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村娘「あたしを弟子にして欲しいの!」師匠「なに?」2/2
村娘「あたしを弟子にして欲しいの!」師匠「なに?」
75
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:34:08 ID:2HOn4B96
試合前夜──
弟子と村娘は村外れで二人きりになっていた。
弟子「明日は頑張りましょう!」
村娘「うん、あたしがここまで強くなれたのは師匠さんと弟子君のおかげよ。
本当にありがとう。あとは勝つだけね」
弟子「子分さんとチンピラさんも今日まで頑張ってくれました。
きっと、なんとかなりますよ!」
村娘「この試合が終わったら、また旅に出ちゃうんでしょう?」
弟子「……はい」
村娘「この二ヶ月、楽しかったわ。まるで弟ができたみたいだった」
弟子「ぼくも姉ができたみたいで嬉しかったです、村娘さん」
明日の勝利を誓うと、二人は別れた。
元スレ
村娘「あたしを弟子にして欲しいの!」師匠「なに?」
76
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:34:21 ID:2HOn4B96
空き家──
弟子「では師匠、おやすみなさい」
師匠「しっかり寝ろよ」
師匠「………」
師匠(子分とチンピラはよく稽古についてきたが、
まだ試合に出せるようなレベルには達していない……)
師匠(相手の力量によっては、さっさと降参させた方がいい)
師匠(やはり、俺、弟子、村娘で三勝しなければならない)
師匠(弟子はもちろん、村娘も十分強くなった。勝機はあるはず)
師匠(だが、問題は俺だ……。勝てるか? あの仮面に……)
頭の中で、あの惨敗が再生される。
師匠(くそっ……情けない! ヤツのことを考えただけで冷や汗が出る!
まだ心のどこかで逃げたい、と思っていやがる!)
師匠(くそっ……!)
77
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:34:34 ID:2HOn4B96
翌朝、空き家に師匠たち五人が集結する。
師匠「みんな、今日までよくついてきてくれた」
師匠「だいたい想像はつくだろうが、
豪商が連れてくる五人の中にまともなヤツは一人もいないだろう。
今日も勝ちに、というより殺しに来ているはず」
師匠「だから、絶対に死ぬな。勝つことよりもそれが一番大事だ」
弟子「はいっ!」
村娘「分かったわ!」
チンピラ「ケッ、いわれなくても死にたくねぇよ」
子分「緊張してきたっす……」
師匠「よし、じゃあヤツらが来るまで疲労が残らない程度にウォームアップだ」
78
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:34:48 ID:2HOn4B96
昼過ぎ、黒服たちと五人の戦士を引き連れ、豪商が村にやって来た。
豪商「お待たせしました」
師匠「できれば来て欲しくなかったがな」
豪商「おやおや嫌われたものですねぇ。で、試合はどちらで?」
師匠「屋内より屋外の方がいいだろう。
村の中央に広い空き地があるから、そこを試合場としたい」
豪商「分かりました」
仮面「当然、五人目はキサマだろう? 楽しみにしているぞ」
師匠「……あ、あぁ」ゾクッ
79
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:35:00 ID:2HOn4B96
豪商「ルールは我々が提示しましょう」
豪商「素手である他、降参または戦闘不能で決着というのはいかがでしょう?
もちろん、死亡してしまっても負けということで」
師匠「……分かった」
村長が師匠に話しかける。
村長「情けない話じゃが、ワシらは村の命運をあなたがたに託す他ない。
じゃが、くれぐれも命だけは失うことのないよう……」
師匠「大丈夫、それだけは絶対避けます」
(ここで絶対勝ちます、といえない俺の方が情けない……)
大勢の村人が見守る中、第一試合が始まろうとしていた。
【第一試合】子分 対 拳闘家
子分「行ってくるっす!」ザッ
拳闘家「すぐ終わらせてやる……」ザッ
80
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:35:16 ID:2HOn4B96
ザワザワ…… ドヨドヨ……
勝負は一瞬で決まってしまった。
開始直後の左ストレート一閃。
これだけで、子分はノックアウトされてしまった。
子分「うぅ……」
チンピラ「おい、しっかりしろ!」
村娘「大丈夫っ!?」
弟子「頭を動かさないように、そっと運びましょう!」
師匠(やはり、こうなるか……。だが、よく立ち向かった)
拳闘家(なんだ、まるで手応えがないじゃないか。つまらん……)
豪商「ククク、なかなかスピーディーな試合でしたよ。
これでまず、我々の一勝ですね」
くノ一「アハハッ、なにあれぇ? ダサすぎでしょ」
大男「おいおい、いつもの仕事のがよっぽどやりがいがあるぜ!」
暗殺者「当然だ。たかが村の用心棒如きが、プロの相手になるはずがない」
81
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:35:29 ID:2HOn4B96
【第二試合】チンピラ 対 大男
大柄なはずのチンピラが、大男と並ぶと中肉中背に見えてしまう。
チンピラ(でけぇ……!)
大男「わざわざこんなド田舎まで足を運んだんだ。少しは楽しませてくれよ?」
師匠(もう勝負は見えている……。
体格で負けている以上、チンピラの利点が一つもない。
さっさと降参させた方がいい)サッ
師匠は「すぐ降参しろ」と、チンピラにサインを送る。
第二試合が始まった。
大男「ぬおおんっ!」ダッ
チンピラ(でけぇくせに、速いのかよ! そんなの反則──)
ドゴンッ!
頭上から振り下ろすハンマーパンチで、チンピラの全身が地面に叩きつけられた。
村娘「あぁっ!」
弟子「チンピラさんっ!」
師匠(終わった……)
82
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:35:42 ID:2HOn4B96
しかし、チンピラは立ち上がった。
チンピラ「ま、まだだ……!」ペッ
大男「ほぉ、なかなかタフじゃねぇか」
足元のおぼつかないチンピラに、重い打撃が容赦なく叩き込まれる。
ガゴンッ! バゴンッ! ズガンッ!
大男「ぐへへっ、そろそろ死んだか?」
チンピラ「死、んで、ねぇ……よ」ヨロッ
大男「ふん、死にかけじゃねぇか。だったら──」ヒョイッ
大男はチンピラを軽々と持ち上げると、地面に投げ落とした。
ドガァンッ!
チンピラ「が……はっ……!」
チンピラの口から血が吐き出される。
師匠(サインが伝わってなかったのか!? なぜ降参しない!?
もう勝ち目がないのは分かってるはずだ!)
83
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:35:57 ID:2HOn4B96
歯を食いしばり、再度立ち上がるチンピラ。
チンピラ「俺は……やれる、ぜ!」ヨロッ
弟子「チンピラさん、もうやめて下さい!」
村娘「そうよ、アンタはもう十分かっこいいよ!」
チンピラ「なめるんじゃ、ねぇよ……」ハァハァ
チンピラ「村娘、お前が俺に惚れる……わけねえだろうが……。
好きな女のウソくらい、俺だって分かる」
チンピラ「俺はなぁ、気づいちまったのさ……やっぱ俺、この村が好きだって……。
こんなヤツらに奪われたくねぇ、って……」
チンピラ「それに……俺より強い男に……頼むっていわれちゃ……
やるっきゃねぇ、だろ……男として!」
師匠「!」
チンピラ「来いよ、デカブツ! 俺は……村で四番目に喧嘩が強いんだぜ!」
大男「ケッ、死にぞこないが……」
仮面「殺れ」
大男「おうっ!」ダッ
バキィッ!
84
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:36:12 ID:2HOn4B96
チンピラの拳がヒットした。
大男の突撃をかわし、練習通りの突きをカウンターで決めてみせた。
大男「ぐぉっ……!?」グラッ…
──が、これで倒れるほど、甘い相手ではない。
チンピラ「……一矢報いてやったぜ。ざまぁみやがれ……デカブツ」
大男「このっ……!」イラッ
大男は両手でチンピラの頭をワシ掴みにした。
大男「頭蓋骨ごと、頭を粉砕してやらぁ!」グググ…
チンピラ「ぐううぅぅぅぅ……っ!」ミシミシ
弟子「チ、チンピラさんっ!」
村娘「死んじゃうよっ! 早く降参してっ!」
チンピラ(絶対イヤだ……! こんなヤツらに降参なんかしねぇっ!
子分……情けない兄貴分ですまねぇっ!)
大男「終わりだっ!」グググ…
ミシミシ…… メキメキ……
豪商(ククク……大男の怪力は人の頭をスイカのように粉砕します。
やはり人の死というのは、金稼ぎと同じくらい楽しいですねぇ~!)
85
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:36:25 ID:2HOn4B96
師匠「やめろ」
大男「!?」ピタッ
師匠「もう勝負はついた。この試合、チンピラの負けだ」
大男「ざけんじゃねぇ、てめぇに試合を止める権利は──」
師匠「やめろ」
大男「うっ……」ゾクッ
師匠の迫力に押され、大男はチンピラを地面に捨てた。
これで師匠たちの二敗目が決まった。
師匠、弟子、村娘がチンピラに駆け寄る。
チンピラ「おい……! なんで……なんで止めたんだよぉっ!」
師匠「簡単な話だ。あのまま続けてたら、お前は死んでいたからだ」
チンピラ「ち、ちくしょう……!」
86
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:36:38 ID:2HOn4B96
師匠「一つ、お前に謝りたいことがある」
師匠「初めてお前と出会った時、俺はお前をロクデナシだといった」
師匠「だが……ちがった」
師匠「俺はお前と子分の心根を、表面上でしか理解していなかった。
これほどの男たちだったとは知らず、二人を数合わせ扱いしていた」
師匠「なんてことはない。ロクデナシは俺の方だった。すまん……!」
チンピラ「村で一番喧嘩が強いヤツが、簡単に謝るなよな……へっ……」ガクッ
チンピラはどこか安心したように気を失った。
師匠「……二人とも」
弟子「はい」
村娘「うん」
師匠「残り三試合、必ず勝つぞ」
弟子「はいっ!」
村娘「もちろんっ!」
弟子(いつもの師匠の顔だ……! 師匠が、いつもの師匠に戻った……!)
87
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:36:53 ID:2HOn4B96
【第三試合】村娘 対 くノ一
くノ一「女同士だし、お手柔らかにね」サッ
村娘「悪いけど、本気でやるから」
握手を求める右手に、村娘は応じなかった。
くノ一(ちっ……)
くノ一は右手の指に小さな毒針を挟んでいた。
くノ一(まぁいい。どうせコイツもさっきの二人みたく、大したことないだろうし。
さっさと殺っちまうか)
村娘(これでよかったのかな……? 握手くらいしてあげてもよかったかも……)
毒針に触れずに済んだのは、師匠のアドバイスのおかげだった。
師匠『俺も詳しくはないが、あの女は多分、異国のシノビって特殊部隊出身だ。
暗器などの扱いに優れてるらしく、なにをしてくるか分からん』
師匠『特に試合前は、うかつに近づいたりするなよ。
“試合前は武器を使っちゃいけないなんていわれてない”
なんて屁理屈をこねるかもしれん』
88
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:37:06 ID:2HOn4B96
村娘が敗北すれば、豪商の手に村が渡ることになる。
不安そうに村人たちが見守る中、試合が始まった。
村娘(清流のように穏やかに……)ユラリ…
くノ一「なんだぁ……?」
(変な動きしやがって。どうせ、こけおどしだろうけどさ)
くノ一は間合いを詰めると、鋭い蹴りを放つ。
スカッ
くノ一「えっ、外れ──」
村娘(激流のように力強く!)ダッ
くノ一(急に動きが速く──!?)
ドガガガガッ!
村娘の連打が、蹴りを外したくノ一をとらえた。
くノ一「ぐぁ……!」
村娘(トドメは……滝のような一撃を!)
89
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:37:19 ID:2HOn4B96
くノ一「ちぃっ!」バッ
くノ一は飛びのいて、間合いを開ける。
村娘(あと少しだったのに……!)スッ
くノ一「やりやがったね……!」サッ
二人の女が、激しい打撃戦を展開する。
ガガッ! バシィッ! ドカッ! ベシィッ!
弟子(いいぞ……! 村娘さんのヒット数の方が多い!)
師匠(村娘は短期間とはいえ密度の濃い稽古をこなしてきた。
試合という形式なら、たとえ殺し屋相手でも引けは取らない)
師匠(ただし、劣勢になった相手の女がどう出るかが不安だが……)
ベシィッ!
村娘のローキックが、くノ一の足にヒットした。
くノ一「ぐぅっ……!」
90
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:37:33 ID:2HOn4B96
村娘(よし、私が押してる……!)
くノ一(このガキ……悔しいが、まともな格闘じゃアタシが不利だ……。
こうなりゃ仕方ない、アタシも金がかかってんだ)
くノ一(使わせてもらうよ、フフフ)グッ
くノ一は左手にしびれ薬を塗った針を握り込んだ。
くノ一「はっ!」ヒュッ
村娘(おっと!)ガッ
くノ一の左拳を、村娘が右腕で防御する。
村娘「!」
村娘(なんか今、チクッとした……!?)
くノ一(これでもう、アンタの右腕は用をなさない……!)
91
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:37:46 ID:2HOn4B96
すかさず村娘の右側面から、くノ一から攻める。
村娘(あれ……!? 右腕が動かない……!)
ドガッ! ベシッ! バキッ!
ほとんど無防備になった右半身に、面白いように打撃がヒットする。
村娘(くっ……どうしてなの!?)
くノ一(顔面ががら空きだよっ!)
バキィッ!
村娘の顔面に、くノ一のハイキックが入った。
村娘「あぐぅ……!」グラッ
くノ一(フフフ、もうアタシの勝ちだ!)
92
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:37:58 ID:2HOn4B96
弟子「村娘さん、急に調子が悪くなりましたね……。どうしたんでしょうか……!?」
師匠「さっきから右腕を全然使ってない……。
なにか薬でも使われ、麻痺させられたのかもしれん」
弟子「そんなの反則じゃないですか! 今すぐ抗議しましょうっ!」
師匠「無駄だ。証拠を残すようなヘマはしないだろう」
弟子「じゃあ、どうすれば……!」
師匠「村娘が、自分の有利に気づくしかない。
こればかりは、俺がアドバイスするわけにはいかない」
弟子「有利……?」
93
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:38:13 ID:2HOn4B96
くノ一「ほらほらぁ、どうしたんだいっ!?」
ガガガッ! ドガッ!
村娘の右側面から、執拗に打撃を繰り出すくノ一。
なぜなら、村娘の右腕が動かないことを知っているから。
ならば、もし──
くノ一(蹴りさえ警戒してりゃあ、こっちのもんだ!)
──動くはずのない右腕が攻撃してきたら、どうなるか。
村娘「えいぃっ!」
ブオンッ!
くノ一「なっ──!?」
ベシッ!
動くはずがない右腕が、くノ一の顎を叩いた。
94
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:38:27 ID:2HOn4B96
顎に打撃を喰らい、膝をつくくノ一。
くノ一(な、なんで……? 右腕は動かせないはず……!)
村娘「こっちの番だね」
村娘が腰を落とし、呼吸を整える。
くノ一「ひっ、や、やめ──!」
村娘(滝のような、一撃を!)
ドゴォッ!
くノ一「ごぁっ……!」ドザッ
村娘渾身の左ストレートが、一撃でくノ一の意識を奪い取った。
村娘「や、やった……!」ハァハァ
ワアァァァァァッ!
村娘の勝利に、村人たちが沸き上がった。
95
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:38:40 ID:2HOn4B96
「すごいぞ、村娘ちゃん!」 「よくやったっ!」 「いい戦いだったよ!」
弟子「村娘さん、やったぁっ!」
師匠「ふぅ……どうやら自分の有利に気づいたようだな」
弟子「どういうことです?」
師匠「相手の女は、村娘の右腕を封じたと確信していた。
ならば、もし右腕を無理にでも動かせたなら強烈な武器となる」
師匠「足腰や肩を使えば、だらりとぶら下がった右腕を振るうことくらいできるだろ?」
師匠「もし当たらなくても、少なくとも動揺は誘えるからな」
弟子「そういうことでしたか……。
たしかにこれは、アドバイスしたら敵にバレちゃいますもんね」
師匠「さて、次はお前だ。今さらお前にアドバイスすることなどないが……」
師匠「お前の相手、あれは相当の数を殺してるってツラだ。気をつけろよ」
弟子「はい……!」
96
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:38:54 ID:2HOn4B96
豪商「やれやれ、異国のシノビとはあの程度のものですか」
仮面「あの女はしょせん、戒律を破りシノビ集団を追放されたという粗悪品です。
しかし、ご安心を。この私がいる限り三勝は確実ですから」
暗殺者「聞き捨てならんな。俺があんな小僧に負けるとでも?
なんならここで、キサマから殺してもよいのだぞ?」
仮面「……これは失礼した」
暗殺者「ふん」ザッ
豪商「暗殺者……。まぁ彼ならまちがいなく勝つでしょう。
なぜなら彼は根っからの殺人者です」
豪商「通常の殺し屋は鍛えた肉体や技術を下地に、殺人を遂行をするものです。
これは仮面、あなたもそうだったはずです。
しかし、彼は殺人で肉体や技術を備えたと聞いていますから」
仮面「豪商様が雇い始めてからまだ数ヶ月だというのに、
すでに70人以上を始末していますからな。
仕事のペースでは私とて、ヤツには敵いません」
豪商「ククク、ようやく人が死ぬ場面を楽しめそうですね」
97
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:39:08 ID:2HOn4B96
【第四試合】弟子 対 暗殺者
向かい合う二人。
弟子(コイツがぼくの対戦相手……)
弟子(まがまがしさは、後に控える仮面にも決して劣らない……)
弟子(でも、ぼくは勝たなくちゃならない!)ザッ
暗殺者「小僧、キサマは修業を重ね、戦い方とやらを学んできたんだろう?」
弟子「……だったら、なんだ!」
暗殺者「俺はちがう。俺は戦い方など知らないが、殺し方は知っている」
弟子(どういう意味だ……?)
試合が始まった。
98
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:39:22 ID:2HOn4B96
暗殺者が突っ込んできた。
ブウンッ! ブオンッ!
暗殺者が拳を振るう。スピードはあるが、フォームはでたらめだ。
弟子は困惑しながらも、余裕でかわす。
弟子(これは演技なのか……? いや、とてもそうは思えない──)
ピトッ
暗殺者の手が、弟子の胸に触れた。
弟子「え」
暗殺者「終わりだ」
──ドンッ!
凶悪な衝撃が、弟子の心臓を直撃した。
師匠「なにっ!?」
弟子「───!」ドサッ…
暗殺者「心臓が止まれば……人は死ぬ」
99
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:39:38 ID:2HOn4B96
弟子は倒れたまま、微動だにしない。
村娘「ウソよ……ウソでしょ……!?」
「ピクリともしないぞ!」 「なにが起きた!?」 「まさか、死んだんじゃ……」
師匠(なんだ、今の技は……!?)
豪商「ククク……有望な若い命が散ってしまいましたか、実に残念です」
仮面(心臓部に手を置き、敵と呼吸を合わせた後、
独特の体重移動で掌から異常な圧力を生み出し、一瞬で心臓を停止させる……)
仮面(格闘技や武術を一切習わず、殺し方ばかりを常に考えてきた
暗殺者にしかできぬ技……。いや、ヤツにとっては技ではなく手段、か)
暗殺者「これで俺の仕事は終わ──」
弟子「待って……下さい……」ググ…
暗殺者「な、なんだと……!?」
弟子「ぼくはまだ、戦えますよ……」ヨロ…
弟子「師匠の……攻撃に比べたら……今の攻撃なんてどうってことはない……」
100
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:40:02 ID:2HOn4B96
「おお!」 「なんだ、効いてなかったのか!」 「ビックリしたよ!」
村娘「弟子君……よかった……!」
師匠(大ダメージだな……)
弟子(すごい技だった……! おそらく数秒間、完全に心臓は止まっていた……。
もう一度喰らえば、まちがいなくアウトだろう……)
暗殺者「あれを受けて絶命しなかった者などいなかったというのに……。
大した生命力だな」
弟子「鍛えて、ますからね……」フラッ
暗殺者「格闘家の意地というやつか。だが、もうほとんど死にかけのようだ。
つまり、もう一度喰らわせればいいだけの話だ」
再び暗殺者が胸に手を当てようと、弟子に接近する──が。
弟子「なめないで下さい」
ドゴォッ!
槍のような中段蹴りが、暗殺者の腹を射抜く。
暗殺者「げぇぁっ!?」
101
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:40:15 ID:2HOn4B96
弟子「同じ技をやすやすと受ける格闘家はいませんよ」
弟子「はあぁっ!」
激流のような、弟子の猛ラッシュ。
ドガァッ! ガスッ! ベキィッ! ガゴッ! ドグァッ!
暗殺者「か……が、は……!」ゲホゲホッ
暗殺者「……ぐっ!」
暗殺者「調子に乗るなよっ!」ビュッ
暗殺者が人差し指で、正確に眼球を狙ってきた。
弟子「くっ!」サッ
さらに鋭く研いだ爪で、頸動脈を狙ってきた。これも紙一重でかわす。
弟子(フォームは明らかな我流だけど……速い!)
暗殺者「心臓だけのはずがないだろう。
俺はこれまでの無数の殺しで、人間を死なせられるポイントってのを
熟知しているんだよ……!」
102
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:40:29 ID:2HOn4B96
暗殺者「アマチュアがっ!」
ビュオッ! ブンッ! シャッ!
暗殺者の反撃が始まった。
でたらめなフォームとはいえ、最短距離で、次々に急所めがけて打撃を放つ。
もしかわしそこねれば、死に直結するダメージは免れない。
村娘「なんて人なの……ためらいなく急所ばかり狙ってる……」
師匠「………」
村娘「こんな危険な相手、いくら弟子君が強くても……」
師匠「楽でいいじゃないか」
村娘「え?」
師匠「高効率の殺しを追求するあまり、急所しか狙わなくなったんだろうが……。
逆にいえば、どう攻撃してくるかこれほど分かりやすい敵もいない」
師匠(弟子……思い知らせてやれ。殺人者と格闘家の違いを!)
103
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:40:43 ID:2HOn4B96
弟子はわざと暗殺者に、ノドをさらけ出した。
すると、飛びついたように暗殺者はノドに突きを放ってきた。
これを弟子、手刀で叩き落とす。
ビシッ!
暗殺者「ぐあぁっ……!」
弟子「たしかに人を殺すという点においては、ぼくはあなたに敵わないでしょう」
弟子「しかし、ぼくだって師匠から戦い方を教わりました。
敵の倒し方だけじゃない。自分の身の守り方、そして格闘家としての心構えも」
弟子「殺し方しか知らないあなたなんかに、絶対負けない!」
暗殺者「ぐっ……このぉっ!」ダッ
再び暗殺者が心臓部に掌を置こうとするが、これを弟子はかわすと──
ガゴンッ!
──渾身のアッパーで暗殺者の顎を打ち上げた。
暗殺者「ぐがっ……!」ドザァッ
104
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:40:56 ID:2HOn4B96
白目をむき、大の字で倒れる暗殺者。
「や、やったぞっ!」 「これで二勝二敗だっ!」 「次で決まる……!」
想定外の連敗に、これまで余裕だった豪商の表情が初めて曇る。
豪商「くっ、まさか暗殺者が、あんなガキに負けるなんて……!」
仮面「しかし、面白くなってきましたよ。
四連勝で私に回ってくるより、よほど戦いがいがある」
豪商「私もあなたの実力は十分知っていますが……大丈夫でしょうね?」
仮面「もちろんです」
仮面「もっとも、私はこれから戦う相手に個人的に興味がありましてね。
味方に引き入れたいとも考えているのです」
仮面「試合前に交渉してもよろしいですか?」
豪商「……かまいませんよ。優秀な兵はいくらいても困りませんから」
105
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:41:09 ID:2HOn4B96
ついに師匠の試合が始まる。
弟子と村娘に加え、意識が戻ったチンピラと子分も応援に駆けつける。
子分「役に立てなくてすんませんっす。頑張って下さいっす!」
チンピラ「頼む……もうアンタにしか頼れねぇんだ……!」
村娘「全力で応援するからっ!」
弟子「師匠、どうかお気をつけて!」
師匠「みんな、よく戦ってくれた。
お前たちに俺なんかがしてやれることといったら、せいぜい──」
師匠「勝つことぐらいしかない」
師匠「じゃあ、行ってくる」
106
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:41:23 ID:2HOn4B96
【第五試合】師匠 対 仮面
仮面「一週間前は私に怯えきっていたというのに、すっかり怯えが消えている。
……どういう心境の変化だ?」
師匠「………」
師匠「俺は今でもお前が怖いよ」
師匠「だが、チンピラが教えてくれた。格闘家ってのは、自分の誇りを守るためなら、
勝てそうもない相手にだって立ち向かわなきゃならないってな」
仮面「なるほど。とはいえ、私の実力はお前も身に染みて分かってるはずだ」
仮面「そこでだ。私と戦わずとも、お前の誇りや村を守る方法を教えてやろうか?」
師匠「そんな方法、あるわけないだろうが」
仮面「一つだけある」
仮面「どうだ、私とともに豪商様の下で働く気はないか?」
107
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:41:36 ID:2HOn4B96
仮面「かつての私とお前の試合──乱入してきた拳法家を殺害した後、
私はお前を殺すこともできた。……が、やらなかった」
仮面「なぜだか分かるか?」
仮面「私はあの時からお前を買っていたんだ。将来必ず使える人材になる、と」
仮面「なにせ、私の蹴りを受けて意識を保てていた人間はお前が初めてだったからな」
仮面「そして期待通り、お前は強くなって私の前にこうして立っている。
体つきや雰囲気だけで分かる。あの時とは比べ物にならない、と」
仮面「もし、豪商様の下につくなら、村人たちにはよりよい条件を用意するし、
お前も私と同格のポジションに置いてやろう。
これならば、村人も救われ、お前の誇りとやらも守られ──」
108
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:41:48 ID:2HOn4B96
師匠「ふざけんな」
師匠「俺はお前と並びたいわけじゃないし、村を守るためだけに戦うんじゃない」
師匠「あの試合でズタボロにやられた借りを返すために、ここに立ってんだ!
どんな条件を積まれようが、俺にはお前と戦う以外の選択肢はない!」
仮面「………」
仮面「下らん男だ。どうやら私の見込み違いだったようだ」
師匠が構える。仮面は構えない。あの時と同じである。
最終試合の幕が上がった。
109
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:42:01 ID:2HOn4B96
仮面が踏み込む。数メートルあった間合いが、一瞬にして縮まった。
師匠(来たっ!)
しかし、打撃の間合いに入る寸前、仮面は体勢を落とす。
師匠「!?」
そして強烈な下段足払いで、師匠を宙に浮かせると──
バギィッ!
──すぐさま体勢を戻し、竜巻のような回し蹴りでの追い討ち。
だが、師匠もきちんとガードをしていた。
しかも蹴りを受けつつ、仮面の胸に当て身を喰らわせていた。
仮面「ほう……」ズキッ
師匠(やはり、あの時よりもずっと強くなっている……!)ビリビリ
110
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:42:14 ID:2HOn4B96
今度は師匠から攻める。
力強い踏み込みから、左右の拳で連打を繰り出す。
対する仮面も、危なげなく全てをかわす。
師匠「──せいっ!」
仮面「──ふん」
ズギャァッ!
両者のハイキック同士がぶつかり合う。
まるで剣と剣がぶつかり合ったかのような迫力である。
師匠「ぐっ……!」ビリビリ
仮面「やるな」ビリビリ
息つく暇もなく、攻防が再開される。
111
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:42:27 ID:2HOn4B96
常人の目には止まらない速度で、拳と足が入り乱れる。
パパパパパパパパッ!
目まぐるしく攻撃と防御を展開する両者。
子分「は、速すぎるっす!」
チンピラ「なにが起こってるのか、全然分からねぇ……」
拳闘家「仮面と互角に渡り合える人間がいたとは……!」
大男「信じられねぇっ!」
くノ一「なんなんだよ、こいつら!」
村娘(これが師匠さんの本気……こんなに強かったんだ……!)
師匠の強さを目の当たりにした弟子は、思わず目を潤ませていた。
弟子(これがぼくの師匠なんだ……!)
弟子(父さん、見ていますか? ぼくの師匠はこんなにも強いんです……!)
112
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:42:40 ID:2HOn4B96
仮面「両腕を折られ、はいずり回ることしかできなかった男が、
ずいぶん腕を上げたじゃないか」
師匠「あの日の惨敗は悪夢となって、俺を襲った。あの悪夢に俺はうなされ続けた。
だがそれと同じくらい、俺はお前を倒す日を夢見てきた」
師匠「お前は俺にとって近づきたくもない恐怖であり、同時に倒すべき目標だったんだ」
師匠「──俺はお前を超えてみせるっ!」
仮面「不可能だ」
ブオンッ!
仮面が全身を回転させ、鋭い蹴りを放つ。
ザシュッ!
師匠の腕にナイフで切ったような傷ができた。
師匠「ぐうっ……!」
仮面「当時の私の足技はせいぜい鈍器だったが……今の私の足技は刃だ」
113
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:42:57 ID:2HOn4B96
ズババババッ!
仮面による蹴りの嵐。みるみるうちに、師匠の全身に切り傷ができる。
師匠(ぐうぅっ……!)
弟子「師匠っ!」
村娘「師匠さんっ!」
師匠(ここで冷静になれなければ、終わりだ……)ユラリ…
仮面「ほう……?」
ズババババッ!
清流の動きで、蹴りをかわす師匠。しかし、さすがに全てはかわせない。
仮面「なかなか面白い動きだが……終わりだ」スッ
仮面がトドメの一撃を放つべく、蹴り足を大きく引っ込めた。
だが、ここで師匠はあえて仮面の懐に飛び込む。
師匠「激流のように──力強くっ!」ダッ
仮面(なにっ! 踏み込んできただとっ!?)
ズドンッ! ドドドドッ!
内臓ごと破壊するような師匠のボディブローが、立て続けにヒットした。
114
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:43:11 ID:2HOn4B96
仮面「ぐ、ぐふっ……!」ゲホッ
仮面の動きが止まった。
師匠(滝のような──)
師匠(一撃をっ!!!)
すかさず、師匠は跳躍し──カカト落としを脳天に叩き込む。
ゴガンッ!
仮面「ぐおぉ……っ!」ガクッ
子分「うわっ、痛そうっす!」
チンピラ「あのバケモノが膝をついた!」
豪商「バッ、バカな!」
師匠(そして──あの時ぶち込めなかったパンチをくれてやるっ!)
バキャアッ!
師匠の右ストレートが、仮面を叩き割った。
115
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:43:26 ID:2HOn4B96
師匠「………!」
仮面が割れ、仮面の下に隠された素顔があらわになった。
顔の半分ほどが、手の形をした火傷跡に覆われている。
師匠(こ、これが……仮面の素顔、か……!)
仮面「見られてしまったか」
仮面「私は子供の頃、自宅で大火災に見舞われた」
仮面「母は炎に包まれながらも、最期まで私をかばい抱き締めていてくれた。
これはいわば、母が私に遺してくれた愛の証なのだ」
仮面「私はこの母の愛を独占するために、仮面をつけた……。
この顔を見ていいのは、火事から私を救い出してくれた豪商様だけなのだ……」
仮面「許せん……」
仮面「許さんっ!」ギロッ
ドゴォンッ!
突風のような蹴りだった。
師匠の体が軽々と、村人たちの中に蹴り飛ばされる。
師匠「がっ……! げぼぉっ!」
116
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:43:39 ID:2HOn4B96
師匠(肋骨がイカれて、内臓にも痛手を……ぐっ!)
仮面「許さぁぁぁんっ!!!」
攻撃は終わらない。
怒りの形相で、仮面が師匠めがけて駆けていく。
「うわっ!」 「あ、悪魔だっ!」 「こっち来たぞっ!」
もはや、先ほどまでとは別人であった。
ミドルキック、アッパーカット、浮き上がった師匠に右ストレート。
ドゴォンッ!
空き地の外まで殴り飛ばされる師匠。
師匠「ぐっ……!(なんてパワーだ……!)」
怒りによる興奮と、仮面が破壊されたことによる表情の解放。
これらが仮面にさらなる力を与えていた。
117
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:43:55 ID:2HOn4B96
ズガァンッ! バゴォンッ! メキャアッ!
仮面の猛攻が止まらない。
村全体が試合場と化したかのように、殴り飛ばされ、蹴り飛ばされる師匠。
豪商「ククク……! すばらしいっ! すばらしいですよっ!
さすがは私自らが発掘し、育て上げた最強の殺人者っ!」
豪商の戦士たちですら、仮面の強さに絶句していた。
子分「やばい、やばいっすよ! 兄貴、どうにかできないっすかね!?」
チンピラ「どうにかって……。悔しいが、俺たちじゃどうにもできねぇよ……!」
村娘「弟子君、助けに行こうよ! このまま師匠さんが……!」
弟子「………」
弟子「ダ、ダメです……!」
弟子「師匠はあの仮面を倒さなければ、過去を振り切ることができません。
だ、大丈夫……絶対に師匠は勝ちます!」
弟子が握った拳からは、血がにじみ出ていた。
118
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:44:34 ID:2HOn4B96
ドザァッ!
師匠「がふっ……!」
師匠の口から、血と折れた歯が吐き出される。
仮面「しぶといな。今まで倒してきた相手の中で、お前がまちがいなく一番だ。
だが私の素顔を晒した以上、お前に死以外の結末はありえない……!」
師匠「……やってみろ」
師匠(もうこの体じゃ、ろくな突きも蹴りもできない……)
師匠(だが、ヤツの力を利用し、なおかつ三つの動きを同時にこなせれば
倒せる可能性はある)
師匠(もし失敗すれば警戒され、俺はなぶり殺しにされるだろう……つまり)
師匠(チャンスは一度きりッ!)
仮面「──きえぇぇあぁっ!」
殺意に歪んだ表情で、仮面が渾身の蹴りを放つ。
ブワォンッ!
119
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:44:48 ID:2HOn4B96
師匠は清流の動きで蹴りを受け流す。
仮面「!?」
さらに激流のような力強さで足を動かし、蹴りの威力を逃さず己の右拳に転化する。
そして──
滝のような右ストレートを、仮面の顔面に全身全霊にてブチ込む!
ドゴォアッ!
仮面「ぐごぁ──っ!?」
仮面の体は数秒間宙を舞い、試合場だった空き地に墜落した。
ズドォンッ!
超一流の打撃を二人分、同時に喰らったようなものである。
さすがの仮面にも、立ち上がる力は残されていなかった。
師匠「………」ハァハァ
師匠(拳法家さん……やりましたよ……!)ハァハァ
120
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:45:01 ID:2HOn4B96
豪商「こ、こんなはずが……! 立てっ! 立ち上がれっ!」
師匠「無理だ。死んじゃいないだろうが……
いくら仮面でも、しばらくは目覚めないはずだ」ハァハァ
豪商「あの大火事から救ってやった恩を忘れたのかっ!?
殺し屋部隊の筆頭に取り立ててやった恩を忘れたのかぁっ!?」
豪商がいくら叫んでも、仮面が反応することはなかった。
豪商「くっ……よもや村の用心棒などに負けるとはっ! 役立たずがっ!」
チンピラ「ケッ、おおかた火事の現場にたまたま通りがかって、
殺し屋にするために助けたんだろうが! 見え透いてやがるぜ!」
豪商「………」ピクッ
豪商「たまたま、ですってぇ?」
豪商「ククク、あの仮面の家は武術一家として有名だったんですよ。
特に仮面は天才武術少年と有名だった。私は彼が欲しかったんですよ」
チンピラ「て、てめぇ……まさか……!」
豪商「そのまさかです。私は部下に父親を殺させてから、
仮面と母親だけが残る家に火を放ってやったんですよ!」
121
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:45:14 ID:2HOn4B96
弟子「そんな……」
村娘「なんてことを……!」
豪商「私の部下に救出された仮面は、予定通り私を恩人だと思い込み、
厳しい特訓にも耐え、優秀な兵となってくれました」
豪商「もっとも……こんなザマではもう優秀とはいえませんがね。
せっかく苦労してここまで育てたのに、こんな無様な戦いをするようでは……」
師匠「………」ギリッ
師匠「はっきりいって、俺はお前を今すぐこの手で殺してやりたいよ」
師匠「だが、試合は終わった。これ以上、血が流れる必要はない。
約束通り、この村から手を引け!」
豪商「……分かりました、約束ですからね。私はこの村から手を引きます。
大人しく退散させてもらいますよ」
豪商は倒れている仮面を大男に担がせ、部下を率いて村から退散した。
122
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:45:28 ID:2HOn4B96
豪商たちに勝利した五人を、村人たちが心から祝福する。
「すごかったぞ!」 「ナイスファイトだ!」 「村娘ちゃん、かっこよかったわ!」
「さすが師匠さんと弟子君!」 「チンピラと子分もよくやった!」 「ありがとう!」
村長「本当にありがとう……みんな、よく戦ってくれたわい……。
五人は我々にとっての英雄じゃよ」
子分「英雄なんて、なんかこそばゆいっすね!」
チンピラ「ふん、アイツらがムカつくから戦っただけだ。礼なんざいらねぇや」
村娘「よかった……みんな、怪我はしたけど生き残ることができて」
弟子「えぇ……本当によかった。ぼくも修業の成果が出せて嬉しいです」
師匠「………」
師匠(終わった……)
師匠(仮面を倒して、豪商も引き下がった……。だが、なぜだ……。
なぜか胸騒ぎが収まらない……)
123
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:45:42 ID:2HOn4B96
屋敷に戻る豪商たち──
豪商「試合に勝利したことで、彼らは油断しているはずです」
豪商「今晩、あの村に夜襲をかけましょう」
豪商「黒服たちに村を封鎖させた後、
あなたたち四人はさっきの五人と村人どもを皆殺しにして下さい。
終わったら全て焼き払ってしまいましょう」
豪商「まったく、最初からこうしていればよかったんです。
どこかの役立たずが試合など提案するから、とんだ大恥をかきましたよ」
豪商「あなたがたも試合などより、“こっち”の方が得意でしょう?」
戦士四人に邪悪な笑みが浮かぶ。
拳闘家「一人残らず殴り殺してやりますよ」
大男「おっしゃあ、だれが一番多く殺せるか競争しようや!」
くノ一「フフフ、元々アタシはそういうのが本業だしね」
暗殺者「殺し合いなら負けん。特にあの小僧は念入りに殺す……!」
すると──
124
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:45:55 ID:2HOn4B96
大男に担がれていた仮面が、何やらブツブツと呟き始めた。
仮面「………」ブツブツ
大男「ケッ、コイツやっと目を覚ましやがったか! 降りろっ!」ブンッ
ドサッ!
仮面「………」ブツブツ
くノ一「敗北のショックで壊れちゃったんじゃないの?」
拳闘家「負けを知らない人間は、こういう時はもろいものだ」
暗殺者「もうコイツは使い物にならんかもしれんな」
豪商「……やれやれ。とんだ粗大ゴミができてしまいましたね」
仮面「……く、も……」ブツブツ
豪商「え?」
仮面「よ、くも……父と母を殺し、たな……」ブツブツ
豪商(こ、こいつ、まさか……さっきの話を聞いていたのか!?)
125
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:46:08 ID:2HOn4B96
涙を流しながら、仮面が豪商に詰め寄る。
仮面「よくも……」ザッ
豪商「ひっ!」
仮面「よくも……!」ザッ
豪商「うわわっ……私に近づくんじゃないっ!」
仮面「よくもォォォォォッ!!!」
豪商「ひぃぃっ! こ、殺せっ! 全員がかりで、コイツを殺すのですっ!」
それから数分間、おびただしい数の悲鳴が辺りに撒き散らされた。
126
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:46:21 ID:2HOn4B96
夕方になった。
村──
怪我の手当ても終わったので、
村長宅でささやかながらパーティーが開かれることになった。
村娘「じゃあ先に村長さんの家に行ってるからね」
弟子「分かりました」
弟子「師匠、ぼくたちも行きましょうか」
師匠「ああ」
師匠「………」ピクッ
師匠「弟子、先に行っててくれ。用を済ませたら、すぐに向かう」
弟子「はい、分かりました」
127
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:46:35 ID:2HOn4B96
村長の家──
包帯まみれのチンピラが、テーブルに並んだ料理を夢中になって食べていた。
子分「ダメっすよ、兄貴! まだパーティー始まってないのに、食べちゃ!」
チンピラ「うるっせぇな。こういうのはな、早い者勝ちなんだよ」ガツガツ
子分「はぁ……」
村長「ハハハ、かまわんよ。料理はたっぷり用意してあるし、
チンピラもよく戦ってくれたからのう」
ガチャッ
弟子「こんばんは」
村娘「あれ、師匠さんは?」
弟子「なんでも、ちょっと用を済ませてから来るそうです」
128
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:46:48 ID:2HOn4B96
村の外──
師匠「異様な気配を感じたが、やはりお前だったか……」
師匠の前には、大量の返り血を浴びた仮面が立っていた。
特に“凶器”となった両手両足は夕日よりも真っ赤に染まっていた。
師匠「豪商たちは……?」
仮面「ヒッヒッヒ……一人残らず殺してやったよぉ……!」
師匠「……で、俺と決着をつけにきたってわけか。たしかにまだ一勝一敗だからな」
仮面「私は……大火事を母の命によって生き延び、
今また、私をここまで成長させてくれた豪商様の命を奪ってきた……」
仮面「あとは私が認めた格闘家である、オマエをこの手で殺せばぁ……
殺せばぁぁぁっ! 全て終わるぅぅぅぅっ!」
師匠「そうか……。なら、やってみな」
仮面「ヒッヒッヒ……ひやあぉぉぉぉっ!!!」
129
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:47:15 ID:2HOn4B96
仮面「ぉぉぁああっ!」
師匠「仮面ッ!」
突撃してきた仮面の顔面に、師匠が右ストレートを叩き込む。
ゴギャァッ!
首の骨が折れる音がした。同時に、師匠の右拳も砕けた。
師匠の右ストレートの威力がすごかったというより、仮面が速すぎたのだ。
ほとんど自滅だった。
ドザァッ……
130
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:47:30 ID:2HOn4B96
仮面「さ、さすが……だな……」
仮面「こんな壊れ、た精神状態で……勝てる相手では、なかったか……」
師匠「………」
仮面「……わ、私は……なんだったんだろうな……」
師匠「仮面……」
仮面「両親の仇に忠誠を誓い……大勢の人間を殺し……
ついには……仇とはいえ、育ての親といえる、豪商様も殺した……」
仮面「私は……いったい……なんだったん、だ……」
仮面「………」
師匠(これだけはいえる。もしお前に出会っていなければ、
俺が今日の強さを得ることもなかっただろう、と……)
師匠は仮面の亡骸に一礼した。
131
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:48:03 ID:2HOn4B96
まもなく、師匠を探しに来た村娘と弟子が駆けつけてきた。
村娘「師匠さん、もうパーティー始まってる──あっ」
弟子「こ、この人は……」
師匠「仮面だ……」
師匠「気絶してると思っていたが、豪商がかつて自分と両親にやったことを
聞いていたんだろうな」
師匠「そしてヤツらを始末し……俺と再び戦い……死んだ」
弟子「………」
弟子「師匠、これで父も浮かばれると……思います」
弟子「あと……この人を弔ってあげたいのですが、よろしいですか?」
師匠「ああ」
三人は仮面を丁寧に弔うと、村長の家に向かった。
132
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:48:18 ID:2HOn4B96
翌日、師匠と弟子は仮面の墓に改めて掌を合わせていた。
弟子「師匠、この人も可哀想な人でしたね……」
師匠「そうだな」
師匠「もし豪商に目をつけられさえしなければ、
両親に大切に育てられ、今頃は名高い格闘家になっていたかもしれない」
師匠「だが、仮面が大勢の人間を手にかけてきたことも、また事実だ。
豪商の命令に抗うこともせず、いわれるがままにな」
師匠「それはまちがいなく、仮面自身の責任でもある」
弟子「……そうですね」
村長「おや、二人ともここにおられたか」
弟子「村長さん!」
133
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:48:31 ID:2HOn4B96
村長「本当にお二人には感謝しておる。……ところで、師匠さんに提案があるのじゃが」
師匠「提案?」
村長「もしよろしければ……この村で道場を開く気はないかね?」
師匠「!」
村長「今まであなた方が使っていた空き家は、正式に差し上げよう。
旅をしてるとのことじゃが、ここで腰を落ち着けるのも悪くはないかと……」
師匠「本当にいいんですか?」
村長「ああ、きっと村娘やチンピラたちも喜ぶじゃろう」
弟子「師匠……!」
師匠「………」
師匠「ありがとうございます。ご好意に甘えさせていただきます」
こうして村の空き家は、正式に師匠の道場となった。
134
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:48:47 ID:2HOn4B96
道場で稽古する、師匠と弟子たち四人。
子分「次、試合があったら絶対に勝つっす!」ブンッ
チンピラ「うおりゃあっ!」ブオンッ
村娘「えいっ!」ビュッ
弟子「はあっ!」ビュバッ
師匠「よぉーし、ここまで! 休憩に入っていいぞ!」
村娘が弟子に話しかける。
村娘「……ねぇ、そういえば仮面のことを父の仇っていってたけど……
弟子君のお父さんも亡くなってるの?」
弟子「はい。格闘家だったんですが、あの仮面の手によって……」
村娘「……他に家族は?」
弟子「えぇと、ぼくの上に姉がいて、父は賭けで奪われたといっていましたが、
実際は信頼できる人に預けられたみたいです」
村娘「なんだか私と似てるわね。私の父も格闘家だし、
私だけ村長さんに預けられて、弟と離れ離れになって……」
村娘&弟子「あ」
135
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:49:05 ID:2HOn4B96
弟子(もしかして村娘さんって、ぼくの……)ドキドキ
村娘(もしかして弟子君って、私の……)ドキドキ
師匠「休憩終わり! 次は、弟子は村娘と、チンピラは子分と組み手だ」
弟子「え、えぇと、始めましょうかっ!」サッ
村娘「は、はいっ、よろしくお願いしますっ!」サッ
師匠「………?」
師匠(なんでこの二人、急に他人行儀になってるんだ?)
チンピラ「………」
チンピラ「ふふふ、聞いたぜ。アイツらてっきり恋仲になると思ったが、
もしそういうことなら、まだ俺にも村娘を手に入れるチャンスがあるな」
子分「いやぁ~弟子さん関係なく、兄貴はノーチャンスだと思うっすけどね」
チンピラ「うるせぇっ!」ガンッ
子分「いでっ!」
136
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 00:49:33 ID:2HOn4B96
弟子「と、とりゃあっ」ヒュッ
村娘「え、えいやっ」ブンッ
師匠「おい二人とも、もっと気合入れないと稽古にならないぞ!
肉親同士でもないだろうに、そんなに遠慮し合ってどうする!」
チンピラ「だれがノーチャンスだ、このヤロウ!」ガスッ ガスッ
子分「いたいっ! やめてっ!」
師匠「チンピラ、あんまりムチャクチャに殴るんじゃない!
ちゃんと子分をリードする感じで組み手してやれ!」
ある村にある小さな格闘道場からは、今日も稽古の声が聞こえてくる。
道場から発せられる熱気は、どんな大きな道場にも負けてはいない。
この道場の門下生たちが、格闘家として世に羽ばたく時が実に楽しみである。
<完>
137
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 01:36:42 ID:HGfJwObc
乙
熱かった
138
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[sage]投稿日:2012/03/14(水) 03:51:43 ID:Xzy2yLHY
読むには読んだがすごく微妙…
139
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[sage]投稿日:2012/03/14(水) 10:16:55 ID:RdhtQPPQ
おつ
140
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 10:21:29 ID:v6Mqrbts
乙
面白かった
141
名前:
以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/14(水) 15:07:02 ID:xuczGU1g
乙です
142
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以下、名無しが深夜にお送りします
[sage]投稿日:2012/03/14(水) 20:03:24 ID:KGK36mmE
正統派でよかった
奇をてらうSSもいいがこういう正統派勧善懲悪もいい
143
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以下、名無しが深夜にお送りします
[sage]投稿日:2012/03/14(水) 20:53:52 ID:qWjFWSTc
乙
すきよ
144
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以下、名無しが深夜にお送りします
[sage]投稿日:2012/03/15(木) 03:27:46 ID:UoxSTUW2
面白かった
145
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以下、名無しが深夜にお送りします
[]投稿日:2012/03/16(金) 10:33:16 ID:/rD87yk.
読んだ
長かったが良かったよ
146
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以下、名無しが深夜にお送りします
[sage]投稿日:2012/03/16(金) 16:23:11 ID:Kb6uP8tA
乙
でも村娘をもっと出してほしかった