」

友人『黒シャツさん黒シャツさん、だって。しかもオレ好みの素敵なロリボイス。よしお前もげろ、もげちまえ。その子は後腐れなくオレが嫁にもらってやる』

黒シャツ「ははは、黙りやがれこの腐れペド野郎」

月「……うー」


36 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 04:12:31.40 ID:O4lIaUbNo
 ……。

 …………。

 通話は5分ほどで終わった。
 とりあえず生きてることが分かって安心したらしい。さんざん俺と月の事を冷やかした挙句一方的に通話終わらせやがって。大きなお世話だっての。そもそも俺と月はそういう関係とは最も遠い位置にいるんだって、全く。

黒シャツ「……ったく、大した用もねぇ癖にかけてくるんだよな。アイツは」

月「……」

 一方、月は膨らんでいた。写実的な表現が足りなかったな、ほっぺが膨らんでいた。

黒シャツ「……」

月「ぷしゅー」

 ……はい、鎮火。

黒シャツ「何が気に入らないんだ、お前?」

月「なんの話をしているのか、さっぱりでしたけど!」

黒シャツ「……妬いてる?」

月「違いますね、そんな幼稚な感情は私持っていませんでしたね! 私46億歳でしたので、チョー大人ですがっ」

 どうやら妬いてたらしい。

黒シャツ「……あぁ、もうめんどくせぇ。お前とりあえずアレだ、風呂入ってこい」

月「……おふろ」

 今、反応したな。
 ほう、地球の周囲を公転している方の割には不思議なリアクションですこと、風呂に反応するなんて。……ま、少しくらいのほころびには目をつむっててやりますか。

黒シャツ「向かいが風呂場になってる。水は出しっぱなしにしなけりゃ問題ないから。……ほら、さっさと行ってすっきりしてこい」

月「……なんか誤魔化されたような気がしましたが、ひとまず手のひらの上で操られてみることにしましたので」

 タオルを渡すと、顔ではぶーたれながらも少しそわそわした感じで風呂場に去っていった。
 全く、扱いが単純なのだけが救いだよな。

黒シャツ「……く、あぁ……」

 ……あー、眠い。
 今何時だろ。2時か?3時だっけ? 時計の針は微動だにしない。とっくの昔に電池切れだ。午前か午後かすらも知らんし、昼か夜かすらも分からん。
 分からんが、とりあえず眠いので少し休憩。
 これ重要。これができるのがヒキコモリのいいところってヤツ。素晴らしいね。
 俺みたいな立場のヤツに、時間の概念など今更必要ないのである。

 それでは、おやすみなさい。


37 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[!red_res]投稿日:2012/01/08(日) 04:14:46.35 ID:O4lIaUbNo


//////////

Count16 "Luna" is over.

Next: Count17 "Gravitation"

//////////



38 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 05:32:26.79 ID:O4lIaUbNo
月「黒シャツさんっ、私は感動しましたっ!!」

//////////////////////

Count17

立待月

"Gravitation"

//////////////////////


黒シャツ「なんだよ、いきなり大声で……ぶっ」

 突然の大声にたたき起こされ、薄目を開けた瞬間には残っていた軽い眠気も消し飛んでいた。

黒シャツ「お前……なんて格好……」

月「むーん?」

 あろう事か、年頃の青年の前でバスタオル一枚で現れるなんて暴挙を平然とやりやがる。言葉通り、容赦ない起き攻めである。
 これだから電波系女子は困るんだ。

月「よく分かりませんが、とにかく……わたしは感動しましたのでした!」

黒シャツ「人の話を聞け」


39 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 05:33:23.11 ID:O4lIaUbNo
 まぁ、まともに聞いてもらえるとは思っていなかったが、とりあえず礼儀として事の顛末を聞きただす。なにやら異常に興奮していたようだったが、つまりはこういうことらしい。
 風呂などという地球人の文化は知っていて、興味も多大に抱いていたものの、初めて体験するにその心地よさは筆舌に尽くし難いものだったと。はいはい。

月「水の持つ浮翌力は偉大ですね。宇宙にたゆたうのと同じ感覚を与えるどころか、あの暑苦しい太陽の束縛さえも振りきれるようなあの自由さ……はぁん、たまりませんっ。もう素晴らしいですね、ハラショーですね!」

 ……おおかた、先程俺が『風呂の存在を知ってる』という矛盾をついたのを受け、ここでいっちょ地球文化へのファーストコンタクトを装うことによりなんとか妄想設定の穴埋めを行おうという魂胆だろう。

黒シャツ「しらじらしい……じゃあお前、地球に引っ張られるのはいいのかよ。地球の重力の元にあるのは月的にはオッケーなのかよ」

月「私、地球おにーちゃん大好きですけど? だっこしたいなぅー」

黒シャツ「だっこ……」

 ……。
 月と地球が衝突するイメージしか浮かんでこない。ファーストインパクト説にここでつなげるのかよ、全く。


黒シャツ「お前、結構黒いよな。月と地球がだっこだの、放射能と核反応がどうこうだの、そんなネタばっかじゃん」

月「えーっ、どちらかといえば私は色白でしたけど。ほらこれ、見てください月の石。これが黒いなんて言わせませんけど!」

黒シャツ「だからドロップじゃねぇか! ドヤ顔やめろよめんどくさい!」

月「わーっ! 私の一部をゴミ箱に捨てないでーっ」

黒シャツ「……ったく。ほら、風呂上りなんだから水飲んどけ。天体だろうがなんだろうが、風呂入ったら水分が飛んじまうんだから」

月「お、おみずっ……!」

 いちもにもなく飛びつく。さっきまでの涙目はどこへやら。
 悪いな、本当ならここでフルーツ牛乳と行きたいところなんだが、生憎ウチにそんなぜいたく品はないのだよ。

月「んくっ、んくっ……んはあっ」

黒シャツ「……ただの水をそんなにウマそうに飲むヤツ、初めて見たよ」

 なんだか不憫に思えてくる。
 よくよく見れば、バスタオル越しのそれの形状も起伏に乏しい。不憫だ。


40 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 05:33:46.33 ID:O4lIaUbNo
月「――水には、ずっと憧れてましたので」

黒シャツ「ほう、そこから天体の話につなげるか。いいよ、多少位は興味あるぜ」

月「……どうせ私には、水も大気もありませんもん。ちんちくりんですし、その上ドライな女なのでした」

 水コンプレックス(?)だそうな。ついでに言うと身長(直径?)も気にしているらしい。

黒シャツ「はいはい宇宙宇宙。んなこと言っても今更だろ、太陽系衛星の中じゃデカい方じゃねぇかお前」

 なけなしの宇宙的知識で突っ込むと不満げな目線。
 ……が、俺の顔とてめぇの身体の間を往復している。

黒シャツ「いや。乳の話など誰もしていない、そんな途方にくれた目をするなよ。こっちまで残念な気持ちになるだろ」

月「その星には大きな山も大きな谷もありませんでしたとさ。平野ばかりでクレーターなんで……うわああん」

黒シャツ「落ち着け、さすがにえぐれてはいないからな」

月「エウロパさんはもっと水水しいし(原文ママ)、お乳も大きいしクールだし、うらやましいなぁとか前から思ってましたね!」

 ……ええと、エウロパって確か木星だか土星の衛星だっけか。どうやらコイツの中では擬人化すると素敵なお姉さんキャラになるらしい。

月「……ウランとかプルトニウムとかいーっぱい食べたら、おっきくなれるのかなぅ」

 てめぇの幻想で自爆して傷ついてれば世話ないんだが、また核反応だとか、そろそろ俺の手に負えない範疇まで達しそうだな。とりあえずフォローするか。

黒シャツ「でも、あれだろお前。身体が甘いんだろ?」

月「……あっ。うん、それだけは良かったところだと思いましたねっ。はむっ」

 一発で機嫌も持ち直したようだが。

月「あまーくて、おいーしい、つきーのいーしー♪(ころころ)」

 っていうか、あのハッカ飴が月自身だとすればこの絵面って共食い? タコが自分の足を食べちゃう的な? それとも第一種永久機関的な?
 ……あー。いかん、向こうの土俵に合わせてまともに相撲を取るとあっという間に精神汚染されてしまいそうになる。


41 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 05:34:13.05 ID:O4lIaUbNo
黒シャツ「つーかただのドロップですよね、それ。そこだけは何としても認めていただきたい」

月「ひどいですねっ。これ、『静かの海』原産の最高級品なんですが? 糖分とミントっぽいお味のバランスが黄金比で、ムーンセレクション最高金賞受賞の逸品ですねっ」

黒シャツ「なにその金さえ積めば獲れそうなうさんくさい賞。つーか審査員誰だよ、お前か」

月「……」

 黙った。心なしか冷や汗かいている。

月「ネタですけど。ムーンセレクションとかはネタですけど、寒いでしたっ。宇宙と同じく絶対零度ですがっ。うーっ、どーせ私は宇宙をたゆたうしがない衛星ですけど」

 お、半落ちしたぞコイツ。
 どうやらテンションが上がりだすと、出任せというか、安直なネタを口走りやすいっぽいみたいだな。……ま、いじめるのもこの辺にしとかないと不憫だ。

黒シャツ「……ところで、もう寝るわ。いくらなんでも動きすぎて、疲れた」

月「分かりましたね。地球人的な休息、この月も噂に聞き及ぶこと山のごとしでしたね」

 お、意外にも聞き分けがいいな。てっきりもうちょっと話すだのなんだの、ワガママ言うと思ってたんだが。……あぁ、いや。

黒シャツ「……」

月「ぴとー」

黒シャツ「もう一回言うが、寝るんだよね、俺。これから」

月「はい、ご存知の通りですけど」

 分かってると言う割に、余計にくっついてきている。

黒シャツ「……」

月「ぴとー」

 とてもじゃないが、一筋縄では行きそうになかった。


42 名前:@ベッド[sage]投稿日:2012/01/08(日) 05:35:39.15 ID:O4lIaUbNo
月「ばんゆーいんりょくー」

 とかフザケたことをのたまいながら、月が抱きついてくる。

黒シャツ「……負けた」

月「あれ? この場合、天体なので重力と言うべきでしたね?」

 そんなものはどっちでも良かった。



43 名前:@回想[sage]投稿日:2012/01/08(日) 05:36:44.01 ID:O4lIaUbNo
月「やだっ」

黒シャツ「やだじゃねぇよ。お前はこっち、俺はソファ」

月「そんなの聞く耳持ちませんでしたっ」

 ダブルベッドを独占した上でこれ以上何を望むってんだ。
 ……実際のところ、こやつが俺と枕を共にしたいのぐらい態度から明白に分かってるんだが、だとしても当然拒否に決まってる。
 初対面の人間で、さらに――洗濯の必要による思わぬ副産物とはいえ――こんな無防備な格好もさせているようなヤツだぞ。頼むからてめぇが爆弾抱えてんのくらい理解しやがってください。

月「あーあーうーうー。電磁波と宇宙線だーだーもれもれで、黒シャツさんの残念な音波はジャムられまくり。あふれる気持ちが伝わらないもどかしさでしたーっ」

黒シャツ「……」

月「……」

月「……ひとりで寝るの、嫌でしたが」

 上目遣いで、懇願。雨に濡れた子犬的なアレ。
 ――あぁ、そうか。遅かれ早かれ、俺は落とされるのね。と思った。
 当然これでもダメなら、次は泣き落としだ。いささか卑怯な手段だが、泣かせるのも寝覚めが悪いとなれば。


44 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 05:39:47.46 ID:O4lIaUbNo
月「宇宙はとっても、やさしいのでした」 月and黒シャツ

月「再び、じゅうりょくー」

 ……はいはい、逆らえませんよね。こうなると何でもありだ。この場はコイツの独壇場だ、そろそろ貞操の心配もすべきかもしれないな、と思う。

黒シャツ「……ふっ」

月「あっ! バカにした目をしてましたね、所詮地球の15%程度の重力じゃないかと、ののしりさげすみ……さけずみ? ええと、バカにしましたねっ」

 とか言いながら意地になって全力で抱きついてくる。
 まぁなんつーか。起伏に乏しい地殻を持っているお陰で、いくら抱きつかれても余計な劣情を催さずに済んでるのは結構な事だ。僅かばかりの憐憫すら浮かんでくる。

黒シャツ「なぁ、月。どうしてそんなにくっつきたがる?」

月「うーん、ええと。だっこのわけですか? ならそれは、単純な帰結でした」

月「……人間が、こんなにあったかいだなんて、思わなかったんだもん」

 そう言って、月が目を細める。

月「……生まれて初めて、知ったんですね。46億年生きてきて、初めてこんな事を知ったんですね」

黒シャツ「……っ。嘘ばっか、つきやがって」

 ……正面からそんな事言われたら、照れちまうじゃねぇか。


45 名前:[SANITY]=19 [FLAG]=Xxxx[sage]投稿日:2012/01/08(日) 05:42:59.17 ID:O4lIaUbNo
月「……ほんとはこんな薄っぺらい布なんか、いらんでした。互いの殻同士で熱を共有するのが、一番でしたが……そういう事言うと、たぶん黒シャツさんたたきました。そんな、そこはかとない私の予感ですね」

黒シャツ「あほたれ、当然だ」

 せめてTシャツの一枚ぐらい身につけてくれていないと、こっちの精神が色々ともたん。つーか、現状でもかなりきわどい。

月「だからね、だからね、私はせめて夜の間こうやって……薄膜を通した……だっこ……で……すぅ」

黒シャツ「……寝ちまった、か」

 こいつの正体がたとえ何であれ、まぁあれだけドタバタしてりゃあ疲れるだろうよ……。全く。

月「すぅ……んっ」

 彼女の手は力なく離れていき、そのままごろりと寝返りをうつ。暗闇に慣れ始めた目が、仰向けになった月の姿をとらえる。
 ……俺は何を考えているんだ、と生唾を飲んでから気づく。
 確かに彼女の衣服は全てクリーニング機に放り込んであり、確かに彼女は素肌の上にシャツ1枚しか羽織っていない、むしろ裸も同然の格好をしている。

月「すぅ……ふぅ……」

黒シャツ「……」

 月は、今は深く寝入り、規則正しい寝息を立て始めている。
 吸って、吐いて。吸って、吐いて。

月「ふぅ……すぅ……ふ……ん、んっ……」

 時折、のどにつっかえたようにくぐもった声が聞こえる。これは明らかに気のせいだが、今の俺にはまるで喘いでいるようにも感じられた。刹那、劣情が頭をよぎる。


黒シャツ「……」

////////////////////
A【……ごくり】
B【……馬鹿考えてんじゃねぇよ】
////////////////////



46 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[!red_res]投稿日:2012/01/08(日) 05:45:02.52 ID:O4lIaUbNo
今日は、ここまで。
おやすみなさい。



47 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]投稿日:2012/01/08(日) 05:48:32.74 ID:PNSepwdAO

A一択


48 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]投稿日:2012/01/08(日) 06:20:29.78 ID:RDC5BUG5o


Aしかないな
月が相手ならこっちもlunaticになるしかないじゃない


49 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 09:47:14.87 ID:ba97PyvSO
まだ早いだろう



50 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/08(日) 10:12:46.80 ID:NBeEgcaN0

Bで


51 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]投稿日:2012/01/08(日) 10:41:01.76 ID:q/oW3ncQ0
Bで


52 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 10:49:35.21 ID:YyPCJwRio
B


53 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]投稿日:2012/01/08(日) 11:38:21.10 ID:FyEEqsOAO
お前らにはがっかりだぜ!Aー!


54 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]投稿日:2012/01/08(日) 13:31:48.23 ID:gId17I+AO
早まるな
まだBだ


55 名前:[SANITY]=20 [FLAG]=Xxxx [イベントCG02が出ませんでした][sage]投稿日:2012/01/08(日) 17:48:07.55 ID:O4lIaUbNo
////////////////////
B【……馬鹿考えてんじゃねぇよ】
////////////////////

黒シャツ「……馬鹿考えてんじゃねぇよ」

 何を考えようとしてんだ、俺は? 女の形さえしていれば誰でもいいのかよ、ちくしょう。

月「んん……すぅ……」

 安らかで、穏やかな寝顔。

黒シャツ「月……ねぇ」

 彼女の名前(自称ではあるが)を復唱する。何度口に出しても、荒唐無稽だ。馬鹿らしいな、と思う。

月「……ずっと会いたかった、よう」

月「ちきゅうのひとに……やっと……あえたんだよー……にゅふふ」

 ったく、夢の中でまで星になりきってやがるとは。狂気じみた思い込みにも恐れ入る。

黒シャツ「……おい、こら。しまいには信じちまうぞ?」

 軽く小突いても彼女の目は醒めない。相当疲れていたんだろうか。俺もいい加減休まなきゃいけないな、でないと変な考えまで浮かんできちまうし。
 ……ったく。ファンタジーでフィクションだよな、今更だけど。


56 名前:@ベッド[sage]投稿日:2012/01/08(日) 17:48:56.85 ID:O4lIaUbNo
 ……と。

黒シャツ「……ん? 何だ、これ」

 足元に転がっている、小さなポシェット。……確かこれ、最初に月が持ち込んできたものだよな。チャックが半開きになって、そこから何かが覗いている。

黒シャツ「……」

 液体の入った茶色い小瓶。確実に密封されるように特有の形状を持ったそれは、どうやらカートリッジ式になっているらしい。
 何のカートリッジって言わずもがな、きちんと使い捨て用の針も消毒液も用意されてますし。……あーあー、それに大量のカプセルとか錠剤とかもギッシリ。
 ……これどうみても、アレがアレでアレってやつですよね?

黒シャツ「あちゃあ」

 ちょっと生々しいモン見ちまった。
 先程のアレへの罪悪感が、更に倍増しになって心臓の辺りをちくちくやり始める。……今更だろうけど、とりあえず月に向かって土下座。

黒シャツ「すまんっ!」

月「くかー……」

 ……よし、許してもらったことだし寝よう。全力で寝て忘れよう、うん。


57 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[!red_res]投稿日:2012/01/08(日) 17:50:45.56 ID:O4lIaUbNo
//////////

Count17 "Gravitation" is over.

Next: Count18 "Border"

//////////



58 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 17:58:22.80 ID:O4lIaUbNo
//////////////////

Count18

居待月

"Border"

//////////////////

 ……次の日。

月「地球人の居住空間って結局、どんなんでした?」

 アイロンを片付けているところに、月はまたもや面倒くさそうな事を口にした。

黒シャツ「……今更過ぎる」

 ため息をつく機会が、昨日から異常に多くなってきた。洗濯から上げたばかりのパリッとした衣服を身につけたのだから、もう少し爽やかで寝覚めのいい、妄想とは無縁の会話をたまにはしてほしいなと思う。

月「昨日は結局、どたばたし過ぎていたんですよね。つまり、今の私には探索が足りないのでした」

黒シャツ「あー、勝手に動きまわるんじゃねーよ……」

月「では手始めに、この部屋に隠された巨大な謎を暴いてみせますよ、はい」

 ……聞きゃあしねぇよ。普通の家の家宅捜索ならいざ知らず、とりわけ我が家の場合は引っ掻き回されると色々やっかいなんだ。



59 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 17:58:50.43 ID:O4lIaUbNo
月「ごーそっ、ごーそっ♪」

黒シャツ「まぁ、一応言及するけど。手始めにベッドの下を探すのはどういう了見で?」

月「地球のカノジョさんは家探しを始める前に、ベッドの下のえっちい本とか、机に並べて神様に捧げる儀式をするって。月はちゃーんと知ってますね」

黒シャツ「言いたいことは山ほどあるけど、カノジョって誰にとっての誰の事でしょう」

月「?」

 何を今更? という表情。いつの間にか月の中では既成事実化しているようだ。

黒シャツ「……はぁ」

 深遠なる宇宙を生き抜く上での最上の処世術は、諦めることだと悟る俺。

月「ぬ。雑誌がいっぱいありますねっ」

黒シャツ「あぁ、まぁ全部読み飽きちまったものだが」

月「おー、なんだかよく分からない黒い物体発見っ。ダークマター的なものですねっ、それともネコさん入ってるのでした?」

黒シャツ「そりゃ単なるフライトレコーダー、量子論もパラドックスも関係ありません。全く……部屋を荒らすんじゃないよ、あんまり」

月「えちいやつ、入ってるのですか?」

黒シャツ「違いますー」

月「にゅふふ、黒シャツさんは健全でいいことでしたねっ」

 純度100%の笑顔。

 ……ったく、ヘンなとこ探して荒らすんじゃねぇぞ。


60 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 17:59:24.21 ID:O4lIaUbNo
月「うわ、黒シャツばっかり干してあるーっ」

黒シャツ「あぁ、10枚はあるな」

月「ふぉおお」

 いつもの部屋の探索を一通り終え、『倉庫部屋』に探索の手を伸ばした月。

 『倉庫部屋』っていうと物置のイメージが強いが、俺の家の場合はちょっと違うんだこれが。

 何せ筋金入りの出不精だ。生活に必要な物資を補給する手段がない為に、必然的に備蓄を持つ必要が出てくる。

 これが10日分やそこらなら主婦の買出しみたいなチンケな量で済むんだが、無期限となると3LDKのうちの3部屋が倉庫になるのもしょうがない。ちなみにうち2部屋が食料品庫。

 んで、この部屋はまぁその他の物品――消耗品やらなんやらが詰め込まれてる部屋。

 どいつもこいつも飾り気のないコンテナやら段ボールやらに包装されてるあたり、『倉庫』って表現は的確なものだと思う。

黒シャツ「Tシャツなら段ボールにまだ100枚程ある。Gパンもおんなじようなのが何本もあるぞ」

月「他にないのですか? 着たり脱いだりするものは」

黒シャツ「ない。部屋着ならこれだけあれば充分だろ」

黒シャツ「何せ俺はヒキコモリだからな。今更洒落っ気なんかいらねぇよ」

月「外に出るための服がなかったのですね」

黒シャツ「……ないんだよ。外に出る服は」

 月があまりに超寂しそうな顔をするので、俺も負けじとこの世の終わりがやって来たような感じの顔をする。

月「それでは、あのワイシャツの正体不明は何者ですか? それは、私に着せる用に用意されたのでした」

黒シャツ「違うっ!……正装だよ」

月「ふむー?」

 ……って、なんの正装だっつーの、俺だってわかんねーよ。

黒シャツ「いや、女の子が寝るときの正装だからこれ。実を言うとそういうシチュエイションに憧れていた時期が俺にもありました、これは俺の若かりし頃の話ですので今は関係ありません」

 ごまかしてみた。……ん?
 あれ、これってさっきコイツが主張してた『私に着せる用』説を思い切り肯定してね?

月「やはり合点がいったそうです。がってん3回」

黒シャツ「そうですか」

 泣きたくなった。


61 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 17:59:51.36 ID:O4lIaUbNo
月「それにしても、あまねくものがひしめき合う無秩序さですねー。それはもう、いあいあはすたーな感じなのでした」

黒シャツ「まぁ、これはなんつーか。仕送りだよ」

 もちろん3部屋分の物資の買出しは俺が行ったわけではない。こんな大量のブツ、ひとりで処理出来るか。

黒シャツ「引きこもり始めの頃、まとめて送ってきたんだっけかな。業者かなんかに頼んで。正直俺も、詳しいことは知らないんだが。……うーん、これが無くなるまでにはテメェでコンビニぐらい行ってこい、っつーことだよ。多分」

 とはいえ、メニューにさえ贅沢言わなければ、現状このまま外に出なくとも5~6年くらいは生きていけるだろう。

黒シャツ「……だが改めて見ると、まとめ買いにもほどがあるぞ。我が両親」

月「両親ですか」

黒シャツ「あぁ、俺両親いねぇのよ。宝くじで超1等の10億当てて、地球10周旅行してるんだ」

月「ふぉお、地球10周ということは……ええと、私から地球までの片道に相当ですねっ」

黒シャツ「超1等ってやべぇよな、マジパネェよな!」

月「超1等が2回当たれば、見事に往復できましたね!」

黒シャツ「万券風呂とか男のロマンだよな、やっぱりあのムーンストーンが効いたのな。パワースポットが霊的条件をエクスプロジョンだよな!」

月「ムーンストーン! それなら私も持ってましたね!」

黒シャツ「やっぱりそうか! うんうん、あれなら9800円24回払いでも納得だよな! 俺けっして騙されてなんかいねぇよな!」

月「はいっ♪」

黒シャツ「よぉし、いただきまーす!」

月「……★」

黒シャツ「……」

月「……♪」

 えぇ、薄々予想はできていましたとも。

黒シャツ「……ぺっ」

月「わーっ! 私の一部をおもむろに吐き捨てないでーっ」

 コイツの妙な雰囲気に乗せられてテンション上げすぎた。少し反省。


62 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 18:00:17.37 ID:O4lIaUbNo
黒シャツ「……まぁ、つまり経済的に不安は無いっつーことになんのかな。ネオヒッキーって言い方があるのかどうかは分かんねぇけど」

月「それゆえ、ずーっと中でも暮らしていけるのですね。不思議な事です」

黒シャツ「まぁな。考えてみりゃあ不思議なもんだろうな、こういうのも」

月「あとそれなら、おみずとか飲みほうだいですねっ。お金のお風呂どころか、おみずのお風呂にも入れますねっ」

黒シャツ「それは普通の風呂だ、おバカ。あ、でも我が家ではカネより水のが貴重なんだからな。それだけは覚えとけよ」

 カネなら腐るほどあるけど、水という資源は有限です。我が家のルールは基本的にエコロジーの概念に基づいて決定されているのであった。

月「シャワーとか、浴びたいですけど?」

黒シャツ「それぐらいはいいよ。節水を心がけてさえいてくれれば、文句はない」

月「じゃあ2時間に一回くらいで、泣く泣く妥協でした」

黒シャツ「ダメ」

月「むー。4時間に一回」

黒シャツ「まず一桁の数字を出してくる時点で却下だからな。うちの水道管は本当に弱いんだ、もやしなんだ」

月「もやしでしたか……」

 我が家の水道事情は、断水と常に隣合わせだという事を分かってほしい。金は無くてもどうにかなるが、水だけは無いと命に関わる。
 まぁ今更そんな事言っても、という話なんだが。

月「……あのぅ」

 と、おずおずと月が遠慮がちに。

月「わたし……黒シャツさんと一緒に入ってもいいですよ?」

黒シャツ「あー、それは問題発言だね。ダメ、ゼッタイ」

月「でも、そうすれば少ないお水で2倍の幸せですね?」

黒シャツ「ダメ。宇宙帰れ」

月「うわぁん!」

 ばたばたばた、と暴れだす。


63 名前:[SANITY]=20 [FLAG]=Xxxx[]投稿日:2012/01/08(日) 18:01:35.03 ID:O4lIaUbNo
月「黒シャツさんのいくじなしっ。空に向かって黒シャツさんの悪行を宇宙に向けて捏造してやるべきでしたーっ」

 ばたばたばた。そうやって宇宙的不満とどす黒い不平を口にした月は……、


 おい。


 アイツ、何をばたばたさせてるんだ、さっきから?

黒シャツ「……あ」


 やばい、


 アイツいつの間にかカーテンの裾を持って、ばたばたと。


 まずい。


 外が。


////////////////////
A【そっと目を逸らす】
B【必死で止める】
////////////////////


64 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]投稿日:2012/01/08(日) 18:48:30.46 ID:gId17I+AO



65 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/08(日) 22:29:02.91 ID:FyEEqsOAO
>>44がオリ画だとするならすげー上手い。A。でもお薬って…


66 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]投稿日:2012/01/08(日) 23:31:55.77 ID:q/oW3ncQ0
Aで
>>44
オリ画なら神


67 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/09(月) 00:23:16.68 ID:I6CkBHe40
Aで
オリ画なら神だな


 
70 名前:[SANITY]=20 [FLAG]=Xxxx ことごとくパラメータ変動を回避してるね[sage]投稿日:2012/01/09(月) 03:13:49.17 ID:gB7QfiGVo
///////////////////////////
A【そっと目を逸らす】
///////////////////////////

 ……俺は、そちらから自然に目をそむけるようにした。席を立ち、あちら側を意識しないようにダイニングまで足を向ける。

月「無視ですね、無視を決め込む時代の流れですね。46億年の歴史の一部になろうとしてるんですね!」

 追いかけてくる月。

黒シャツ「いや、その、な」

月「なんですっ」

黒シャツ「まだ今は、あんまり……見たくねぇんだ」

月「あ……外、ですか」

 どうやら、俺の言いたいニュアンスを分かってくれたらしい。

 キの字がつきそうなテンションだったけど、聞き分けがいいヤツで助かった。

黒シャツ「……なぁ、もう開けてないよな」

月「うん……」

黒シャツ「本当、だな?」

 再度、念を押す。

月「私、嘘とか苦手ですね……」


71 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/09(月) 03:18:00.59 ID:gB7QfiGVo
黒シャツ「……ごめん。ちょっと俺がここから出ない理由、考えてもらえるかな」

 両手を彼女によく見えるように差し出す。ガタガタ震えていた。ダメだ――心では平気なふりをしていても身体が受け入れられないんだ。
外を。俺という殻の、外を。

月「……徹底、してますね」

黒シャツ「だって、外嫌いだもん」

月「黒シャツさん」

黒シャツ「……」

月「……ギルティ、かっこ有罪ですね」

 と、月はさっきまで伏せていた顔を上げる。努めていつもの顔でいようとしているのが伝わってくる。ちくりと痛みを感じた。

黒シャツ「……だったらどうするんだよ、処刑でもすんのか?」

月「しません。出るまで一緒に居られるです」

 月は、俺を見て微笑んだ。いつもの笑顔とは、また少し違った笑顔で。……これ、なんていうんだっけ、何か名前があった気がする。

月「……それも、幸せなことなのでした」

黒シャツ「一緒に引きこもりに付き合ってくれるって事か?」

月「です」

 あぁ、そうだ。アルカイック・スマイルって言うんだった。
 ギリシャの神々のそれに対して名付けられた、全てを見透かしたような笑顔。なんだ、そう考えたのなら何もおかしくなんかないや。
 ……だってこいつ、星なんだから。


72 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/09(月) 03:18:27.01 ID:gB7QfiGVo
月「……黒シャツさん」

 声色に心配するようなトーンが混ざってきていた。

黒シャツ「修羅の道だぞ。引きこもりの道は」

 茶化すことで安心させてみようとするくらいには、少しだけ……ほんの少しだけ彼女に対して安寧を感じている自分が居たのかもしれない。

月「むーん? そうなんですか」

黒シャツ「具体的に言うと1年半くらい完全隔離施設で過ごしたり、自分の指先も見えないような暗い部屋で数週間放置されたり、あとプロ引きこもりになる為の専門的な講義を何百時間も聞いたりしないといかん」

月「ふおおおお」

黒シャツ「ちゃんと試験だってあるが、それはそれは狭き門なのだ。具体的に言うとサイレントマジョリティを考慮して、倍率は1万倍」

月「人間でそれやるのでしたら、きつそうなのですね。あ、ということは黒シャツさんも」

黒シャツ「やめてくれ、思い出したくもない!」

 話が俺のトラウマに飛躍しそうになったので、首を振りながら身悶える事にした。今でもあの時の事を思い出すと……クッ……封じられし第3の目が……。

黒シャツ「ち……力が暴走を……!」

月「んー?」

黒シャツ「え……っと。あー、その」

 現実に帰ってきました。おはようニッポン。今のはなかった事にしよう。ところで、月はなぜおでこを押さえているんだろう?

月「どうしておでこを押さえる必要性なのですか?」

黒シャツ「……俺が聞きたいくらいだ」


73 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/09(月) 03:20:40.69 ID:gB7QfiGVo
月「質問に質問が返ってきて、さながら無限ループの様相でした。にゅふふ、それじゃあついでに質問コーナーにしちゃいます」

黒シャツ「いいけど。俺まともに答えないぞ?」

月「あとは若いものに任せましたー。私46億歳なので、黒シャツさんが一方的に答える義務ですね」

 にっこりと月は笑顔で返す。受け入れ準備万端といった風情。……まぁいいか、茶番なんてそれこそ今更だ。

月「ご趣味はいかほどですか?」

黒シャツ「原子力を、少々」

月「ふおおおお」

 目キラキラ。やはり、こういうのが期待する解答だったようで。このお見合いはつつがなく、ご縁が無かったという事にさせていただこう。安請け合いで結婚して、炉心溶融など起こされてはたまったものじゃない。

月「核ですかっ。チェレンコフで重水素な感じですか? すっごい、私と同じですっ。気が合いますねぇ!」

 どうやら先方は非常に乗り気らしいが。
 自分でもいつの間に入れたか分からない茶を飲み、ひとつため息を漏らす。どうやら火が入ったようなので後はお一人様で、お臨界していてもらおう。

月「核分裂と核融合を併用させたハイブリッド放射能だーだーもれもれ! すごい、大好きですねっ」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねたかと思えば、

月「むーん、やっぱり地球のおみやげにウランとかプルトニウムとか、テイクアウトできないんですかねぇ?」

 突然考えこむ仕草を見せたり。

月「イエローケーキ、こゆくておいしーですね!」

 これが普通の話題でのリアクションだったらどれだけ可愛らしかったことか。
 ……核の話をする時だけは、本気でやる気ビンビンになるんだよねこの人。あぁ、ちなみに良い子のみんなは絶対にイエローケーキを食べてはいけないぞ。黒シャツのお兄さんとのお約束。

月「ふおおお! 六フッ化ウランぐるぐる分離して、純度上げてみたいなぅー!」

黒シャツ「……それだけはやめとけ。色々な人に怒られそうだから」




74 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[!red_res]投稿日:2012/01/09(月) 03:21:45.82 ID:gB7QfiGVo
//////////

Count18 "Border" is over.

Next: Count19 "Float"

//////////



75 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/09(月) 03:45:59.64 ID:gB7QfiGVo
//////////////////

Count19

寝待月

"Float"

//////////////////

月「それにしても、ですが」

 ずるずる。

黒シャツ「んあ?」

 ずるずる、ごくり。

月「地球食おいしいですが。これは先に言っておきますね」

黒シャツ「うん」

 ずぞぞぞ。

月「でも、でした。地球には地球食以外にも地球食があった……地球食がありえる? んん?」

黒シャツ「よくわからんが、地球食って……とりあえずこのカップラーメンの事を言ってんのか?」

月「ご明瞭でした。ですので、地球に地球食以外の地球食はあったりなかったり……ある可能性とない可能性が共存してたり? で、共時性が保たれているのは、ええと……飽食の時代が到来ですか?」

 ごちそうさまでした、と。俺はきちんと手を合わせる派。

黒シャツ「あー、これ以上言うな。余計混乱する」

 どうやら月は、毎日カップ麺ばっかりで飽きないのか、と聞きたいらしい。


76 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/09(月) 03:46:27.19 ID:gB7QfiGVo
黒シャツ「いや、飽きるよそりゃ。何年この味に慣れ親しんできたと思ってるんだ」

月「変革の時は、来たれりないのですか?」

黒シャツ「普通の地球人にこんな食生活はありえないんだが、あいにく俺は普通じゃないもんで。今更、他に選べるような選択肢なんてねーの」

 つーわけで、今現在俺の身体の80%はラーメンで出来ている。一切の誇張なしで。
 改めて考えると怖気が走るな……これ。

月「…………うわ」

 そしてこのドン引きの表情である。

黒シャツ「いきなり素っぽい返答しちゃあダメだよ!? 普段ほえほえしてる人だとさ、それって結構破壊力あるんだからね!? 引きつるの禁止ね、オッケー!?」

月「あ。……つい、でした。にゅふふ」

黒シャツ「はぁ……じゃあお前なんとかしてくれよ、我が家の台所事情」

月「んー? よくわかりませんが、お任せありますね、元帥ー」

黒シャツ「……期待できねぇ。ちなみに外に行けばいいじゃんという案は却下な」

 俺にとってコンビニへの道のりは遠すぎるし、かと言ってコイツみたいなのをおいそれと一人で放り出すわけにもいかないのだ。
 とはいえ、コイツをいつまでも家に置いておくってのも無理な話な訳で、考えてみればこいつぁ二律背反の……、

月「はいっ♪」

 ……。ころりん。
 本日の配給は5粒になります。いつものアレだった。

黒シャツ「だから月の石はいらねぇってんだよォ!」

 毎度のことだが拒否。そして一切の詳細描写を省略するエコロジーさ。こんな陳腐な展開にはあんまり容量割きたくないのです。
 とりあえずその場できりもみ回転をすることによって発生する遠心力を利用して、盛大にぶちまけておいた。とだけ言っておく。おしなべて言えば、ジャイアントスイングりました。

月「わーっ! 私の一部を四方八方にばらまかないでーっ」

 ……あぁ、絶対やるぞ。この女、テンドンの限界数を無視して、いつかまた同じことやるぞ。


77 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/09(月) 03:47:08.99 ID:gB7QfiGVo
月「しくしく、しくしく。黒シャツさん、拾うの手伝ってくださいよ……」

 涙目の訴えに聞く耳は持たない。つーか、どんだけハッカが好きなんでしょーねこのお方。

月「……しょうがないですねぇ、そういうところもかっこいいのでしたが」

月「では、拾い終えたあんばいで」

黒シャツ「はい」

月「これを砕いてカップ麺にどばどば入れましょう」

黒シャツ「待て!」

月「月と地球の融合アートですが、わーい。夢のコラボ、実現でしたー」

 相性わっる。そして相性わっる。
 ゲンナリしている俺を尻目にゴキゲンなご様子で、ごりごりとすり鉢で飴をすり潰す某天体。ねぇいつの間に探してきたのそんな便利そうな道具。

月「できたーぅ。現代アートって現代アートだって言い張ってればオッケーですゆえお手軽ですね!」

黒シャツ「うん、その……まぁお前、食っとけ。俺は仕事に入るから」

月「そんなそんな、勿体ないですね。こんなに白い粉たっぷりで幸せそうなのに……幸せの白い粉すぎてあへぇってなっちゃいますが?」

 完成品を目にするまでもない、放置しよう。さよなら宇宙。
 多分こういうのに付き合ったら、その手のイベントCGとかが挿入されてきっとドタバタしたりするんだよ面倒くせぇ。言っておくが挿絵ってのは一朝一夕の軽い気持ちで描けるもんじゃねぇんだよ、リソースはいつだって有限なのだ。
 そう、俺の名は黒シャツ(仮)、あらゆるフラグを叩き折る鬼畜の男である。与えられたリソースを無駄なく使えるエコ男、と言い換えても構わない。


78 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/09(月) 03:47:46.93 ID:gB7QfiGVo
 ……、……さて、と。
 机に向かい、コンソールに火を入れる。とりあえず今日も今日とて、あてどもない作業感満載でお届けします。

黒シャツ「さーて。始めますか」

月「にゃごーぅ!」

黒シャツ「……中断しますか」

 表面上のリアクションくらいは受け入れてやろうと思い、月に向き直る。もうなんか、9割方は義理で。

月「黒シャツさん黒シャツさん、黒シャツさぁんっ」

黒シャツ「あー、そういうのいいから。省略。ちゃんと全部食べたか、モッタイナイお化け出なかったか」

月「食べましたけど?」

黒シャツ「食ったのかよ」

月「非常にエキゾチックですが。バッチリ、あへぇってなりましたねっ」

 ……。
 これ以上このネタを引っ張りたくないので、やはり放置することにした。



79 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/09(月) 03:48:21.13 ID:gB7QfiGVo
 機械の発する無機質な動作音と、鉛筆の滑る音だけが室内に響く。……あまり意識してなかったけど、この家ってかなり防音に優れてるよな。あまり外の雑音なんかが入ってこないし。
 やっぱり分譲は最強であった。親パワーにすがってぬくぬく生かしてもらっている俺、苦学生あたりにブッ殺されても文句言えないような事を考えながら、作業に没頭。

月「わーいっ」

 ひとりでボケ倒す事にようやく虚しさをおぼえてくれたらしい。月がベッドを陣取り、のぞきこんできた。

黒シャツ「……」

月「……じーろ、じーろ!」

黒シャツ「……」

月「じーろっ、じーろっ」

黒シャツ「……」

 目が合った。どうやら、構ってほしいらしい。

黒シャツ「お前、何を見てんの?」

月「何見てるか分かんないので、ゆえに見てますが」

黒シャツ「これはな、『仕事』だ。ヒキコモリという事であらぬ偏見も持たれているかもしれんが、一応こんなでも俺は仕事してんの」

月「仕事? 儲かりました?」

黒シャツ「……儲かるわけじゃない」

 言葉のとおりだった。仕事、とは言っているが、今は特に現金での報酬を得ているわけではない。
 詳しい事情の説明は省くが、人によってはボランティアと呼ぶこともあるかもしれないな、これ。

月「人間って対価を得て仕事をするものって思ってますけど……おっぱいおっきな人に挟まれて、お金のお風呂はいるでした?」

黒シャツ「はは、この仕事じゃあそれは無理だな」

月「じゃあおみずのお風呂入るです? 1時間に1回くらい」

黒シャツ「ダメ。24時間に1回まで」

月「かいしょーなし」

黒シャツ「それが普通です」

 ……まぁ、対価っつーか。この仕事と引換に今の悠々自適なインドア生活を手に入れてるのは間違いないんだけどな。多分。
 とはいえ、最近はこうやって机に向かうのもかなり億劫だ。ぶっちゃけやる気ゼロ、目的意識とかほとんどなし。
 つーか、何のためにこんな事やってんだろう? 今更だろ、こんなもん。
 ……今となっては、別にいつやめちまってもいいんだけどな。だがそうしたら路頭に迷っちまうのは他でもない、俺なわけだし。
 ま、これもそのうちだ。テキトーにカタをつける事にしよう。



80 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/09(月) 03:48:47.29 ID:gB7QfiGVo
月「そういえば、黒シャツさん」

黒シャツ「ん?」

 丁度モチベーションも尽きてしまったところなので、月が話を振ってきたのをきっかけにファイルを片付けることにした。

月「聞き忘れてたのでしたけど。どうして引きこもってるのでしたっけ?」

黒シャツ「……」


 ヒキコモリを始めた理由、か。


 ……。


 ……なんでだっけ?


月「じーっ」

 月の顔つきがちょっとだけ不安そうに見えたのは、多分俺の気のせいだと思う。

黒シャツ「……黙秘、って事で」

月「このおしごと、とかいうやつのカンケーですか?」

黒シャツ「うーん。これも今となっちゃどっちでもいいのかな、今更だ」

 さっきまで俺が編纂していたファイルをぺらぺらと繰りながら、月は首を傾げている。

月「文字がいっぱい。地球人って、よくわかりません」

 お前も地球人の癖に何を言ってるんだか。

月「文字とかあるおかげで情報に振り回されすぎです。情報なんてなくっても、真実はすぐそばにあるのにね」

黒シャツ「どうせ理解できてないんだろ? ここにあることひとっつも」

月「はいそうです。全然わかりませんね、地球語難しきです」

黒シャツ「……そっか」


81 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/09(月) 03:49:13.91 ID:gB7QfiGVo
 ……。
 会話のやりとりの間にぽっかりと穴が開く。
 沈黙の中で、俺はとりとめのない事を考える。月はそれを笑顔で見つめている。
 俺は、ええと、何を考えようとしているのだっけか。
 あぁ……そうそう、引きこもり始めたきっかけについてだ。さっき、月に対してはやり過ごすつもりで適当に答えておいたが、少し気になる。

疑問:
『ずっとヒキコモリで居たはずなのに、どうして俺はそのきっかけすら憶えていないのだろうか?』

 そして、この疑問を抱くことすらも、ひとりで居るときには全く無かったということ。
 ……どういう、ことだ。
 何かが足りない。そんな気がする。

月「黒シャツさん、黒シャツさん」

 呼ばれてみればまっすぐこちらを見つめたまま、目を細めている月。

月「……黒シャツさんは、優しいひとですよ」

 今までの話と全くつながりのないような事を言って、またにゅふふと無邪気に笑う。なぜか少し悲しくなる。
 俺は何の感傷に浸り始めているんだ?

黒シャツ「……風呂。入ってくるわ」

月「わ、打って変わって放置されつつあるこの状況。かまってくれないですか!」

黒シャツ「今更だろ、今まで俺はずっとお前みたいなへっぽこぴーなんてろくに相手していなかったはずなんだが」

月「へっぽこぴーひどいです。少しは仲良くなれたって思ってましたが」

月「ヒトと星ですが、心通わせることが出来たはずでしたけど……」

 そんな事を言いながら見つめてくる。曇りのない瞳。それはおそらく、鏡のようなもので。その虹彩に映った俺の姿が、もしかしたら醜く感じられたのかもしれないが。
 ……いや、そんな詩的で綺麗なもんじゃない。単なる自己嫌悪だ、こんなもの。

黒シャツ「……いってきます」

 さんざん人と関わるのを疎んできたツケが、今来ているのかもしれない。
 ……湯に流して忘れよう。そう思う。



82 名前:@風呂場[sage]投稿日:2012/01/09(月) 03:51:22.07 ID:gB7QfiGVo
黒シャツ「月……ね」

月『……黒シャツさんは、優しいひとですよ』

 優しい? そんなわけねぇよ。
 心の中で吐き捨てる。それでも彼女のその言葉が、甘ったるい声で紡がれたその言葉が、なぜか耳から離れない。支離滅裂な事ばかり言ってるはずなのに、どうみてもマトモなヤツじゃないはずなのに……刺さる。心の、間隙に。

 この前彼女を指して、ラノベかなんかのヒロインだとたとえた。初めのうちはそんなくだらない、と思ってヘラヘラしていたけれど。……今はあんまり、笑えない。
 つーかヒトの事言えねぇよ、俺だって現実的なヤツじゃない。なんだよ筋金入りのヒキコモリって、どこのラノベの設定だよ。

 現実とフィクションの境目の喪失。パズルのピースが合いそうで合わない感覚。夢中夢の無限ループ。筆者という見えざる手に操られているのだとしたら、という可能性。……そして、事情あって自室に引き篭っている愚かな青年。
 なんてな。どれもこれも、三文小説じみたキーワード。字面だけはいいが、実体なんてお粗末なもの。事情もクソもない、現に存在するのは俺はヒキコモリで外に出たくないという事実。そんだけだ、くっだらねぇ。
 現実味を感じないのは、単に自分が馬鹿だからなんだろう。馬鹿であることに疑いはない、馬鹿でもなきゃヒキコモリになんてなってないんだ。

 ――と、ここまでが妄想。

黒シャツ「……病んでるな、俺」

 わかりきった事を口にする。数年間独りで居続けたなら、誰だって少しくらい病むに決まってる。
 場合によっちゃあ狂ってしまうヤツだって居るだろうし。俺は現にそんな、孤独に蝕まれて正気のステージからしばらく離れてしまった人間を何人か知っている。あぁ。もしかしたら俺は病んでいるのではなく、むしろ狂っているのかもしれない。
 さんざん月の事をアレゲな子扱いしておいて、いざフタを開ければこっちが狂人でしたなんて皮肉すぎる……いやいや。
 だとしたら、アイツ。月すらも、俺の狂気が生み出した幻の産物だったり、なんて可能性だって。

黒シャツ「……ばーか、んなわけあるかよ」

 あまりのくだらない想像に、つい自嘲がこぼれる。
 多分、湯がぬるすぎるんだ。だから自我の境界が曖昧になる。温めて、思考にまともな軸を構築しよう。
 湯温を316Kに調節すれば、にわかに望みの湯加減まで達する。うちの風呂釜は最新鋭の原子炉とソーラレイがハイパワーでぎゅんぎゅんなので、20秒もあれば加熱は充分だったのだ。

月「うわ! あっつい! なにこの湯気!」

 ……湯気が満たされれば、俺の中に巣食う正体不明の感傷だって……。
 って。

黒シャツ「な、なななな……!」

月「宇宙はとっても、やさしいのでした」1

83 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/09(月) 03:53:45.73 ID:gB7QfiGVo
 この女は空気、空気を読んだり。

黒シャツ「お、おま、おまま」

月「にゅふふ。だって地球見てるとき、お風呂とかみんな裸で入ってましたよ?」

 まとったり、空気をまとったり。あ、違う、一糸まとわず、いや違う、そうじゃない。

 ……。
 改めて説明は要らないと思う。月が入ってきた。


月「地球フリークですから。私は郷にいっては郷に従え、とそう言いました」

黒シャツ「……お前、お前なぁっ」

 必死に目を逸らす。

月「んー?」

 目を逸らした方向に回り込んでくる。
 こいつはアレだ、人の話は目をよく見て聞きなさいとおばあちゃんに言われてすくすく育ったタイプのアレだ間違いない。

月「あれれ。どうして目つむっちゃうんですか、やましい事とかあったりしました?」

黒シャツ「お前、何しにきたんですか……」

月「仲いい人は、背中流したりするそうなんで。私も仲良くなりに背中流しに来ました、そしてついでに一緒のお風呂に入ります、お金じゃない方のお風呂。なぜならば、私は残念ですが平坦な地盤でしたので……。えぅー、それはそれは残念でした……」

 みていない、俺は何も見ていないぞ。

月「うー、人の話は目をよく見て話すこと。地球のおばあちゃん、言ってましたー」

黒シャツ「わ、わかった……わかったから少し自重してくれますか」


84 名前:[SANITY]=20 [FLAG]=Xxxx[]投稿日:2012/01/09(月) 03:55:41.47 ID:gB7QfiGVo
 おそるおそる目を開ける。
 よかった、湯気が絶妙に空気を読みまくってくれるから、ディフェンス力がすごく高いから色々フェイタルな事にならなくて済んでる……ありがたやありがたや! と、とりあえず彼女の目を見ることだけに集中しよう、うんそうしよう。

月「あと、ほんとはお風呂もっかい入りたかったでした。でもやっぱりひとりで入ろうとすると貴重な水がああ、って黒シャツさんたたいたりします……って、あれ」

月「どうしよう……」

黒シャツ「……はい、なんでしょうか……」

月「黒シャツさんが黒シャツ着てないですよっ。うわー、どうしよう。なんて呼んだらいいのかわからないよう!」

黒シャツ「あの……なんとでもお呼びください……」

月「じゃあ『黒シャツ着てないさん』にしますっ」

黒シャツ着てない「わーい(棒読み)」

 ……ダメだ、このままでは色々まずい。現状でもまずかったが、これ以上にまずくなる予感がひしひしと伝わってくる。これも相当にお約束かもしれないが、これ以上のぐだぐだ展開は好きじゃない。
 とりあえず、ある程度の覚悟を決めた方が良さそうだが……。


////////////////////////
A【諦める】
B【意地でも見ない】
////////////////////////



85 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/09(月) 05:54:23.15 ID:AiBMmnxQo
B


86 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/09(月) 06:17:59.17 ID:zHOCzNCvo
B


87 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/09(月) 09:36:32.66 ID:bBuZIa1AO
A。ハッピーターンであへる月可愛いよ月。それにしても湯気の防御力が高すぎる。


88 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]投稿日:2012/01/09(月) 11:40:08.29 ID:8iyvPoN20
A


89 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/09(月) 12:03:54.17 ID:I6CkBHe40



90 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]投稿日:2012/01/09(月) 13:30:34.47 ID:Ffa4UXsAO
A


91 名前:[SANITY]=17 [FLAG]=Xxxx[]投稿日:2012/01/10(火) 11:36:45.16 ID:jB5FwstKo
////////////////////////
A【諦める】
////////////////////////

黒シャツ「……はぁ」

 ……もう、諦めた。疲れたよ、俺は。
 この部屋には今更こういう道徳的なアレを見咎めるような方は居ないわけで。そういう風に考えよう。ペットか何かがじゃれてきていると思えば、こちらの気分的にも問題ない。はず。

月「二人でも狭くないですが。……しょせんお乳はさみしいですので」

黒シャツ「だから誰もそんなことを責めてはいませんって……」

 あぁ、こうなるとこの湯気の空気を読みっぷりがとんでもない救いになるなぁ。何だよこの安心感、いくら目を凝らしても何も見えそうにない。そもそもその向こうにユートピアはあるのかい。
 なるほど、シュレディンガーの湯気。そういうのもあるのか。

月「黒シャツ着てないさんは、もうちょっとはじっこ詰めてください。富の独占は有罪かっこギルティですが」

黒シャツ「恥ずかしい近づくな、不必要に見えてしまう」

月「見所ないから、別にいいですよう……」

黒シャツ「見所とか絶景とか、そういう問題じゃなくてだ」

 あーもう、物理的距離の関係で見たくなくても見えてしまう。今のところは湯気神のお陰様でなんとか一般レートでいられるけど、そのうち限界が来るだろう。そうしたら成年向の表示がなければ色の付いた紙を渡されて全部黒塗りするまで頒布できなくなってしまうのだ、何の話だ。
 ……いや、何でこんなくだらない事で俺は焦っているんだ。ちくしょう、意識をそらせ、波動関数が特異点に収束する事でも考えとけ。でなければ、俺の特異点も大変な事になってしまうんだ!

月「んー? そこで立ち上がる必要性が不思議ですね?」

黒シャツ「い、いいからとりあえず先に入れ、な。待望の風呂、好きなだけつかってていいから!」

月「黒シャツ着てないさん、脱出するのですか? 私は、また放置されるひとりぼっちの星なのですか?」

黒シャツ「ほら、髪を洗うからその間だけ。とりあえずしばらく独占してていいから、な!」



92 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/10(火) 11:37:45.21 ID:jB5FwstKo
月「というわけで、さっそくおみずのお風呂に失礼するのでしたっ」

 ん?……おみず、だと?
 そういえば前にシャワー浴びせたとき、俺って湯沸かし器の設定教えてたっけ? あれプロ仕様だから、慣れないと起動すらできないしろものなんだけど。

黒シャツ「……」

 そんでコイツの場合、色々常識がない。とりあえずの評価である、電波女的な立場で考えてみるのならば、もしかして水風呂で入るのが当たり前、みたいに思ってたりしても……。
 いや、ねーよ。
 さすがにそんなブルーレイになったらいろんな所が解禁するっぽいイベントとかねーよ。

月「ふあぁぁ……!」

黒シャツ「……まさかの?」

月「きゅう。」

黒シャツ「うわぁ……」

 ……一瞬でのぼせやがった。マジかよ、これはなんていうタイトルのエロゲなんだろう。さっそく予約しよう。初回限定版と通常版、どっちも手に入れよう。アニメ化前提でステマをしよう。あぁ頭痛い。

 さて今現在、俺の目の前には生まれたまま、まるはだかの月が目の前に居るわけだが。つーか上から下から何もかもを直視してしまっているわけだが。
 あぁ、ダメだこれ。みじんもいやらしくない。

黒シャツ「助かった……のだろうか、これは」

 ……やれやれ。
 とりあえず部屋まで引きずっていく事にしよう。


93 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[!red_res]投稿日:2012/01/10(火) 11:39:24.15 ID:jB5FwstKo
//////////

Count19 "Float" is over.

Next: Count20 "Charon"

//////////



94 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/10(火) 12:03:46.89 ID:jB5FwstKo
///////////////////

Count20

更待月

Charon

///////////////////

黒シャツ「……んでさぁ、湯あたり起こしちまってんのよそいつ。な、ありえねぇよな」

友人『[ピーーー]。さっさと既成事実作って俺の知らない所で達者に暮らせ、おめでとう、それじゃ』

黒シャツ「いやいや、待てよ。そんなんじゃねぇって……本当に転がり込んできただけなんだよ、マジで」

友人『はいはいそうかよ……で、どうすんのお前。まさか、このままずるずるリアル同棲とか?』

黒シャツ「まさか。折を見て帰してやるつもりだよ」

黒シャツ「……どこから来たのか分からんけど、そのうちそれもはっきりさせる」

 携帯を閉じる。自分から連絡を取ろうとするなんて何年ぶりの話だろうな。
 ま、アイツも変わってなくて何よりだ。……さてと。

黒シャツ「……ほら」

月「うーん……ひんやり……」

 額の濡れタオルを交換してやると、ふらふらと幽鬼のように起き上がった。ろくに身体も拭けないまま巻かせたので、バスタオルはすっかり濡れている。

月「ふらぁ……このまま永遠の眠りについたら、どんなに幸せな結末ですか……?」

黒シャツ「……とりあえず風邪ひくから着替えなさい」

月「あついおみずなんて反則なのですね……頭がぽーっとして……」

 と言いながらYシャツを手に取ったので、とりあえず後ろを向く。人前で着替える事を厭わない、そのフリーダムさは俺にとって厄介以外の何者でもない。
 一発で湯あたり起こすなんてどんな体質だよ、今までどうやって生活してきたんだよ不思議ちゃんめ。
 こういうのも全ては演技――という可能性も一時は考えたけど、もうそろそろその目もないよなぁ。コイツはコイツで、多分本気なんだ。自分が月である事も、たかだか40℃そこそこの湯に使った瞬間のぼせちまうって事も。
 妄想を信じきってしまってるのか、それとも(天文学的確率で)本当に本当の『モノホン』であるかは知らないが、彼女はこれでいて『嘘のひとつもついてない』らしい。詐病のセンはおそらく消えた。

 どうしような、この先。


95 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/10(火) 12:04:18.52 ID:jB5FwstKo
黒シャツ「そうだ。Gパン1本使うか? 下着ばかりはどうにもなんねーけど、少しはマシだぞ」

月「いーです。どーせぶかぶかですぐ脱げちゃうんでめどいですし、このままでいーです。あと、もうはだかじゃないので、黒シャツさん安心です」

黒シャツ「……ったく。はい、水」

月「ジョッキでイッキでした。……ぷはー、いきかえりますね」

 とか言ってる間に彼女もすっかり復活したようで。

月「だれーん」

 とかゴロゴロし始めた。

黒シャツ「仮にも人様のベッドを。もう少し遠慮がちにくつろげよ」

月「黒シャツさんちは、私の第二の故郷ゆえ。くつろいだりできましたけど」

 ――じゃあ、第一の故郷は?
 こいつなら、平気な顔して「宇宙」とか答えそうだ。

黒シャツ「よし、じゃあ月。お前の昔ばなしでも聞くか」

月「ほえ」

黒シャツ「生まれてからの半生。お前にもあるだろ、子供のころどうしてたーだとか」

月「むーん」

黒シャツ「こうまで破綻した人格だと、かえって興味出てくるってもんだ。良かったら話してくれよ」

月「46億年前は、しょせん塵芥の集まりでしかありませんでした……」

 やっぱりそっちにもってくんだな。ある意味デンパ女としての意地なのかもしれない。


96 名前:[SANITY]=17 [FLAG]=Xxxx ここから選択肢とかちょっと増えます[saga]投稿日:2012/01/10(火) 12:05:31.59 ID:jB5FwstKo
月「宇宙は壮大で深遠なめくるめくファンタジーがスペクタクルなのでしたね……」

黒シャツ「わかったわかった、とりあえず1円玉デコに貼り付けとけ」

月「んーっ」

 ぺちんと貼りつけ、しばらくは眉間に皺寄せて頑張ってたようだが、それもすぐに限界が来たようでやがて落としてしまう。

黒シャツ「得意の重力はどうした、ほらニュートン力学を根底から否定してみろよ」

月「わー、いつになく黒シャツさんがちくちくしてますがー」

黒シャツ「波動関数をバカにして学会から追放されたり、マイクロブラックホールを拡大してタイムマシン作る妄想とかしてみろよ、ほらほら」

 お、めずらしく困った顔してる。1円玉とにらめっこなんか始めてたりするし、どうやら一丁前に少し悔しがってるみたいだ。

月「うー……こ、こんなのに星の力を使うなんて、無駄です無駄」

黒シャツ「ほれみろ」

 俺の大勝利。鼻は高く天を目指して伸び続けようとしている。

月「……私は。どうせくっつくなら、黒シャツさんとくっつきたいですので」

黒シャツ「ぶっ」

 そうだよな、そうだよな。こういう何気ない言葉のひとつひとつに反応してしまう俺が、この手の素直なタイプに勝てるわけないよな、うん。

月「だっこ、したいと思うのはヘンな子でした……?」


//////////////////////////////
A【よせよ、ガキじゃあるまいし】
B【……ヘン……じゃ、ないけど……】
//////////////////////////////


97 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/10(火) 14:51:03.43 ID:mf+rfzJSO



98 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/10(火) 14:59:48.36 ID:fHLQVJ0AO
せっかくだから俺はBの扉を選ぶぜ!


99 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/10(火) 16:41:54.68 ID:aieQdMCj0
B


100 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/10(火) 17:38:17.08 ID:/tSNIVIR0
Bいっちゃえw


101 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/10(火) 20:07:52.73 ID:2SXR9CUlo
B


102 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]投稿日:2012/01/10(火) 23:06:18.19 ID:9w3UFUSM0
抵抗しても無駄っぽいからB



103 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]投稿日:2012/01/10(火) 23:35:19.68 ID:RsbgGZ/AO
B


104 名前:[SANITY]=14 [FLAG]=Xxxx[saga]投稿日:2012/01/11(水) 11:35:14.64 ID:3FyOOYJHo
//////////////////////////////
B【……ヘン……じゃ、ないけど……】
//////////////////////////////


黒シャツ「……ヘン……じゃ、ないけど……あ」

 つい口をついて出てしまった言葉。
 その意味するだろうところに気づき、とっさに口に手をあてる。

月「?」

黒シャツ「……いや、なんでもない」

 取り繕うように、へらっと笑ってみた。
 いかんな……俺としたことが。正直ちょっとだけ、グッと来てしまった。

月「なんだか、いつも寂しそうに見えるんですよ。黒シャツさんの事。……だからこんなアルミニウムなんかよりも、黒シャツさんとくっついてたいと。私はそう思うんでした」

黒シャツ「……参ったな」

 そんな事ばっかり言ってると、俺だってなぁ……。

月「つまり、だっこーって感じなのですけど。やっぱりダメって言いますか」

黒シャツ「まぁいいけど。あんまり無茶苦茶にべたべたすんなよ、これで結構恥ずかしいんだから」

月「……はーい」

 と、少し控えめに腕を回してくる。

黒シャツ「……」

 悪い気は決してしないんだが、やっぱり恥ずかしい。


105 名前:ここからは重要選択肢しかありませぬ[sage]投稿日:2012/01/11(水) 11:36:50.62 ID:3FyOOYJHo
月「……黒シャツさんは、誰かに似てたような気がしました。はるか昔に私が知ってたはずの、誰かですが」

黒シャツ「……知ってた、はず?」

月「はい。はるか昔なので、ど忘れしているのでした」

 よく分からないが……妙に人間らしい言葉だ。
 こいつにだって親くらい居るんだろうし、知り合いだってもしかしたら、かつて居たのかもしれない。自分を天体と思い込むなんて、どうみても狂気の沙汰だけど。でも、彼女は人間以外の何者でもない。そして、俺はそんなヤツを家にかくまっているという形になる。
 見た目どう見たって年下、こうやって抱き合ってる事自体倫理的に問題があるような気がする。未成年略取で礼状のひとつも取られたなら、言い逃れは出来ない。さて、ならばどうするべきかって事だが。

月「んぅ……」

 俺は力なく笑って月の頭をなでる。
 諦めよう。
 欠けているんだ。彼女はもちろん、俺にだって。
 多分こんな風にひきこもっている事自体、人として何かが足りていない証拠なんだ。
 だから互いにこうやって少しだけくっつくことで、足りないものがなんなのか、足りない場所がどこなのか。宇宙空間におけるダークマターの存在に理由づけをするような感じで、俺達は探っているんだと思う。

 ふと、固く閉ざされたカーテンが目に入った。100%外からの光を通さない、今の俺にとって何よりも厚い壁。シュレーディンガーの猫にとっての、絶望の境界面。
 こうやって少しだけくっつくことで、足りないものが少しでも満たされたとするならば。もしかしたら、今ならばあのカーテンの向こうに踏み出す覚悟もできるのかもしれない。
 ……試しにこのカーテンを取り払い、外に出てみようか?


////////////////////////////
A【出てみたい】
B【いや、やっぱり無理だ】
////////////////////////////



106 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/11(水) 12:14:55.91 ID://KhKhSAO
俺は黒シャツを信じたい。だからA


107 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/11(水) 16:24:24.40 ID:mdDvzX/+0
A


108 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/11(水) 18:06:40.04 ID:YTP1zLGlo
B


109 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/11(水) 18:12:53.67 ID:aWqJycpxo
B


110 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]投稿日:2012/01/11(水) 18:36:13.71 ID:0hZUSACAO
A


111 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]投稿日:2012/01/11(水) 19:08:55.25 ID:ztGHTNnAO
A


112 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/11(水) 20:06:00.49 ID:Oq3CuKZj0
B


113 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]投稿日:2012/01/11(水) 23:09:51.57 ID:PxcteE4eo
A


114 名前:[SANITY]=12 [FLAG]=XXxx[sage]投稿日:2012/01/12(木) 12:13:26.44 ID:j/1H7k/Qo
////////////////////////////
A【出てみたい】
////////////////////////////

 ……出てみたい、とは思う。月と出会い、そう思えるようにはなったのだ。
 だがさっきも言ったように、俺には何かがまだ、足りない。多分それが埋まらない限り、俺はいつまでもあのカーテンに触れることすらできないだろう。
 ……何が足りないんだろう?
 月が――彼女がその『何か』を与えてくれるのだろうか。


115 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/12(木) 12:14:07.88 ID:j/1H7k/Qo
黒シャツ「……なぁ。外でデート、したいか?」

 長い時間を置いて、俺は月にそう問いかける。

月「うん、デートしたいですけど。そして、たくさんだっこしてほしいでしたっ」

 間髪入れず即答。……裏表の気配すら感じられない、掛け値なしの真っ直ぐな思い。
 そんなの、俺なんかに向けなくてもいいのに。勿体ねぇよ。
 ……でも、ありがたい。

黒シャツ「ごめんな、俺はまだ外に出ることができないんだ。理由は……まだ、はっきりとしないんだけど」

月「……怖いんですか?」

黒シャツ「違う。多分寂しいからだ」

月「さみしい、ですか」

黒シャツ「……うまく言えないんだけど、な」

 今更心を入れ替えて外に出たところで、俺がおひとり様である事に変わりはない。
 確かにあの友人は今でも相手になってくれるし、基本的に気さくなヤツだ。だが電話越しだから安心出来るのであって、実際に顔を合わせてみるのとはまた別の話。
 例えば外に出て、あの友人といざ顔を合わせたとしたら、俺は尻込みしてしまうに違いないのだ。彼の居る場所――日なたは、俺には少しまぶしすぎる。
 ひとりで居ることよりも、ひとりで居ることを実感してしまう事の方がつらいんだ。だから俺は人を避ける。
 比較しうるべき他者さえ置かなければ、寂しさを感じなくて済む。だから比較対象のいないこの閉ざされた空間で、半分だけ生き、半分だけ死んで。そうやって寂しさ、怖さを麻痺させていた。考える事さえも忘れさせていた。
 だが、今ここには比較すべき他者――月がいる。否応なしにその事実は俺に『外』を予感させていた。当然、怖いし寂しい。
 でもなぜだろうか。そんなに悪い気も起こらない。



116 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/12(木) 12:14:56.43 ID:j/1H7k/Qo
月「……あ、そうだ」

 月が口を開く。

月「思い出しました。黒シャツさんが似てるひとの事」

黒シャツ「……あぁ、そのこと」

月「黒シャツさんは……地球人がいうところの、冥王星なんです」

黒シャツ「冥王星ね」

 いい加減、彼女の口から星の話題が漏れるのにも慣れ始めていた。むしろ普通の、常識的で正常な話をする月など想像できなくなってしまっている。

黒シャツ「でも、アイツ仲間はずれにされたじゃん。ついこないだ」

月「はい。惑星でさえなくなっちゃった、星なんですね。太陽系からつまはじきにされちゃったーって、冥王星さん寂しがりだからちょっと嘆いていたんじゃないかなぁと思いましたが」

黒シャツ「あいつ寂しがりだったのか。……大変だな、あんな遠くに居るってのに」

月「はい、ちょっとかわいそうな星です。でも……」

 彼女はそう言って、俺の肩に顎を乗せる。ぎゅっと、少しだけ抱きしめる力が強くなる。

月「ほんとは彼、ひとりぼっちじゃないのです。だから、あんまり寂しくなかったんじゃないかなって。それこそ、いつも二人一緒だったんです。わたしは知ってました、シャーロンって子がいたの」

 ……シャーロン。

月「地球の人は彼女にそんな、人間みたいな名前をつけました。今よりちょっとだけ昔の、おはなしです」

黒シャツ「カロン、か」

月「……はい」

 彼女の言葉にあてはまる星の名前と言えば、これひとつしかない。
 カロン。冥王星の持つ唯一のまともな衛星にして、衛星と呼ぶには主星に比べて大きすぎる星。

黒シャツ「……双子星か。結局さ、どっちが衛星でどっちが惑星だったのかな」

月「多分、そんなのは星にとってはどっちでもよかったんですよ」

 月の身体が、離れていく。




117 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/12(木) 12:16:11.41 ID:j/1H7k/Qo
月「寒い寒い、太陽の光もほとんど届かない場所だったけど。わたしは思うんです」

 離れても、彼女の熱は少しだけ俺の中に残る。

月「すぐ近くに、シャーロンが居たから。だから……冥王星は寒くなかったんじゃないかなあって」

 そして彼女はいつものように無重力で電波的な物言いをしながら、俺の周りをくるりと一周し。

月「……黒シャツさんも、おんなじですよ」

 最後に、無邪気に笑った。

月「私がずっとずうっとそばに居るから。ちーっとも寂しくなんてないんですね」

黒シャツ「……デタラメばっか言いやがって」

月「にゅふふ、やっぱダメですか。残念だなあ」

 全然残念そうじゃない彼女に布団を押し付けてさっさと寝ろと促し、俺は机に向かい始める。仕事の続きに取り掛からなくちゃいけない。特に今日は集中して進めよう。
 ……これ以上話していると、彼女の事を好きになってしまいそうだったから。


118 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[!red_res]投稿日:2012/01/12(木) 12:17:14.38 ID:j/1H7k/Qo
//////////

Count20 "Charon" is over.

Next: Count23 "Drops"

//////////



119 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/12(木) 12:38:02.64 ID:j/1H7k/Qo
////////////////

Count23

弓張月(下弦)

Drops

////////////////


黒シャツ「だーから、無茶言うなっつーの」

友人『まぁ、無理にとは言わねぇけどさ。……気が向いたら、また電話くれよ』

黒シャツ「ねぇと思うけどな」

 ……ったく。天下無敵のヒキコモリを相手に同窓会の誘いって、アイツは何を考えてるんだ。

月「また、お電話ですか?」

黒シャツ「あぁ。俺みたいなヤツにとっちゃ、ある意味悪魔のコールだよ」

 大体、こんな完全に世捨て人みたいなのが同窓会にひょっこり現れてみろ。学歴社会の負け犬がそれ相応のオーラをまとって現れるんだぞ、やっほー久しぶりとか言って。
 他の連中がスーツとか着てるのに、女子なんて化粧フルカスタムで決めてきてるのに、俺ひとりだけ自宅警備保障の制式装備、みたいな。

黒シャツ『よう、相変わらずだなみんな。俺? ははっ、自分探しの旅の途中』

黒シャツ『これ終わったらゲーセン行かね、ゲーセン!? 稀代の賢者と言われた俺の実力見せてやっから……あぁ、うん……悪い、どうでもいいよなそんなの』

黒シャツ『あ……すいません……。お水のおかわり……ください……』

 ……拷問だろ。
 つーかそもそも、外に出る服がない。黒TシャツとGパンだけって何だよダセェ、パンツ一丁のがいくらかマシだって。
 まぁ、電話をよこしてくれる事それ自体は、ありがたいんだけどな。

月「電話は、嫌でしたか?」

黒シャツ「……そんなんじゃないけど」


120 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/12(木) 12:40:03.88 ID:j/1H7k/Qo
黒シャツ「心配してくれるヤツがいるだけ、ありがたいって思ってる。……逆に、申し訳ないくらいかも」

月「むーん」

黒シャツ「何だよ、その顔」

 気づけば、渋い顔で見られていた。

月「心配してるのが誰かは分かりませんでしたが。……それでも、外には出ないんですね?」

黒シャツ「まぁその……な。まだ、時間がほしいんだ」

月「明日からがんばりますが?」

 机の上に視線を移す。途中かけで放っておいた仕事が、うず高く積まれていた。電話のせいで遅れが出ちまった。続きにとりかかろう。

黒シャツ「とりあえずその前に、仕事を終わらせないとな」

月「仕事とお外、無関係にも思えました」

黒シャツ「……なんつったらいいのかな」

 うまく言えないんだけど、と前置いておく。

黒シャツ「これ、終わらせないと。何か許されていないような気がするんだ」

 なんの為に始めた仕事なのかも、これが何の役に立つのかも俺にはいまいちよく分からない。これは俺にとっていわば、賽の河原で石を積むような行為。

黒シャツ「……多分、気のせいなんだろうけど」

月「そうですよ、気のせいですねっ。いつも通りの、黒シャツさんの妄想劇場なんでしたー」

 しんみりし始めたところで茶化されれば、テンションも元に戻る。

月「あえええ」

黒シャツ「どっちが妄想持ちだっての」

月「ほ、ほっぺが伸びたら、大惨事ですけどっ」

 まぁ、確かにシリアスになりすぎると心に毒だ。そういう意味では、月の存在は少しだけありがたかったりする。
 ……いや、それにしても月のヤツ。居候の癖にとは言いたくないが、思い切りくつろぎまくってるな。
 ごろごろと床に寝転がりながら、何かの雑誌のページをぺらぺらめくっては、にゅふにゅふ笑っている。


121 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/12(木) 12:40:39.50 ID:j/1H7k/Qo
黒シャツ「つーか、お前何してんの」

 聞けば、間髪入れずに、

月「地球研究です。それはそれは真面目な目的なのですっ」

 とキリッとした顔で、倉庫から勝手に持ち出してきたであろう雑誌を掲げてみせる。こたつむしになって雑誌を読み散らかすのが研究になるのなら、そんな研究所に是非俺も雇っていただきたい。

月「おー」

 ページをひとつめくっては感嘆の声を上げている月。すごく熱心に研究をされているらしく、記事写真のひとつ、批評の一文字すら読み飛ばさずに目を通しているようだ。

月「すごーい」

 ……って、お前それ出会い系の広告ページだろ。

黒シャツ「ったく……」

月「ほぁー。黒シャツさん黒シャツさん!」

黒シャツ「はいはい」

 鉛筆を削りながら答える。

月「なんかですね、新しいげーむ? が出るそうですよー」

黒シャツ「あー、うん」

月「ハイブリッドでCGの立体化が、高性能とCPUでぐいんぐいんみたいです。廃人ですねっ」

 振り返れば、記事の一つを指さして何やら興奮気味に解説をしはじめていた。

黒シャツ「あぁ。それならとっくに発売して盛大にコケてたぞ。CGが綺麗なのはいいけど、話が一本道すぎるってさ」

月「ええっ。そうなんですか! うう、情報弱者が露呈でした……」

黒シャツ「つーかそれ、何年前の雑誌だ。俺が引きこもる前だから、相当昔だぞ?」

月「にゅふふ、どうりでよれよれだったわけです。ぽいぽーいっ」

黒シャツ「こら、俺の一部を乱暴に扱うな!」

 もう読まないとはいえ、あんまり散らかされたらきれい好きの俺としては困るんだって。

月「うー。雑誌でたたくのも、乱暴ですがっ」

黒シャツ「持ち主だからいいの」

 雑誌の表紙に目を通してみる。月の言うとおり、湿気やらなんやらでよれよれになっちまってる。

黒シャツ「……情報弱者か。俺も完全に、そっちの仲間入りだよな」

 漫画雑誌の一冊も満足買いに行けない、ってのもつまんねぇよな。あの休載ばっかりしてる漫画、今頃完結してんのかな。
 知りようもない、か。

黒シャツ「そうして世界はまたひとつ、俺を置き去りにするのでした」

 ……今更、だな。


122 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/12(木) 12:41:06.51 ID:j/1H7k/Qo
月「外に出ればいいと思いますが?」

黒シャツ「いーの。俺は布団が友達なんだから」

月「……」

黒シャツ「……なんだよ」

 ふくらんでやがる。まんまるほっぺの満月ちゃん。

月「……」

 ……?

黒シャツ「……どこかの天体のおかげで、退屈もまぎれるわけだしなーかっこ棒読み」

月「~♪」

 どうやら正解だったらしい。

黒シャツ「……まぁいいや。テレビでも見よう」

 ほくほくしている月を軽くスルーして、リモコンに手をかける。

黒シャツ「みかんも食おう、そうしよう」

 と、取り出したのはみかん……の缶詰。シロップ漬けの、ケーキとかに使うアレだ。

月「ふぇ、ふぇえ!? ここに存在するのは地球食だけじゃなかったんですね。よいのですか!」

黒シャツ「余計なお世話だ。申し訳程度には、缶詰もレトルトも用意してるんだ」

 ……実はもう、ほとんど残ってないんだけどな。俺ひとりだったら意地でも開けないところだったが、まぁ今回は月も居るし特別ってことで。

月「非常においしいものでした」

黒シャツ「もう食べたの。早いな」

 もう汁しか残ってないし。モッタイナイの美しき精神は、どうやら宇宙には皆無だったらしい。

黒シャツ「……もういいや。お前、もう、なんか、残り汁とか飲んでろ。そして糖尿病になれ」

月「あまーいっ」

 ……既に飲んでるし。


123 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/12(木) 12:42:34.19 ID:j/1H7k/Qo
 手持ち無沙汰に、何となくテレビのスイッチを入れてみる。

黒シャツ「……お、オボンギャルド」

 いつも通りの、お笑いのネタ見せ番組だ。

『……そんで、校長先生が殴り込んでくるわけですよ。ホウキ片手に』
『地獄の用務員って校長だったの!?』
(ハハハハハ)
『まぁその後、なんやかんやあって最終的にはまぁその……学校ごとドカーン』
『爆破したー! 結局爆破したー!』
(ハハハハハ)

黒シャツ「……ぶふっ」

 さすがは小垣江(ガッキー)。どこからでも爆発オチにつなげてみせるな。

月「??」

 ……と、ここで月の視線に気づく。早くもシロップまで飲み干してしまったらしい。

黒シャツ「いやな、毎週これだけは見忘れないようにしてんだよ。……とりあえずオボンは鉄板だからな、これだけは譲れない」

月「……」



月「よく、わかりませんが?」


124 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/12(木) 12:45:30.59 ID:j/1H7k/Qo
黒シャツ「ステテコカンパニーとかもな、あれでいてネタ作りの方向性がさぁ」


月「誰ですか、それ」




 ……えっと。

 いけない、つい熱が入ってしまった。
 こっちの趣味に無理に付き合わせることもねぇよな。


黒シャツ「まぁ、その……悪い。テレビに興味なし、と」

月「よくわかりませんが。これには電波がないですもん、ダメでしたよ?」

黒シャツ「あぁ……はは。お前のデンパに比べればな、なんて」




月「私、月です。電波とか、もう飛んでないです」



 ……あれ。
 どうしてだろう?
 何だか妙に……腹が立つ。




125 名前:[SANITY]=12 [FLAG]=XXxx[sage]投稿日:2012/01/12(木) 12:46:13.34 ID:j/1H7k/Qo
黒シャツ「そうだった、そうだった。お前は確かに地球唯一の衛星だったよな、うん、うっかりしてた」

月「……黒シャツさんは。そういうの、もう辞めた方がいいと思います」

 そう言って真っ直ぐ見つめてくる。ちょっと待てよ、この流れは真面目に語る流れじゃねぇだろ。
 ……あぁ、クソ。頭をかきむしる。

黒シャツ「うるせぇな、興味ねぇなら黙ってろよ。お前にお笑いの何が分かる」

月「……」

黒シャツ「なんとか言えよ」

月「……まだ、早かったみたい……でした。残念な事ですけど」

 苛立ちをぶつけるように先を促すと、さらに意味の分からない事を口走った。
 舌打ち。
 ……何が早いってんだ、残念って何だよ?

月「……ごめんなさい」

黒シャツ「だから、何が悪くて謝ってんだ。おい、質問に答えろよ」

月「ううん、何でもないでした。にゅふ……」

黒シャツ「おい」

月「えと、えと……ちょっと調子でないので、先におみずのお風呂、いってきますね」

 そう言って、足早に部屋を出て行く。取り残される俺。訳が分からない。
 なんなんだよ……アイツ。


///////////////////////////////
A【……ふざけやがって……!】
B【くそ、一体どうなってんだ……?】
///////////////////////////////


126 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[!red_res]投稿日:2012/01/12(木) 12:47:01.72 ID:j/1H7k/Qo
選択肢待ちの為、age


127 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/12(木) 12:50:33.93 ID:Ol+HHIlSO
B


128 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県)[sage]投稿日:2012/01/12(木) 12:55:55.46 ID:w3pYNJdw0
B


129 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]投稿日:2012/01/12(木) 13:39:16.96 ID:/T8GMnTVo
A


130 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/12(木) 14:09:24.83 ID:rAy93kXAO



131 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/12(木) 14:37:58.66 ID:urRUXzep0



132 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]投稿日:2012/01/12(木) 15:35:14.95 ID:00j5zl480
B


133 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]投稿日:2012/01/12(木) 18:27:26.04 ID:rLB/p7Ey0
B


134 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]投稿日:2012/01/12(木) 22:52:02.90 ID:IbeMtn4AO
B


135 名前:[SANITY]=14 [FLAG]=XXXx[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:07:05.42 ID:732bUWoUo
/////////////////////////////////////
B:【くそ、一体どうなってんだ……?】
/////////////////////////////////////

 納得いかないのは、さっきの月の態度もそうだが……それに過剰にネガティヴな反応を示す俺自身にだった。

黒シャツ「どうなってんだよ、クソ」

 言葉に出して、なんとか気を紛らわせてみる。
 ……ここで怒ってはいけない気がした。口を開けば、理性が途切れてしまいそうだ。落ち着かなければ。

黒シャツ「……」

 そうだ、誰かに教えてもらったやり方があったはず。強制的に精神状態をフラットにまで持っていく、ちょっと強引な自己暗示法。
 ……。深呼吸をひとつ。ふたつ。みっつ。肺が壊れそうな勢いで繰り返す。
 それでも足りないようだったので、さらに呼吸のスピードを早める。喉がひゅうひゅうと鳴り出すが、気にしない。

黒シャツ「……」

 過呼吸に陥り、頭の中にモザイクがかかり始めるまで呼吸を続ける。失神寸前まで続けるのがコツだ。
 ベッドに転がり息を止め、飽和した酸素をゆっくりと消費していく。目安は3分、これも気絶するギリギリまで我慢すること。

黒シャツ「……」

 ――酸欠状態になるまでには、なんとか精神状態も常人のそれの範囲に収まってくれていた。誰が言っていたかは忘れたが、本当に効くのな、これ。
 正直胸の中には、まだ完全に火種を失っていない何かがくすぶっていたが、それをあえて放置し、見ないようにする。そして怒りの原因を冷静に分析。
 どうやら俺は、月がお笑いについて疎くて、つれない事を言ったから腹を立てたようだ。

黒シャツ「……アホか、俺は」

 こんなことで腹を立てるとか。人の事を普段からさんざんデンパ扱いとかしてるの、俺じゃねぇか。月が悪いはずがない。

黒シャツ「むしろ悪いのは、全面的に俺の方。……だめだな」

 ……こんな事だから、いまだにヒキコモリなんだ。ろくに他人に顔を合わせられないんだ。
 俺は、月のことをどこか上からの目線で見ていたのかもしれない。彼女に比べて自分が優位だと認識した途端、饒舌になれた最初の日を思い出す。最低だ。

黒シャツ「……仕事、しよう」

 自己嫌悪にはまりそうになった自分を無理やり引き起こし、机に向かわせる。この勝手な自己嫌悪で迷惑を被るのが俺だけなら構わないが、それで月がとばっちりを食うのは本末転倒だからな。
 とりあえず仕事にさえ集中していれば、わずらわしい事を考えずに済む。テレビも、あいつの前で見るのはやめておこう。あんな事があってから見るのも、あまり気分のいいものじゃない。

黒シャツ「これで余計に俗世離れ、かな」

 やれやれ。いよいよ情報弱者もつまるところまで来たってところか。
 ……でもまぁ、誰に迷惑かけるわけでもなし。
 今更だよな、こんなのも。


136 名前:フラグ回避能力高いな……[!red_res]投稿日:2012/01/13(金) 11:08:53.19 ID:732bUWoUo
//////////

Count23 "Drops" is over.

Next: Count26 "Fate"

//////////



137 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:19:09.21 ID:732bUWoUo
//////////////////

Count26

眉月

"Fate"

//////////////////

黒シャツ「暇だ」

月「暇でした。むあー」

 世のサラリーマン様方が汗水垂らして働いていらっしゃる中こういう事を言うのは非常に失礼だとは思うが、退屈って嫌だよね。

黒シャツ「水、飲むかー」

月「おなか、たぷたぷですがー」

黒シャツ「ういー」

 月もさっきから暇にあかして水ばかりを飲み続け、今度ばかりは腹も限界に達してしまったらしい。身体を揺らすごとにたぷんたぷんと音が聞こえてきそうだ。
 テレビゲームとか、トランプとかあればいいんだけどね。あいにくうちの倉庫にそんな娯楽用品などただのひとつも存在していないのだ。
 TV番組も、見る気にはなれないし……つーか、彼女と一緒に見るのは二度とゴメンだ。前回ので懲りた。
 というわけで、こうやってローテーブルを挟んで二人で突っ伏している現状につながる。

月「黒シャツさん黒シャツさん」

黒シャツ「あいよー」

月「何かお話できたら、してもいいですが?」

黒シャツ「お前は何か無いのか」

月「にゅふふ、他力本願ですねー。ところで2枚成功しましたが」

黒シャツ「なんかもう、びっくり人間的なものに出ればいいよね」

 ……あまりに暇らしく、また1円玉くっつけて遊んでやがる。どうやら今はコツを掴んだらしく、しゃべっててもなかなか落ちてこない。変なところでスキルアップするなと。



138 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:19:36.75 ID:732bUWoUo
黒シャツ「……しょうがねぇな。んじゃあ無意味な話でもするか」

月「無意味な話とは、なんなんでしたっけ」

黒シャツ「うん?」

 人間にとって、生きるのに何の意味もなさない話といえば、これに決まっている。

黒シャツ「哲学」

月「ほほぉ。黒シャツさん、頭よいのでしたか」

黒シャツ「……そんなわけねぇよ。長い間ひとりで居るとな、嫌でも哲学的になっちまうんだよ。ただ単に、暇を潰すために。……つーわけで、月。お題出すんだ、お題」

 月はしばらくうなって考えていたようだが、どうやらいいネタが出来たらしい。額に付いてた1円玉が、ぺっとはがれる。

月「じゃあ、はいっ。黒シャツさんに私から、問題が送られまーす」

黒シャツ「はい、博士になんでも聞いてください」


月「んーと、じゃあ」

 こほん、と一つ咳払いをして。


月「私は本当に星なんでしょうか?」


139 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:20:08.69 ID:732bUWoUo
黒シャツ「……なるほど。シニカルな」

 ものすごい本質をついてくる問いだ。自己の存在に疑問符を投げかけている自虐であったり、自分の話を信じようとしない俺に対する皮肉であったり。何重にも意味が込められたような疑問。
 正直感心してしまった。

月「よくわかりませんが。でも、黒シャツさんはいつまでたっても信じてくれないので、なんでなのかなー?って、思ったのですね」

黒シャツ「お前、実は結構頭いいんじゃないのかって気がしてきた。結構深い問いだぞ、これ」

月「にゅふふ、宇宙は深遠ですけどーっ」

 少し考えてみたが、うまい答えが出てくるわけでもない。まぁ、せっかく対話できる機会もあるわけだし、少し問答にしてみようか。

黒シャツ「……たとえば、『実体』というものを考える。ものごとの本質――いわゆるイデア、ってやつだ」

月「むーん?」

黒シャツ「ここで俺は、仮説を立ててみる。もしかしたら、モノ……物質なんてものは最初から存在しなくって、そこにはリレーション――関係性しかないんじゃないのかって」

黒シャツ「例えば地球上にたったひとり、人間が立っていて――まぁ『俺』でいいや。『俺』が、真上にある『月』を見ているとする……あぁ、月ってお前の事じゃないからな、天体としての『月』だからな」

月「言いたい事たっぷりですが、今は黙って聞いてます。はい」

黒シャツ「じゃあこの時、月は本当に存在しているんだろうか?」


140 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:20:43.81 ID:732bUWoUo
黒シャツ「この場合、問題は『他に誰も月があるなんて保証してはくれない』って事。ほんとは地球上には他に60億人くらい人が居て、そいつらがみんな『そこに月はあるよ』って言ってるから、だから俺も『あぁ、あるんだな』と思ってるに過ぎなくて。――でも仮に、地球上には俺ひとりしか居なかった、という状況があったならば」

月「むーん。ひとりだと、間違ってるかもしれませんですね」

黒シャツ「もしかしたら月は幻なのかもしれないだろ?」

月「黒シャツさんの頭から放射能がだーだーもれもれだと、本当は無いのに、あるよって思っちゃうかもしれないです」

黒シャツ「そう。ひとりの場合だと本当か嘘かは分からない。……でも、だからと言って地球の人間みんなが『あるよ』って言ったものを、本当に『あるよ』って言えるのかな?」

月「そんなの、わからんですが。偶然みんなが、おんなじ妄想してるだけかもしれないですし」

黒シャツ「そう、そういう可能性が少しでもあるって事は、実存の保証なんかどこにも無いってこと。すなわち、俺はこういう考え方もできるんじゃないかって思う。モノとしてのイデアなんか、集団妄想の先にあるものに過ぎない。60億人が『あるよ』って言ってるモノは、60億人みんなが『あるよ』って妄信しているだということ。それだけに過ぎない」

黒シャツ「だとすれば実体があるかどうかなんか、いつまでたっても分からない。だが俺達は、その妄想のみを拠り所にして、『あるよ』と思わなくちゃならない。確信しなくちゃならない」

月「……黒シャツさんの言ってる事、難しきですね」

黒シャツ「まぁそう言うなよ。ここで月、お前の事を考える」

 びしっと指差すと、さっきまで疑問符をぼこぼこ浮かせていた彼女は途端に晴れやかな表情に。

月「わーい、黒シャツさんに考えてもらえるー」

黒シャツ「お前は本当に星なのかって事だが。さっき言った事を前提とすれば、これに対する問いはめちゃくちゃ簡単だ」

月「おーっ、ここで衝撃の事実でしたねっ」

黒シャツ「月は、自分の事を星だと思ってるわけだよな。『そんな妄想を抱いている』訳だ」

月「黒シャツさんの言葉には、そこはかとなく納得できない節がありましたねっ。でも私はよい子なので、黙ってお話を聞きますよ」

黒シャツ「ここで俺が『お前は月だよ!』って信じるなら、満場一致でお前は月だってことになる。このヒキコモリ閉鎖空間には二人しか居ないわけだからな」

黒シャツ「つまりここにいる全員が持つ集団妄想によって、見事お前は本物の月になれるってわけだ。おめでとう」

月「ふおおおお」


141 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:22:29.78 ID:732bUWoUo
黒シャツ「逆にここで俺が『いやお前ただのデンパ女だろ』って思ったら、二人の意見は食い違う。この場合、お前の存在は未確定になる――つまり、月でもデンパ女でもなく、お前はただの『正体不明』に成り下がる」

月「ふおおお……お?」

黒シャツ「おめでとう。正体不明少女」

月「そ、それはひどい仕打ちですねっ!」

黒シャツ「というわけで解答。……お前、正体不明」

月「……なんかすごい難しい事言ったのに、結局正体不明とか言われました。そのうち私、泣きますが? ぶえぇぇん」

黒シャツ「そう悲観するなよ。裏を返せば、俺さえ信じさせればお前は名実ともに月で居られるんだから」

 これで彼女を完全に煙にまいてしまった訳だが……まぁ、さすがにかわいそうか。



142 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:23:24.61 ID:732bUWoUo
黒シャツ「……まぁ、もう一つ考え方はある」

月「難しい事言って、黒シャツさんはまた私をヘンな子にするつもりですけど? 頭から湯気とか出ますよ、全く」

黒シャツ「そう言うなって。お前のアイデンティティが無傷で守られる為の逆転チャンスだぞこれ」

 そう言って俺は、カーテン――現実と自室を隔てるぶ厚い境界面を指差した。

黒シャツ「このカーテンを開けて、テラスから空を見上げたとき。月があるか、無いか? ちなみにカーテンは開けちゃダメ。俺が苦しいから」

月「ふんふん?」

黒シャツ「空に月が浮かんでるなら、お前は偽物だ。逆にいつまでたっても月が出なかったとしたら……おめでとうってわけ……だが?」

月「つ、月だもん! ほんとに月だもん!」

 必死に自己の存在をアピールする月を尻目に、俺はふと疑問に思う。
 実は、カーテンを開けずとも外の様子くらい知ることはできるのだ。このカーテンはいわゆるシュレーディンガーのパラドクスにおける、箱の役割を完全には果たしていない。

黒シャツ「……ッ」

 ……望遠鏡だ。俺は今までさんざん、アレを使って天体観測を行ってきたはず。というか、それが自分の趣味なわけで。


黒シャツ「……『空に月なんて、浮かんでいなかった』……!!」





143 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:25:01.25 ID:732bUWoUo
 何度も何度も、倍率もピントも観測日時も調整したはずだった。なのに、俺はただの一度も目当ての星――月を、見つけることができなかった。
 月が浮かばなくなった世界、そして俺の元になぜか現れた、自称・月。

月「むーん?」

 先ほどの考え方から導かれる論理を復唱。
 空に月が浮かんでるならば、彼女が星であることはまず間違いなく偽だ。
 逆にいつまでたっても月が出なかったとしたら、そんな『ありえない』世界がありえたとしたら――。

月「黒シャツさん、固まってますが? 難しいこと考えすぎて、演算装置がメルトダウンでした?」

黒シャツ「――空には、月が無かった」

月「?」

黒シャツ「……なぁ、月。もしかしたらお前は、本当に星なのかもしれない」

 という、単純かつファンタジーな結論。
 ……俺はどうやら、本当にフィクションの世界にまぎれこんでしまったらしい。あるいは、完全に狂人になってしまったか。一応、どちらかといえば前者の方が信じたい事実だ。

月「黒シャツさんが、やっと信じてくれた……」

黒シャツ「……えっと」

月「わーい、やったー。よくわからないでしたが、とりあえずやったー」

黒シャツ「おめでとうと言うべきか、ご愁傷さまと俺に言うべきか」

 思えば最初から気づくべきだったのかもしれない。夜空から月が消えた時点で俺はもう、まともな場所に留まってなどいなかった事を。
 物語は彼女が来たから始まったわけじゃなくて、多分それよりずっと以前から始まっていたんだと思う。



144 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:25:30.56 ID:732bUWoUo
月「……あれ? でも」

 と、月はさっきまで挙げていた両手を下ろして、首をかしげた。

月「星としての月は、普通にありますが?」

 ……ん?

黒シャツ「あー。それはつまり、どういう事だ?」

月「外には、星としての私がありまして。ここには、私パート2がありまして。というわけで。私、なんというか、ダブってます」

 なんだか二人の意見が食い違ってる。
 ん? 結局外に月はあるのか? ないのか?
 ということは結局コイツは月なのか? そうじゃないのか?

月「……つまりおんなじ宇宙に、たまたま二重に存在しているわけですね。若干デュアルってる感じです」

黒シャツ「……ダメだ、頭混乱してきた」

月「難しいこと考えたらダメなんですね、とりあえず不正解なので手持ちの月の石は没収になりまーす」

 効果音のようなモノを口にしながら、何かを奪い取ろうとする月。どうやら真面目に付き合う方がバカをみるらしい。
 ……ってこれ、今までとほとんど変わってないって事じゃねぇか。

黒シャツ「ンなもん最初から持ってねぇよ」

月「じゃ、じゃあ、あげますっ!」

黒シャツ「……」

月「合計10個集めたら、月面一周7泊8日ツアーがプレゼントですね! 頑張ってください!」

黒シャツ「そぉい!」

月「わーっ! 私の一部をとんかちで砕かないでーっ」

 結局その後はいつも通りだった。
 月が無い世界……か。

月「せっかくかっこいい事言えたなって、思ったのに。黒シャツさんはいじめっ子です……」

 ……必死で生き残ったドロップを回収する月を尻目に、ため息。
 正直、もはや彼女が月であろうが無かろうが、そんなものはどっちでも良かった。

 そんな事より重要なのは――。


145 名前:@ベッドの上、数時間後[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:26:36.77 ID:732bUWoUo
黒シャツ「あれからさ、また少し考えてみたんだ」

 話を蒸し返してみた。

月「んぅー?」

黒シャツ「お前の正体が何なのか、について。話しただろ?」

月「……あ、テツガクの」

 言いながら月はもぞもぞと、身体をこちら側に近づけてくる。
 積極的な彼女に根負けし、二人で同じベッドに入るという図式が完成してからしばらく経ち、やっと俺の方も慣れてきたところだ。

黒シャツ「……世界って、器がちっちぇえなって」

月「また、アイマイな事言おうとしてます。黒シャツさん、私の頭の事メルトダウンさせようとしてますが。こないだから私の燃料プールはからっからで、管理不十分の人災でしたけどっ」

黒シャツ「そうじゃねぇよ。なんか難しいこと考えたけど、細かい事とかどうでもいいよなーって、今更ながら思ったんだ」

 月は頬を膨らます。確かにアレは女の子にする話じゃなかったよな。

黒シャツ「……あのカーテンが閉まってる以上、この世界には俺とお前のふたりしか居ない」

月「はい」

黒シャツ「たとえばお前がほんとは、幻だったとしても」

月「ホントの月ですっ。まだそういう事言うなら、叩いたり蹴ったりなどの残酷な暴行をくわえたりしますね!」

黒シャツ「はは、それは勘弁。でもさ、幻でもいいんだよ。ここに、目の前にひとりしか居ない俺がちゃんと、居てほしいって思ってるんだから」

月「ほぇー。えと、ええと……?」

 あんだけしゃべって結局それかよって話なんだけどな、と前置きをする。

黒シャツ「俺が一人でこうやって引きこもってる時くらい、信じたものを実存させてくれてもいいよな。俺が居たらいいなって思って、そう信じた結果、お前がここに居て」


黒シャツ「……そんな曖昧なもんでいいじゃん。二人しか居ない世界なんて」





146 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:27:58.71 ID:732bUWoUo
月「私に居てほしいって、思ってます? 黒シャツさん、そう思ってくれてます……?」

黒シャツ「……そうだな」

 少しだけ素直になれば、そこまでたどりつくのに大した考えも必要じゃなかった。なんだかんだ言ってこの共同生活は妙に楽しい。今更の話だ。
 もし月が居なくて、ずっとひとりぼっちのままでいたなら、この楽しさの存在すら知らずに俺は終わっていたんだろうか。多分、そうに違いない。

月「わたし。なんか色々、もれもれだーだー……しそうなんですけど?」

黒シャツ「いいんじゃねぇの、喜んどけば」

 ……それにしても、俺はどうして彼女に居てほしいと思ってるんだろう?
 ――ははっ。考えるまでもないか、そんなの。すごくシンプルな結論だ。

黒シャツ「簡単なことなんだ、お前に居てほしいって願う理由なんて。俺はさ、多分――」


////////////////
条件判定:
[FLAG]=XXXx→FALSE
////////////////


147 名前:[SANITY]=12 [FLAG]=XXXx[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:30:18.40 ID:732bUWoUo
//////////////////////////////
A【どうしようもなく寂しいんだよ】
//////////////////////////////

黒シャツ「寂しがりなんだよ、どうしようもなく」

 ……天井に向けて、ぽつりとつぶやいた。

月「にゅふふ。万有引力ー」

 ぎゅむ、と抱きつかれる。

月「黒シャツさん、あのね。……だいすき、だよ」

黒シャツ「……あ。……暑苦しいって」

 精一杯の文句も、月には聞こえていないようだった。



148 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:31:57.32 ID:732bUWoUo
月「……ずっと、私がそばに居てあげますゆえ。何に替えても、私は黒シャツさんのそばに居るのでした」

 耳元で声がする。甘くて丸い、ドロップスみたいな声だ。

月「その為なら、もう私……星じゃなくっても別に、いいなって。今はなんかそう思ってますね」

黒シャツ「なんだよ今更。ようやく正気に戻る気になったのか?」

月「にゅふふ。正気とか狂気とか、よくわからないでした」

 月はいつでもそうだ。つかみどころのない、ふわふわした言葉を使う。

 地上から見上げる月に、手が届きそうで届かないように。

黒シャツ「でも、それもいいかもしれない。星じゃなくっても、そうじゃなくっても」

月「かわんない、って?」

黒シャツ「うん」

 そう思う。
 ……二人一緒ってのも、悪くない。



149 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 11:32:42.06 ID:732bUWoUo
 月はふにゃっと微笑む。

月「にゅふふ。そんな事言ってくれたら、この辺……核が、きゅんってしちゃうかも」

 そう言って、胸のあたりをきゅっとおさえる。正直、その仕草がたまらなく可愛かった。

黒シャツ「……いつか外の景色、一緒に見てみたいな」

月「うんっ」

黒シャツ「今はまだ、できないけども。……努力するよ、いつか外を見られるように」

月「ふたりで?」

黒シャツ「二人で。……それで、月を見るんだ」

 髪を撫でる。気持ちよさそうに月がくぅん、と声を上げる。
 心の間隙が、少しだけ埋まった気がした。


150 名前:[SANITY]=12 [FLAG]=XXXx[!red_res]投稿日:2012/01/13(金) 11:33:58.16 ID:732bUWoUo
//////////

Count26 "Fate" is over.

Next: Count1 "Insanity"

//////////





 
153 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 12:57:17.68 ID:as/3FOHSO
FALSE……俺らは何を誤ったんだ…?

Insanity……狂気って何が起こんだよ……

期待と不安で脳汁だーだーもれもれだ




154 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]投稿日:2012/01/13(金) 13:03:51.62 ID:732bUWoUo
どうしてこうなった、については
とりあえずエンディングまで行ったらかんたんに説明する
現在は、二つのエンドが両天秤状態になってるね



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[ 2012/02/05 07:38 ] 擬人化SS | TB(0) | CM(0)
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