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新ジャンル「完璧な許婚」4/4
新ジャンル「完璧な許婚」
74
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/05(火) 18:12:40.96 ID:EQ+ZGW9UP
――家
男「ただいまー」
許嫁「お帰りなさい」ふかぶか
男「えっと。ただいま、あのね」
許嫁「はい?」
男「毎日さ、あの。玄関で三つ指ついてお出迎えとか
しなくていいんだよ? その。大変だしさ」
許嫁「そんなこと云わないでください。
これが嬉しいんですから」にこっ
男(うわぁ……許嫁さん、か、可愛いなぁ)
許嫁「今日のお弁当はいかがでしたか?」
男「美味しかったよ。きんぴらとか、西京焼きとか」
許嫁「よかった」
男「お店で出てくるのみたいだよね。ゼミの人もびっくりしてた」
許嫁「わたし、おばあちゃん料理しか作れませんから……
気に入ってもらえて良かったです」
75
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 18:17:02.24 ID:EQ+ZGW9UP
男「そんなこと無いよ、美味しかったです」
許嫁「よかった」ぱぁっ
男「……」
許嫁「……」
男「えっと」
許嫁「あっ。はい! お風呂沸いてますよ。
疲れがとれます、食事の前にいかがですか?」
男「は、はいっ」
許嫁「では、行ってらっしゃってくださいね。
お着替えをお持ちしますので」
男「あ、はい」
許嫁「では」
とことこ
男「……うわ、なんか。恥ずかしいなぁ」
男「着替え持ってきてもらうとか。お風呂勧められるとか。
どこの妄想ワールドだよ。によによとまらねぇよ」
男「大学で虐待受けるのも納得だわ。うわぁ、まじかよ。
許嫁来ちゃうとか。神展開過ぎだろ、俺の人生」
76
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/05(火) 18:21:05.75 ID:EQ+ZGW9UP
――食卓
許嫁「めしあがれ」にこっ
男「いただきます」
許嫁「どうぞ」
男「……ん。美味しいです」
許嫁「はい」にこにこ
男「許嫁……さんは、料理本当に上手ですね」
許嫁「ええ、田舎料理ですけれどね」
男「そんなことないですよ。鰆とか、和え物とか。
いまは、こんなご飯出てくる家って少ないんじゃないかな。
大変でしょ?」
許嫁「ええと……」こくん 「そんなことはありません。
料理は準備と組み立てと、あとは気持ちですか」にこっ
男(き、気持ちって……)どきどきっ
許嫁「美味しいですか?」
男「はいっ」
80
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/05(火) 18:27:18.54 ID:EQ+ZGW9UP
許嫁「あ……」
男「もぐもぐ……はい?」
許嫁「ご飯、ついてますよ?」
男「へ?」
許嫁「ふふふ」ひょい、ぱくっ
男「あ……」かぁっ
許嫁「お味噌汁、お代わりしますね」
男「はい……」どきどき
許嫁「どうしました?」
男「なんでもないです」
許嫁「変な男さんです」くすくすっ
男「おひたしが美味しかったから……」
許嫁「沢山ありますからね」
男「はい」
新ジャンル「完璧な許婚」
82
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 18:30:19.81 ID:EQ+ZGW9UP
――男の自室
男「綺麗だし、料理も掃除も選択も得意だし……。
……あ、あれだよ。……ふとももとか、すごいえっちだしっ」
男「すごいよなぁ。理想のひとだよなぁ。
なんかもう、なんかもうっ」
ごろごろっ
男「先月まで、学食で焼き蕎麦パン食ってたのにさ」
男「ん~……。良いな、許婚さん……」
ごろごろっ
男「いきなりでびっくりしたけどさ。だいたい爺ちゃんが
決めたとか云っても、爺ちゃんなんて十年以上会ってないよ」
男「……こんなにラッキーで良いんだろうか。
やばい。テンション上がってきたっ」
83
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/05(火) 18:35:44.66 ID:EQ+ZGW9UP
コンコンッ
男「あっ、はいっ」
許嫁「よろしいですか?」
男「どうぞっ」いそいそっ
許嫁「ほうじ茶入れてみたんです。いかがですか?」
男「ありがとうございます」
許嫁「はい」にこり
男「ど、どうぞ」
こぽこぽこぽ
許嫁「……はい」
男「こくん……ふぅ」
許嫁「……」こくん、こくん
男「いつもありがとうございます」
許嫁「はい?」
男「いえ。掃除とか、家事とか。家のことぜんぶ」
85
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/05(火) 18:42:15.99 ID:EQ+ZGW9UP
許嫁「いえいえ、良いんですよ。
これこそ、私のお役目ですからね。
腕のふるい甲斐があります」にこり
男「……あの」
許嫁「はい?」
男「明日は、休みですし。……その、どこかに」
許嫁「お休みですか?」
男「はい」
許嫁「では、一緒に」
男「はいっ!」(デートktkr!!)
許嫁「楽しみですね。何にしましょうか」
男「そ、そうですね。……多少遠くても」
許嫁「でも、お疲れでしょうし、近くが良いですよね?」
男「ど、どこでも」
許嫁「美味しいものとか」
男「何でも、はい」
(しゃれた店の予約か!? 2,2chでスレ立てて聞かねば!?)
87
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/05(火) 18:47:57.35 ID:EQ+ZGW9UP
――翌日、築地市場
許嫁「助かります」にこっ
男「は、はい」
(な、なんでこうなる……。っていうか、一緒にって。
一緒に買い物で、デートじゃなかったのか……。
だめじゃん俺、だめじゃん人生っ)
許嫁「すいません、そこのせり、包んでくれますか?」
市場の親父「ほいきたっ、120円だよっ」
許嫁「ありがとうございます」
男(つか、荷物持ちにも慣れてないじゃん。
車出しただけの移動係りじゃん、俺。
うっわ、ジャケット着て髪の毛整えて築地っ。
おれ空気読めて無い、テラカコワロス……)
許嫁「男さん、男さんっ?」
男「はいっ?」
許嫁「ほらっ。大きなマッシュルームですよ♪
今日はこれで煮込みハンバーグに挑戦しますよ?」にこっ
男(かっ、可愛いっ。なんだこの反則技わっ)
許嫁「ハンバーグ、ダメですか?」くてっ
男「大 好 物 で す っ」
89
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/05(火) 18:53:38.11 ID:EQ+ZGW9UP
許嫁「男さん、お肉はどんなのが好きですか?」
許嫁「タコですよ。大きいですよっ。怖いですよっ」おろおろ
許嫁「オマケしてもらいました。クレソン山盛りです」にこっ
許嫁「お疲れ様です、もたせてすみません……」
許嫁「あまいお茶にしますか? 男さんっ」
許嫁「なんだか嬉しいですね」ぴとっ
許嫁「おうちに帰ったら、すぐにお昼作りますからね。
お蕎麦でいいですか?」
許嫁「夜は本気ですから。本気でハンバーグ作りますから。
凄いですからねっ。覚悟しててくださいねっ」
男「……う、ううう」
男(デートとか、もうどうでも良いじゃんねっ。
俺。どうする、俺っ。デートよりも良いじゃんっ!!
ビバ市場! ビバ買い物! ビバ許婚さんっ!
ハッピーディ俺の青春! だ、抱きしめたいっ!)
90
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/05(火) 18:57:56.82 ID:EQ+ZGW9UP
――夕食後
男「ご馳走様でした~! うぅーん」にへらっ
許嫁「そんなにニコニコして」くすっ
男「だって美味しかったですから」
許嫁「そんなに褒めても、何も出ませんよ?
はい、ほうじ茶です」
ことん
男「別にお世辞じゃないですよっ」
許嫁「男さんは膨れてる顔も可愛いです」にこり
男「だいたい」
許嫁「はい?」
男「おばあちゃん料理とか云って、ちゃんとハンバーグも
作れるじゃないですか。レストラン並みでしたよ」
許嫁「お世辞じゃないですか」くすくすっ
男「本当なのになぁ~」
許嫁「嬉しいですよ」にこっ
92
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/05(火) 19:05:23.74 ID:EQ+ZGW9UP
男「えっと、その」
許嫁「はい?」
男「こっちで、TVでも見ませんか?」
許嫁「はい」にこっ
男「えーっと」
許嫁「お茶のみ会議ですね」
男「そうですね」
許嫁「はい」にこにこっ
TV:わははははは
男「えっと、はい」
許嫁「今日は静かで暖かい夜ですね」
TV:わははははは
男「そ、そうですね」
(ど、どうする俺。この流れで、流れで行けっ!)
95
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/05(火) 19:10:16.30 ID:EQ+ZGW9UP
許嫁「どうしました?」
男「えーっと」
許嫁「はい」きょとん
男「許嫁さんは、料理美味しいですし、家の事完璧ですし」
許嫁「またまた。お気遣いにならなくても」
TV:わははははは
男「綺麗ですし、優しいですし、可愛くて美人ですし」
許嫁「そんなこと言われると照れてしまいますよ?」
男「えっと、で、ですね」
許嫁「……?」
TV:わははははは。なんやねん、なんやねんでー
男「あの、ですね」
許嫁「はい?」
男「大好きです。俺と結婚してください」
許嫁「それは無理ですね」
99
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/05(火) 19:16:25.47 ID:EQ+ZGW9UP
男「え?」
許嫁「出来ません」にこり
男「えっ……?」
許嫁「わたしは『完璧な許婚』ですから」
男(な、なにを……?)
許嫁「結婚したら、許嫁ではなくなってしまいますよね?」
男(えっと、なんなんだ?)」
許嫁「ですから、結婚は出来ないんです」にっこり
男(何を云ってるんだ……?)
許嫁「もちろん、友達にも恋人にもなれません」
男(何がおきてるん……だ……?)
101
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/05(火) 19:23:47.78 ID:EQ+ZGW9UP
男「え……あ……の……」
許嫁「はい?」
男「そ、それじゃ……その……
き、気持ちち……とか……」
許嫁「気持ち?」
男「好き……とか……」
許嫁「好きとか愛情でなるのは、恋人ですよね?」
男「え……」
許嫁「わたしは『完璧な許婚』ですから」
男「――っ」
許嫁「気持ちじゃありません」
男「じゃ、なんでっ」
許嫁「お爺様に買われたんですよ?」にこり
男「あ、あ――」
許嫁「『完璧な許婚』ですから」
男「うっ。ううっ!!」
だんっ! ばたんっ! だだだだっ!
119
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 20:37:20.72 ID:EQ+ZGW9UP
――布団の中
男(こんなにラッキーで良いんだろうか。
なんて、俺はバカか。池沼かよっ)
(タコですよ。大きいですよっ。怖いですよっ)
男(あんな可愛くて美人な人が、俺のトコくるなんてのが
ネタだって気がつけよ、おせぇよ俺っ)
(沢山作りましたからね。召し上がれっ)
男(んな、あるわけねぇじゃんよ。おかしいじゃんよ。
それを疑いもせずに……。だから俺はゆとりなんだよ)
(好きとか愛情でなるのは、恋人ですよね?)
男「――」
(気持ちじゃありません)
男「――ですよね」
男「ですよねっ」ぎゅっ
122
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 20:42:12.38 ID:EQ+ZGW9UP
――朝
許嫁「……さん、……さん」ゆさゆさ
男「……ぅぅ? ……ん」
許嫁「男さん? 男さん」ゆさゆさ
男「んー。うん」ぼへぇ
許嫁「おはようございます、朝ですよ」にこっ
男「うん。許婚さん、ありが」ぴきっ
許嫁「?」
男「――」
許嫁「朝ごはんの支度出来ていますよ。
顔を洗ったらいらっしゃってくださいね」
男「ん……」
許嫁「今朝はキッシュですよ」くすっ
男「ん……」
123
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/05(火) 20:47:25.77 ID:EQ+ZGW9UP
――朝食
許嫁「はい、めしあがれ」
男「頂きます」
許嫁「……」
男「……」もそもそ
許嫁「コンソメいかがですか?」
男「はい……」
許嫁「お代わりよそいますね」
男「はい」
許嫁「どうぞ」
男「あの」
許嫁「はい?」
男「……なんでもない、です」
許嫁「はい」くすっ
124
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/05(火) 20:51:31.31 ID:EQ+ZGW9UP
――学校
男友「うーぃっす」ぼかっ
男「何故叩く」
男友「お前の美人許婚がねたましいからだっ」
男「そか」
男友「……」
男「……」
男友「おい」
男「ん?」
男友「どうしたんだ? 反応薄いぞ」
男「そうかな」
男友「反応じゃなくてキャラが薄いのか」
男「うん」
男友「太陽拳っ!」
男「まぶしいよ。鏡しまえよ」
男友「おまえ、だって薄いんだもん」
125
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 20:55:48.26 ID:EQ+ZGW9UP
男「――ってなわけ」
男友「はーん。で、ショック受けてるのか」
男「うん」
男友「童貞くさっ」
男「うぐっ」
男友「だいたいなんだ、おまえちっとも損してねーじゃん」
男「好意は無いってはっきり云われたんだぞっ!?」
男友「それが普通なの。それが当たり前なのっ。
お前、道あるいてたらいきなり告白されて
そこからラブいちゃパラダイスか?
いい加減にしろよ? お前」
男「――」
男友「だいたい、お前。あれだよ。彼女いない暦=年齢
じゃんよ。許婚さんが来なかったら今でも記録続行じゃん。
許婚さんの言葉を借りれば好意無いかもしれないけど
おまえ、あんだけ美人と一つ屋根の下だぞ?
それだけでも一億円規模のラッキーだって自覚持てよ」
男「……」
127
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 21:00:01.03 ID:EQ+ZGW9UP
男友「大体よ」
男「……」
男友「お前、今日だって弁当持ってきてんだろ」
男「うん……」
男友「捨てちまえよ、気に入らないなら」
男「やだよっ。せっかく作ってくれたんだしっ」
男友「あー。なんか薄い上にむかつくな」
男「……」
男友「おまえな。自分のラッキーさを自覚しろ。
あと、ヘタレさも。いいか、教えてやる。
おまえはこれからは毎日ナンパ出来るんだ。
許婚さんを。一つ屋根の下はチャンス満載だ」
男「……」
男友「阿呆っ」どかっ
男「痛っ」
男友「いまので判らなかったらお前は氏ね。
氏ねじゃなく、死ねっ!!
お前、『突然一つ屋根の下』っていう男の夢を
安く見積もりすぎだっ。
その状況になった主人公の責任ってのを果たしやがれっ!」
128
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 21:08:22.18 ID:EQ+ZGW9UP
――駅前
許嫁「あ、男さん」
男「……あ」
許嫁「お帰りなさい」
男「どうしました?」
許嫁「雨、降りましたから」にこっ
男「はい」
許嫁「傘をお持ちしましたよ」
男「そんな……」
許嫁「お買い物もありましたから」
男「すみません」
許嫁「いえいえ、お気遣いなく」にこり
男「……」
許嫁「……」
男「そうじゃなくて」
許嫁「はい?」
男「ありがとうございます。嬉しかったです」
許嫁「はい」にこり
129
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 21:13:54.96 ID:EQ+ZGW9UP
――帰宅
男「ただいま」
許嫁「おかえりなさい」
男「一緒じゃないですか」
許嫁「そういえば、そうですね。ふふふっ」
男「おかえりなさい」
許嫁「ただいまです」にこり
ごそごそ
許嫁「雨、当たってしまいましたか?」
男「いえ、そんなに」
許嫁「傘小さかったですね」
男「大丈夫ですよ。春の雨ですから」
許嫁「お風呂沸かしますから」
男「あ、自分でやります」
許嫁「……? そうですか?」
男「はい」
許嫁「では、ゆうごはんの支度をしますね。
今日はクレソンとトマトのサラダですよ」にこり
136
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 21:54:21.00 ID:EQ+ZGW9UP
――お風呂の中
ざざーっ
男「ま、ね」
男「別に俺が努力して手に入れたものじゃないし」
男「棚ぼただしね……」
男「友の云う通りなんだけどさ」
ぶくぶくぶくぶく
(もちろん、友達にも恋人にもなれません)
男「なんだろ。そうじゃなくて……」
男「何でこんなに力入んないのかなぁ」
男「彼女いないのも、1人なのも、
慣れてるじゃんなぁ、俺。何でこんなに悲しいのかなぁ」
137
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 22:00:33.19 ID:EQ+ZGW9UP
コンコンっ
許嫁「男さーん」
男「はーい」どきっ
許嫁「着替えはこちらに置きますね」
男「ありがとうございますっ」
許嫁「ごゆっくりー」
ぶくぶくぶくぶく
男「……」
男「いまのだって、友なら楽しめるんだろうなぁ」
男「ときめきイベントなんだろうな」
男「――なんか、辛いや」
138
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 22:04:32.86 ID:EQ+ZGW9UP
――食卓
男「ご馳走様でした」
許嫁「お粗末さまでした」にこり
男「美味しかったですのに」
許嫁「はい、嬉しいです。でも、あれは挨拶ですからね」
男「はい……」
許嫁「?」
男「……部屋に戻っています」
許嫁「はい。――あ。男さん?」
男「はい?」
許嫁「ちょっとじっとしていてくださいね」
男「え?」
ふわり
許嫁「髪、まだ濡れていますよ」もふもふもふっ
男「あ、そんなの自分で」
許嫁「良いですから」もふもふもふもふっ
139
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 22:07:52.31 ID:EQ+ZGW9UP
男「――」
許嫁「もうちょっと」もふもふ
男「――」
許嫁「はい、できましたよ」
男「あの……」かぁっ
許嫁「?」
男「ありがとう、ございます」
許嫁「はい」にこり「ああ、そうでした」
男「はい?」
許嫁「新しい綿棒を買ってきたんですよ。お耳の掃除を
して差し上げます」
男「――」
許嫁「こちらですよ、どうぞ?」
ぽむぽむ
男「……それは」
許嫁「耳掃除、苦手ですか?」
140
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 22:12:37.40 ID:EQ+ZGW9UP
――耳掃除中
許嫁「高さ、平気ですか? 首痛くないですか?」
男「いえ、平気です……」
許嫁「はい。では、少しだけ動かないで我慢してくださいね」
男(ふともも枕、柔らかいな。――それに、いい匂い。
なのになんだろう。
嬉しいのに、悔しくて
どきどきしてるのに辛くて
なんだろ、すごく惨めな気分だ)
許嫁「……痛いですか?」
男「大丈夫です」
許嫁「痛くしないように、気をつけますからね。
……ちょっとだけ我慢してくださいね」なでなで
男(許婚さん、なんでこんなに優しい声出せるんだ?
……全然判らないよ。おかしいだろう、そんなの)
許嫁「大丈夫ですよー」なでなで
141
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 22:16:32.31 ID:EQ+ZGW9UP
男「――」
許嫁「はい、反対です」
男「はい……」もそもそ
許嫁「髪の毛を濡らしたままだと、風邪を引きますよ?」
男「子供じゃないですから」
許嫁「そうですね」にこり
男「――」
許嫁「はい、動かないで下さいね」むぎゅっ
男「あの……」
許嫁「?」
男「……なんでもないです」
許嫁「奥のほう、かりかりしますよ?」くすっ
男「はい……」
許嫁「大丈夫ですからね」なでなで
142
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 22:23:02.93 ID:EQ+ZGW9UP
男「ありがと」
許嫁「はい? まだですよ」
男「いや。もう、いいや」
許嫁「そうですか?」
男「うん」
許嫁「何か不手際でも……」
男「違うけど」
許嫁「ああ」ぽむり
男「はい?」
許嫁「男さん、そろそろ夜伽をご所望ですか?」にこり
男「はぁっ?」
許嫁「大丈夫ですよ。――もちろん清い身体ですが、
現代の風潮では結婚まで許さない。
というのは少数派であると理解しています。
男さんの気持ちも察せずに居心地の悪い
思いをさせてしまっていたら、すみません。
今晩にでもお伺いしますね」
男「――許婚さん」
144
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 22:28:13.74 ID:EQ+ZGW9UP
許嫁「シャワーを浴びたらすぐに支度をして向かいますから」
男「許婚さんっ」
許嫁「お任せください」
男「そうじゃなくてっ」
許嫁「私ではお気に召しませんか?」
男「――っ」
許嫁「大丈夫ですよ」なでなで
男「どうして」
許嫁「『完璧な許婚』ですから」
男「――うう」
許嫁「男さんはただ抱いていただければ。
その他の事は――私も未経験ですけれど、
お任せくださって大丈夫ですよ」にこっ
男「――っ」
許嫁「男さん?」
男「一人で寝ますっ。いいですからっ」
145
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/05(火) 22:32:25.78 ID:EQ+ZGW9UP
――布団の中
男「あははっ。あはははっ」ぽろぽろ
男「判った。判りました」
男「よーっく、判りました」ぽろっ
男「俺、好きなんだ。惚れちゃってるんだ。めろめろなんだ」
男「あんな見え透いた餌で、
恋愛なんて微塵も関係ないって宣言されている釣り針で。
そんなのが嬉しくて、
引っかかりたくてたまらないほど好きなんだ」
男「膝枕だって、耳掃除だって、嬉しかったよ。
あー。嬉しすぎですわ。女に免疫無いからな、俺っ。
だから惨めな気分だよっ。最悪だよっ」
男「優しくされた経験ないから、どんな餌でも引っかかるよっ」
男「一つ屋根の下って、毎日チャンスかもしれないけど」
男「――それって毎日毎日失恋を続けて
傷口から血が止まる暇がないって意味じゃんね」
男「それって地獄じゃんね……」
316
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 15:05:27.03 ID:bPwomnRWP
>>145
より
――学校
男友「おっす、相変わらず黄昏てんなー」
男「おー」
男友 さっ
男 びくっ
男友「あほー。ぶつか、こんなもん」こんこん
男「うー……」
男友「今のお前は突っ込みを入れる価値も無いわ」
男「……」
男友「相変わらず夢の同居ライフ絶賛放映中か?」
男「生き地獄だっつーの」
男友「あんなー」
男「……」
男友「……ま、いっか」
男「……」
男友「いい加減にしないと打ち切り食らうぞ」
男「……」
317
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/06(水) 15:11:53.87 ID:bPwomnRWP
――帰宅路
(夢の同居ライフ絶賛放映中か?)
男「そんなんじゃ、ないのにな……」
男「……苦しいだけだ」
男「……」
男(自業自得だけどな。好きだから苦しいわけでさ)
男(俺、贅沢なんだろうな。友の言うとおり)
男「……ん。買って帰ろう」
おばちゃん「あいよぅ」
男「たこ焼き二船ね」
おばちゃん「お土産かい? マヨつけたげるよぅ」
320
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 15:19:28.39 ID:bPwomnRWP
――帰宅
許嫁「お帰りなさい」ふかぶか
男(ううっ。三つ指ついて、って云うの。
慣れないな。ゾクゾクするっていうか。
俺、変な趣味あるのか? イヤ、ないない、絶対ないっ)
許嫁「……?」
男「え、うん。ただいま。普通でいいから、
そのぅ、……お帰りなさいはさ」
許嫁「そうは行きません。お帰りな際のお出迎えは
許嫁の大事な勤めですから」
男(勤め、なんだもんな……)
許嫁「でも、お帰りなさい」にこり
男「……ぅ」
許嫁「今日は疲れましたか? どうしましょう」
男「あの、さ」
許嫁「はい?」
男「たこ焼き買って来たから食べようよ」
322
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 15:23:50.71 ID:bPwomnRWP
――居間
許嫁「美味しいですね」にっこり
男「うん、うまいね」
許嫁「お茶もどうぞ」
こぽこぽこぽ
男「ありがと……」
許嫁「熱いです」はふはふ
男「急いで帰ってきたから」
許嫁「はむっ。嬉しいですよ。お土産」にこっ
男「そう?」どきどき
許嫁「はいっ」
男(……可愛いな。美人だし。この程度で
つられて嬉しくなってるなんて、俺格好悪い)
許嫁「美味しいですねー」にこぉ
324
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 15:30:58.68 ID:bPwomnRWP
――布団の中
男「ま、そうだよな……」
男(そもそも自分で手に入れたものじゃないんだし)
男(美人で可愛くて、お姉さんタイプでさ。
料理も家事も完璧で、いつも笑顔で、
三つ指ついてお出迎えでさ……)
男(そんな人と、同居して、たこ焼き食えるだけで
十分ラッキーって云うか、奇跡だよな……)
(お爺様に買われたんですよ?)
男「――ッ」ズキッ
男(……惨め、だけどさ)
男(時間を、かければ)
男(きっと)
326
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 15:37:22.66 ID:bPwomnRWP
――食卓
許嫁「本日は寄せ豆腐とアスパラガスのサラダ、
鮭のマヨネーズ焼きですよ」
男「美味しそうです」
許嫁「召し上がれ」にこっ
男「いただきます」
許嫁「いただきます」
男「……美味しいです」
許嫁「はい」にこにこ
男「……アスパラガスは、これは、何の塩味?」
許嫁「ベーコンをカリカリにして砕いてあるんですよ」
男「初めて食べた。美味しいなぁ」
許嫁「そうですか?」
男「おばあちゃん料理だなんて、嘘じゃないですか」
許嫁「そんな事はありませんよ」にこにこ
329
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 15:42:46.01 ID:bPwomnRWP
許嫁「お代わりしましょうか?」
男「いえ、満腹です」
許嫁「そうですか」にこり
男「ご馳走様でしたっ」
許嫁「お粗末さまでした」
男「美味しかったですー」
許嫁「ふふふ。しばらく寛いでいてください。
玄米茶なんかありますよ。お出ししましょうね。
では失礼して……」
男「あ……。俺も食器下げます」
許嫁「これは私の仕事ですよ?」むぅっ
男「やります」
許嫁「でも……」
男「勝手にやります」かちゃかちゃ
許嫁「……もう」
331
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 15:49:33.43 ID:bPwomnRWP
――深夜
男(なんて……ま。他愛ないことだけどさ。
悪くないよな。ああいうの繰り返すのも……。
そりゃ恋愛は無いけどさ……)
男(そんなの、今までだってなかったわけだし?)
とっとっとっ
男「えーっと。許嫁さん? 起きてるかな。
夏物の長Tさ、どっかに……」
とっとっとっ
許嫁「――」
男「いいなず……」
許嫁「――」
男(……? 真っ暗な居間で、何してるんだ?)
332
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 15:54:42.74 ID:bPwomnRWP
許嫁「――」
男(なにも……してない?)
許嫁「――」
男(壁を見てる? 何を見てるんだ?)
許嫁「――」
男(あんな顔、みたことないぞ?
なんなんだ? 何がおきてるんだ?)
許嫁「――ち、ろ」ぶつぶつ
男(どろりとした、ぐったりとした、死んでるみたいな。
生きていないみたいな、何も見ていないみたいな瞳だぞ)
男(真っ黒い穴を開けたみたいな、
どこにも通じてない洞窟みたいな、
腐った沼地みたいな……
ハエのたかる死んだ魚の内臓みたいな)
許嫁「――」ぶつぶつ
男「……」
許嫁「――ちろ」ぶつぶつ
男(何を囁いてるんだ……)
344
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 16:32:24.33 ID:bPwomnRWP
――朝
許嫁「……さん、……さん」ゆさゆさ
男「……ん」
許嫁「男さんっ。男さんっ」ゆさゆさ
男「んー。……うん。おきたデす」ぼへぇ
許嫁「おはようございます、朝ですよ」にこっ
男「うん。――あの」
許嫁「はい?」
男「……なんでもないです」
許嫁「変な男さんですね」にっこり
男「……(昨日みたのって、夢だったのか?)」
許嫁「今日はトーストとベーコンエッグですよ?」くすくすっ
347
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 16:36:49.24 ID:bPwomnRWP
――昼間
許嫁「……♪ ……♪」
男(おかしなところ、無いよな。にこにこしてるし
掃除てきぱきしてるし)
許嫁「……♪ んっと」
男「はい?」
許嫁「次は男さんの部屋です」
男「へ?」
許嫁「お掃除ですよ?」
男「あ。そのっ。俺の部屋はいいですから」
許嫁「そんないまさら。毎日していましたよ、知ってますよね」
男「それは……えっと」
許嫁「さ、掃除してきますね♪」
男「ちょ、ちょっとタイム」
ずざざざっ
許嫁「もう、男さんってば」
348
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 16:41:54.15 ID:bPwomnRWP
男(ま、まずいっ!? 今までなんとなく整理されてたり
綺麗になったりしてたけれど、全く意識した事はなかったぞ)
男(アイテムの配置と関わってなかったし、
でも云われてみればそうだ。埃とか綺麗になってたし、
机周りとかどんどん整理されて足し、掃除してくれてたのに
決まってるじゃないか、俺のバカバカバカっ!!)
男「自体は一分一秒を争うっ」
男(まずは箪笥一番下の引き出しのコレクションっ。
セフセフっ! 問題なし、全部綺麗に揃ってるっ。
アンソロ、いけださくら、井ノ本リカ子、ヤスイ……。
――。
綺麗に?)
許嫁「はい。ちゃんとジャンルごとに仕分けして
ほこりも払って、掃除しておきましたよ?」にこり
男「ノオーーーゥッ!!」
許嫁「作者さんごとでよろしいですよね?
レーベルごとのほうがよかったですか?」
男「……うううっ」
許嫁「そんなにショックを受けないで下さい」
350
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 16:49:03.00 ID:bPwomnRWP
掃除機:がーがおーががおー
男「うー……」
許嫁「お掃除してますから、お茶でも飲んでいて
くださっていいんですよ?」
男「いえ、ここにいます……」
許嫁「もう、男さんってば。判りました、
そんなにショックなら、ああいうのにはもう触りませんから」
男 ズキッ「も、云われるだけで辛い」
許嫁「もうっ……」
掃除機:がーがおーががおー
許嫁「でも、ほっともしました」
男「……はい?」
許嫁「男さんは、お姉さんタイプが好みなんですね」にこっ
男「……ぅ」かぁっ
許嫁「わたしは2つ年上ですから
ハンデがきついと思っていました」
351
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 16:52:11.77 ID:bPwomnRWP
男「えっと……」
許嫁「ハンデ、無いのですよね?」にこっ
男「あ、あう……」
許嫁「ダメですか?」
すっ
男(近い、近いよっ。許嫁さん。
ううう、じっと見られると、顔燃える。
判ってるのにどきどきする。うぐうう)
許嫁「……ね?」にこっ
男「ハンデないです……」
許嫁「年上でも、良いですか?」
男「うう……」こくり
許嫁「よかったぁ」ぱぁっ
男(なんかいいように操られてる気がする……)
許嫁「これで『完璧な許嫁』でいられます」
360
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 17:28:27.43 ID:bPwomnRWP
許嫁「では、男さんにもう1つお願いしましょうか」
男「は、はいっ?」
許嫁「お布団はこびますから」
男「なんでもします」
許嫁「そんなにかしこまらないで下さい。
なんだか私が苛めているみたいではありませんか」ぷぅっ
男「えっと、そんなことはないです。
いつもお世話になってるから……」
許嫁「はい」にこり 「では、お布団とシーツを持って、
ついてきてくださいね」
男「はーい」
とてとて
とてとて
許嫁「こちらですよー」
男「すごくすっきりした部屋ですね」
許嫁「そうですか?」
男「そういえば、初めて入りました」
許嫁「何にも無いだけですよ」にこにこ
362
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 17:32:35.81 ID:bPwomnRWP
許嫁「こちらへ入れますから」
男「はい」
許嫁「降ろしていただければ良いですよ」
男「はい。んしょっと……」
ぽろっ
許嫁「あらあら」
男「え、あ。わわっ」(ぱ、ぱんつっ)
許嫁「そんなに慌てないでも」にこり
男「いえ、その。俺じゃないですっ」
許嫁「判ってます。男さんはそんなことしません。
洗濯物が布団にまぎれちゃっただけですよね」
男「は、はいっ」
許嫁「うろたえすぎですよ」くすっ
男「そんな事は無いですけど」
許嫁「こんなもの、男さんが望めば幾らでも差し上げますのに」
男「っ」
許嫁「はい?」にこっ
363
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 17:37:04.78 ID:bPwomnRWP
――学校
男友「おーい、どうだ。リア充」
男「リア充はそっちだろ。彼女いるんだから」
男友「美人許嫁のほうが彼女より上だ」きっぱり
友女「あたしに、なんかっ。文句でもっ。あるのっ!」
男友「ぎぶっ。すまっ。ごめんなさいっ」
友女「うそ臭い」ぎりぎりぎり
男「あはははは」
男友「まじで、友女さん最高に可愛いです。俺幸せ者なり」
友女「……ふんっ。ま、許す」
男「仲いいなぁ」
男友「ふざけんな。こんな暴力女」
友女「なんかいった?」ぎろっ
男友「何でもございません」
友女「ふふんっ」
366
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 17:40:57.54 ID:bPwomnRWP
男友「で、どうなんだ。そっちは。上手く行ってるのか?」
友女「どうなの? 許嫁なんてロマンチックよねー」
男「んー」
男友「歯切れ悪いな」
男「ぼちぼち。べつに……仲は悪くないと思う」
男友「ふむ」
男「普通だよ。すごく尽くしてくれる同居人……」
男友「尽くす。いいね! ロマンだね!
大和撫子は男の憧れだねっ」
友女「あんたそんなに頭蓋骨の強度実験したいわけ?」
男友「水平荷重 390N/m(40kgf/m)は勘弁してくださいっ」
友女「建築学部舐めんな」
男「でも、なんかさ……」
男友「ぎぶっ。やめっ。まて、まって。男が話してる。なに?」
男「不自然だよね」
男友「そうなん?」
367
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 17:49:40.70 ID:bPwomnRWP
男「俺らと同じ年代って云えば、遊びたい盛りじゃない」
男友「ふむ」
男「なのに毎日家にいて、掃除して、洗濯して
家事万端整えて、料理して……ずーっとそれってのもさ」
友女「遊びに行ったりしないの?」
男「しないね」
男友「そういや、いくつだっけ?」
男「2つ、上だと思う」
男友「学校とかは? 高校出てそのままなのかな?」
男「そういえば知らないや」
男友「ふぅん」
友女「立ち入ったこと聞くようだけど、電話は?」
男「女友は、俺の家の電話も携帯の番号も知ってるじゃない」
友女「そうじゃなくて、許嫁さんの携帯は?」
男「……へ?」
男友「まさか持ってないのか?」
男「……知らないや」
368
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 17:52:49.17 ID:bPwomnRWP
男友「うーん。まぁ、持ってない人も、いなくは無いか」
友女「でも云われてみるとちょっと不自然かなぁ」
男「……」
男友「ま、そんな気にするものでもないんじゃね?」
友女「そかな」
男友「気になるなら聞けば良いじゃん。
考え込むような事じゃない」
友女「男友は、ほーんとお気楽だなぁ」
男「ん、そだね」
男友「お気楽バカっていうなっ!」
友女「云って無い云って無い。
いまのは『聞けばいい』に『そうだね』だよ。
男友のお気楽さは、人を責めないからね」
男「うん、感謝」
男友「いいや、ちがうね。俺は責めるねっ。
弱みをえぐるねっ。男がピントずれた弱みをはけば
すかさず傷口に塩を塗りこむねっ!!」
友女「わ! それ面白そう! わたしもやるっ!」
男「いや、そうゆうのは勘弁して欲しいんすけど」
371
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 17:55:59.04 ID:bPwomnRWP
男友「なんにせよ、あんまり考える事は無いだろ。
お前も俺も頭悪いんだから」
友女「はい、はいはいっ! 私も悪いですっ!」
男友「よし、合格っ! 俺らは三人で頭悪いっ!」
友女「やったね!」ぱちっ! バチンッ!
男「何でそこでハイタッチ?」
男友「細かい事は良いんだよ。悩むより前に聞け。
聞くより前に揉め。揉むより前に脱がせ」
友女「それは違う。えいっ」げしっ
男友「痛っ。……ま、それはともかくよ。毎日弁当
作ってもらってる相手を、話もしないで疑ってたら
疲れるだろうってことだ」
友女「うんうん」
男「そうだよな」
男友「おう。男は勢いが肝心だ!」
男「とりあえず、お礼をいわないとなー」
友女「プレゼント選びなら時給600円で引き受けるよっ!」
388
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 19:26:50.89 ID:bPwomnRWP
――夕刻、帰宅
ざああああぁあぁあぁぁ――。
男「うー。すげぇ降り。きちーっ」
男「家、真っ暗じゃん。許嫁さん、出かけてるのかな」
からり、とてて
男「うー、寒っ。許嫁さんいないのかな」
とてて
許嫁「――」
男「なんだ、いるじゃ……」
許嫁「――」
男(――この感じ)
395
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 19:34:10.83 ID:bPwomnRWP
許嫁「――」
男(料理……煮てる? でも、それにしては)
からり、からり
許嫁「――ちろ、――ちろ」ぶつぶつ
男(なんだ、かき混ぜてるのか? 見えないけど)
許嫁「――れて――がい」
男(あの顔……。あの、死んでいる瞳。
――。え? ……あれ?
入ってないっ。あの鍋、何も入ってないっ!!)
からり、からり
許嫁「――がい――ちて――がいします」ぶつぶつ
男(どろりとして、ぐったりとした。
なんであんな浮浪者みたいな、
死んじゃった人みたいな表情してるんだよっ)
許嫁「――ちろ――ちちゃえ――」
からり、からり
399
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 19:40:33.90 ID:bPwomnRWP
(料理は準備と組み立てと、あとは気持ちですから)
男(そう云ってたじゃん。許嫁さんっ。
……その『気持ち』って、なんなんだよッ)
からり、からり
許嫁「――れて――がい」
男(洞窟の入り口みたいな瞳)
からり、からり
許嫁「――くすっ。くすくすくすっ」
男(世界の終わりみたいな笑い声)
許嫁「――堕ちて」
男「っ!」
許嫁「……男さん堕ちちゃえ」ぼそりっ
男「――っ!」がくがくがくっ
403
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 19:50:11.31 ID:bPwomnRWP
――風呂場
ざばーっ
(――くすっ。くすくすくすっ)
男「な、なんなんだ、あれ。何であんな風になるんだ」
男「……許嫁さん、だったよな。偽者じゃないよな」
男「もしかして、いつも……」
男「いつも、ああなのか?」
男「……俺が学校に言ってる間とか」
男「……」
男「なんでだよ。……おかしいだろ、そんなの」
コンコンッ
男 ビクッ
404
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 19:54:27.50 ID:bPwomnRWP
許嫁「男さーん。お帰りだったんですかー?」
男「あ、はい。雨に降られちゃって、
お風呂いただいてますっ」(怖い。今話すの怖いよっ)
許嫁「はーい、あの」
男(覗いてたの、気づかれたっ!?)
許嫁「お出迎え出来なくてごめんなさい」しょぼん
男「そんなことっ。気にするようなことじゃないですからっ」
許嫁「はい。あの、その代わりといってはなんですが
美味しいご飯にしますね。今日はあさりの酒蒸しですよー」
男「はいっ」(こ、声が震える)「もうちょっとであがりますっ」
許嫁「新しいタオル、ここに出しておきますねー」
かちゃん
男「うう……」ぶくぶくぶくっ
男「どうすればいいんだよ」
406
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 19:58:38.56 ID:bPwomnRWP
――食卓
許嫁「いかがですか? あさり」
男「美味しいですよ。はい」びくっ
許嫁「良かった」にこっ
男(ううう……)
許嫁「……こくん」
男「あの……」
許嫁「はい?」
男「許嫁さんは、普段何してるんですか?」
許嫁「はい?」
男「いえ、普通の日は、俺学校じゃないですか。
その間、何して過ごしてるのかなーって」
許嫁「そうですねー」
男「はい……もぐ、もぐ」
許嫁「お掃除したり、お洗濯したり」
男「……」
407
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 20:04:19.45 ID:bPwomnRWP
許嫁「料理をしたり、お庭のお手入れしたり」
男「……」
許嫁「あとはごろごろしてますね。ネコと昼寝とか。
許嫁って楽ちんなお仕事ですから、昼間は結構暇なんですよ」
男「そうですか」
許嫁「男さんは、学校とアルバイトで大変ですね」
男「いえ、そんなの自分のワガママですし」
許嫁「ふふふっ」ゆらっ
男(あれ、なんか一瞬……)
許嫁「いえ、偉いですよ。毎日お疲れ様です」にこりっ
男「……いえ」(あれ? 気のせい?)
許嫁「ご馳走様にしましょうか」
男「はい」
男「ご馳走様でした」
許嫁「お粗末さまでした。お茶を入れますね」にこっ
409
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 20:07:30.74 ID:bPwomnRWP
――学食、昼食時
男「……」
(からり、からり……)
男「なんなんだよ……」
男友「おーい、男っ。どうしたっ? あいてるのか? ここ」
男「あー、うん」
男友「よっし、席もーらいっと」がたん
男「……」
男友「食わないの? それ許嫁さんの弁当だろ?」
男「うん……」
男友「なんだ、どうした。またチキンになってるのか?」
男「そうじゃない、と思う。いや、チキンってか
びびってるんだけど、そうじゃなくてっ」
男友「混乱してるのか?」
410
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 20:10:47.70 ID:bPwomnRWP
男「よく判らない」
男友「そっか。……きつねうどん美味っ」
男「いいな」
男友「お前のほうが良いだろう。女友なんて
弁当作ってくれたこと、一度も無いんだぞっ」
男「食べる?」
男友「お前、食べないのか?」
男「うん……」
男友「ふーん」かぱっ
男「いいよ、食べて。もったいないし」
男友「あー。やめとくわ」
男「どうして?」
男友「わかんないのか。頭悪い以前だな、お前」
男「……?」
男友「おまえさー」
男「?」
男友「まだなんだろ? やっとけ。キスでもえっちでも」
412
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 20:15:24.56 ID:bPwomnRWP
男「そういう状況じゃないんだよ」
男友「状況待ってるからいつまでも童貞なんだよ」
男「童貞っていうな、童貞って!」
男友「やれやれ。食堂で連呼するなよ」
男「そうじゃなくて、許嫁さんが台所で空鍋で」
男友「空鍋?」
女友「男友っ! あんたこんなとこでなにやってんの」
男友「え? うどん食ってる」
女友「今日の3時までにレポートだっていってたでしょっ。
わたし、あんたのことずっと待ってたんだけど?」
男友「あ! そうだった! ヤバいっ!!」
女友「ほんとボケてる。男友ったら」
男友「やべっ! すぐいく。んじゃな、男っ!」
男「お、おう」
女友「ごめんね。このバカ連れてくね。またねっ!
男友「まったなー。こんど飲みいくからなーっ!」
男「がんばれよーっ」
433
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 21:21:42.01 ID:bPwomnRWP
――朝
許嫁「……さん、……さん」ゆさゆさ
男「……ぅぅ? ……ん」
許嫁「男さん? 男さん」ゆさゆさ
男「んー。……うん」
許嫁「おはようございます、朝です……けど」
男「うん。……起きる、おきます」くらっ
許嫁「やっぱり」
男「――うう」
許嫁「すごく熱いですよ。熱があるみたいです」
男「大丈夫……」
許嫁「大丈夫じゃありません。今日はお休みです。
このまま寝ててくださいっ」
男「平気だってば……」
許嫁「だ・め・ですっ」
435
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 21:24:59.14 ID:bPwomnRWP
許嫁「おかゆを作ってきますから、動いてはダメですよ?」
男「……うん」
かたり、とてて
男(頭痛い……。こりゃ、本格的に熱でてるな……)
男(こんなに熱でたのなんて、いつぶりだろ?)
男(身体も痛いし……)
(からり、からり……)
男(何でこんな時にそんなもん思い出すんだよっ!)
男(ただの風邪だろっ。縁起でもないこと考えるなよ、俺っ)
男(だって俺には……)
男(俺には……)
437
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 21:28:33.05 ID:bPwomnRWP
男(……)
男(…………)
男「んぅ……」
許嫁「目が、覚めましたか?」
男「……ん。いま、何時?」
許嫁「まだお昼前ですよ」にこっ
男「……ごめん。寝ちゃった」
許嫁「いいんですよ。寝れば、それだけ早く治ります」
男「……ちょっと頭軽くなった」
許嫁「だめです。まだ、無理ですよ」
男「……うー」
許嫁「おかゆ、食べれます?」
男「無理そう」
許嫁「じゃぁ、桃ゼリーならいけますか?」
439
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 21:34:51.35 ID:bPwomnRWP
許嫁「はい、どうぞ」
男「自分で食べれます」
許嫁「そうですか? では、はい」にこり
男「お手数かけます」もそもそ
許嫁「飲み物も置きますね」
男「……もぐもぐ」
許嫁「……」
男「ごちそうさまです」
許嫁「いえ。……大丈夫ですか? 着替えできますか?」
男「はい……」
許嫁「えっと、では、これに」
男「はい」もそもそ
許嫁「今のうちにシーツも変えますね。
寝苦しかったでしょう?」
男「……」こくり
441
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 21:39:02.96 ID:bPwomnRWP
ぽむぽむっ
許嫁「はい。完成ですよ。どうぞ」
男「はい……」もそもそ
許嫁「何か欲しいものはありますか?」
男「ないです」
許嫁「では、また寝てくださいね」にこり
男「あの」
許嫁「……?」
男「あの……」
許嫁「はい?」
男「ネコとお昼寝」
許嫁「今日はしませんよ? ちゃんと見張ってます」
男「――そうじゃなくて、今度お出かけしましょう」
許嫁「はい」
男(……何云ってるんだ、俺。混乱中かよっ)
許嫁「早く、元気になってくださいね」なでっ
442
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 21:43:36.46 ID:bPwomnRWP
男(なんか、頭の中、ぐらぐらする……)
男(熱のせいかな、ぼんやり……)
男(くらくら……)
ひんやり
男(気持ちいい……なんだろ……)
許嫁「もう少し、眠ると良いですよ」
男(なんだろ、冷たくて……)
ひんやり
男(指先? 甘い匂い……。冷たくて、優しくて……)
男(あたま、くらくらする……)
443
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 21:48:47.70 ID:bPwomnRWP
――深更
男(……身体、軽くなった。峠越えたかな)
かちゃり、とてて
男(うー。トイレに行くのがこんなにすっきりするとはねー)
とてて
許嫁「――」
男(許嫁さん……)
許嫁「――」
男(また、あんな瞳で凝視してる)
許嫁「――」
男「許嫁さん」
許嫁「……え? はいっ!? 男さん」
男「真っ暗の部屋でどうしました」
許嫁「いえ。なんでもないです」にこりっ
448
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 21:53:51.20 ID:bPwomnRWP
許嫁「それよりどうしたんですか? 大丈夫ですか?」
男「うん。大丈夫。熱下がったみたい。
――それに、昼寝過ぎて、寝れないですし」
許嫁「そうですか」ほっ
男「……あの」
許嫁「そうだ。では、何か食べたほうが良いですよ。
いま、おかゆを少し作りますから。すぐ出来ます。
お布団に入っていてくださいね」にこっ
男「ううん、熱も下がったし。ここで待ってるよ」
許嫁「仕方ないですね。お茶を出しますね」
男「ポカリ自分で出すから、平気」
許嫁「はい。すぐに作りますから」
ぱたぱた
男「……」
許嫁「卵がゆでいいかしら」ぱたぱた
449
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 21:58:30.74 ID:bPwomnRWP
――深夜の食卓
男「ごちそーさまでしたっ」
許嫁「おそまつさまでした。……ありあわせで、
こんなものでごめんなさい」
男「いえいえ、元気でました」
許嫁「では、お部屋に戻りましょうか」
男「あんまり眠くないんですけどね」
許嫁「ほとんど丸一日寝ちゃいましたしね」
男「ですね」
許嫁「もう1回着替えたほうが良いですね」
男「シャワー浴びたいですけど」
許嫁「んー。無理はしないほうが」
男「髪の毛はぬらさないようにしますので」
許嫁「では、タオルと着替えをもって行きますね。
温度は高めで、すぐ身体を拭くかたちで」
男「はい」
450
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 22:02:29.61 ID:bPwomnRWP
許嫁「いかがですかー?」
男「はい、もうあがりますー」
許嫁「タオルも着替えも準備してありますよー」
男「何から何までありがとうです」
許嫁「いえいえ。お気使いなく」
男「でますよー」
許嫁「はーい」
男「……っ」くるっ
許嫁「早く水気を拭かないと。はい、タオルです」
男「ど、どっ。どして」
許嫁「風邪でしょう? 目を離すのは心配です」
男「一人で出来ますからっ」
許嫁「わがままさんですねぇ」くすっ
452
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 22:08:01.90 ID:bPwomnRWP
許嫁「見ませんから、早く拭いて下さい」
男「やってますっ」
許嫁「はい、これパジャマですよ」
男「見て無いでしょうね」
許嫁「見ても良いではないですか」くすくす
男「良くないです。えーっと、心の準備が要るんです」
許嫁「わたしは準備出来てますよ?」くすっ
男「あー」
許嫁「よければ、今晩にでも」
男「……」
許嫁「まだ朝は遠いですし、ご奉仕しましょうか?」にこっ
男「許嫁さん」
許嫁「はいです?」
男「許嫁さんは、少しくらいは、その……
俺のこと、好きな気持ち、あるんですか?」
454
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 22:12:19.74 ID:bPwomnRWP
許嫁「はい?」くすくすっ
男「……」
許嫁「男さんは不思議な事をいいますね。
本人の意思を無視して娶わせるからこその
許嫁でしょう? 私の気持ちの入り込む隙間など
最初から無いんですよ?」にっこり
男(へこむな。ああ、もう。判ったよ!
へこむよ、へこみますよ!
好きだからへこんでるんだよっ。悪いかよっ)
男「でも、じゃぁっ」
許嫁「でも、わたしは『完璧な許嫁』ですから。
閨ではべり、ご奉仕の夜とぎをしますよ?
……男さんはまだ風邪で身体が火照っていますよね?」ぴとっ
男「……っ」びきっ
許嫁「わたしのからだ……
ひんやりして気持ちよいと思いますよ」にこり
477
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 22:58:38.21 ID:bPwomnRWP
>>454
より
男「そんなんじゃなくてっ」ぐいっ
許嫁「もうっ」
男「気持ちのほうが大事ですって」
許嫁「大事じゃないですよ」
男「大事ですっ」
許嫁「そんなの」くすくすっ 「私には必要ないんですよ」
男「――っ」
許嫁「男さん、怖い顔しちゃだめですよ」なでっ
男「ううっ」
許嫁「良いではありませんか。
男さんは、年上は嫌いでもないのですよね?
あんなにえっちなマンガ貯めてますものね」くすっ
男「それは……」
許嫁「わたしのこと、キライですか?」にこり
男「……」
478
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 23:02:12.16 ID:bPwomnRWP
許嫁「わたしはダメですか?」
男「ダメ……じゃないです」
許嫁「ですよね。時々見つめていてくださいましたもんね」にこっ
男「そうじゃなくて」
許嫁「男さんにくっつくと」ぴとっ
男「うー」
許嫁「すごくどきどきしてますよ?」
男「そりゃしますよっ」
許嫁「深夜の脱衣所で……。こうやって身体を寄せ合って……。
微熱で身体があつーくて、いい匂いでしょう? わたし」
男「……っ」
許嫁「良いですよ?」すりすりっ
男「うぅぅっ」
許嫁「何でもいいなりになってくれる許嫁の
柔らかぁい身体ですよ? しちゃいませんか?」にこっ
男「あああー。違くてっ!」
481
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 23:06:16.40 ID:bPwomnRWP
男「どーせバレバレだろうから云っておきますけれど
俺は童貞なんですっ。それから云っておくと、
許嫁さんの事好きですから。めた惚れですからっ。
引かれるくらいえろえろ妄想もしてますから。
その辺童貞ですからね、容赦ないっすからねっ」
男「でも、童貞だから幻想持ってるし、
なんかこーっ。上手く云えないですけれど
そうじゃないのは判るんです。
そんな風に誘われなくても、すっごい抱きしめたいですけど
好きが無い限り絶対そっちには行きませんからねっ」
許嫁「好きになる必要なんて無いですのに」
男「必要で好きになったわけじゃありません」
許嫁「それは勘違いですよ。
優しい言葉をかけられて
毎日食事を用意してくれた異性だから、
男さんは勘違いしてるんですよ」
男「勘違いのまま一生過ごすつもりですけれど何か?」
483
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 23:09:29.39 ID:bPwomnRWP
許嫁「好意なんか無くても抱けますよ」ゆらぁ
男「出来る出来ないじゃなくて、やらないんですっ」
許嫁「わがままさんですねぇ」くすっ
男(あの目だ。……どんどん死んでいく。
腐ってゆく……。許嫁さんの内側が、どろどろと
くずれていっちゃうっ)
許嫁「売春婦に本気になるなんて、
男さんは困った子ですね」くすくすっ
男「許嫁さんはそんなんじゃないですっ」
許嫁「そんなのなんですよ。
お金で買われて、あなたにあてがわれてるんですよ。
『完璧な許嫁』として。そういう役割の存在なんです」
男「許嫁さんは綺麗です」
許嫁「身体は綺麗なままですね。
――でもいずれにせよ同じこと。
気持ちも、尊厳も、権利もお金で売り買いしている。
そういうもので、その程度の存在なんですよ?」くすくすっ
485
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 23:13:19.71 ID:bPwomnRWP
男(黒い、洞穴みたいな瞳……)
許嫁「毎日のご飯、美味しかったですか?」
男「……はい」
許嫁「お弁当、たべてくれましたよね」
男「……はい」
許嫁「さらさらのシーツは気持ちよいですか?」
男「……はい」
男(紅い三日月みたいな、唇……)
許嫁「ふわふわのタオルに、
アイロンがけしたシャツもいいものでしょう?」
男「……はい」
許嫁「たまに腕を絡めると、鼓動が早まりますよね?」くすっ
男「……はい」ぎりっ
許嫁「わたしは『完璧な許嫁』でしょう?」にこっ
男「……」
486
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 23:16:38.82 ID:bPwomnRWP
許嫁「もっと良い事を教えてあげますね」ぎゅっ
男(甘い……じゃなくて、ぎゅって。腕の中に、するんって!?)
男「ダメですよっ。許嫁さんっ」
許嫁「このまま腕の中でいさせてくれないと、
教えてあげませんよ?」くすっ
男「……くぅっ」
許嫁「わたしはね、真っ黒なんです」
男「……」
許嫁「汚れてるんです。重油タンカーが難破した
海の映像を見たことがありますか?
流れ出した黒い油は海水や泥と絡み合い、
ねっとりした汚れとなって魚も海鳥も絡め取るんですよね。
――あれと同じ。
ううん、あれよりももっと私は汚れているんです」
許嫁「朝起きたとき、何気なく庭を見たとき
料理の支度をするとき、
そして何より1人で部屋にいるとき。
判るんです。
自分がどんなに汚れているか。
どんなに取替えがつかないほど穢れているか」
488
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 23:20:45.52 ID:bPwomnRWP
許嫁「汚れているって判りますか?
それはね――確信です。
手に入らないという確信。
どんなに望んでも、綺麗なものには触れられないという確信。
だってこの手は汚れている。
触れれば全てのものを汚染する。
ミダス王は黄金のそれでしたが
私のそれは汚泥。
黄金は悲劇でしょうが私のそれは喜劇ですよ」くすくすっ
男「……」
許嫁「だってね」
許嫁「だってわたしは妬ましいんです。
明るくて、きらきらしている男さんが」にこっ
男「――っ」
許嫁「毎日学校にいって、バイトが忙しくて
外の世界があって、友達がいて、喜んだり
落ち込んだりしている男さんが羨ましくて妬ましくて
たまらないんですよ」くすっ
491
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 23:26:31.03 ID:bPwomnRWP
男「そんな……」
許嫁「だから」すりっ
男「――っ」
許嫁「男さんにこうして身体を重ねるのが嬉しいんです」
男「え?」
許嫁「男さん、私のこと好きですか?」にこっ
男「好きですよっ」
許嫁「こんなに汚いのに?」
男「汚くなんか無いですっ」
許嫁「汚いんですよ」くすくすっ
男「そんな……」
許嫁「だから、こうして触れるたびに
男さんが汚れていくんです。
男さんを汚すのは楽しい。
男さんが穢れていくのが嬉しい。
手に入らないから。
あのきらきらは手に入らないけれど
男さんはこうして汚せるから」くすくすっ
496
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 23:30:02.07 ID:bPwomnRWP
許嫁「重油のように汚れた私。売られた私。
はした金のせいで全てを買い取られた私。
いまだって自分自身を売り渡してる私ですから……」
男「……」
許嫁「嫌いになったでしょう?」くすっ
男「へ?」
許嫁「……ふふふ」にこっ
男「……」
許嫁「満足しました。男さんを一杯汚しましたし。
いやーな気分になる話だったでしょう?」
男「……っ」
許嫁「これ以上からかうと、湯冷めしちゃいますね。
いまのはみんな、冗談ですよ?」くすっ
男「……」
許嫁「いらなくなったら捨ててもいいんですよ」にこっ
501
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/06(水) 23:35:09.70 ID:bPwomnRWP
許嫁「許嫁である必要があるのは私。
男さんの側にそんな理由は無いんですからね」
男「……そんなの」
ちゅ
男「――っ」
許嫁「云ってはダメですよ。
その言葉は。
その言葉はまだ汚れてないんですから。
汚れていない人のために取っておかなければ」
許嫁「そうですね。許嫁とか婚約とか――
クーリングオフのための期間でもあります」くすっ
許嫁「つまり、正しい使い方です」
男「……」
許嫁「赦して差し上げますから。大丈夫ですよ」にこり
男「許嫁さんっ」
許嫁「おやすみなさい。暖かくしてくださいね」
ぱたん
667
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 12:47:08.35 ID:JNqgVZluP
>>501
より
――夜明け前
許嫁(着替えと、身の回りの品と……)
許嫁(公共料金の振込用紙は、ここで……)
許嫁(そうだ。歯磨きを……いいか。あれも、私のものじゃない)
許嫁 くすっ
許嫁(私のものなんて、はじめからこの家には
何にもありはしないんですけれどね……)
(そんな……)
許嫁(……あんなに言葉に詰まって)
許嫁(男さんは、本当に子供ですね)
668
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 12:50:45.89 ID:JNqgVZluP
だから。
許嫁(だから、赦して差し上げます)
許嫁(……呆れるほど、荷物無いですね)
許嫁(無理もありませんが)
許嫁(唐突に現れて唐突に消えて。
通り雨のようなものですから……。
きっと男さんも見逃してくれますね)
許嫁(見逃して、忘れて)
(許嫁さんっ)
許嫁(忘れて……)
(許嫁さんっ)
許嫁(わたしも良い加減、詮方ない事を……)
670
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 12:54:52.16 ID:JNqgVZluP
――前庭
かちゃり
許嫁「えっと。戸締りも、ガスも大丈夫」
許嫁「お世話になりました。……なんて」
男「やっぱり」
許嫁「男さんっ!?」
男「絶対出て行くと思いました」
許嫁「――。
ちがいますよ? ちょっと朝市に仕入れです。
今朝は美味しいマッシュルームオムレツを作ります。
ですから少しだけ留守番しててくださいね」にこっ
男「その言い訳、事前準備のものでしょ」
許嫁「違いますってば」くすくす
許嫁「ほら、私ぜんぜん荷物もっていませんよ?
こんなので出ていくわけないじゃないですか」
男「許嫁さん」ぐっ
673
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 13:00:58.32 ID:JNqgVZluP
許嫁「まだ朝ですよ?」にこっ
男「まだ明けてもいません。俺、許嫁さんの部屋
見せてもらいましたから」
許嫁「はい?」
男「布団の取り入れの時ですよ。あんな部屋、無いですよ。
幽霊が住んでる部屋じゃないですか、あんながらんとしてて」
許嫁「あははは。酷いですよ、幽霊なんて」にこにこ
男「じゃなければ、『いつ居なくなっても良い』って
思ってる人の部屋でしょう、あれ」
許嫁「――」
男「許嫁さんは完璧主義だから」
許嫁「……」
男「あんな話をして、出ていくつもりだったんでしょう」
許嫁「違いますよ、本当に」
男「信じませんから」
許嫁「どうしたんですか? そんなに怒って
もしかして、添い寝してもらわないと眠れないですか?」くすっ
男「はい、そうです」
676
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 13:05:01.94 ID:JNqgVZluP
許嫁「え……?」
男「添い寝してもらいます」ぐんっぐんっ
許嫁「ちょ。男さん……? あの、腕。腕痛いですっ」
男「もうちょっと辛抱してください」
許嫁「靴。ブーツ脱いで無いですっ」
男「足をつかなければいいでしょ」ひょいっ
許嫁「乱暴ですよっ。男さんっ」
男「お互い様でしょ。許嫁さんだって問答無用で
あんな話をして、問答無用で出て行こうとしてた」
許嫁「冗談だって言ったじゃないですかっ」
男「じゃぁ、これも冗談ですからっ」
がらがらっ
許嫁「爪先でドアなんか開けて……」
男「お行儀の件は後で謝ります」
許嫁「降ろしてくださいっ」
男「はい」
ぽふっ
677
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 13:09:32.05 ID:JNqgVZluP
許嫁「きゃっ!」
男「大丈夫でしょ。ベッドですから」
許嫁「……っ」
男「手荒でごめんなさい」
許嫁「そうですか。ふふん。
やっぱりご奉仕が良いんですか」くすっ
男「んーっと。そうなるのかなぁ」
許嫁「……良いですよ。それも勤めですから」
男「許嫁さん、脚ください」
許嫁「はい?」
男「靴脱がせますから」
許嫁「……っ」
男「編み上げブーツ、1人で脱ぐの大変でしょ」
許嫁「……うぅ」かぁっ
男「別に変な動機は無いですからねっ」
678
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 13:12:53.49 ID:JNqgVZluP
男「だいたい、ここを出てどこに行くんですか」
許嫁「出て行くつもりなんか無いって云いました」
男「行く場所なんてないんでしょ」
許嫁「……だからっ」
男「俺は汚れたりしませんからね」
許嫁「――っ」
男「だいたいあんな告白程度で俺が汚れたり
許嫁さんが黒かったりするはず無いでしょう。
そりゃ……。
あんなに近くですりすりされたらですね。
その……もにょもにょにもなりますけどね。
童貞舐めたらダメですよ。
妄想の中だと、あんなもんじゃ済まされませんよ。
もう絵にも文章にもかけないほど
けしからん事しまくりですよ。
許嫁さんは……美人だから。
その……。
そういうことですよっ」
許嫁「……」
男「汚れ度で云うなら、俺のほうが汚れですからねっ」
683
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 13:19:37.95 ID:JNqgVZluP
許嫁「――」
男「それでも納得できませんか」
許嫁「……」
男「じゃぁ、ちゃんと云いますから。
昨晩もいいますけれど。許嫁さんのことが好きです。
お付き合いしてください」
許嫁「お付き合いしてるでしょう? 許嫁として」
男「好きになってください」
許嫁「許嫁には必要ない想いです」
男「俺が欲しいんです」
許嫁「――」
男「ただ欲しいんです」
許嫁「それは、子供の我がままですよ……」
男「ですよね。でも仕方ないでしょ。
手段を選ぶ余裕無いんですから」
許嫁「はい?」
685
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 13:23:30.09 ID:JNqgVZluP
男「ちょっとだけでいいから好きになってください」
許嫁「ダメです」
男「じゃないと、このままベッドから出しません」
許嫁「えっと……」
男「出しません」
許嫁「朝ごはんが作れませんよ?」
男「小ネタ抜きで」
許嫁「――ふぅ。つまり、男さんは私としたいんですか?」
男「したいですけど、そういうのも抜きで」
許嫁「私が嘘をついたらどうするんですか?」
男「嘘?」
許嫁「――そうですね。私が、例えば。
『そう』なって。おとこさんに『それ』を囁いて。
一緒に眠って、睦言の帳を過ごして……。
それで居なくなったらどうするんですか?」
男「寂しい気持ちですけど、ずっと待ってます」
許嫁「ずっと?」
男「ずっと」
686
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 13:30:23.49 ID:JNqgVZluP
許嫁「それじゃ騙され損じゃないですか」
男「そうかもしれないですね」
許嫁「全然脅迫になって無いですよっ」
男「そうかなぁ」
許嫁「そうですよ。男さんは私の事を誤解してます。
わたしは私のことなんてどうだっていいんです。
たしかにその……まだ未経験ですけれど
守ってきたわけじゃない。
あなたを傷つけるためなら、こんな身体幾らだって
捧げてしまって悔いは無いですよ。
そうでしょ?
だって抱けば男さんは傷つくのだから」
男「そうですね」
許嫁「その後で裏切るくらい容易いですよ」
男「ですね」
許嫁「じゃぁ、なんでそんなに馬鹿なんですかっ」
男「バカに理由は無いでしょ。
頭が悪いからバカなんですよ」
許嫁「――っ」
688
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 13:35:27.42 ID:JNqgVZluP
男「だいたい、許嫁さんだって!
云ってることもやってることも支離滅裂じゃないですか。
完璧な許嫁とか云って、そもそも許嫁って
結婚をする予定の相手ですよ。
完璧な許嫁は完璧なお嫁さんになるのが当たり前の流れでしょ。
完璧な許嫁だから結婚できないなんてどこのトンチですかっ」
許嫁「――」
男「それに本当に本当の完璧な許嫁だったら
どうして俺のこと振り回すような、いたぶるような
ことばっかり云うんですか。
じゃれてくる犬に嫌がらせするようなっ」
許嫁「自分の事を犬にたとえて惨めじゃないんですか?」
男「この二ヶ月惨め過ぎて慣れました」
許嫁「それは、男さんが余りにも苛立たしかったからです。
云ったでしょ? 羨ましくて、妬ましいですよ。
男さんを。傷つけたくて、汚したいんですっ」
690
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 13:38:54.56 ID:JNqgVZluP
男「だったら、あんなに手の込んだお弁当
作ってくれなくても良いじゃないですかっ」
許嫁「――っ」
男「あんなに丁寧に。お弁当なのにおかずを何種類も。
バカだって判りますよ。大変じゃないですか、あんなのっ」
許嫁「それは……」
男「洗濯だって、掃除だって、庭の手入れだって。
あんなに丁寧で細やかにやる必要、無いじゃないですかっ」
許嫁「それは、だって。許嫁の務めですから。
『完璧な許嫁』のためには、そういうのが全部必要だから」
男「それが支離滅裂なんですよ。
好かれたいのか嫌われたいのか、バラバラじゃないですか」
許嫁「――っ。それはっ」
男「でもお生憎様です。許嫁さんは餌あげすぎです。
もう好きになっちゃいましたからね。手遅れです」
692
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 13:44:12.44 ID:JNqgVZluP
許嫁「……泣きそうな顔で、偉そうなことを」
男「放っておいてくださいよっ。
仕方ありません。それじゃ、取って置きの賄賂です」
許嫁「はい?」
男「許嫁さんは、一生ずっと俺のこと汚し続けて、
傷つけ続けて良いですよ。無制限に感受します」
許嫁「……男さんって」
男「絶句しないで下さいよ」
許嫁「本当にバカなんじゃないですか?」
男「疑問形じゃなくていいです。本人が保証します」
許嫁「だって、そんな……」
男「そんな?」
許嫁「男さんに何のメリットも無いでしょう。
そんなことになったら『完璧な許嫁』なんて放棄しますよ?
わたしは男さんが憎いんです。羨ましいんです。妬ましいんです。
ご飯だって作りませんし、掃除だってしてあげませんよ。
男さんは全然得なこと無いじゃないですかっ」
男「でも、許嫁さんにして上げられることって
他になさそうでしょ?」
693
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 13:48:59.43 ID:JNqgVZluP
許嫁「……もう」
男「――」
許嫁「男さんは、本当に我がままさんですね」くすっ
男「自覚、あります」
許嫁「おまけに忠犬みたいな人です」
男「酷い云われようだ」
許嫁「毒気が抜かれますよ」
男「すみません」
許嫁「云い付けは、良く聞かないとだめですよ?」
男「えーっと。はい」
許嫁「――仕方ありません。
飽きるまでは、付き合ってあげます」
男「飽きるまで?」
許嫁「ええ。あなたが、私に飽きるまで」くすっ
男「ずいぶんかかりそうですね」
許嫁「私の嫌がらせが尽きるのにだって、
同じくらいかかりますよ」くすくすっ
698
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 14:03:27.69 ID:JNqgVZluP
――朝ごはん
許嫁「はい、召し上がれ」
男「えっと」
許嫁「バタートーストと麦茶です」
男「すさまじい勢いでグレードダウンしましたね」
許嫁「ええ。そうですね」にこり
男「え~……」
許嫁「はい?」
男「そのお皿の中身はなんですか?」
許嫁「モツァレラとトマトのオムレツですよ?」
男「――」ぐー
許嫁「欲しいですか?」にこにこ
男「すごく欲しいです」
許嫁「これは、チーズがとろっとして美味しいです」
男「美味しそうです」ぐー
700
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 14:08:24.69 ID:JNqgVZluP
許嫁「では、今日も云ってみましょう」くすっ
男「うぅぅ」かぁっ
許嫁「冷えるとチーズが固まっちゃいますよ?
このオムレツ、丁寧に優しく焼いたんですけど……」
男「……俺は許嫁さんのこと好きです」ぷいっ
許嫁「腹黒で年上で嫌がらせ好きで
ぜーんぜん完璧には程遠くて
根暗で陰険でやきもち焼きですよ?」
男「それでも好きなんですっ、もう、毎日降参です」
許嫁「メンヘラ気味で放置しておくと
何をしでかすか判りませんよ、わたしは」にこにこ
男「めたくちゃ大好きですっ! 惚れちゃってますっ!!」
許嫁「はい」にこっ 「沢山召し上がれ。オレンジも切りますね」
男「なんだかなぁ。もぐもぐ」
703
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[sage]投稿日:2009/05/07(木) 14:12:07.49 ID:JNqgVZluP
とててて
許嫁「オレンジ切れましたよ。ちょっとバンザイしてくださいね」
男「はい?」ひょい
すとんっ
男「って、え。えっ」
許嫁「ここに居ても良いですよね?
膝の上に横座りって憧れていたんです」
男「それって」
許嫁「嫌がらせするのには便利ですから」にこっ
男「……結局負け犬っぽい、俺」
許嫁「文句があるなら、耳たぶを噛みますよ?」
男「ありません」
許嫁「なら、ご褒美に耳たぶをはむはむして上げます」
男「……」
許嫁「気にせずお食事の続きをどうぞ」にこっ
704
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[sage]投稿日:2009/05/07(木) 14:15:43.85 ID:JNqgVZluP
男「許嫁さんは、本当のトコはどうなんですか」
許嫁「はい?」
男「少しくらいは、その……」
許嫁「ああ!」
男「どうなのです?」
許嫁「お預けです」
男「はい?」
許嫁「その質問は、お預けです」にこっ
男「……うー」
許嫁「最初からずっと男さんが羨ましかったですよ。
自分に無いものを全部持っているように見えて。
妬ましくて、苦しくて、憧れました」
男「……」
許嫁「お預けじゃ、だめですか?」うるっ
男「判りましたッ。もうっ。追求しませんよっ」
707
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[sage]投稿日:2009/05/07(木) 14:20:48.29 ID:JNqgVZluP
許嫁「男さんは、良い子です」なでなで
男「……男友には見せらん無いよ、もう」
許嫁「代わりに添い寝しましょうか?」
男「――え」
許嫁「あ。ふしだらな事考えましたね」くすくすっ
男「それは。その……はい」
許嫁「ネコ昼寝のお供をさせてあげるってことですよ」
男「了解です」
許嫁「がっかりしないで下さい」
男「うー。遊ばれてる感が」
許嫁「急ぐと、すぐに飽きてしまいますから」にこっ
男「そう、ですね」
許嫁「ずっと、なのですよね?」
男「お約束どおり、ずっとで」
708
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[sage]投稿日:2009/05/07(木) 14:23:49.45 ID:JNqgVZluP
許嫁「……今でもいやな夢で夜中に飛び起きます」
男「――」
許嫁「だから、ちょっとだけ待っていて下さい」
男「いくらでも」
許嫁「いくらでも?」
男「いくらでも。えーっと、嫌がらせを引き受けます」
許嫁「よく出来ました」にこっ
男「良いように調教されてる気がしてしょうがないです」
許嫁「嘆かないで下さい。大事に、大事に
自分より大事に、傷つけますから。
こうやって触れ合っていると、安心しちゃいます。
ね?
――私たちって、いま完璧です?」
男「そうですね」きょろきょろ 「完璧です」
許嫁「じゃぁ、これが」 ちゅ 「完璧なご褒美です」
男「許嫁さんは最初から、なんていうか。完璧でしたよ」
許嫁「では次の目標は、男さんのための完璧な……」
//Perfect fiance ver.M
//end of log.
713
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[sage]投稿日:2009/05/07(木) 14:27:58.89 ID:X2UuqjyhO
乙!
715
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[]投稿日:2009/05/07(木) 14:37:57.48 ID:PXn6/IeiO
乙!大変よろしかった
717
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以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/07(木) 14:50:03.65 ID:afa7ljZQO
今のうちに言っておこう
楽しかった
超乙
718
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[]投稿日:2009/05/07(木) 14:50:09.56 ID:nXaGzQHEO
どっちもハッピーエンドだとよいなぁ
空鍋の方の許婚の過去が気になる
719
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[sage]投稿日:2009/05/07(木) 14:58:29.65 ID:K0K7BTlRO
乙でした
721
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以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]投稿日:2009/05/07(木) 15:00:02.48 ID:ncl3jDIyO
ニヤニヤしながら読ませてもらったぜ!
>>1
も他の書き手も超乙!